カテゴリー

書き初め 東雲1話

サトコ
「よし、東雲教官にリンゴを渡してこよう!」

(ついでに年末年始の話ができたらいいな)
(一緒に歌番組を見るとか、初詣に行くとか‥)

浮き足立った気持ちのまま、教官宿泊室のドアをノックする。
少し間があって、よそゆきの声で「どうぞ」と返ってきた。

サトコ
「失礼します、氷川です」

東雲
‥こんな時間に何?
夜這いにでも来たの?

(な‥っ)

サトコ
「違います!差し入れを持ってきただけです」

東雲
差し入れ?
ああ、リンゴ‥

サトコ
「実家から送られてきたんです。よかったら食べてください」

東雲
あっそう

サトコ
「それと‥」

東雲
ありがと

(えっ、もうおしまい?)

サトコ
「あ、あの‥」

東雲
なに?

サトコ
「今、お忙しいですか?」

東雲
うん

(そっか、仕事中なんだ)
(だったら仕方ない‥)

東雲
このクロスワードパズル、明日が締切なんだよね

(仕事じゃない!?)
(で‥でも、それなら‥!)

サトコ
「手伝います!」

東雲
ん?

サトコ
「1人で考えるより2人で考えた方が早いですよね」
「私にも解かせてください」

東雲
そう?じゃあ‥
10進数の『15』を2進数に変換するといくつ?

サトコ
「へっ?」

東雲
いくつ?

サトコ
「えっ‥えっと‥」

(2進数って、たしか0と1で構成されていて、それでえっと‥)

東雲
答え‥『1111』っと‥

(早っ!)

サトコ
「知ってるなら、わざわざ聞かなくても‥」

東雲
でも、キミが寝ぼけたこと言うから
『2人で解いた方が早い』なんて

(うっ‥)
(でも、それはあくまで‥)

東雲
『そんなの口実です!』って?

サトコ
「!?」

東雲
『私、教官と少しでも長く一緒にいたいんです!』とか?

教官はニッコリ笑うと、壁掛け時計に目を向ける。

東雲
よかったね
2分15秒も長くいられたじゃない

サトコ
「はぁ‥」

(でも、できればもう少し長く‥)

東雲
リンゴ食べたいなー

サトコ
「!」

東雲
おいしそうなリンゴだし
どこかにリンゴ剥いてくれる子‥

サトコ
「剥きます!剥かせてください!」

私は、ポケットに入れておいた折りたたみナイフをすぐに取り出した。

東雲
‥なにそれ
ナイフ持ってきたの?

サトコ
「はい!」

東雲
だったら最初から言えばいいのに

サトコ
「でも教官、すぐに背中を向けちゃったから」
「忙しいのかなぁって」

東雲
実際忙しいけどね。パズル解くのに

(うっ‥)
(で‥でも、今はパズルを解く手を止めてもらってるし!)

心の中で言い訳しながら、私はリンゴの皮を剥き始める。

東雲
ところで年末年始だけど
どうする?

サトコ
「あ、そのことなんですけど‥」

東雲
兵吾さんとかは、『姫はじめ』でもしそうだけどね

(姫‥っ!?)

突然飛び出した言葉に、私は持っていたナイフを取り落した。

サトコ
「痛っ」

東雲
ちょ‥なにやってんだよ!
見せろ

差し出した手のひらには、薄く血が滲んでいる。

東雲
ほんとバカ
これじゃ、迂闊に冗談も言えない

サトコ
「す、すみません」

東雲
ま、オレも言うタイミングを間違えた気はするけど

教官はため息をつくと、私の手を取って傷口を見つめる。

(こ、この妙な間は、もしかして‥)
(少女マンガや恋愛ドラマでは王道の‥)

東雲
言っとくけど、傷口に口づけたりしないからね

サトコ
「!」

東雲
たまにあるじゃない
傷口舐めて『消毒』とか
どう考えても不衛生

サトコ
「ふ、不衛生‥」

(たしかにそうかも‥)

内心フクザツな気持ちでいると、ペタリと絆創膏を貼られる。

サトコ
「えっ」

東雲
なに?不満?

サトコ
「いえ‥‥‥その‥‥なんか優しいなって‥」

とたんに教官は何とも言えないような顔つきになった。

東雲
ほんと、キミって‥
お手軽だよね

<選択してください>

A: そうかも‥

サトコ
「そうかも‥」

(でも本当に優しいって思うし)
(それに、こういうの‥やっぱり嬉しいし‥)

東雲
‥なんて顔してんの

サトコ
「えっ?」

東雲
バカ

(バカ!?)

B: ひどい!

サトコ
「ひどいです!お手軽なんて‥」

東雲
だって実際そうじゃない
この程度で嬉しそうにして

(うっ)

東雲
キミって少し油断してるとさ
すぐにヘンな奴に引っ掛かりそうだよね

(‥すでに引っ掛かってるような)

そんな私の内心を知ってか知らずか‥

C: もしかしてテレてる?

サトコ
「もしかしてテレてますか?」

東雲
は?

サトコ
「ですから‥」
「教官、実はテレて‥」
「ふぐぐっ!」

いきなり、ぎゅうっと唇をつままれる。

東雲
キミってほんとさー
よけいなこと言うよねー?

サトコ
「ふぐっ‥ふぐぐ‥っ」

(ご、ごめんなさい‥っ!)

そんな私の心の悲鳴が聞こえたのかどうか‥

教官はため息をつくと、剥きかけのリンゴにガブリとかじりついた。

東雲
ま、初詣くらいは行きたいよね

(えっ‥)

サトコ
「ホントですか!?」

東雲
もちろん
キミ、こういうイベント、好きでしょ

サトコ
「好きです!大好きです!」

東雲
そう、だったら‥
叶えてあげないとねー

(しまった、この笑顔は‥)

東雲
あれ?なんで目を逸らすの?
まだ話の途中なんだけど

サトコ
「は、はぁ‥」

恐る恐る顔を上げると、この上もなくニッコリとした笑顔を向けられる。

東雲
お正月と言えば『おせち』だよねー

サトコ
「!」

東雲
最低でも3段重ねのやつ

(さ、最低でもって‥)

東雲
オレの願いも、叶えてくれるよね?

サトコ
「そ、そうですね‥」

部屋に戻るなり、スマホでおせちのレシピを検索する。

(わかってた‥わかってたけど‥)

サトコ
「いろいろ難しすぎなんですけどー!」

(なにこれ。伊達巻も田作りも作ったことないってば!)
(買う?ご購入の方向で?)
(いやいや‥3段のおせちとか、一体、いくらするのよ)
(でもこれを乗り越えないと『初詣』が‥)
(だって『初詣』と言えば、やっぱり‥)

東雲
もうすぐ新年だね
さあ、目を閉じて‥
3‥2‥1‥‥

ちゅっ!

(きゃーっ!)

サトコ
「って、ないない!絶対にないってば」

(あの教官がカウントダウンキッスなんて‥)

サトコ
「ん?『キス』‥‥」

(教官って、ああ見えて実はキス魔だよね)
(だったら‥)
(もしかしたら‥ありえ‥)

サトコ
「‥と、とりあえず、お母さんに電話しよう。うん!」

(おせちの作り方を聞いて、いろいろ準備して‥)
(あとは当日晴れるといいなぁ)

そんな淡い希望を胸に抱いたまま‥

12月31日がやってきた。

サトコ
「うーん‥」

(天気、微妙だな)
(とりあえず初詣に行くまでに晴れてくれればいいんだけど‥)

サトコ
「って、やばっ!」

(あまり時間がないんだってば!)
(とりあえず買い出しに行かないと)

サトコ
「うー‥寒かった‥」
「鼻水出ちゃう‥」

(まずは野菜だよね。にんじん、しいたけ、れんこん‥)
(あっ、絹さやも買わなくちゃ!)
(あと、紅白なます用に大根も‥)

寮に戻ってくると、すぐに時計を確認する。

(夜には見回りがあるから、あと10時間で全部作らないと‥だよね)

サトコ
「よし、頑張ろう!」

(まずは黒豆だよね。鍋を軽く洗って‥)

サトコ
「冷たっ!」

(そう言えば、お風呂以外のボイラーは止められてるんだっけ)
(ってことは、今日はずっと水で作業‥)

サトコ
「我慢、我慢‥」

(これも、おいしいおせちを作るため)
(それと、カウントダウンキッス‥)

サトコ
「‥いやいや」

(とりあえず今は、おせちのことだけを考えないと!)

ネット上のレシピと母からの教えを頼りに、私は黙々とおせちを作る。
煮しめ‥伊達巻‥紅白なます‥エビのうま煮‥
重箱の中が、少しずつ料理で埋められて‥

サトコ
「‥できたーっ!!」

(と、とりあえず3段全部埋まった‥よね)
(昆布巻きの結び目が微妙だけど‥どうしてタテになっちゃうかなぁ)
(八つ頭も、よくある里芋で代用しちゃったけど!)

重箱を重ねてフタをしたところで、スマホが着信を伝えてくる。

(あ、教官からだ!)

サトコ
「おつかれさまです!」

東雲
おつかれ
寮の倉庫にシャベルあったよね
玄関まで持ってきてくれない?

サトコ

「わかりました」

サトコ
「おつかれさまです!」
「スゴイ雪ですね」

東雲
はぁ‥ほんとサイアク
見回り前に雪かきとか‥

サトコ
「手伝いましょうか」

東雲
いいよ、べつに

サトコ
「でも、2人でやった方が早いですよ」
「それに‥」

<選択してください>

A: その方が一緒にいられるし

サトコ
「その方が一緒にいられますし‥」

東雲
ふーん‥
キミってさ、いつも一緒にいたがるよね
嬉しいなぁ‥

(あれ、この笑顔‥)

東雲
せっかくだから
明日は一緒に資料作りを‥

サトコ
「雪かき!早く雪かきに行きましょう!」

こうして私たちは、2人で周辺の雪かきをすることになった。

B: 雪かきなら慣れてますし

サトコ
「私、雪かきなら慣れてますし」

東雲
そういえば、キミ‥
『長野のスッポン』だっけ

サトコ
「それは、今は関係ありません」

東雲
じゃあ、ラベンダー色のサンタ‥

サトコ
「そっちも関係ないです!」

ともあれ私たちは、2人で周辺の雪かきをすることになった。

C: 雪、大好きなんで!

サトコ
「雪、大好きなんで!」

東雲
ああ‥
キミ、雪だるまとか雪うさぎとかつくるの好きそうだもんね
鼻水垂らして駆け回ってる姿、容易に想像できるし

サトコ
「い、今はそんなことしませんよ?」

東雲
‥‥‥

サトコ
「どうして驚くんですか!」

東雲
まぁ、オレもキライじゃないんだよね。雪だるま作るの
作った後、踏みつぶせるし

サトコ
「え‥」

東雲
あれ、快感だよねー
ぐしゃっ‥って

サトコ
「ハ、ハハッ」

(さすが恐竜好き‥)

ともあれ私たちは、2人で周辺の雪かきをすることになった。

サトコ
「よい‥しょっ‥」
「よい‥‥しょっと!」

東雲
‥キミ、ほんと慣れてるね

サトコ
「任せてください!」
「長野の雪はこんなもんじゃないですから!」

東雲
ふーん‥
あ、そろそろいいんじゃない
足場もできたみたいだし

サトコ
「ダメです!もっとよけておかないと」

東雲
は?

サトコ
「ちょっと積もるだけで、扉が開かなくなりますから!」
「もっと避けて、雪も遠くに‥」

東雲
面倒くさ‥

サトコ
「よい‥しょっ‥」
「よい‥‥しょっと!」

東雲
‥‥‥

そして‥

サトコ
「よし!!」
「意外と早く終わりましたね」

東雲
どこ‥が?
20分‥はかかった‥でしょ

サトコ
「なんで息切れしてるんですか!」
「20分なんて全然短いですよ!」
「うちの実家は、下手すれば1時間はかかります」

東雲
うわ‥

教官はうんざりした様子で、頭に積もった雪を払いのける。

サトコ
「ところで、このあとは‥」

東雲
校内の見回り

サトコ
「じゃあ、そっちも手伝います」

東雲
本気で?

サトコ
「もちろんです!任せてください」

東雲
‥‥なんかキミ‥
無駄に張り切ってるね

(うっ‥)

サトコ
「で‥でも、これが今日最後のお仕事なんですよね?」
「だったら早く終わらせた方がゆっくりできるじゃないですか」

東雲
‥‥‥

サトコ
「年越しの準備はバッチリなんで」
「仕事納め、手伝わせてください!」

東雲
‥キミの場合、まだ寮の見回りが残ってるけど

サトコ
「うっ‥まぁそうなんですけど」

東雲
ま、いっか
じゃあ、キミは1階をお願い
オレは上から下りて来るから

サトコ
「了解です!」

(って引き受けてはみたものの‥)

シンと静まり返った廊下に、私の足音だけが響き渡る。

(なんか‥けっこう怖いかも)

(全然人の気配がしなくて‥)

ガタガタッ!

サトコ
「!?」

(びっくりした‥ただの風か‥)
(この雪‥夜中までにやむかなぁ。やむといいんだけど)

サトコ
「失礼しまーす‥」

(教官室は‥異常なし‥っと)

(次は教場‥)

サトコ
「‥‥‥」

(うん。問題ナシ!さて、次は‥)

(電源は入れっぱなしでいいんだよね)

ガタガタンッ!

サトコ
「え、なに!?」

ガタガタガタンッ!

(これ‥誰かいる‥よね?)
(もしかして教官?でも、そうじゃない可能性も‥)

私は足音を忍ばせながら、窓際にあったモップに手を伸ばす。

(こういうときの手順は‥)
(その1‥構えつつ、相手の様子を窺う‥)
(その2‥不審者だった場合、このモップで一撃‥)

サトコ
「ひ‥っ!」

(な、なんでいきなり電気が‥)

ガタガタガタンッ!

サトコ
「ぎゃあああっ!」

慌ててモップを構え直すと、物陰から見知った人影が出てくる。

東雲
なに、その声
恐竜だって、もう少し可愛い声で‥

サトコ
「きょ‥」

東雲
きょ?

サトコ
「きょわかった‥」

東雲
‥‥『きょわ』?

(ああ‥っ!)

サトコ
「違うんです!」
「今のは『教官』と『怖かった』が混ざっただけ‥」

(って無視!?)

思わず振り返ると、ドアの前に立つ教官の背中が目に入る。
ところが、教官はいつまでたっても出て行こうとしなくて‥

東雲
‥やられた
ドアノブがまったく動かない

サトコ
「え、それって‥」

東雲
ここから出られない
閉じ込められたんだよ、オレたち

サトコ
「ええ‥っ!?」

to be continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする