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バレンタイン 加賀1話

バレンタインを数日後に控えた、ある休日。

(お菓子なんてそんなに作ったことないし、やっぱり初心者に優しい本がいいよね)
(この本なら、チョコレートのお菓子もたくさん載ってるし‥よし、これにしよう!)

サトコ
「それにしても、レシピ本なんて買うの何年振りだっけ」
「高校の頃、みんなでお菓子を作るのに初めて買った覚えがあるけど‥」

(本見て作るなんて、さすがに気合い入りすぎ‥?)
(でも加賀教官との初めてのバレンタインだし、気が抜けたものを渡したりしたら‥)

加賀
こんなもん食えるか。このクズが、学生からやり直すか?あ゛?

(‥とか言われる‥絶対言われる‥)
(チョコと仕事は関係なくても、警察学校に戻れって言われる‥)

サトコ
「そうならないためにも‥手作りチョコで、精一杯私の気持ちを伝えなきゃ‥)

でも、レシピ本を買った後にふと気づく。

(‥和菓子の方がよかった?いや、でも和菓子なんて絶対無理だし)
(だいたい、教官の求める柔らかさは素人にはハードルが高すぎる‥)

サトコ
「高望みせず、今回はおとなしくチョコレートにしておこう‥」

翌日、教官室へ行く途中、校務員さんに呼び止められた。

校務員
「氷川さん、もしかしてこれから加賀さんのところ?」

サトコ
「そうですけど‥」

校務員さんは、引っ越し作業用のような大型の段ボールを抱えていた。

サトコ
「大きな荷物ですね。大丈夫ですか?」

校務員
「あー、大丈夫。これ、加賀さん宛の荷物なんだよね」

サトコ
「へ?」

校務員さんが笑顔で、持っていた段ボールを私に差し出した。

校務員
「ってことで、よろしくね」

サトコ
「わ、私が運ぶんですか!?これを!?」

校務員
「大丈夫大丈夫!箱はデカいけど、中身は軽いから」
「悪いね!これからまた別の仕事があるから」

思わず段ボールを受け取ると、校務員さんはしめたとばかりに笑顔で立ち去った。

(ほんとに軽いからまだよかったけど、箱はとにかく大きい‥)

サトコ
「ま、前が見えない‥慎重に行かないと」

???
「へー、最近の段ボールは勝手に動くんだね。便利だな」

(この声は‥)

<選択してください>

A: 颯馬教官!

サトコ
「颯馬教官ですか‥?」

???
「キミって耳まで悪いの?」

(そんなイヤミを言うのは‥)

サトコ
「すみません。東雲教官‥」

東雲
声で誰か気づけないなんてね

サトコ
「うっ‥すみません」

B: 誰だろう?

サトコ
「すみません!どちら様ですか?」

???
「キミ、ふざけてんの?それとも本気?」

サトコ
「し、東雲教官!」

不機嫌になってしまった声を聞いて、東雲教官だとわかる。

東雲
はぁ、本当呆れるよ‥

サトコ
「すみません‥前が全然見えなくて」

C: 東雲教官!

サトコ
「東雲教官!どの辺にいますか!?」

東雲
何?どの辺って。この辺だけど

サトコ
「前が全然見えないんです!声を頼りに避けますから、動かないでくださいね」

東雲
はいはい。っていうか、何それ?

サトコ
「加賀教官宛の荷物だそうです。校務員さんに頼まれたんですけど」

東雲
ふーん、頑張って

(全然手伝ってくれる気配がない‥)

東雲
あ、階段

サトコ
「え!?」

慌てて回避しようとしたけど、階段などなくそのままバランスを崩してしまう。

サトコ
「ぎゃっ」

東雲
うわ、無様

サトコ
「だ、誰のせいですか!?」

転んだ時に段ボールを放り投げてしまい、中に入っていた大量の包みを廊下にぶちまけた。

サトコ
「た、大変!」

東雲
あーあ、中身割れたらどうすんの?

サトコ
「割れ物だったんですか!?」

慌てて拾おうとすると、そのどれもが綺麗にラッピングされてることに気づく。

サトコ
「これって‥」

東雲
今日はどこから?‥ふーん、あの署の交通課の女子か

サトコ
「ど、どどど‥どういうことですか?」

東雲
いくら平和ボケしてるキミでも
もうすぐ控えたあの日とこれを照らし合わせたら、もうなんなのかくらい気づくよね

(まさか‥これ全部、バレンタインのチョコ!?)

サトコ
「それに、『今日は』って‥」

東雲
知らないの?この一週間くらい、毎日いろんな署の交通課から届いてるよ
バレンタインまで続くんじゃない?こんなにたくさん、どうするんだろうねー

(バレンタインまで、この数のチョコが毎日‥!?)

サトコ
「まさか‥もしかして‥加賀教官って、交通課のお姉さんからモッテモテ‥ですか‥?」

東雲
交通課だけじゃないよ
兵吾さんが声を掛けたら、一夜限りの関係でもいいって言う女、いくらでもいるだろうね

サトコ
「そ、そそそ、そんな‥」

東雲
すっごい仕事できて美人の補佐官が現れたら、キミはお役目御免でポイかな

サトコ
「お役目御免‥ポイ‥」

(なんてこと‥私たち、ベテラン刑事と補佐官‥教官と学生‥玄人と素人‥)
(差はあると思ってたけど、恋愛においても降る側と降られる側の格差カップルだったなんて!)

個別教官室へ向かうと、出かけているらしく不在だった。

サトコ
「段ボール、ここに置いておけばいいかな‥」
「どれも凝ったラッピング‥メッセージカードがついてるのもあるし」

(さっきので割れてたらどうしよう‥うぅ‥ごめんなさい、みなさん)

加賀
邪魔だ

入口に立ち尽くしていると、後ろから低い声が聞こえてきた。

加賀
邪魔だ

サトコ
「そんな、2回も言わなくても‥」

加賀
邪魔だ

(3回目‥)

加賀
なんだ

サトコ
「校務員さんに頼まれたんです‥教官にチョコレートを配達です」

(モテるだろうなとは思ってたけど、ここまでとは‥)

思わず恨みを込めて加賀さんを睨むと、鼻で笑われた。

加賀
なんだ?クズがいっちょ前に嫉妬か?

<選択してください>

A: 私だって‥

サトコ
「私だって、嫉妬くらい‥」

加賀
クズが、偉そうに

加賀さんは余裕な顔をしてフッと笑う。
そんな余裕の表情にさらに悔しくなってしまう。

サトコ
「加賀さんだから、嫉妬するんです」

加賀
‥‥チッ

私の言葉に言い返すのを諦めたのか、加賀さんが小さく舌打ちをする」

B: ‥はい

サトコ
「‥はい」

加賀
やけに素直じゃねぇか

サトコ
「私だって、好きな人には嫉妬するんです」

C: 違います!

サトコ
「うぅ‥ち、違います」

加賀
ふん、反抗期か

サトコ
「反抗です!」

ムキになる私に、デスクの方へ歩いて行った加賀さんが指で私を呼び寄せる。

サトコ
「な、なんですか‥」

加賀
反抗なんざ、くだらねぇ

腕を引っ張られて、唇が触れそうになる。

サトコ
「だ、ダメです‥!」

咄嗟に身を引こうとしたけど間に合わず、そのまま壁に背中を押しつけられて深く口づけられた。

(だ、誰か来たら‥!)

もがこうとしても、私の身体をおさえつけるように、教官が脚の間に自分の脚を挟む。

サトコ
「!?」

強引に何度も唇を貪られて、やがて抵抗する力も抜けていった。

サトコ
「誰かに‥見られたら‥」

加賀
声を押し殺す訓練でもしてやろうか

サトコ
「けけけ、結構です!」

ブラウスのボタンを外されそうになり、慌てて教官から離れた。

加賀
‥チッ

サトコ
「舌打ち!?」

(あ、危うくとんでもない教育をされるところだった‥!)

サトコ
「あの‥ところでこのチョコ、全部食べるんですか?」

加賀
クソが。食うわけねぇだろ。処分しとけ

サトコ
「処分!?」

加賀
黒澤に言えばわかる

(黒澤さん‥?)

サトコ
「でも、これを全部処分なんて‥」

加賀
聞こえなかったか?

サトコ
「は、はい!わかりました‥」

なんとなく納得できないまま、仕方なく段ボールを持って個別教官室を出た。

教官室では、ちょうど黒澤さんが石神教官のデスクに書類を置いているところだった。

サトコ
「黒澤さん、ちょっといいですか?」

黒澤
あっ、もう用件わかりました

サトコ
「えっ?」

黒澤
そっか、もうそんな時期なんですねー。やっぱり今年も加賀さんのかー

サトコ
「あの、どういうことですか?」

黒澤
加賀さん、毎年すごい数のチョコをもらうんですけど
それ、全部処分してるんですよ。もったいないですよねー

サトコ
「はい‥実はこれも、黒澤さんに言って処分してもらえって」

黒澤
今年はどんなチョコかな~。去年は手作りが多かったけど
結構高いチョコをくれる人もいるんですよね。楽しみだな~

(まさか‥黒澤さんが、教官のかわりにチョコを食べてるの!?)

加賀
黒澤、余計なこと言うな

個別教官室から出てきた教官が、私の手から段ボールを取って黒澤さんに押し付けた。

サトコ
「あの‥中身見なくていいんですか?」

加賀
そんな気持ち悪いもん、食えるか

(えぇ!?そんな、ものっすごいイヤそうな顔で‥!)
(普段は甘党なのに‥!)

加賀
黒澤、さっさと持って行け

黒澤
イエッサー!じゃあ遠慮なく!

段ボールを持って、黒澤さんが教官室を出ていく。

サトコ
「本当にいいんですか?メッセージカードとかもありましたよ」
「せめて、手紙だけでも読んだ方が‥」

加賀
‥‥‥‥

(‥‥‥か、かなりご立腹なお顔を‥っ!)
(でもせっかく贈ったチョコを見ないで捨てられるなんて、自分だったら悲しすぎるよ)

サトコ
「よ、余計なことだとはわかってます。でも、気持ちがこもったものですから‥」

加賀
ああ?

サトコ
「ううっ‥」

思わずぎゅっと目を閉じて肩をすくめたけど、教官はその場を動かない。

加賀
‥テメェはそれで構わねぇんだな

サトコ
「‥え?」

加賀
俺は‥テメェが他の男といるだけで
‥たまんねぇ気持ちになるのにな

サトコ
「え‥」

加賀
‥チッ

最後に舌打ちすると、加賀教官は教官室を出て行ってしまった。

(まさか‥そんなふうに思ってくれてたの?)
(嫉妬とか独占欲なんて、全然ないと思ってたのに‥)

サトコ
「でも、本当は私だって‥」

泣きそうな私の声は、誰もいない教官室にむなしく響いた。

その夜。

鳴子
「そりゃ怒るでしょ。怒る、怒るわ!」

サトコ
「そ、そっか‥」

鳴子
「だって、彼氏としては微妙でしょ!他の女を大事にしろなんて言われたらさ~」

サトコ
「そうだよね‥」

鳴子
「なんでサトコが落ちこんでるのよ」
「サトコの友達の従姉妹の旦那さんの‥えーっと‥」

サトコ
「旦那さんの妹さんのお友達の話」

鳴子
「あー、それ!その人のことなんでしょ?」

サトコ
「う、うん‥」

鳴子
「その子、そのつもりはなくても、他の女と仲良くしてくださいって言ったようなもんでしょ」

サトコ
「そ、そこまでは‥その子だって本当は嫌だと思うよ?」

鳴子
「なら、そう言うべきでしょー!」

サトコ
「だって、自分だったら悲しいし‥チョコを食べてもらえないのは仕方ないとしても」
「せめて気持ちは知ってほしいから、手紙くらいは読んで欲しいなって」

鳴子
「いい子すぎ!」
「キライじゃないけど、それで自分の彼氏のこと、傷つけちゃってんじゃ、世話ないじゃん」

サトコ
「‥‥‥」

(はぁ、また軽率なことしちゃった‥教官の気持ち、全然考えてなかった)
(なんで私って、いつもこうなのかな)

あのあと、謝ろうと思ったものの‥
教官は警視庁に呼び出されてしばらく戻ってこないと、東雲教官が教えてくれた。

(バレンタインは学校に来るかな‥できればチョコは直接渡したいし)
(よし、頑張っておいしいチョコを作って、今日のことを謝ろう)

to be continued

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