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バレンタイン 後藤 彼目線

資料を届けに、教官室にやってきたサトコは、
いつもよりも随分とソワソワしているように見える。

サトコ
「あの、教官。最近は任務も落ち着いてきていますよね?」

後藤
ああ、大きい案件も特にないからな

サトコ
「それじゃあ、週末の予定なんですが‥」

後藤
週末‥?

(そういえば、書類が溜まっていたな。期限は来週のものが多かったような‥)

後藤
週末は溜まっている事務仕事を片付ける予定だ

サトコ
「そうですか‥」

サトコは俺の返事を聞き、肩を落としていた。
それからサトコは講義があると教官室を後にし、代わりに周さんがやってきた。

颯馬
フフ

後藤
どうしたんですか?

颯馬
いえ‥本当に素直で面白い子だと思って

後藤
まぁ‥目は離せないタイプですね

貴方にそれを言わせるのはすごい、と周さんは堪えることなく声を出して笑う。

(一体、どうしう意味だろう?)

颯馬
もし今の貴方に何か足りないとしたら‥乙女心の理解、だろうね

後藤
乙女心‥?

周さんの言葉に、先ほどのサトコの落ち込んだ様子を思い出す。

後藤
周さん、今週末って‥

颯馬
2月14日、バレンタインですよ

(あいつはバレンタインの予定を聞きたかったのか‥)

そうとは知らず仕事と答えてしまい、バツが悪くなる。

(最近、ふたりで過ごせる時間が少なかったからな‥)

そして、気づかないふりをしていたんだ。

自分自身も、彼女との時間が足りなくて‥満足できていないことを。

数日後。
木下さんからショコラ・バーのチケットをもらったサトコは、うれしそうに教官室を後にした。

(サトコは嬉しそうにしていたが‥そんなにすごいところなのか?)

黒澤
ショコラ・バーのチケットですって。うらやましいですね!

東雲
透はあんなところに行きたいの?

黒澤
めくるめくチョコレートの香り‥
それを楽しもうと可愛い~女の子たちがわんさか‥
いわゆる‥パラダイスです!

颯馬
フフ、黒澤は特定の誰かと行く予定でもあるんですか?

黒澤
グサッ!?
しゅ、周介さん‥それを言ったらダメですよ~
いいんです!いつか可愛い彼女が出来たら、ショコラ・バーに‥!

みんなのやり取りを横目に、サトコの喜んだ顔を思い出す。

(ショコラ・バー、か‥)
(書類整理は前倒しでやれば、終わるだろう)
(普段、あまりデートにも行けていないからな)
(バレンタインは俺から誘ってみるか‥)

数日後。
サトコをバレンタインデートに誘い、ショコラ・バーについて調べ始める。
雑誌をめくっていくと、数ページにわたり特集が組まれていた。

(いろいろなチョコを食べられる‥女が好きそうなところだな)

人混みが多そうなその場所で、もしかしたら他の訓練生に会うかもしれない。
ただ‥

後藤
俺も、アイツとふたりで出かけたいんだよな

矛盾した考えに苦笑いした。

(サトコの行きたいところに行こう)
(問題はショコラ・バーに行った後だな‥)

そのまま帰るのも味気ないと、さらにページをめくっていく。

後藤
‥ん?

そして、とあるページで手を止めた。

(ハートのイルミネーション?)

イルミネーションがあるだけとしか書かれておらず、詳細はどこにも書かれていなかった。

(こういうのに詳しい奴は‥)
(黒澤?いや、あいつはサトコがチケットを持っていることを知ってるし)
(歩‥も同じだ。多少、黒澤より口は堅いだろうが‥)
(のちのち脅されそうだ)

後藤
‥‥‥

本当は、最初から聞くべき相手は決まっている。
ただ、納得がいかないだけで‥

後藤
‥仕方ない。アイツしかいないか

俺はスマホでとある番号を呼び出す。


『‥パジャマのボタン付けならやらねーよ』

後藤
開口一番それか


『お前が連絡してくるときは、そんなもんだろ』
『あとは、スーツの裾直しか‥ああ、テディベアを一緒に買えってやつもあったな』

後藤
‥お前に聞きたいことがある


『なんだよ、クリスマスに一緒に並んでやったろ』
『いとこだか、ハトコだか、姪っ子だか知らねーが』
『いい加減、俺に土下座して感謝してもいいだろ』

後藤
断る


『切るぞ』

後藤
お、おい!ちょっと待て

俺は恥を忍んで、ハートのイルミネーションについて聞く。


『ああ、あのイルミネーションか‥』
『ハートのライトアップの瞬間を見た人は幸せになれる、とかいうジンクスがあるやつだろ』

後藤
そうなのか‥


『ライトアップの時間は、後でメールしてやるよ』

後藤
悪いな


『にしても‥最近、お前からそういことを聞かれることが多いな』

一柳の口調から、ニヤニヤしているということが推測できる。

後藤
‥いいだろ、別に


『まぁ、せいぜい楽しんで来るんだな』

電話を切ると、ため息をつく。

(アイツに借りを作ったようで癪だが‥)

サトコの笑顔には、変えられないのだった。

バレンタイン当日。

(どうしてこんなことになった‥)

サトコと同期の訓練生がワイワイと騒ぐ店内をボーっと観察する。

サトコ
「わぁ、美味しそう!」

運ばれてきたパフェに、目を輝かせるサトコに思わず‥

(他の男の前でそんな顔するな‥)

モヤッとした感情が自分の中で渦巻き始める。

男子訓練生A
「へぇ、氷川のも美味しそうだな。一口くれよ!」

サトコ
「え‥あ、ちょっと!」

訓練生は、サトコのスプーンですくうとパクリと口にする。

(なっ‥アイツ‥!)

後藤
おい!

男子訓練生A
「へっ‥?」

(しまった‥つい‥)

突然声を上げた俺に、訓練生たちは不思議な視線を向けてくる。

後藤
あ、いや‥人の食べ物に手を出すのはよくないだろう

男子訓練生A
「あはは、すみません。美味しそうだったんで、つい」

笑って頭を掻く男子訓練生に他意がないことはすぐにわかった。
だからこそ、堪えられたということもあるが‥

(何年公安に勤めてるんだ‥俺は)

なんとか誤魔化せたことに、俺は気づかれないようにホッと息をついた。

訓練生たちを撒いた俺たちは、広場へやってきた。

(あいつら、なかなかしつこかったな‥)

悪気がないのは分かってはいたが、
それよりもサトコとふたりになりたいという気持ちが強かった。
それに‥

『後藤さんとふたりになりたいんです』

さっきのサトコを思い出し、ニヤけそうになる口元を抑える。
これでは、サトコに愛しさが募っていくばかりだ。

(参ったな‥もう少し節度を保って‥仮にも、教官と生徒で‥)

サトコ
「あの、ここが来たかった場所ですか?」

後藤
ああ‥そろそろ時間か‥

サトコ
「時間‥?」

サトコが聞き返した瞬間、ハートのイルミネーションがライトアップされる。

サトコ
「うわぁ、綺麗‥」

サトコはキラキラと輝くイルミネーションに、目を奪われているようだった。

(連れて来てよかった‥)

サトコの笑顔は、どうしてこんなにも心を暖かくさせるんだろう。
「愛しい」の本当の意味を、これまでずっと、俺は知らなかったのかもしれない。

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サトコ
「私、教官と‥後藤さんといられるなら、それだけで幸せです」
「いつも、ありがとうございます‥」

(また可愛いことを‥)

サトコの言葉に、ギュッと胸が締め付けられる。
ここまで自分のことを想ってくれるサトコに、理性を働かせるので精一杯だった。

サトコ
「あの‥バレンタインチョコです。受け取ってもらえますか?」

後藤
ああ‥ありがとう

サトコ
「あっ‥」

俺はサトコからチョコを受け取ると、彼女を腕の中に閉じ込めた。
サトコから伝わる温もりを、全身で受け止める。

後藤
サトコ‥

俺はサトコの唇をそっと撫でると『愛してる』の気持ちを込めて、
甘く長い口づけを交わした。

翌日。
教官室に行くと、ニヤニヤと俺を見ている歩と黒澤がいた。

黒澤
後藤さん、聞きましたよ?
昴さんから今度は、ハートのイルミネーションについて聞いたらしいじゃないですか!

後藤
なんのことだ?

東雲
しらばっくれても無駄ですよ。言質はとれていますからね

(一柳の奴‥よりによって、こいつらに言うなんて‥!)

一瞬でもアイツに感謝した自分を殴りたくなる。

(とにかく、何が何でも誤魔化すしかないな)

それからサトコと一緒に歩たちから問い詰められるも、俺たちは必死に弁明し続けたのだった。

Happy  End

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