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バレンタイン 石神 彼目線

莉子
「入るわよ」

石神
ノックぐらいできないのか?

莉子
「やあねぇ、知らない仲じゃあるまいし」

石神
何しに来た?

莉子
「なによ、その言い方」
「この前、ショコラ・バーに行ったから、お土産を持ってきたのよ」

木下からチョコを差し出され、無言で受け取る。

莉子
「まぁ、一足早いバレンタインね。もちろん、義理だけど」
「みんなで食べてね。あっ、もちろんサトコちゃんも!」

石神
バレンタイン‥?ああ、そういえば明日だったか

俺はこの前の、サトコとのやり取りを思い返す。

サトコ
『あの、教官。14日の予定なんですけど‥』

石神
14日?その日は警察庁会合の予定だな

サトコ
『そうですか‥』

(悪いことをしたとは思っている‥)
(だが、仕事は仕事だ‥)

莉子
「もしかしなくても‥明日がバレンタインってこと、今気づいたの?」

木下は呆れたようにため息をつく。

石神
いや、あくまで仕事が優先、という話なだけだ

莉子
「うわー、これだからカタブツくんは‥」
「そんなんじゃ、サトコちゃんに愛想尽かされちゃうわよ」

石神
お前には関係ないだろう

莉子
「もう、そういう冷たい言い方がダメって言ってるの」
「それとも‥」

木下は口元に笑みを浮かべる。

莉子
「サトコちゃんに対しては、甘々なのかしら?」
「誰にも見せたことがないくらいの、満面の笑みを見せてたりして」

石神
‥‥‥

莉子
「それで黙るってことは、図星?」

石神
いい加減にしろ

莉子
「あら、怖~い」

口ではそう言うものの、木下は終始楽しそうにしている。

莉子
「秀っち、袖に糸くずがついているわよ」

木下は俺の袖から糸くずを取ると、ニッコリと微笑む。
そんな木下に、俺は深いため息をついた。

木下と共に教官室に出ると、東雲と黒澤が盛り上がっていた。

(あのふたりがつるむと、ろくなことがない‥)

黒澤
サトコさんのあの反応、バレバレでしたよね

東雲
考えていることもすぐ顔に出るし、見てて飽きないかな

(サトコ‥?なんの話をしているんだ?)

黒澤
ですが、あれは絶対勘違いしていますよ

東雲
莉子さんの顔はちょうど見えない位置だったし、知らない女の人だろうと思っただろうね

石神
は‥?

(サトコがここにいたのか‥?)

黒澤
あっ!い、石神さん!?

東雲
莉子さんも一緒だし‥
立ち聞きなんて、よくないですよ

石神
お前たち‥

莉子
「あなたたち‥今の話、本当なの?」

俺が言い終わる前に、木下が二人の前に立ちはだかる。

東雲
さぁ、なんのことですか?

莉子
「とぼけないでくれない?」
「今の話からだと、サトコちゃんが私たちのこと勘違いしたってことでしょう」

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東雲
彼女に勘違いされると、困ることでもあるんですか?

莉子
「‥‥ほんと、かわいくないわね」

東雲
それ、褒め言葉だと思っても?

莉子
「それにしても、サトコちゃんに悪いことしちゃったわ‥」
「誤解を解きに行きたいけど‥」

石神
アイツは今、講義中だろうな

莉子
「そうよね。私はこの後、警視庁に戻らなきゃならないし‥」
「秀っち、私の代わりにちゃんとサトコちゃんに謝っておいてくれる?」

石神
俺からか?

莉子
「当たり前でしょう?」
「あと、大事な子にはちゃんと自分の気持ちを伝えなきゃダメよ?」
「アナタ、ただでさえ仏頂面で分かりにくいんだからね!」

木下と別れ、教官室に戻ると、まだ東雲と黒澤の姿があった。

東雲
莉子さんは敵に回さない方がいいね

黒澤
オレとしては、歩さんも充分敵に回したくないですけどね

石神
お前らは‥

まるで反省していない様子のふたりに、深いため息をついた。

思い浮かぶのは、14日に仕事があると伝えた時のサトコの顔。

(バレンタインなどという行事は、得意ではないが‥)
(普段恋人らしいことをしてやれない分、なにかしてやりたい)

石神
‥ん?

通りがかった紅茶専門店に、『バレンタインフェア』の看板が立てられていた。
バレンタインの文字が目に入り、木下の言葉を思い出す。

莉子
『あと、大事な子にはちゃんと自分の気持ちを伝えなきゃダメよ?』
『あなた、ただでさえ仏頂面で分かりにくいんだからね!』

石神
‥‥‥

(サトコはいつも、補佐官としても恋人としても俺を気遣ってくれている)
(これをきっかけに、自分の気持ちを伝えたい‥)

そう強く思い、紅茶専門店に足を向けた。

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棚にはいろいろな茶葉が置かれ、何がいいのか見当もつかない。

(どういうのを選べば、サトコは喜んでくれるんだ?)

キョロキョロと店内を見回すと、チョコフレーバーの茶葉を見つけた。

石神
これは‥

(チョコの茶葉なんて、初めて見たな)
(バレンタインにちなんで、チョコレートティーというのはどうだろうか?)
(しかし、考えが安直すぎるか?)

グルグルといろんなことを考えてしまい、何が正解なのか分からなくなる。

店員
「お客様、よろしければ試飲されていきますか?」

石神
‥お願いできますか?

店員
「はい、少々お待ちください」

店員は手際よく紅茶を淹れると、俺にカップを渡す。

石神
どうも‥

(チョコの甘い香りがするな‥)

カップを口にすると、チョコのほのかな甘みが広がった。

石神
美味い‥

店員
「ありがとうございます。こちらの商品は、女性に人気なんですよ」
「彼女へのプレゼントに買って行かれる方も多いんです」

(彼女へのプレゼント、か‥)

あまりこういうことに慣れていないせいか、気恥ずかしさがある。

石神
‥プレゼント用に、お願いしてもいいですか?

店員
「はい、かしこまりました」

だけどそんな気恥ずかしさを押し殺して、サトコのために茶葉を購入した。

バレンタイン当日。
仕事が終わると、サトコを家に招いた。
サトコは、どこかそわそわしているように見えた。

サトコ
「教官、お聞きしたいことがあるんですが‥」

石神
なんだ?

サトコ
「‥‥‥」

サトコは口を開きかけるも、閉ざしてしまう。

(何か言いにくいことなのか?)

石神
サトコ‥言いたいことがあるなら言え
どんなことでも、お前のことを受け止めるから

サトコ
「石神教官‥」

サトコは自身の手をギュッと握ると、おずおずと口を開いた。

サトコ
「あの‥先日、教官が女の人からチョコをもらっているのを見たんです」
「あっ、別に教官室を覗こうと思って覗いた訳ではなくてですね!」
「た、たまたまと言いますか‥その女の人が誰だったのかは、わからなかったんですけど‥」
「雰囲気がどことなく親しげに見えて、それで‥」

石神
‥‥‥

(サトコの様子がおかしいとは思っていたが‥)
(まさか、ここまで悩んでいてくれたとは‥)

申し訳ないと思いつつ、嬉しさがこみ上げてくる。

サトコ
「‥‥‥」

サトコは不安そうに、俺を見つめていた。

(まずい‥可愛い‥)

彼女の心情を考えると、不謹慎だということはわかる。
彼女の気持ちを疑ったこともない。
それでも‥‥

(サトコの気持ちが‥俺に向いているその気持ちが嬉しいんだ)

石神
‥心配するな。あれは知人からの土産だ
たとえバレンタインチョコだったとしても、お前からのチョコ以外嬉しくない

俺の言葉に、サトコは心の底から安堵しているようだった。

(俺は幸せ者だな)

照れたように微笑むサトコに愛しさが募っていく。

(俺が幸せだと感じる以上に、サトコを幸せにしたい‥)

俺はそう固く決心し、サトコに笑みを返した‥‥‥

Happy  End

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