イルカのショーを見た後、ぐいぐいと引っ張られて真っ暗な空間に連れ込まれた。
サトコ
「か、加賀さん!?」
加賀
「黙れ」
サトコ
「だって、何も見えませんよ‥!」
加賀
「好都合だろ」
(何が‥!?いや、決まってる‥お仕置きだ!)
サトコ
「み、みんなに見られちゃいますから‥!」
真っ赤になって慌てていると、突然、パッと部屋の中が明るくなった。
サトコ
「えっ‥」
加賀
「‥‥‥」
突然のまぶしさに目を細めながらもよく見ると、水槽の中を光を帯びたクラゲが泳いでいる。
サトコ
「わぁ‥すごい!綺麗ですね!」
加賀
「‥まぶしいな」
サトコ
「でも、神秘的ですよね‥こんなクラゲがいるなんて」
水槽の前にいるのは私と加賀さんだけで、しばらくの間、光るクラゲに見惚れていた。
サトコ
「加賀さん‥もしかして、これを見せるために連れて来てくれたんですか?」
加賀
「さあな」
「4歳児のクセに、マセた誤解をしたらしいが」
サトコ
「ま、マセた誤解って‥」
加賀
「何を期待してやがった?」
追い詰めるように、加賀さんがニヤリと笑う。
サトコ
「な、何もっ‥お仕置きのことなんて考えてません!」
加賀
「フッ‥なるほどな」
(ま、また余計なことを‥!)
(これじゃまるで、暗いところに連れ込まれるの期待してたみたいに聞こえる‥!)
こっそり加賀さんの顔を覗きこむと、私の反応を楽しむように笑っていた。
加賀
「あとでたっぷり、仕置きしてやるよ」
サトコ
「け、結構ですから‥!」
加賀
「それが望みなんだろ?」
サトコ
「加賀さん!わかっててわざと言ってますよね!?」
慌てる私の腕を、加賀さんが強引に引っ張る。
サトコ
「‥‥!」
加賀
「黙れ」
少し動けば唇が触れ合いそうな近さに、思わず息を飲んだ。
(ち、近いっ‥キス、されるっ‥!?)
サトコ
「かっ‥」
加賀
「喚くな」
サトコ
「だっ‥」
加賀
「‥ここで仕置きされてぇか?」
サトコ
「‥‥!」
必死に首を振ると、加賀さんが私の腕を離した。
(び、びっくりした‥!まだドキドキしてる‥)
(あんな近くで見つめられると、緊張しすぎて心臓に悪いよ‥)
加賀
「行くぞ」
サトコ
「え?」
加賀
「来ねぇなら置いていくぞ」
サトコ
「あっ、待ってください!」
(もう帰るんだ‥こんなに綺麗だから、もっと見ていたかったけど‥)
クラゲを振り返っている間に、加賀さんは本当に置いていく勢いでクラゲゾーンを出て行った。
(待ってくれるとか、絶対ないよね‥)
(でも、そこが加賀さんらしくて好きなんだけど)
水族館を出ると、なぜか外に続く出口ではなく、エレベーターに乗り込んだ。
サトコ
「加賀さん?どこに行くんですか?」
加賀
「黙ってついてこい」
(この水族館って、大型商業施設の中に入ってるんだよね)
(でも、水族館があるエリアの上の階って、確か‥)
加賀さんについていくと、たどりついたのは豪華なホテルの一室だった。
サトコ
「な、なんで!?」
加賀
「これだ」
加賀さんが渡してくれたチケットを見ると、
『併設のホテルは、この券がなければ利用できません』とある。
サトコ
「ま、まさか‥」
<選択してください>
サトコ
「このホテルに来たかっただけ、ですか‥?」
加賀
「他になにがある」
サトコ
「で、でもどうして‥そこまでして」
加賀
「‥‥‥」
サトコ
「ここに来るために、私を利用したんですか?」
加賀
「どう思おうが、テメェの勝手だ」
(じゃあ、やっぱりそうなんだ‥!)
ふと見ると、加賀さんが何かを眺めている。
サトコ
「今日誘ってくれたのは、ホワイトデーとは関係ないんですか?」
加賀
「どうだろうな」
(でも、関係ないならどうしてわざわざ、ホワイトデーに‥?)
加賀
「‥‥‥」
(ん?加賀さん、何か見てる‥)
加賀さんの視線を追いかけると、部屋には綺麗な魚が泳ぐ水槽がいくつか設置されていた。
サトコ
「わぁ‥綺麗ですね。さすが、水族館併設のホテル‥」
加賀
「楽しみにしとけって言っただろ」
サトコ
「え?」
バレンタインのあと、加賀さんに『せいぜい楽しみにしてろ』と言われたことを思い出した。
(あ、あれって‥こういう意味だったの?)
サトコ
「じゃあ、あの時からここに来るつもりだったんですか?」
加賀
「テメェだって、期待してただろうが」
サトコ
「期待って‥そ、そんな」
加賀
「なんだ?俺にどうしてほしいと思ってた?」
顎を持ち上げられると、さっきと同じように顔を近づけられた。
サトコ
「っ‥」
加賀
「さっきも、こうしてほしかったんだろ?」
頭に手を添えられ、そのまま引き寄せられる。
少し強引に唇が重なると、息つく暇もないくらいに貪られた。
サトコ
「っ‥‥」
加賀
「それとも、本当にあの場で仕置きしてほしかったか」
サトコ
「あ、あそこはっ‥他にお客さんがいましたし!」
熱を帯びていく頬を隠すこともできず涙をにじませながら答える私に、加賀さんが笑う。
加賀
「見られてる方がいいんだろ」
サトコ
「!」
加賀
「興奮するか?」
サトコ
「ち、ちが‥」
加賀
「あとな」
私を抱き寄せて、服の裾から手を差し入れてくる。
肌の感触を確かめながら、加賀さんが耳元で囁いた。
加賀
「テメェの作ったチョコは、甘すぎだ」
サトコ
「1ヶ月も経ってからのダメ出し!?」
加賀
「まぁ、不味くなかったけどな」
サトコ
「え‥」
加賀
「今度は、俺がお前を堪能する番だ」
服を脱がせる前に、加賀さんが私をベッドに押し倒す。
一緒に倒れ込みながら、長い夜が始まる予感に、目を閉じた。
夜中にふと目を覚ますと、隣で加賀さんが目を閉じていた。
心地よさそうに眠るその姿に、思わず見惚れてしまう。
サトコ
「怖いし、鬼畜だし、恋人扱いされたことってあんまりないけど‥」
「‥でもやっぱり、かっこいい」
加賀さんが目を覚まさないことを確認して、そっと頬に口づけた。
サトコ
「今日は、ありがとうございました‥すごく嬉しかったです」
加賀
「そうか」
サトコ
「!!!???」
目を開けた加賀さんに、咄嗟に後ずさろうとする。
でもそれよりも早く加賀さんが私の腕をつかみ、ベッドに組み敷いた。
サトコ
「おおお、起きてたんですか!?」
加賀
「寝込みを襲うとはいい度胸だな」
「しかも、人を鬼畜扱いするとはな」
(き、聞かれてた‥!)
加賀
「まぁ、テメェから誘ってきたのは褒めてやる」
「躾けた甲斐があったな。なかなか進歩したじゃねぇか」
(それって進歩って言うの!?)
(と、とにかくこのままじゃマズイ‥!話を変えないと!)
サトコ
「あ、あの‥昨日からずっと思ってたんですけど!」
「加賀さんって、お魚が好きなんですか!?」
加賀
「‥なんの話をしてやがる」
サトコ
「だって、こんなに綺麗な部屋に泊まりたい、なんて、加賀さんらしくな‥」
「‥ん?もしかして‥やっぱり私のため?」
加賀
「‥鈍い駄犬には、もっと教育が必要らしいな」
サトコ
「あっ‥」
濡れた唇が敏感な肌を這い、思わず加賀さんの頭を抱きしめる。
加賀
「身体は、順調に成長してるらしいな」
サトコ
「そ、それって‥」
加賀
「‥俺が教え込んだ通り、反応するだろ」
サトコ
「‥‥っ」
何もかもわからなくなるまで、加賀さんに攻め立てられ、
綺麗な魚たちが見守る中、朝まで加賀さんに再教育されたのだった‥
数日後。
(はぁ‥今年のホワイトデーは幸せだった‥)
(バレンタインも色々あったけど、でも加賀さんの昔の話とかもちょっとだけ聞けたし)
サトコ
「ふふ‥ふふふふふ」
加賀
「トチ狂ったか」
サトコ
「!?」
ハッと顔を上げると、いつの間にか加賀さんが目の前に立っていた。
加賀
「ついにおかしくなったのか」
サトコ
「加賀さ‥か、加賀教官‥」
加賀
「‥どうやら、まだ仕置きが足りてねぇみてぇだな」
サトコ
「えっ‥」
<選択してください>
サトコ
「な、な、何するつもりですか‥!?」
加賀
「さあな。どうしてほしい?」
男子訓練生A
「おい、聞いたか‥?仕置き、って言ってたよな?」
男子訓練生B
「加賀教官の仕置きって‥何されるんだ?」
教場がざわめいても、加賀さんはいつもの笑みを浮かべたままだった。
サトコ
「みっ、みっ、みんなの前ですよ!?」
加賀
「それがどうした?」
サトコ
「‥‥!」
加賀
「奴らに見られながら‥ってのも、一興だろ?」
サトコ
「心を入れ替えて頑張りますから、どうかお仕置きだけは‥!」
加賀
「無理だな」
私の懇願を一蹴すると、加賀さんがいつものように鬼のような笑顔を浮かべる。
加賀
「どうしてほしいか言ってみろ」
(待って‥私たちの関係は、誰にも秘密なのに‥!)
(みんなの前でお仕置きなんて、そんな‥!?)
鳴子
「サトコーーー!今48周だよ~!」
千葉
「あと2周!がんばれ氷川!!」
鳴子
「頑張って!!」
鳴子と千葉さんに見守られながら、私は一人でグラウンドを走っていた。
(みんなの前で、何をされるかと思ったけど‥)
(加賀さんが言ってた『お仕置き』って、こういうことだったんだ)
鳴子
「あと1周~!」
千葉
「それにしても、グラウンド50周って‥加賀教官、ほんとに鬼だよ」
鳴子
「それをズルしないでちゃんとやるサトコも偉いよ」
(だって‥ちゃんとやらなきゃ、更に酷いお仕置きされそうだし‥)
鳴子たちに、話す気力もなくなっていた。
ヘロヘロになりながら50周終えると、報告のため、個別教官室へ向かう。
やっとの思いで着替えると、加賀さんの個別教官室をノックする。
サトコ
「失礼します‥」
加賀
「随分遅かったな」
サトコ
「こ、これでも必死に走ったんです‥」
「っていうか、50周はさすがにヒドイですよ!」
加賀
「まだ元気が有り余ってるじゃねぇか」
デスクから立ち上がると、私を壁と自分の間に閉じ込めるようにしてドアを閉める。
(ま、マズイ‥!逃げ場を失った‥!)
加賀
「もう50周追加してやろうか?」
サトコ
「もう充分です!すみません!」
(さりげなく、壁ドンされてるーっ!)
ゆっくりと迫ってくる加賀さんに、恥ずかしくて慌ててうつむく。
すると、加賀さんの唇が、耳たぶに触れた。
サトコ
「ひゃっ」
加賀
「声出してんじゃねぇ」
サトコ
「む、無理です‥」
加賀
「声出すごとに、1周追加だ」
(お、鬼‥)
加賀
「我慢できたら、褒美をやる」
サトコ
「褒美‥?」
加賀
「なんだかんだ言って、仕置きが好きなんだろ?」
目の前で意地悪に笑われて、無意識のうちにうなずいていた。
サトコ
「はい‥」
加賀
「なら‥これがお前への仕置きで、ご褒美だ」
髪の中に指を差し入れられ、引き寄せられた。
深く唇が合わさり、キスされる。
唇が離れた後も、ぼんやりと加賀さんを見つめていた。
加賀
「‥なんだそのツラ」
サトコ
「え‥?」
加賀
「生意気に煽ってんのか?」
サトコ
「あ、煽っ‥」
(私、どんな顔を‥)
角度を変えて、加賀さんの唇が戻ってくる。
さっきよりも優しくて甘いキスに、夢中になっていく‥
(バレンタインもホワイトデーも関係なく、やっぱり加賀さんのペースになっちゃう)
(でも、それに巻き込まれるのが、私の幸せなのかも‥)
キスを受け止めながら、そんなことを考えていたのだった‥
Happy End