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櫻言葉 プロローグ

黒澤
それじゃ、みなさんとの楽しい時間と綺麗な桜に
カンパーイ!

その日のお花見は、黒澤さんが音頭を取る形で始まった。

後藤
お前にとっては桜なんて二の次だろう

黒澤
ヒドイですね。オレにだって、桜を愛でる気持ちくらいありますよ!

東雲
知ってる?桜って、葉っぱに毒があるんだよね
その毒で、周りの植物を殺してるらしいよ

難波
なんでお前はそういうことに対する雑学が異様に多いんだ

石神
桜と言えば、桜餅だな

東雲
あ、ちなみに桜餅にするために桜の葉を塩漬けにしますよね
あの時の香りが、毒の匂いだそうです

鳴子
「東雲教官!せっかくの桜がなんだか怖く見えちゃいますよ」

千葉
「東雲教官って、怖いことを言うときほど、笑顔になるよな‥」

乾杯したあとは、みんなでワイワイお花見を楽しむ。

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(黒澤さんが企画して、教官たちとお花見することになったけど)
(正直、まさか実現するとは思わなかった‥)

鳴子
「桜も綺麗だけど、こんなイケメンの教官たちに囲まれて‥」
「桜よりもそっちの方が、ずっと目の保養だよ!ね、サトコ!」

サトコ
「えっ?おいなりさんが何?」

鳴子
「そんな話してないでしょ!」
「はぁ~、颯馬教官と加賀教官、まだ来ないかな」

千葉
「仕事が残ってるから、後で合流するんだっけ」
「それにしても、お花見なんて教官たちがよくOKしてくれたよな」

(それは私も思ってた‥)
(お花見することに決まったのは、あの日の教官室で‥)

用事があって教官室のドアをノックすると、中から聞き慣れた声が響いてきた。

黒澤
後生ですから!男黒澤、一生のお願いです!

(また黒澤さん‥?なんか、毎日のようにここに来てるような)

後藤
お前の一生の頼みは週3で聞くな

東雲
昨日も『一生のお願いですからうちのパソコン直してください!』って言ってなかった?

黒澤
あれはプライベートな一生のお願いです!今回のとは違います!

サトコ
「あの‥失礼しま」

す、と言う前に。黒澤さんが私のところへ駆けてきた。

黒澤
サトコさん!今年の開花時期はご存知ですか!?

サトコ
「へ?開花時期‥?」

後藤
おい、氷川が困ってるだろ

東雲
透、うるさい

加賀
喚くな、カスが

黒澤
カス!?

一瞬抗議しかかった黒澤さんだけど、再び私の肩を掴む。

黒澤
桜の開花時期です!来週らしいですよ!

サトコ
「桜‥?もうそんな時期なんですね」

(学校のグラウンドの周りにも、桜の木がたくさんあったよね)
(あれが全部咲いたら、きっとすごく綺麗だろうな)

サトコ
「楽しみですね、桜」

黒澤
ほら!サトコさんも楽しみって言ってるし、やりましょうよ!お花見!

サトコ
「お花見?もしかして黒澤さんの『一生のお願い』ってそれですか?」

黒澤
そうなんですよ~
でもだれも話に乗ってくれないんですぅ~

東雲
透、気持ち悪い

加賀
一人でやってろ

石神
この忙しいのに、どこにそんな暇がある

颯馬
黒澤は毎日暇そうでいいですね

黒澤
ぐふっ‥周介さん、今サラッと毒吐きましたね!?

どうやら黒澤さんのお誘いに、教官たちはうんざりしてるらしい。

(お花見かあ‥)

サトコ
「いいな、お花見‥」

黒澤

私の言葉に、教官室が静まり返った。

サトコ
「あ‥す、すみません!春だからって気が緩みすぎですよね」

黒澤
聞きました!?
サトコさんも、たまには気を緩ませてのんびりお花見したいそうです!

サトコ
「ええ!?そ、そんなことは」

後藤
確かに、桜は和むな

つぶやくように言う後藤教官を、加賀教官が鋭くにらむ。

加賀
‥チッ、仕方ねぇな

サトコ
「えっ?」

颯馬
楽しみですね、お花見

石神
今から仕事を前倒ししないと間に合わないな

東雲
まぁ、透がそこまで言うなら、行ってあげてもいいよ

(さ、さっきまではあんなに嫌がってたのに‥!?)

黒澤
やったー!サトコさんのおかげです!

サトコ
「え?え?」

難波
おお、花見か。いいな

振り返ると、難波室長が教官室に入ってきたところだった。

黒澤
難波さん、オレやりましたよ!みんながお花見したいって!

東雲
したいとは一言も言ってないから

石神
うるさいお前を黙らせるためだ

黒澤
まあまあ!オレがとびっきりの場所を知ってますから!

難波
大勢でやった方が楽しいだろ。氷川も仲良い奴呼んどけ

サトコ
「は、はい!鳴子と千葉さんが喜びます!」

黒澤
じゃあみなさん、週末は空けといてくださいね!
場所取りはオレがやりますから!お任せあれ!

あれよあれよという間に、お花見することが決まったのだった。

颯馬
お待たせしました

ハッと顔を上げると、颯馬教官と加賀教官がこちらに歩いて来る。

鳴子
「きゃーっ!お二人とも、お待ちしてました!」

難波
お疲れさん。終わったか?

加賀
なんとか

黒澤
こんな日にまで仕事なんて、大変ですねぇ

加賀
誰のせいだと思ってやがる

颯馬
まあまあ、急な仕事が入ってしまったんですから、仕方ありませんよ

千葉
「加賀教官、颯馬教官、なに飲みます?」

黒澤
あっ、オレがお酌しますよ~

加賀
やめろ。酒が不味くなる

颯馬
できれば、綺麗な女性にお願いしたいところですが

鳴子
「はいはーい!私が!」

張り切って、鳴子がお酌しに行く。

(私も行った方がいいよね。えーと、加賀教官が日本酒で、東雲教官は‥)

東雲
ねぇサトコちゃん、なんか一発芸見せてよ

サトコ
「はい!?」

東雲
あ、似てないモノマネとかナシね
笑えるネタで、みんなに意味が通じて、くだらなくないもの

サトコ
「ハードル高すぎないですか‥!?」

(っていうかその前に、宴会用の一発芸なんて持ってない‥!)

颯馬
女性にそんなことをさせるなんて‥いけませんよ、歩?

鳴子にお酌してもらっていた颯馬教官が、助け舟を出してくれる。

サトコ
「うう、ありがとうございます‥」

東雲
颯馬さんはサトコちゃんに甘いなー

黒澤
自他ともに認めるフェミニストですからね

颯馬
貴方たちは、もう少し女性の扱いを学んだ方がいいですよ

加賀
おい、クズ

サトコ
「は、はい!」

颯馬教官にかばわれる私に、加賀教官のドスの効いた声が飛んできた。

加賀
さっさと酒を注げ

サトコ
「わ、わかりました!」

難波
ああ、俺にも頼む

加賀教官の隣でおでんの串を食べていた難波室長が、お猪口を手に取る。

サトコ
「お二人とも、日本酒派ですか?」

難波
乾杯の時はビールだけどな

加賀
別になんでもいい

東雲
兵吾さんは選ぶのが面倒だから、勧められたものを飲むんですよねー

黒澤
やっぱりカクテルじゃないですか?あ、酎ハイとか

鳴子
「黒澤さんって女の子みたーい」

黒澤
そう、そのノリです!そうやって女の子と仲良くなっていくわけですよ

石神
浅ましいな

黒澤さんを鼻で笑いながら、石神教官が持参した紙袋から何かを取り出す。

後藤
‥石神さん。それは

石神
なんだ

後藤
いえ‥持ってきたんですね

石神
綺麗な桜を見ながら食べる美味いものは最高だからな

(って‥石神教官が持ってるの、まさか‥プリン!?)

加賀
おい、メガネプリン野郎

石神
人の名前も覚えられないのか、柔らか和菓子男

バチバチと、石神教官と加賀教官のバトルが勃発する。

黒澤
メガネプリン‥柔らか和菓子‥

ツボに入ったのか、黒澤さんが私の隣でブルブル震えながら笑いをこらえていた。

鳴子
「石神教官って、もしかしてプリン好きなの?」

サトコ
「うん。そうみたい‥たまに教官室でも食べてるよ」

鳴子
「しかも、加賀教官は和菓子好き!?」
「やだー!ギャップ萌え!」

(この状況でそう思える鳴子‥さすがだ‥)

鳴子
「あれ?そういえば、サトコも今日は何か準備してたんじゃないの?」

サトコ
「あっ!そうだった」

重箱に入れた桜餅とおはぎを出すと、みんなから歓声が上がる。

黒澤
やや!これはもしや‥サトコさんの手作りですか!?

サトコ
「それが、おはぎは作れたんですけど、桜餅は難しくて‥」
「しかも、おはぎも失敗してしまって‥数が足りないんです」

全員
「!!!」

私の言葉と同時に、一斉に教官たちがおはぎに手を伸ばす。

サトコ
「あ、あの!?」

鳴子
「私は今度サトコと一緒に作りますから、教官たちでどうぞ~」

千葉
「ぼ、僕も‥今度氷川と佐々木にもらうので」

教官たちの勢いに圧倒されて、鳴子と千葉さんが辞退する。
でも、私たちの声など聞こえていないかのように、教官たちは数少ないおはぎの前で争っていた。

石神
加賀、人の手を掴むな。離せ

加賀
テメェはプリンでも食ってろ

石神
貴様こそ、桜餅を食べていればいいだろう。柔らかいものが好きだったはずだが?

東雲
ここは一番年下のオレに譲るのが先輩の筋ですよ

颯馬
後藤、甘いものは苦手でしたよね?

後藤
‥今は、食べたい気分なんです

(み、みんなそんなにおはぎが好きだったの‥!?)

サトコ
「そんなに喜んでもらえるなら、頑張ってもっとたくさん作ればよかったですね」

難波
いやいや、無理するな、氷川

黒澤
すごく美味しいです!手作りは心に沁みますね

みんなが争っている隙に、難波室長と黒澤さんがおはぎをぱくりと食べてしまった。

教官
「!!!???」

黒澤
うーん、うまい!
あ、ちなみに室長はこしあん派ですか?つぶあん派ですか?

難波
そうだな‥どっちもうまいが、どちらかと言えば

東雲
‥透?覚悟はできてるよね?

颯馬
向こうに池がありましたから、捨ててきましょうか

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加賀
どうせなら捨て駒として役に立ってから死ね

石神
そうだな。せっかくの命だ、有効活用してやろう

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黒澤
待ってください!なんでオレだけ!?

鳴子
「‥教官って、いつもこんな感じなの?」

サトコ
「うーん、わりと‥」
「いや、でも事件があるとピリッとするよ!たまに!」

千葉
「たまに‥」

(2人とも、教官たちが騒いでいるところなんて見たことないもんね)

鳴子
「いい天気だし、今日は絶好のお花見日和だよね」
「もうすぐ春休みだし、教官たちとお花見できるし、いいことばっかりだなー」

鳴子の言葉に、千葉さんが笑顔になる。

千葉
「春休み、来週からだっけ。まさか3日ももらえるなんてびっくりだよ」

サトコ
「うん、休みなんてないまま新年度を迎えると思ってたよね」

(春休みか‥確か、急に決まったんだよね)
(3日間だけど、ゆっくりできるのは嬉しいな)

鳴子
「でもよかったー」
「教官たちとお花見だって聞いてたから」
「成田教官まで来てたらどうしようかと思っちゃった」

千葉
「確かに‥お花見とか関係なく、講義のことをチクチク言われそうだもんな」

加賀
あのくそじじぃを呼ぶわけねぇだろ

サトコ
「くそじじぃ‥」

東雲
ただ嫌味を言うだけで、なんの使い道もないしね

颯馬
でも、春休みを決めたのは成田教官ですよ

サトコ
「え!?そうなんですか!?」

難波
ああ、『訓練生たちにもたまには休暇が必要だ』‥
‥なんてもっともらしいことを言ってたが、実は自分が有休を取りたかっただけらしい

鳴子
「なーんだ」
「成田教官も結局は人の子ですよね」

千葉
「成田教官は個人的に有休を取るからいいけど、他の教官たちは休みじゃないですよね?」

サトコ
「そっか‥みなさん、大変ですね」

(教官はやっぱり休みナシか‥)
(せっかくの春休みだし、もしかして一緒に過ごせるかも‥なんて思ったけど)

難波
それなんだけどな。お前ら、そろそろ有休を消化しろ

難波室長の声に、教官たちがお酒を飲む手を止める。

難波
講義もないし、休みを取るチャンスだろ
全員有休が余ってるからな。そろそろ消化しとけ

石神
ですが、仕事が‥

難波
そんなこと言ってたら、一生休みなんて取れないぞ

加賀
‥‥‥‥

東雲
兵吾さんは、有休を使って普段は出来ない捜査とかしそうですよね

加賀
余計なことを言ってんじゃねぇ

颯馬
せっかく室長がこう言ってくださっていることですし、お言葉に甘えましょうか

後藤
周さん、珍しいですね

颯馬
その方が、室長も有休を取りやすいでしょうから

難波
そうだな、俺も休めそうなら休みたいが

(教官たちもお休み‥ってことは、カレも‥!?)

期待に胸を膨らませる私に気づき、室長が顔を覗きこんでくる。

難波
なんだ氷川、もう予定決が決まってるのか?

サトコ
「えっ!?い、いえまだです」

(カレと過ごしたい‥本当に有休取れるのかな)
(思い切って誘ったら、なんて言うかな‥?)

<選択してください>

A: 後藤

B: 加賀

C: 石神

D: 颯馬

E: 東雲

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