カテゴリー

櫻 後藤2話

時刻表を確認した私は、すがるような目で後藤さんを見る。

サトコ
「次の電車‥二時間半後です!」

後藤
は?

後藤さんは私の言葉を聞き、時刻表を確認する。

後藤
‥確かに、そうだな

サトコ
「ま、まさか、こんなに時間が空くなんて‥」

(どこか、時間を潰せそうなところは‥)

辺りをキョロキョロ見回すも、ここは無人駅。
駅員さんもいなければ、私たち以外に下車した人たちはいなかった。

(喫茶店なんか、あるわけないし‥)

駅の周りは建物と言う建物はなく、実にのどかな風景だった。

サトコ
「す、すみません‥私のせいで‥」

私は頭の中で、ひとり反省会をする。

(せっかく、後藤さんを癒す旅にするはずだったのに)
(こんなところで足止めになっちゃうなんて‥)

後藤
‥サトコ。天気もいいんだし、気分転換に散歩に行かないか?

サトコ
「え‥?」

後藤
ここで時間を潰すよりもいいだろ?

後藤さんは笑みを浮かべ、私の手を取った。

駅舎を出て、畦道を歩いていると、時折鳥のさえずりが聞こえてくる。

後藤
天気が良くて、気持ちいいな

サトコ
「そうですね」

後藤
普段はバタバタしてるし、こういうのもいいな

サトコ
「はい‥」

(あまり落ち込むのもよくないよね‥)

そう思いつつも、空返事をしてしまう。
それから私たちは特に会話をするでもなく、畦道を歩き続けた。

しばらく歩くと、綺麗な花畑に辿り着く。

サトコ
「わぁ‥!」

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-184

色とりどりの花々を前に、感嘆の声が漏れた。

後藤
綺麗だな

サトコ
「はい!」

腰を屈めて花に近づくと、優しい香りが鼻腔をつく。

サトコ
「いい香りです‥」

後藤
そうか‥

後藤さんは花畑の真ん中に行くと、ゴロンと寝転ぶ。

後藤
‥‥‥

気持ちよさそうに目を細め、後藤さんは私を見た。

後藤
サトコ、来ないのか?

サトコ
「あっ、えっと‥」

(綺麗なお花畑を前に、さっきよりも気持ちは軽くなったけど‥)

罪悪感が、顔を覗かせた。

後藤
サトコ‥?

サトコ
「あ、あの‥後藤さん。本当は温泉でもっとゆっくりしてもらう完璧なプランだったんです」
「なのに、私のせいで‥ごめんなさい!」

後藤
‥‥‥

後藤さんは苦笑いしながら、上体だけ起こす。

後藤
花見の時の『癒し系じゃない』発言を気にしているのか?

サトコ
「え‥?」

(なんで、後藤さんがそれを知って‥)

自分は自分と思いつつも、心の片隅で微かに気にしていたこと。

後藤
それくらい、分かるに決まってるだろ?
俺は‥サトコのまっすぐで、一生懸命な姿にいつも励まされているんだ
そんなアンタが‥好きだからな

サトコ
「っ‥」

後藤さんの想いを受け、目じりに涙が溜まる。

後藤
サトコ‥

後藤さんは立ち上がり私に近づくと、指で雫をすくった。

後藤
今回だって、俺のことを考えてくれたんだろう?

サトコ
「っ‥」

後藤さんは私の背中に腕を回し、そっと腕の中に閉じ込める。

後藤
‥ありがとな

サトコ
「後藤さん‥」

(気づいていたんだ‥)

私は後藤さんの服を掴み、彼の肩に顔を埋める。

後藤
‥‥‥

私の頭を、優しく撫でる手。
今はその温もりを、感じていたかった。

サトコ
「あの、後藤さん‥」

顔を上げて口を開こうとした、その時。

ぐう~‥

後藤
‥‥‥

サトコ
「‥‥‥」

私のお腹から、盛大に音が鳴った。

後藤
ぷっ‥ははっ!でかい腹の虫だな

サトコ
「い、今のは違くて‥!いえ、何も違くはないんですが‥!」
「ていうか、そんなに笑わないでください!」

後藤
悪い。まさか、こんなタイミングで腹の音が鳴るとは‥

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-185

後藤さんは、本当におかしそうに肩を震わせている。

(も、もう!もっと空気を読んでよね!)

私は自分のお腹に、悪態をついた。

後藤
ずっと気を張っていたみたいだからな。安心したら、腹でも減ったんだろう

サトコ
「うぅ‥」

後藤
そう落ち込むな

私の頭をポンッと撫でると、後藤さんは鞄を取り出す。

後藤
来るときに、軽食を買っていたな。食うか

サトコ
「はい‥」

私たちは花畑の真ん中で、軽食を広げる。

(いろいろあったけど‥)

サトコ
「こうして、お花畑の真ん中でご飯を食べるのもいいですね」

後藤
そうだな‥

後藤さんは辺りを見回し、フッと笑みを浮かべる。

後藤
こんな素敵な風景に出会えたのも、サトコのおかげだな

サトコ
「そう思っていただけたら、良かったです」

後藤
‥ん?サトコ、口元に米粒がついてるぞ?

サトコ
「え?ここですか?」

後藤
そこじゃなくて‥

サトコ
「?」

後藤
‥‥‥

後藤さんは少しだけ頬を赤らめたかと思うと‥

チュッ

サトコ
「!?」

私の口元に、口をつけた。

サトコ
「あ、あのあのあの‥!」

思いもよらぬ後藤さんの行動に、慌ててしまう。

<選択してください>

A: 後藤さん、どうしたんですか!?

サトコ
「ご、後藤さん、どうしたんですか!?」

後藤
‥アンタの顔を見てたら、したくなった

サトコ
「っ‥」

後藤
‥‥‥

頬に熱が上がるのを感じ、後藤さんから視線を逸らす。

(ど、どうしよう、どうしよう‥!)

頭の中は、完全に混乱していた。

後藤
なんだ、その反応は‥

後藤さんの声も、どこか落ち着きがないように感じて‥

後藤
‥雰囲気に呑まれたんだ

私の耳に、微かにその言葉が届いた。

B: も、もう一度してください!

サトコ
「も、もう一度してください!」

後藤
!?

サトコ
「っ‥!い、いえ、今のはですね‥!」

(わ、私‥何を言ってるの!?)

自分でも何を口走ってしまったのかと、混乱する。

サトコ
「い、いきなりで驚いたと言いますか‥い、今のはなかったことにしてください!」

後藤
‥そんなこと、するわけないだろ?

サトコ
「後藤、さん‥?」

後藤さんは照れ臭そうに、だけど真剣な表情で私を見た。

C: 後藤の胸に飛び込む

サトコ
「後藤さん‥!」

後藤
っ!?

私は思わず、後藤さんの胸に飛び込んだ。

後藤
サトコ‥?

サトコ
「‥はっ!す、すみません!」
「感極まったと言いますか、つい‥」

急に照れ臭くなり、後藤さんの肩に顔を埋める。

後藤
いや‥俺も突然、あんなことしたし‥

後藤さんは、私の背中を優しく撫でる。
そして、私の頬をそっと撫で、視線が絡み合った。

後藤
サトコ‥

後藤さんは私の名前を呼ぶと、ゆっくりと顔を近づけてくる。

サトコ
「ん‥」

目を閉じると、唇に柔らかな感触がやってくる。
私たちは花畑の真ん中で、長いキスを交わした‥‥

花畑を後にすると、手を繋ぎ駅までの道のりを歩く。
先ほどこの道を歩いた時とは違い、晴れやかな気持ちだった。

サトコ
「ポカポカ陽気で、お散歩日和ですね」

後藤
そうだな

サトコ
「このまま駅についてしまうのが、なんだかもったいない気がします」

後藤
なら、もう一本後の電車にするか?

サトコ
「ふふっ、それもいいかもしれませんね」
「だけど、そんなことをしたら夜になってしまいますよ?」

後藤
だな

サトコ
「‥‥‥」

後藤

「‥‥‥」

のんびりと畦道を歩きながら、会話が途切れる。
だけど無言の時間も、後藤さんとの大切な時間だった。

私たちが乗り込んで間もなく、電車が発車した。

サトコ
「この時間だと、旅館に着くころには暗くなっているかもしれませんね」

後藤
ああ。ゆっくり見て回るのは、明日でもいいだろ。急ぐわけでもないからな

サトコ
「そうですね」

私たちは同時に、車窓に視線を向ける。
日が傾き、影が長くなり始めていた。

(遅くなる前に辿り着けてよかった)

無事にチェックインし、ほうっと息を漏らす。

後藤
サトコ。風呂に入りに行くか?

サトコ
「あ、はい!ここのお風呂は、いくつか種類があるんですよ」

私は部屋に置いてあった案内を開きながら、説明する。

サトコ
「男女に分かれている内風呂と、貸切の露天風呂があって‥」

後藤
これは‥

サトコ
「あっ‥」

私たちは、貸切風呂の横に書かれている『混浴』という文字に目を止める

(後藤さんと一緒に入りたいな‥)

そう思うものの、なんだか気恥ずかしくてなかなか言い出せない。

サトコ
「あ、あの‥」

後藤
‥一緒に入るか

サトコ
「え‥?」

後藤
貸切なんだろう?それに、せっかくここまで来たんだ

後藤さんは私から視線を逸らし、少しだけ頬を染めて言った。

後藤
サトコが嫌なら、無理にとは言わないが‥

サトコ
「い、嫌だなんて!そんなこと、ありません‥」

後藤
‥行くか

サトコ
「はい‥」

私たちは言葉少なく、露天風呂に向かった。

身体を洗い終え、温泉に浸かる。
恥ずかしさが勝り、私たちの間には距離が空いていた。

サトコ
「‥‥‥」

後藤
‥‥‥

お互い照れているせいか、固く口を閉ざしている。

(何か‥会話を‥!)

お湯に目線を向けていると、ひらりと一枚の花びらが落ちてきた。

(これは‥?)

顔を上げると、満開の桜が目に入る。

サトコ
「わぁ‥」

風が吹いて桜が舞い、花びらが何枚もお湯に浮かぶ。

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-187

後藤
綺麗だな

サトコ
「はい‥」

私たちは顔を見合わせ、笑みを浮かべた。

<選択してください>

A: そっち行ってもいいですか?

サトコ
「後藤さん、そっちに行っても‥」

『そっちに行ってもいいですか?』そう言い切る前に、後藤さんが静かに距離を縮めた。
肩がわずかに触れ合う距離に、胸がトクンと高鳴る。

サトコ
「後藤さん‥」

私は彼の肩に、頭を寄せる。
後藤さんは私の腰に、そっと腕を回した。

B: 何も言わずに、距離を詰める

私は何も言わずに、後藤さんとの距離を詰めた。
すると‥

サトコ
「わっ!」

いきなり距離を詰め過ぎたせいか、後藤さんとぶつかってしまう。

サトコ
「す、すみません!」

後藤
いや‥

サトコ
「あっ‥」

後藤さんは視線を桜に向けたまま、私の肩を抱いた。

サトコ
「後藤さん‥」

私はそんな後藤さんの肩に頭を寄せる。

(幸せだな‥)

大きく息を吸い込むと、温泉の香りが鼻についた。

C: 桜のお風呂ですね

サトコ
「桜のお風呂ですね」

両手でお湯をすくい上げると、手のひらに花びらが浮かぶ。

サトコ
「ふふっ、こんな素敵なお風呂に後藤さんと一緒に入れて‥うれしいです」

後藤
そうか‥

後藤さんはフッと微笑むと、私に手を差し伸べる。

後藤
サトコ‥こっちに来い

サトコ
「はい‥」

私は後藤さんに誘われ、彼の隣に座る。

(まだ少し恥ずかしいけど‥)

彼の存在を身近に感じ、ほっと息をつく。

サトコ
「あっ‥」

そんな私を見て、後藤さんは私の腰に腕を回した。

サトコ
「こうして桜を見ていると、入校した時を思い出します」

後藤
そういえばアンタ、裏口入学を撤回しようと頑張っていたな

サトコ
「そ、その節は大変お世話になりました‥」

(後藤さんは私にチャンスをくれたんだよね‥)

今も公安学校にいられるのは、あの時後藤さんが私を信じてくれたから。

サトコ
「‥ありがとうございます」

後藤
どういたしまして

後藤さんは笑みを浮かべると、私に掛ける手に力を込める。

後藤
あの頃から変わらず、アンタはいつも全力だったな‥

そして私の瞳を覗き込み、後藤さんはコツンと額を合わせた。

後藤
俺は‥そんなサトコのことが好きだ
今こうしてふたりでいられることが‥本当に幸せだ

サトコ
「後藤さん‥」

私のたちの距離は、どんどん縮まっていく。

(私も、幸せです‥)

心の中で呟くと同時に、唇が重なった。

サトコ
「ん‥」

甘くとろけるようなキスに、魅了されていく。
短いキスに長いキス‥‥唇がかすかに離れる度、吐息が絡み合った。

サトコ
「はぁ‥」

永遠に続くと思われるくらい長いキスが終わると、後藤さんは私の頬を優しく撫でる。

後藤
頬、赤くなってる

サトコ
「んっ‥」

後藤さんは私の頬を優しく撫で、額にキスを落とした。
そして私たちは身を寄せ合い、桜を眺める。

後藤
この前話したよな?俺の地元の山桜

サトコ
「はい‥とてもきれいなんですよね?」

後藤
ああ。来年は一緒に‥見に行こう

サトコ
「はい。今から楽しみです」

後藤
そうか‥

サトコ
「んっ‥」

後藤さんは私の肩を抱き、頬にキスをする。
頬だけじゃない、耳元や首筋、それに胸元‥後藤さんの愛情を一身に受けた。

(幸せって‥こういうことを言うんだな)

公安を目指している私には、この先様々な困難が待ち受けているだろう。

(だけど今は、この幸せに浸っていたい‥)

サトコ
「後藤さん‥」

私は受けた分の愛情を返すように、後藤さんの唇にキスを贈った‥‥

Happy  End

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする