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櫻 加賀2話

春休みを心置きなく加賀さんと過ごすために、難波室長のお誘いをお断りすることにした。

難波

行けない?

サトコ

「はい‥誠に申し訳ないのですが」

「あの、もし捜査でお手伝いすることがあるのなら、別の日にして頂けたら‥」

難波

‥というか、すまん、何の話だ?

サトコ

「え?」

難波

俺がお前とデートするのか?

訓練生に手を出すのはマズイだろ~

サトコ

「‥室長、もしかして忘れてます?」

難波

忘れるもなにも、約束した覚えがないんだが‥

(やっぱり、あれはお酒の席での冗談‥っていうか)

(室長、覚えてないほど酔ってたんだ‥全然そんなふうに見えなかったのに)

サトコ

「す、すみません。一人で勝手に慌ててしまって」

難波

いや、お前がいいなら、俺はいつでもお誘いには乗るけどな

まぁ、いつものラーメン屋にならいつでも連れてくぞ

サトコ

「は、はい‥」

カタン、と音がして振り返ると、そこに‥加賀さんが立っていた。

加賀

‥‥‥‥

(う、ウソ‥!?今の、どこから見てたの!?)

難波

おっ、加賀。お前もやっと観念したんだな

加賀

なんの話ですか

難波

有休届出してただろ。いくら言っても出さないから、今回も休まないのかと思ったぞ

じゃあな、氷川。今度本当にデートしような

サトコ

「はい!?」

慌てて室長を振り返ったけど、いつもの調子でのらりくらりと去っていく。

加賀

‥‥‥‥

(沈黙が怖い‥!)

サトコ

「か、加賀さん‥今のはですね‥」

加賀

クズが

サトコ

「でも、ちゃんと断ったんです‥!そうしたら室長、覚えてないって」

加賀

あの時は酔ってたからな

サトコ

「え?」

加賀

あの人は顔に出ねぇから厄介だ

サトコ

「じゃあ‥室長は冗談で言ったって気づいてて、私をけしかけたんですか!?」

加賀

きっちりケジメつけさせてやっただけだ

それより‥

加賀さんの顔が迫り、慌てて後ずさる。

加賀

デートだ?あ?

クズのくせに、随分いいご身分だな

サトコ

「あ、あれは本当に、室長の冗談ですから‥!」

加賀

‥チッ

‥週末、うちに来い

サトコ

「へ‥?」

加賀

二度は言わねぇ

そのまま、教官はスタスタ歩いて行ってしまった。

(週末、って言ったよね‥室長のお誘いをお断りしたご褒美‥?)

(それとも、室長と仲良くしたお仕置き‥!?どっち!?)

期待と不安が入り混じる中、週末までの時間を過ごすことになった。

鳴子

「ねぇサトコ、春休みの予定、決まった?」

サトコ

「う、うん‥一応」

千葉

「もしかして、加賀教官と‥」

サトコ

「え!?」

千葉

「休みなのに、無理矢理捜査‥とかじゃないの?」

サトコ

「そ、そうじゃないよ!ちゃんとゆっくり休めるよ」

鳴子

「ほんと?」

「加賀教官、サトコには特に厳しいから」

心配顔の2人に笑顔を向けて、心の中でホッと胸を撫で下ろす。

(びっくりした‥2人に、加賀さんと付き合ってのがバレたのかと思った)

(それにしても‥週末、いったい何が起こるんだろう‥いや、何をされるんだろう‥)

加賀

おい、クズ

サトコ

「は、はい!?」

反射的に立ち上がると、加賀さんが廊下から顔を覗かせたところだった。

加賀

運ぶもんがある。手伝え

サトコ

「はい!」

鳴子

「サトコ‥」

「クズって言葉に、身体が反応するようになっちゃってるね」

千葉

「あの加賀さんでも、女性と付き合うと甘くなったりすると思う?」

(ならないよ‥ずっとこのままだよ‥)

2人の話を聞きながら、加賀さんを手伝うために急いで教場を出た。

全ての仕事も課題も終えて、無事に春休みを迎えた。

(難波室長のこと、怒ってるかもしれないって思ったけど‥この一週間、平和に過ぎたな)

(加賀さんが不機嫌そうに見えたのは、気のせいだったのかも)

サトコ

「さてと‥明日はついに加賀さんの部屋にお泊りだし」

「この前、鳴子と出かけた時に買った新しい下着、つけちゃおうかな」

(いや、別に妙な期待をしてるわけじゃないけど‥!)

(でも加賀さんと言えばお仕置き、お仕置きと言えば、ベッドで‥)

サトコ

「‥‥‥‥」

「‥ハッ!いけない、なんか今ちょっと妄想してた‥」

(加賀さんのせいで、変態に近づいてってる気がする‥)

(これ、加賀さんのために選んだ下着なんだよね)

サトコ

「そうだ‥久しぶりのお泊りだし、お風呂からあがったらボディケアしなきゃ」

「それに、鳴子からもらった、とっておきのパックも試してみて」

(って‥なんか気合入りすぎかな)

(だけど、一応ね‥!何があるかわからないから!)

お泊り道具や下着を準備しながら、一人であれこれ考えて照れる私だった。

翌日、加賀さんのお部屋にお邪魔した。

サトコ

「そういえば、お泊りするの久しぶりですよね」

加賀

そうだったか

サトコ

「外泊はありましたけど、部屋にお邪魔するのはかなり久々な気が‥」

「加賀さんが私の部屋に来るわけにもいかないですしね」

加賀

‥‥‥‥

(なんか、今日は会話が弾まない‥)

(いや、加賀さんは普段からそんなに話すタイプじゃないけど)

サトコ

「あの‥加賀さん」

加賀

なんだ

<選択してください>

A: ごはん作りましょうか

サトコ

「そ、そろそろごはん作りましょうか」

加賀

‥ああ

(そ、それだけ‥?)

(いつもなら『メシよりテメェを味あわせろ』とか言うのに)

B: 機嫌悪いですか?

サトコ

「もしかして、機嫌悪いですか‥?」

加賀

ぁあ゛?

サトコ

「な、なんでもないです!」

(絶対機嫌悪い‥!なんかあったの!?)

C: 事件ですか?

サトコ

「もしかして事件ですか?」

加賀

なんの話だ

サトコ

「いえ、心ここに非ずだったので、もしかして何か気になることでもあるのかなって」

加賀

何もねぇ

短く答えながらも、加賀さんは私と目を合わせてくれない。

(やっぱり難波室長のこと、怒ってるとか‥?)

(でも室長にはちゃんと断ったし、『デートしよう』は絶対冗談だし)

でも結局、加賀さんに聞くタイミングを逃し‥

そのまま夜を迎え、ベッドに入ることになった。

加賀さんを追いかけるように、少し緊張しながらベッドにもぐりこむ。

でも、加賀さんは特に何も言ってこない。

(いつもなら、なんだかんだ言いながらちょっかいかけてくるのに‥)

(っていうか、これじゃ私、期待してるみたいだな‥)

天井を見上げながら、思い切って加賀さんに声を掛けようとした時‥

隣から、微かな寝息が聞こえてくることに気づいた。

(‥え!?ね、寝ちゃった!?)

(あの加賀さんが、なにもせずに!?)

しばらく待ってみたけど、加賀さんが動く気配がない。

(疲れてたのかな‥いつも忙しいもんね‥)

(でも、忙しい時でも夜になると楽しそうに私をいじめてきたのに)

サトコ

「やっぱり、何か怒ってる‥?」

不安な私の言葉に、答えてくれる声はなかった‥

翌朝、目を覚ましても加賀さんの態度は変わらなかった。

(うう、眠い‥一人で悩んじゃって、昨日は一睡もできなかった‥)

(やっぱり私、何かしたのかな‥加賀さんが一晩中なにもしてこないなんて、絶対おかしい)

チラリと加賀さんを見ると、ジロリと睨まれる。

加賀

さっきから、なに人の顔ジロジロ見てやがる

サトコ

「な、なんでもないです‥!」

加賀

言いたいことがあんならさっさと言え

どこかピリピリした雰囲気に、首を振るので精一杯だった。

(学校では普通の態度だったはず‥昨日、お部屋にお邪魔してから空気が変わったような)

(じゃあ、家に来るときに何かした‥?手土産を持ってこなかったから?)

サトコ

「ハッ!和菓子‥」

加賀

あ?

サトコ

「い、いえ‥」

(そういえば、駅前に新しくできた和菓子屋さんが気になるって言ってたっけ‥)

(もしかして‥和菓子を買ってこなかったから機嫌が悪いとか?)

いやでも、さすがにそれで機嫌が悪くなるなんてことは‥

もう一度こっそり加賀さんを見たけど、もう目は合わない。

サトコ

「あの‥私、ちょっとコンビニに行ってきます!」

気まずい沈黙に耐えられず、加賀さんの部屋を飛び出した。

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(はぁ‥逃げ出すように出てきちゃった)

(そもそも、ちゃんと話さないとなんの解決にもならないよね)

とぼとぼ歩いていると、ヒラリと何かが舞い落ちてきた。

サトコ

「あ、枝垂桜!」

気づかずに、桜並木に足を踏み入れていたらしい。

(綺麗だな‥枝垂桜の並木道かぁ‥)

(加賀さんと見たいな‥怒られても呆れられても、やっぱり私は‥)

加賀さんのところに戻ろうと決めて、足を止める。

サトコ

「あ、でもせめて、駅前まで行って和菓子を買って来てからにしようかな」

「柔らかい和菓子があれば、きっと加賀さんの機嫌も‥」

加賀

直るか、クズが

サトコ

「!?」

振り返ると、走ってきたのか少し髪が乱れた加賀さんが立っていた。

サトコ

「ど、どうして‥」

加賀

家出してんじゃねぇ

サトコ

「家出!?コンビニ行くって言いましたよね!?」

加賀

喚くな

‥コンビニにしちゃ、遅せぇだろうが

私の腕を引っ張り、加賀さんがきつく抱きしめてくれる。

サトコ

「‥怒ってないんですか?」

加賀

誰が怒ってるなんざ言った

加賀さんの声が、切なく耳元で響く。

サトコ

「だって、ずっと不機嫌だったから‥」

「‥あれ?もしかして、迎えに来てくれたんですか?」

加賀

面倒かけてんじゃねぇ

駄犬には帰巣本能ってもんがねぇのか

サトコ

「い、今帰ろうと思ってましたよ‥!」

(気まずいまま部屋を出たから、迎えに来てくれたのかな‥)

サトコ

「ありがとうございます‥昨日からずっと不安だったんです」

「加賀さん、怒ってるみたいだし‥私、なにかしたのかなって」

加賀

テメェがなにしたのかもわかんねぇのか

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サトコ

「え?」

身体を離すと、加賀さんが不敵に笑っていた。

加賀

昨日の分も、たっぷりかわいがってやる

サトコ

「ど、どういうことですか‥!?」

加賀

普段とは違う躾も、たまにはいいもんだろ

他の男に尻尾振ったバツだ

(それって、室長とうっかり出かける約束しちゃったこと‥!?)

(でも、ちゃんと断ったのに‥それに、普段と違う躾って)

サトコ

「‥あ!?」

加賀

なんだ

サトコ

「ま、ま、まさか‥昨日の夜の放置プレイ」

加賀

駄犬にも『待て』は有効だったか

サトコ

「待て!?じゃあ、昨日の夜のはやっぱり、『お預け』だったってことですか!?」

加賀

飼い主の言うことを聞かねぇ駄犬を躾けるには、『待て』が有効らしいな

これでもう、他の男にじゃれついたりしねぇだろ

<選択してください>

A: じゃれてません

サトコ

「じゃ、じゃれてませんよ‥!難波室長は私をからかっただけで」

加賀

どうだかな

(嫉妬なのか、それとも本気で怒ってるのか分からない‥!)

加賀

駄犬のしたことの始末は、飼い主の責任だからな

B: 根に持ってた?

サトコ

「もしかして、根に持ってるんですか‥?」

加賀

少し目を離したすきに、他の男の飼い犬になられちゃたまんねぇからな

誰が今までテメェを躾けてやったと思ってる

サトコ

「そんなに簡単に他の人のところになんて行きませんから‥!」

C: 駄犬じゃないですよ

サトコ

「だ、駄犬じゃないですよ!自分が誰のものかもわかってますから‥!」

加賀

これまで、身体に教え込んできたからな

問題は、テメェを懐かせようとする奴らがいるってことだ

サトコ

「懐かせるって‥」

加賀

餌付けされんじゃねぇぞ

サトコ

「っていうか、そろそろ犬扱いをするのはやめていただけませんでしょうか‥」

加賀

使い捨ての駒から、奴隷‥

奴隷から駄犬に昇格したんだ、テメェにしては上等だ

サトコ

「せめて、お利口な飼い犬扱いしてください‥」

加賀

クズが。テメェの飼い主は誰だ?

加賀さんが、私の頬を包み込む。

サトコ

「加賀さん‥です」

加賀

テメェは危なっかしくて、放し飼いにできねぇ

これからも、じっくり躾けて俺にしか反応しねぇ飼い犬にしてやる

強引に唇が重なり、そのまま貪られる。

慌てて身体を離そうとしても、加賀さんは私を抱きしめる腕を緩めてくれない。

加賀

帰ったら楽しみにしとけ

ついでに、いつもとは違う仕置きをしてやる

サトコ

「こんな綺麗な桜の下で、そんなこと言わないでください‥」

加賀

バカか。桜よりテメェだろ

桜を眺めようとする私を引き寄せて、さらに加賀さんが唇を合わせる。

奥まで求められて、呼吸が苦しくなるほどだった。

(枝垂桜の花言葉って、確か‥『誤魔化し』『優美』だっけ)

(きっと嫉妬してくれてるのに、こうして誤魔化して‥怖いけど、目が離せないくらい)

サトコ

「‥加賀さんにぴったりかも」

加賀

‥ニヤけてんじゃねぇ

サトコ

「すみません‥でも」

加賀

今ここで仕置きされてぇのか

サトコ

「!?」

慌てる私をつかまえて、加賀さんが耳元に唇を寄せる。

加賀

テメェは、見られてる方が興奮するんだったな

サトコ

「一言もそんなこと言ってないですから‥」

加賀

なら、さっさとしろ

腕を引かれて、加賀さんと一緒に桜並木を歩き出す。

(帰ったら、いったいどんなお仕置き‥いや、ご褒美‥?が待ってるんだろう‥)

加賀さんの広い背中を見つめながら‥

この後の2人きりの時間を想像して、つい頬が緩む私だった。

Happy  End

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