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櫻 石神1話

(春休み‥石神さんと一緒に過ごしたいな‥)

少しだけ期待を込めて、石神さんを見る。

難波

石神。お前もちゃんと有休を取れよ?

石神

いや、俺は‥

難波

お前な‥最近ずっと、働きづめだろ?たまには休め

石神

‥‥‥

難波室長にそう言われるも、石神さんは無言で否定しているようだった。

(石神さんは忙しいから‥)

(いざお休みを取ろうと思っても、なかなか取れないのかな?)

難波

ったく、もっと肩の力を抜け

加賀

クソ真面目が

石神

フッ、不真面目なお前よりはマシだ

加賀

んだと?

石神

‥‥‥

石神さんたちの間に、再び火花が散る。

颯馬

フフ、おふたりは本当に仲がいいですね

石神

何を言っている

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加賀

んなわけねぇだろうが

颯馬

ほら、息もピッタリですよ

石神さんたちが同時に口を開き、颯馬教官が口元に笑みを浮かべた。

(石神さんと出かけられたらって思っていたけど‥)

石神さんのことは刑事として尊敬しているし、仕事が忙しいことは知ってる。

そんな石神さんに、あまりわがままを言いたくなかった。

(春休み、どうしようかな‥)

そんなことを考えていると、黒澤さんが私の近くにやってきた。

黒澤

サトコさんは、春休みに予定はあるんですか?

サトコ

「いえ、特にないんです」

黒澤

えっ、そうなんですか?せっかくの春休みなのに、予定がないなんてもったいないですよ!

好きな人を誘って、デートとかしないんですか?

サトコ

「す、好きな人‥!?」

思わず石神さんに視線を向けそうになるが、ぐっと堪える。

(危ない、危ない‥私たちが付き合っていることは、秘密なんだから‥)

東雲

何、動揺してるの?

サトコ

「ど、動揺なんてしてません」

東雲

目が泳いでるよ。あきらかに動揺してるでしょ

黒澤

おお!もしや、サトコさんには好きな人がいて‥

加賀

クズに好かれるなんざ、哀れなヤツだな

サトコ

「なっ‥!わ、私だって‥」

加賀

あぁ?

加賀教官にジロリと睨まれ、怯む。

サトコ

「うぅ‥なんでもありません‥」

加賀

フン

黒澤

加賀さん、そんな言い方はヒドイですよ!

サトコさんにだって、想い想われる相手がいるかもしれないじゃないですか~!

加賀

そんな奇特なヤツがいるのか?

黒澤

甘いですね。世の中には、いろいろな方がいるんですよ?中には、サトコさんのことを‥

サトコ

「って、黒澤さん!それ、微妙にフォローになってませんから!」

(私、教官たちにどんな風に思われているんだろう‥)

それからしばらくの間、私は教官たちにからかわれ続けるのだった。

翌日。

休み時間になり、鳴子と千葉さんと一緒に裏庭でランチをしていた。

鳴子

「今日は天気が良くて気持ちいいね」

サトコ

「ポカポカしてて、このまま寝たら幸せなんだろうな‥」

千葉

「あはは、そうだな。でも、次は加賀教官の講義だったような‥」

サトコ

「えっ、加賀教官‥」

加賀教官の名前を聞くだけで、背筋が伸びる。

鳴子

「分かりやすい反応だね」

サトコ

「だ、だって‥」

鳴子

「でも、サトコの気持ちも分かるよ~。こんな日は、公園でデートしたいよね」

サトコ

「公園でデート‥?」

鳴子

「そうそう!ボートとか乗ったり、ベンチで寄り添ったり‥」

(石神さんと、ボートデートかぁ‥)

私は石神さんと公園デートする様子を、思い浮かべる。

私と石神さんは、小舟に向かい合って座る。

石神さんはオールを持ち、慣れた様子で船を漕いでいた。

サトコ

「石神さん、見てください!魚がいますよ!」

私は船から顔を覗かせ、子どものようにはしゃぐ。

石神

サトコ、あまり船から顔を出すと‥

サトコ

「きゃっ!」

船が小さく揺れ、バランスを崩してしまう。

石神

おっと‥大丈夫か?

そんな私を、石神さんが抱き支えてくれた。

サトコ

「い、石神さん‥」

石神

‥‥‥

私は石神さんの服の裾を、ギュッと掴む。

そして私たちは見つめ合い、ゆっくりと顔が近づいて‥‥

サトコ

「ふふっ‥」

鳴子

「サトコ?おーい、サトコ?」

千葉

「完全に顔が緩んでるけど‥大丈夫?」

鳴子

「サトコってば!」

サトコ

「‥ハッ!な、なに!?」

鳴子

「なに?じゃないわよ。いきなり黙り込むんだもん。何考えてたの?」

サトコ

「そ、それは‥」

(石神さんとのデートだなんて、言えるわけないよね‥)

先ほどの妄想を思い出し、頬が少しだけ熱くなる。

鳴子

「その顔は‥もしかして、好きな人のことでも考えてた?」

鳴子は、ニヤリと笑みを浮かべる。

サトコ

「っ!?ち、ちがうよ!」

千葉

「えっ?氷川、好きなヤツいるのか‥?」

サトコ

「そ、そんな人、いるわけないじゃない」

「講義に補佐官の仕事に、自習に‥やることは、たくさんあるんだよ?」

「好きな人をつくる時間なんてないって!」

千葉

「そう、だよな‥」

千葉さんは、どこかホッとしたように息をつく。

サトコ

「千葉さん‥?」

千葉

「あ、ああ。いや‥なんでもない」

鳴子

「ふーん‥」

私たちの様子を、鳴子はニヤニヤしながら見ていた。

鳴子

「ねぇ、サトコ。春休みの予定ないんでしょ?」

サトコ

「うん‥」

鳴子

「だったら、千葉さんとデートしてきたら?」

2人

「えっ!?」

サトコ

「な、鳴子!?何言ってるの!?」

千葉

「そうだぞ!第一、俺たち付き合っているわけじゃないし‥」

鳴子

「付き合ってなくたって、デートくらいしてもいいじゃん」

???

「何を騒いでいる?」

(こ、この声は‥)

声がする方を見ると、そこには石神さんの姿が‥

鳴子

「石神教官、お疲れ様です!」

「今、サトコと千葉さんに春休みデートをしたら?って話していたんですよ」

サトコ

「ちょ、ちょっと、鳴子!」

<選択してください>

A: 教官の前で、そんなこと‥

サトコ

「石神さ‥教官の前で、そんなこと‥」

鳴子

「別にいいじゃん!それとも‥何か不都合なことがあるの?」

サトコ

「そ、それは‥」

(本当のことを言うわけにはいかないし‥)

サトコ

「‥ないけど」

鳴子

「でしょ?ならいいじゃない」

サトコ

「うぅ‥」

私は心の中で、石神さんに向かって必死に謝った。

サトコ

「だ、だけど‥デートはちょっと」

B: デートはしません!

サトコ

「デートはしません!」

鳴子

「おっ、言い切ったわね」

サトコ

「鳴子は関係ないって言うけど‥やっぱり、付き合ってないのにデートなんてできないよ」

鳴子

「そっかぁ‥」

C: 石神の様子を見る

(石神さんの前で、なんてことを‥!)

私は慌てて、石神さんの様子を見る。

石神

「‥‥‥」

(あ、あれ‥?)

石神さんは特に反応するでもなく、私と千葉さんを交互に見た。

(何か言ってくれるかなって思ったけど‥)

そもそも、鳴子たちの前で私たちのことを言うわけにはいかない。

鳴子

「せっかくの春休みなのにどこにもいかないなんて、寂しいじゃん」

サトコ

「だ、だからって、私たちはデートなんてしないよ」

サトコ

「それに、好きでもないのにデートするなんて千葉さんに悪いでしょ?」

千葉

「いや、俺は‥」

サトコ

「え?」

千葉

「‥ううん、なんでもない」

「佐々木も、安易にそういうこと言うなよ」

鳴子

「はいはい、ごめんって!」

軽く怒った様子の千葉さんに、鳴子が謝る。

石神

春休みだから、浮かれるのも分からなくもないが‥羽目を外し過ぎるなよ

サトコ

「は、はい!」

私たちの返事を聞くと、石神さんはその場から去って行った。

鳴子

「あーあ、せっかくの公園デートだったのになぁ‥」

サトコ

「鳴子、まだそれ言うの?」

鳴子

「いいじゃない。私だって、のんびり公園デートしたいんだから!」

千葉

「公園デートか‥」

サトコ

「どうしたの?」

千葉

「前に、噂を聞いたことがあるような‥」

千葉さんは少しの間考えて、口を開く。

千葉

「‥あ!思い出した!」

「どこかの公園のボートに、カップルで乗ると別れるらしいよ」

サトコ

「えっ!?」

鳴子

「あー、それ私も聞いたことがある!」

(鳴子も知ってるって‥有名な話なのかな?)

鳴子

「だけど、ただの迷信みたいなものでしょ?似たような噂話なんてたくさんあるじゃない」

千葉

「ははっ、そうだな」

サトコ

「うん‥」

千葉さんに合わせて私も笑顔で返すが、噂話が心の片隅に残っていた。

放課後になり、校門までの道のりを歩く。

風が吹くと満開の桜から花びらが舞い、足を止めた。

サトコ

「わぁ‥綺麗だな」

見上げると、夕焼けの空と花びらが幻想的な光景を見せていた。

???

「氷川」

名前を呼ばれて振り返ると、石神さんがいた。

石神

どうかしたのか?

サトコ

「桜が綺麗だったので‥」

石神

ああ

石神さんは微笑みながら、桜を見上げる。

石神

桜にも、種類がたくさんあるのは知っているか?

サトコ

「はい!石神さんは、何桜が好きですか?」

「私は八重桜が好きなんです」

石神

‥そうか

私の言葉を聞き、石神さんは驚いたように目を見開く。

サトコ

あの‥?」

石神

実は‥俺も八重桜が好きなんだ

サトコ

「本当ですか!?」

(好きなものが石神さんと一緒だなんて‥嬉しいな)

サトコ

「ふふっ、一緒ですね」

石神

ああ

私たちは顔を見合わせ、桜を見上げる。

石神さんとふたりで見る桜は、いつもと違って見えた。

石神

‥せっかくだ。一緒に八重桜を見に行かないか?

サトコ

「えっ‥?」

石神

来週、休暇を取った‥たまには、ゆっくり一緒に過ごそう

石神さんは穏やかな笑みを浮かべながら、私の頭をポンッと撫でる。

サトコ

「はい!楽しみにしていますね」

石神

ああ

サトコ

「どこに行きますか?」

石神

そうだな‥公園はどうだ?

サトコ

「公園‥?」

(石神さんと、公園デート‥!)

聞いたことのあるシチュエーションに、思考を巡らせる。

サトコ

「あっ、昼間に鳴子たちと話していた‥」

石神

‥‥‥

そういうと、石神さんは少しだけ気まずそうに視線を逸らす。

(もしかして‥石神さん、気にしてくれたのかな?)

<選択してください>

A: ありがとうございます

サトコ

「石神さん‥ありがとうございます」

石神

礼を言われるほどのことではない

あまりどこにも連れて行ってやれないのは事実だったからな

‥室長の言葉に、甘えただけだ

(石神さんは、そっけなく言うけど‥)

石神さんの想いに、胸が温かくなった。

B: 石神の手を握る

サトコ

「石神さん‥」

私は両手で石神さんの手を握った。

サトコ

「石神さんと出かけられるなんて‥嬉しいです」

石神

そうか‥

石神さんはフッと笑みを浮かべると、手を握り返してくる。

大きくて、男の人らしい手‥‥

石神さんの温もりを感じ、私も微笑んだ。

サトコ

「あっ‥すみません。こんなところ、誰かに見られたら大変ですよね!」

私は慌てて、手を離した。

C: 私も一緒に行きたいと思っていた

サトコ

「私も石神さんと一緒に行きたいと思ってました」

「だから、石神さんが誘ってくれて‥」

『うれしい』そう言い切る前に、私の身体は石神さんに抱きすくめられた。

サトコ

「い、石神さん!?」

石神

大丈夫だ。周りには誰もいない

サトコ

「で、でも‥」

石神

‥お前と付き合っているのは、俺だからな

サトコ

「え‥?」

石神

‥‥‥

石神さんは私の耳元で囁くと、そっと身体を離した。

(もしかして、昼間のことを‥)

彼の小さな嫉妬を感じ、頬が緩むのを感じた。

サトコ

「場所はどこにしますか?」

石神

そうだな‥井の頭公園はどうだ?確かあそこは、八重桜だっただろう

サトコ

「はい、井の頭公園ですね!」

私は待ち合わせ場所と時間を決め、校門を出たところで解散した。

サトコ

「ふぅ、気持ちよかった」

寮に帰り、お風呂から出て一段落していると、携帯にLIDEの通知が入った。

(鳴子‥?どうしたんだろう?)

サトコ

「えっ!?」

鳴子

『昼間に千葉さんが言ってた公園、井の頭公園みたいだよ』

『気になって、調べてみたんだ!』

サトコ

「ウソ‥!」

返信するのも忘れて、慌ててネットを開く。

検索をかけてみると、ボートに関するよくない噂がいくつか目に入った。

サトコ

「池に祀られてる神様が嫉妬‥昔、恋愛で苦しんだ女性が入水自殺‥」

(これだけじゃなくて、他にもたくさん噂がある‥)

サトコ

「ど、どうしよう!せっかく石神さんが誘ってくれたのに‥!」

(場所を変えた方がいいかな‥)

(で、でも、たかが噂だって呆れられちゃうかな‥?)

(ああ、もう!どうすればいいんだろ‥)

私は数々の噂話を前に、頭を抱えた。

to be continued

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