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櫻 石神2話

デート当日。

サトコ

「うぅ‥」

(結局、石神さんに何も言えないまま当日になっちゃった‥)

私は用意していた服に着替え、準備をする。

(でも、噂を気にしないカップルには効果がないって書いてあったし‥)

(せっかくのデートなんだから、いつまでも気にしてたらダメだよね!)

私は両頬を包み込むように軽く叩き、気合いを入れる。

サトコ

「‥よし!」

少しの不安に蓋をして、待ち合わせ場所に向かった。

約束していた場所に着くと、キョロキョロと辺りを見回す。

(ちょっと早く着いちゃった‥)

(もう少しで時間だし、ここで待ってようかな?)

邪魔にならないよう端に寄ろうとすると、石神さんの姿を見つけた。

(えっ、石神さん!?)

石神さんも私に気づき、こちらへ来る。

石神

サトコ‥何を驚いている?

サトコ

「早く着きすぎたって思ったのに、石神さんがいたので‥」

「お待たせしてしまってすみません」

石神

それは‥

石神さんは少しだけ頬を染めながら、視線を逸らす。

石神

‥なぜか早く着いてしまったんだ

(石神さんも、今日のデート楽しみにしてくれたたのかな‥?)

石神さんの想いに触れ、笑みを浮かべる。

サトコ

「私も早く着いたので‥一緒ですね」

石神

ああ

石神さんはフッと微笑むと、私の手を握る。

石神

今日は晴れているからな。電車で行こう

サトコ

「はい!」

繋がれた手を握り返し、私たちは改札へ向かった。

公園に到着すると、たくさんの桜たちが出迎えてくれる。

サトコ

「わぁ‥」

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(教官たちとお花見をしたり、学校でも桜は見たけど‥)

立派な八重桜を前に、言葉を失ってしまう。

サトコ

「桜、綺麗ですね」

石神

ああ

私たちは寄り添い合いながら、しばらくの間、桜に見惚れていた。

石神

‥どこかに移動するか?

サトコ

「はい‥‥あっ」

ふと視線を横に向けると、ボートが目に入った。

それと同時に、千葉さんの言葉を思い返す。

千葉

『どこかの公園のボートにカップルで乗ると、別れるらしいよ』

サトコ

「‥‥‥」

(き、気にしなければ、効果はないって書いてあったし‥!)

そう思いながらも、頭の片隅では警鐘が鳴っていた。

石神

ん‥?

石神さんは私の視線が釘付けになっているのが気になったのか、ボートの方へ顔を向けようとする。

サトコ

「あ、あの!石神さん!」

石神

なんだ?

サトコ

「え、えっと、その‥」

私はなんとか話を逸らそうと、素早く辺りを観察する。

石神

サトコ‥?

石神さんから疑いの目が向けられる中、私はある看板を見つけた。

サトコ

「あっ!あっちにカフェがありますよ!おいしいプリンがあるみたいです」

石神

なに?プリンだと‥?

私が指さすと、石神さんの目の色が変わっていく。

サトコ

「行ってみませんか?」

石神

‥そうだな

心なしか、うれしそうに答える石神さん。

(まさか、ここでプリンに助けられるとは‥)

ほっと、安堵のため息を漏らす。

石神

どうかしたのか?

サトコ

「あっ、いえ‥なんでもありません」

私は笑顔でごまかし、カフェへと向かった。

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注文をしてしばらくすると、コーヒーとプリンが運ばれてくる。

プリンは生クリームやフルーツでデコレーションされていて、とても美味しそうだった。

サトコ

「いただきます」

スプーンですくい、生クリームと一緒にプリンを口にする。

サトコ

「ん、美味しいですね!」

石神

そうだな

プリンを口にする石神さんの表情は、いつもより柔らかく感じる。

(石神さんって、本当にプリンが好きなんだなぁ‥)

サトコ

「ふふっ」

石神

‥なんだ?

サトコ

「いえ‥美味しそうに食べるなって思って」

石神

それは‥美味いからな。自然とそうなるんだろう

石神さんは眉をひそめ、頬を少しだけ赤らめる。

(石神さん‥なんだか、可愛いかも)

(こんな姿を見られるのは私だけ、なんだよね‥)

ちょっとした優越感に、表情が緩む。

石神

‥サトコ

サトコ

「なんですか?」

石神

‥‥‥

サトコ

「あの‥?」

石神さんは少しだけ考えるふうにして、私の口元へ指を伸ばす。

石神

ついてるぞ

サトコ

「っ‥」

私の口元を拭い、指についた生クリームをペロリと舐めた。

サトコ

「す、すみません!」

普段の石神さんからは考えられない行動に、ドキドキと胸が高鳴る。

石神

謝ることはない

口ではそう言いながらも、石神さんの耳は赤くなっていた。

(石神さん‥もしかしなくても、照れてる‥?)

サトコ

「ふふっ」

石神

‥‥‥

私の視線に気づいたのか、石神さんはバツが悪そうな顔をする。

そんな石神さんに、愛しさが募って行った。

私たちはカフェを出ると、手を繋いで桜並木を散歩する。

(普段はいろいろあってバタバタしているし‥)

(たまにはこうやって、のんびり過ごすのもいいなぁ)

大きく息を吸い込むと、新鮮な空気が身体を吹き抜けていく気がした。

石神

‥いいな

サトコ

「え?」

石神

いや‥たまにはゆっくり過ごすのもいいものだと思ってな

サトコ

「はい、こういう過ごし方もいいですよね」

石神

そうだな‥

微笑む石神さんにつられ、私も笑みを浮かべる。

私たちの周りには、穏やかな時間が流れていた。

しばらく歩いていると、桜が途切れ池が姿を現した。

石神

‥‥‥

石神さんは池を眺め、こちらに顔を向けた。

石神

せっかくだから、ボートにでも乗らないか?

サトコ

「えっ!?ボ、ボートですか‥?」

穏やかな空気に呑まれ、ボートのことをすっかり忘れていた。

(ど、どうしよう‥!)

サトコ

「あの‥ボートはまた今度にしませんか?」

石神

今度だと、桜が散ってしまうだろ

サトコ

「そ、そうですよね‥」

石神

‥サトコは、ボートが苦手なのか?

サトコ

「い、いえ!そんなことはありません!」

「私も石神さんと一緒にボートに乗れたらって‥」

(妄想、してたんだよね‥)

一緒にボートに乗りたいという気持ちと、噂話を気にする自分がせめぎ合う。

結局、断りきれずにボートに乗ることになった。

(別れるなんて、ただのジンクスだろうし‥大丈夫だよね!)

不安を無理矢理抑え込み、ボート乗り場へ行く。

サトコ

「手漕ぎボートは全部貸出し中ですね」

残っているのは、アヒルのボートだけだった。

サトコ

「あの‥石神さん?」

石神

‥‥‥

石神さんは眉間に皺を寄せる。

(石神さんがあひるのボートだなんて、想像つかない‥)

石神

仕方ない‥

この‥ボートでもいいか?

照れくさそうにメガネを押し上げながら、石神さんはそう提案する。

<選択してください>

A: 無理しなくていいですよ?

(石神さん、こういうのは苦手そうなのに‥)

サトコ

「無理しなくていいですよ?」

石神

‥無理ではない

サトコ

「本当ですか?」

石神

‥ああ

頬を赤らめながらも、真剣な表情で言う石神さん。

(石神さん、優しいな‥)

彼の優しさに触れ、胸がいっぱいになった。

B: 石神さん、可愛いですね

サトコ

「石神さん、可愛いですね」

石神

なっ!?可愛い、だと?

私の言葉に、石神さんは眉間に皺を寄せる。

石神

可愛いなんて言われて、喜ぶ男がいると思うのか?

サトコ

「ふふっ、すみません」

石神

悪いと思ってないようだな‥

笑みを浮かべる私に、石神さんはため息をつく。

石神

お前の方が、よっぽど‥

サトコ

「え?」

石神

‥なんでもない

C: 石神に抱きつく

サトコ

「石神さん!」

石神

っ!?

私は思わず、石神さんに抱きついた。

石神

サトコ‥?

サトコ

「すみません、つい‥」

いきなり抱きついた私に、石神さんは呆れたようにため息をつく。

石神

‥あまり人前でそういうことをするな

サトコ

「はい」

石神

その顔、反省してないだろう

石神さんはそう言いつつも、フッと笑みを浮かべた。

そして私たちは、あひるのボートに乗ることになった。

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サトコ

「ん‥結構、ペダルが重いですね」

ボートに乗り込み、早速ペダルを踏んでみるがなかなか動かない。

石神

お前はそのまま座っていろ

こういうのは、男に任せるものだろう

サトコ

「いいんですか?じゃあ‥お願いします」

石神さんはペダルに足をかけ、軽々と漕いで行く。

サトコ

「わぁ‥!」

「い、石神さん!すごいです!」

石神

これくらい、出来て当たり前だ

(石神さんがあひるのボートを漕ぐなんて、不思議な感じだけど‥)

一生懸命漕ぐ彼の姿に、頬が緩んだ。

しばらくボートを進めると、桜の木がある方面へやってきた。

サトコ

「きゃっ!」

一陣の風が吹き、桜の花びらが舞いあがる。

そして楽しそうに踊りながら、水面に降りてきた。

サトコ

「綺麗‥」

一面に花びらが浮かんでいる。

美しい光景に、目が奪われた。

サトコ

「石神さん、見てください!すごく綺麗ですよ!」

私は満面の笑みを浮かべ、石神さんに顔を向ける。

石神

‥やっと、笑ったな

サトコ

「え‥?」

石神さんは微笑み、私の頬にそっと手を伸ばした。

石神

サトコはここに来てからずっと、難しい顔をしていたからな

サトコ

「あっ‥」

長い指で、私の頬を優しく撫でる石神さん。

(私‥石神さんに、心配かけてたんだ‥)

石神さんの優しさに、罪悪感が顔を覗かせる。

(なのに、私ったら‥)

私はそんな感情と向き合い、ゆっくりと口を開いた。

サトコ

「実は‥千葉さんからあるジンクスを聞いたんです」

石神

ジンクス?

サトコ

「はい‥恋人たちが井の頭公園のボートに乗ると、別れるって‥」

「それがずっと気になっちゃって‥」

石神

そんなことで‥

石神さんは、驚いた様子で固まる。

石神

くだらん

サトコ

「で、ですよね‥」

呆れられるだろうと分かってはいたが、少し肩を落としてしまう。

石神

俺たちにジンクスなんて、関係ないだろ?

サトコ

「え‥?」

顔を上げると、石神さんが真剣な表情で私の顔を覗き込んでくる。

石神

心配なら‥俺が証明してやる

そして、段々と顔が近づき‥‥

サトコ

「ん‥」

‥‥唇が、重なり合った。

唇から石神さんの温もりが伝わり、不安が薄れていく。

そして、石神さんが私の身体を抱きしめると‥‥

サトコ

「っ!?」

私たちの体重が片側に寄ったせいか、ボートのバランスが崩れ、大きく揺れる。

<選択してください>

A: 石神に身体を預ける

私はとっさに、石神さんに身体を預けた。

石神

サトコ‥っ

石神さんは私を抱いたまま、なんとかバランスを取る。

しばらくして、ボートの揺れが収まった。

サトコ

「揺れ、収まりましたね‥」

石神

ああ‥

私たちは抱き合ったまま、顔を見合わせる。

B: 石神から離れる

(こ、このままだと、危ない!)

私は慌てて、石神さんから離れた。

しかし、タイミングが悪かったのか、

石神さんが元の場所に戻ったことにより、更にボートが揺れてしまう。

サトコ

「わわっ!」

石神

サトコ‥っ

石神さんがよろけた私を支えようとし‥‥

ゴツンッ!

サトコ

「いたっ!」

石神

っ!

私たちは、額をぶつけ合ってしまった。

(うぅ‥地味に痛い‥)

ふたりして額を押さえていると、次第にボートの揺れが収まる。

サトコ

「‥‥‥」

石神

‥‥‥

私たちは額を押さえたまま、顔を見合わせた。

C: 目を瞑る

私は思わず、目を瞑った。

(ど、どうしよう‥!)

すると、身体から石神さんの温もりが離れて行った。

サトコ

「え‥?」

目を開けると、石神さんが反対の方へ体重をかけている。

石神

サトコはそのままそこにいろ!

サトコ

「は、はい!」

私たちはなんとかバランスを取り、しばらくすると揺れが収まった。

石神

危なかったな‥

サトコ

「そ、そうですね‥」

ボートの揺れが無事に収まり、私たちは顔を見合わせる。

石神

‥フッ

サトコ

「ふふっ、あははっ」

自然と笑いが込み上げ、笑い合う。

不安はすでに、跡形もなく消え去って行った。

サトコ

「石神さん‥」

私はふと思い出し、口を開く。

サトコ

「八重桜の花言葉を知っていますか?」

石神

花言葉‥?

首を傾げる石神さんに、私は続ける。

サトコ

「豊かな教養らしいですよ。石神さんにピッタリですね」

私はありったけの想いを込めて、石神さんに伝える。

サトコ

「やっぱり‥私、八重桜が好きです」

石神

サトコ‥

石神さんは小さく驚くと、私の頭に手を置いた。

石神

そうか‥

そして私の頭を、優しく撫でる。

手のひらから、石神さんの想いが伝わってくるように感じた。

(私、なんであんなジンクスなんて気にしていたんだろう)

ジンクスなんかより、信じるものが目の前にある。

石神

また不安になったら‥その時は、俺に言え

サトコ

「っ、はい!」

満面の笑顔で返事をすると、石神さんがフッと笑みをこぼす。

そしてもう一度、私の唇に長いキスを落とした‥‥‥

Happy  End

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