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体育祭 加賀

(黒澤さんに負けるなんて、加賀さん、悔しがってるだろうな)

(私が行ってもなんの慰めにもならないだろうけど‥)

サトコ

「とりあえず、加賀さんを探そう‥」

「って、あれ?確かさっきまでこの辺にいたのに」

「東雲教官!ちょうどいいところに‥」

(ん?そういえば東雲教官って、さっき‥)

東雲

何?自分から呼んだくせに急に黙らないでくれる?

サトコ

「あ、すみません!東雲教官、さっきの徒競走、走ってませんでしたよね?」

東雲

そりゃそうでしょ。あんなのに参加したら、室長と透の思惑通りじゃん

サトコ

「なるほど‥」

東雲

そもそも、体育祭なんて最初からやる気なかったし

サトコ

「でも、ちゃんと参加したんですね」

東雲

兵吾さんが出てるのに、オレだけサボれないでしょ

それで?キミは兵吾さんを探してるんじゃないの?

まだ何も言っていないのに、東雲教官には私の行動がお見通しのようだった。

サトコ

「はい‥さっきの徒競走のことで、ちょっとお話が」

東雲

兵吾さん、一生懸命走ったのに、透なんかに負けて、きっとショックだろうなー

サトコ

「え‥」

東雲

今頃一人で落ち込んでるかもね。あーあ、かわいそうに

(お、落ち込んでる‥!?あの加賀さんが!?)

サトコ

「あ、あの!加賀教官がどこにいるか、知りませんか!?」

東雲

そういえば‥さっき、一人でフラッと屋上に行ってたかも

サトコ

「失礼します!」

東雲教官に頭を下げると、慌てて屋上へと走り出す。

(まさか、加賀さんがそんなにショックを受けてるなんて‥!)

(一生懸命走ってる姿、素敵だったのに‥やっぱり黒澤さんに負けたのが原因‥!?)

屋上のドアを開けて飛び込むと、それには誰もいなかった。

サトコ

「あれ‥?向こう側にいるのかな?」

物陰を見ても、誰の姿もない。

(おかしいな‥でも東雲教官は、確かに屋上にいるって‥)

サトコ

「‥あっ!?」

慌ててフェンスから下を覗き込む。

グラウンドを見ると、東雲教官がこちらを見上げてニヤニヤしていた。

(や、やられた‥!東雲教官が親切に教えてくれるなんて、おかしいと思った‥!)

サトコ

「それで結局、加賀さんはどこに行ったんだろう‥!?」

結局、またイチから探すハメになってしまった。

屋上から降りてきて、グラウンドの隅々まで歩き回って探す。

すると、徒競走のゴールからそれほど遠くない木陰で、加賀さんが寝転がっているのを見つけた。

サトコ

「加賀さん!」

加賀

‥‥‥

チラリと私を見ると、加賀さんは寝返りを打ってこちらに背を向けてしまった。

(やっぱり、落ち込んでるっていうのは本当だったんだ!?)

(黒澤さんに負けたの、そんなにショックだったのかな‥?)

声を掛けられるような雰囲気ではなく、その場に立ち尽くしてしまう。

(でも、頑張ってる姿が素敵でした、ってちゃんと伝えたいな)

サトコ

「あの‥加賀さん」

恐る恐る、加賀さんの顔を覗き込もうとしゃがみ込む。

すると、私が口を開く前に低い声が響いた。

加賀

何がしてぇんだテメェは

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サトコ

「えっ」

加賀

グズが

サトコ

「グズ!?」

加賀

来るのが遅ぇ

サトコ

「す、すみません‥」

(『クズ』は言われ慣れてるけど、『グズ』はひどい‥!)

(ん?『来るのが遅い』ってことは、待っててくれたのかな‥?)

サトコ

「あの‥加賀さん、もしかして私が追いかけて来やすいように」

「グラウンドから近いこの木陰で待っててくれたんですか?」

加賀

くだらねぇ喋りは命取りだと教えたはずだ

サトコ

「は、はい!」

図星だったのか、加賀さんがいっそう不機嫌になる。

加賀

主人を待たせるとは、いい度胸だな

どこの男にじゃれついてた?

サトコ

「じゃ、じゃれついてないです!東雲教官にちょっと騙されて‥」

加賀

なるほどな

主人よりも先に、別の男に尻尾振ったか

サトコ

「そうじゃなくて‥!」

(ダメだ、何を言っても言い訳に聞こえる‥)

サトコ

「すみません。でも、加賀さん、落ち込んでないんですか?」

加賀

何の話だ

サトコ

「黒澤さんに負けて、みんなショックを受けてたみたいだったので」

「てっきり、加賀さんもそうなのかなって」

加賀

あんなので落ち込むわけねぇだろ

そもそも、本気じゃねぇのに

サトコ

「え?」

(じゃあ‥加賀さん、全力で走ってなかったの?)

加賀

歩は、途中で消えたからな

サトコ

「はい‥スタートしてちょっとしたらもういなかったです」

加賀

本気出してたのは、黒澤と後藤くらいだ

サトコ

「そうだったんですね‥でも、黒澤さんの足が速くてびっくりしました」

加賀

逃げ足だけは一人前だからな

(やっぱりそうなんだ‥)

サトコ

「でも加賀さん、よく参加しましたね」

「もしかして、面倒だからってサボっちゃうかと思っちゃいました」

加賀

難波さんに言われりゃ、やるしかねぇ

上官命令だからな

サトコ

「ふふ‥でもみなさん、男らしくてすごくかっこよかったですよ」

「一生懸命走る姿、見惚れちゃいました」

加賀

‥‥‥

一瞬、加賀さんの眉にシワが寄る。

(しまった‥!)

そう思った時には、乱暴に腕を引っ張られて

加賀さんの上に覆いかぶさるような格好になっていた。

サトコ

「な‥!?」

加賀

テメェの飼い主は誰だ?

サトコ

「え‥!?」

加賀

エサくれりゃ誰でもいいのか、テメェは

サトコ

「ち、ちが‥」

加賀

誰が、他の男の話をしていいって言った?

(もしかして、みんなかっこよかったって言ったから、ヤキモチ‥)

(でもこの格好はマズイよ‥!私が加賀さんを押し倒してるように見える!)

サトコ

「誰かに見られたら大変ですから‥!」

その時、遠くから足音が聞こえてきた!

<選択してください>

A: 加賀の上から避ける

サトコ

「か、加賀さん‥!とにかく避けますから‥!」

加賀

やれるもんならな

不敵に笑い、加賀さんは私の腰に回した手に力を込めた。

(ち、力が強くて逃げられない‥!)

B: 一緒に隠れる

サトコ

「こうなったら、どこかに隠れましょう!」

加賀

隠れる場所なんざねぇ

サトコ

「だって、このままじゃ‥!」

ぐっと、加賀さんは私を抱きしめる腕にさらに力を込めた。

C: 堂々としている

(こうなったら、堂々とするしかない‥!)

(万が一誰かに見られたら、私が転んで加賀さんに抱きとめてもらったっていう設定で‥)

加賀

生意気に、見つかった時のシミュレーションか?

(バレてる‥!)

足音がゆっくりとこちらに近づいてくる。

サトコ

「だ、ダメっ‥!」

加賀

知るか

頭を引き寄せられて、加賀さんの腕に顔を埋める。

加賀さんの手がジャージの上を動き、緊張に身を硬くした。

(もし本当に、誰かに見つかったら‥!)

(早く離れなきゃ‥!)

鳴子

『もうすぐ、最後の男子全体リレーが始まります』

『教官及び男子訓練生たちは、グラウンド中央に集まってください』

サトコ

「あ!よ、呼ばれましたよ!」

加賀

チッ

アナウンスと同時に、さっきの足音も遠ざかる。

慌てて立ち上がろうとすると、また加賀さんの腕に力がこもり、さらに抱き寄せられた。

サトコ

「か、加賀さん‥」

加賀

まだだ

サトコ

「まだって‥?」

加賀

言うことはねぇのか

(もしかして応援しろってことかな‥?)

サトコ

「頑張ってください!加賀さん、アンカーですよね?」

加賀

‥めんどくせぇこと思い出させんな

サトコ

「すみません‥」

「でも、今回はさっきとは違って、本気出すんですよね?」

加賀

さあな

サトコ

「私、応援しますから!声が枯れるまで!」

加賀

口でなら、なんとでも言える

サトコ

「え?」

頭を引き寄せられて、加賀さんの顔が目の前に迫った。

サトコ

「っ‥‥‥」

加賀

どうすりゃいいか、わかるな?

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サトコ

「ど、どうすればって‥」

加賀

テメェの身体に、きっちり教え込んだはずだが

口より、行動で示せってな

(それって‥)

サトコ

「‥頑張ってください」

「加賀さんのこと‥誰よりも、応援してます」

緊張しながらも、自分からそっとキスを落とす。

唇を離すと、加賀さんはようやく、ほんの少しだけ満足そうに笑っていた。

加賀

足りねぇ

サトコ

「えっ?」

加賀

テメェの応援はこの程度か

サトコ

「だって。一応校内ですから‥!」

加賀

仕方ねぇ。時間だ

今はこれで許してやる

私の頭を乱暴に引き寄せて、今度は加賀さんの方から深く口づけてきた。

サトコ

「っ‥‥」

「か、加賀さっ‥苦しっ‥」

激しいキスから解放されると、微かに唇を舐められた。

サトコ

「!」

加賀

足りなかった分は、あとで覚悟しとけ

今日は体育祭が終わったら、まっすぐうちに来い

それだけ言い残すと、加賀さんは立ち上がりさっさとグラウンドに向かって歩き出した。

(お、お仕置きん‥!?それとも体育祭を頑張ったご褒美‥?)

(いや、ご褒美はない‥!加賀さんがそんな生易しいわけないよ!)

体育祭が終わった夜、学校で軽くシャワーを浴びて加賀さんの部屋にお邪魔した。

サトコ

「体育祭、お疲れ様でした!」

加賀

‥‥‥

サトコ

「なんですか、その嫌そうな顔‥」

加賀

テメェが黒澤と同じテンションだからだ

サトコ

「あっ、そういえば黒澤さんが、打ち上げをしましょう!って言ってましたけど」

「行かなくてよかったんですか?」

加賀

そこまで付き合う義理はねぇ

サトコ

「でも、せっかくすごい追い上げで勝ったのに‥」

「加賀さんのアンカー、本当にかっこよかったです!」

加賀

当然だ‥

サトコ

「東雲教官のやる気のなさには驚きましたけど‥」

「でも教官たち、やっぱりみんな速かったですね」

途中から白組に大差をつけられてしまった紅組だったけど、

アンカーの加賀さんが、驚異的な追い上げで最後の最後に白組を抜いたのだった。

サトコ

「あまりのかっこよさに見惚れて、写真撮るの忘れちゃったんですけど‥」

加賀

写真撮って何するつもりだ

サトコ

「べ、別にやましいことには使いませんよ!」

「誰にも見つからないようにたまに見て楽しむくらいで‥」

(そういえば鳴子が、誰かに写真頼んでたみたいだったな‥)

(こっそりもらおうかな‥でもそうしたら、加賀さんとの関係がバレちゃうかもしれない)

サトコ

「だけど、体育祭楽しかったですね。またやりたいな」

加賀

冗談じゃねぇ。もうごめんだ

サトコ

「やっぱり‥」

加賀

黒澤が二度とくだらねぇことを言いださねぇように、来年は釘刺しとくか

<選択してください>

A: そんなに嫌だった?

サトコ

「そんなに嫌だったんですか?」

加賀

楽しんでたのはテメェと黒澤くらいだ

サトコ

「でも、一緒にお弁当食べたりできて新鮮でしたよね?」

加賀

あんなもん、別の行動でもできる

B: また応援するのに

サトコ

「また応援するのに‥来年はもっと気合い入れますから!」

「応援団とかあっても楽しそうですよね」

加賀

余計なこと言うな。黒澤がその気になったらどうする

(ダメかな‥加賀さんの応援団姿、ちょっと見たいんだけど)

C: ちょっと残念

サトコ

「来年の体育祭がなくなったら、ちょっと残念です」

加賀

他の男に尻尾振れなくなるからか

サトコ

「加賀さんを応援できなくなるからです!」

(この意地悪な笑顔‥絶対、わかってて言ってるよね)

サトコ

「そう言えば加賀さん、シャワーは浴びたけどお風呂はまだですよね?」

「今沸かしますから、ゆっくり入って‥」

加賀

んなことより

腕を引っ張られて、乱暴にソファに押し倒された。

加賀

忘れたとは言わせねぇ

サトコ

「なんのことですか‥?」

加賀

主人の言いつけを忘れるとは、とんだ駄犬だな

サトコ

「ま、待ってください!思い出しますから!」

加賀

もういい

深く口づけられて、ソファに押さえつけられる。

身じろぎする私に、加賀さんが耳元でクッと笑った。

サトコ

「ひゃっ‥」

加賀

テメェはあの程度で充分だったわけか

サトコ

「っ‥‥」

(そうだ‥木陰でキスした時の!)

(足りない分は後で覚悟しとけ‥って言われたんだった)

サトコ

「でもあれは、応援が足りなかった分のキスですよね‥!?」

「私、精一杯応援しましたよ!」

加賀

‥‥‥

サトコ

「リレーの時、本気で応援しましたから!そりゃもう喉が枯れるまで!」

「‥実際は枯れてませんけど」

後ずさりながら言い訳すると、加賀さんが口の端を持ち上げて笑う。

(あれ‥?でもちょっと優しい笑顔‥)

加賀

そうだな

サトコ

「へ?」

(珍しく加賀さんが認めた‥!)

加賀さんの優しい笑顔にホッとすると‥

加賀

‥なら、褒美をくれてやる

私の顎を持ち上げると、加賀さんが優しいキスをくれた。

チュッ、と音を立てて、何度も甘く食まれる。

サトコ

「ん‥‥」

加賀

‥この後は、さっきの続きだ

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サトコ

「え‥?」

キスにぼんやりする私の身体を持ち上げて、加賀さんが自分の上に座らせる。

加賀さんの上にまたがるような形になってしまい、恥ずかしさに逃げ出したくなった。

サトコ

「な、なんですか‥!?」

加賀

何度も言わせるな

(そういえばさっきは、私が加賀さんを押し倒すような格好だった‥)

(まさか、続きってそういう意味‥!?)

サトコ

「ま、待ってください!あれは不可抗力って言うか‥!」

加賀

普段は、俺の下で啼くお前を堪能するところだがな

たまには上で啼く姿を見るのも、悪くねぇ

サトコ

「な、啼くっ‥!?」

(ダメだ‥!ものすごいことを求められてる気がする‥!)

慌てて首を振る私などお構いなしで、加賀さんの手が私に触れる。

肌を直接撫でられる感覚に、必死に耐えた。

サトコ

「っ‥‥」

加賀

いい眺めだな

サトコ

「やっ‥ですっ‥」

加賀

クズが‥愉しみはこれからだろうが

意味深に、加賀さんがニヤリと笑う。

加賀

出たくもねぇ、くだらねぇ行事に付き合わされたんだ

このくらいの見返りがねぇと、やってられねぇだろ

サトコ

「だ、だって学校行事ですから!」

「教官も訓練生も、参加するのが当たり前っ‥」

加賀

リレーの時は、なんだって?

サトコ

「え‥?」

加賀

さっき言ってたな?アンカーの俺は‥

サトコ

「‥かっこよかったです」

加賀

なら、どうすればいいかわかるな

頬を染めた私を見て満足げに笑う加賀さんを見下ろしながら、

お互いにご褒美を与え合う、長く甘い夜が始まったのだった‥

Happy  End

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