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体育祭 東雲

サトコ

「教官ー、東雲教官ー!」

(おかしいな、どこに行ったんだろう)

(ていうか、教官‥さっき走ってたっけ?見た覚えないんだけど‥)

千葉

「お疲れ、氷川」

サトコ

「お疲れ様。千葉さん、東雲教官見なかった?」

千葉

「東雲教官?うーん、そういえば‥」

「誰かが裏庭で見たって言ってた気がするけど‥」

サトコ

「ええっ?」

サトコ

「教官ー!東雲教官ー!」

東雲

‥なに?

(うわ、本当に裏庭に‥)

サトコ

「もう!なんでこんなところで寝転がってるんですか!」

「さっきの徒競走は‥」

東雲

ああ、リタイアしたから

捻挫がひどくて

(えっ‥)

サトコ

「どっちの足ですか?右ですか?左ですか?」

東雲

左‥

サトコ

「手当は!?」

東雲

したけど。ほら

(それ‥左手の小指‥)

東雲

ほんと、困ったよね

これじゃ、キーボードが打てないし

明後日、本庁でセキュリティー関係の講習が‥

サトコ

「でも走れますよね?」

東雲

‥‥‥

サトコ

「走れますよね?」

東雲

‥うざ

背中を向けてしまった教官を、私は必死に立たせようとする。

サトコ

「行きましょう、教官!」

「加賀教官に怒られますよ?」

東雲

日焼けしたくないし

サトコ

「大丈夫です!教官、新陳代謝いいですから!」

「すぐにまた色白になりますから!」

東雲

‥‥‥

サトコ

「教官~」

東雲

じゃあ、その気にさせてよ

サトコ

「えっ」

東雲

説得術とか交渉術とか、初級編ならもう習ってるよね

いい機会じゃん

オレの心を動かしてよ

(う、うーん‥教官の心を動かすには‥)

<選択してください>

A: 上目遣いで誘う

(よし、ここは上目遣いで、ちょっと首を傾けて‥)

サトコ

「行きましょう?教官‥」

東雲

‥マイナス30点

サトコ

「ヒドイです!精一杯頑張ったのに!」

「ていうか教官、顔が赤いじゃないですか!」

東雲

ああ、これ‥

ただの日焼け

サトコ

「ウソですよね?ちょっとくらいはドキッとして‥」

B: セクシーポーズで応援

(よし、こういうときは‥)

(両腕で胸を寄せる感じにして‥)

サトコ

「がんばりましょう、教・官」

東雲

‥谷間は?

サトコ

「!」

東雲

そのポーズ、胸の谷間ができないと意味なくない?

サトコ

「こ、ここですよ、ここ!」

「ほら、少し谷間が‥!」

C: ピーチネクターを差し入れ

(よし、こういうときは‥)

サトコ

「『幻のピーチネクターDX』を差し入れします!」

東雲

え?それ販売中止じゃ‥

サトコ

「それが販売している裏サイトを発見したんです!」

私は、すぐさまスマホを取り出して教官に見せる。

サトコ

「見てください、このサイトです!」

「ここからなら、今でも入手可能で‥」

東雲

これ『幻のビーチクネクター』だけど

サトコ

「え‥」

東雲

ほら、『ピーチ』じゃなくて『ビーチク』

つまり似て非なるもの

(ああ‥っ!)

???

「おーい、歩ー」

(ん?)

難波

おお、いたいた。やっぱりここか

東雲

お疲れ様です

どうかしましたか?

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難波

お前、俺の代わりに午後の競技に出てくれや

東雲

すみません

オレ、今、捻挫していて‥

難波

どうせ指だろ

東雲

難波

さっきの徒競走をサボったバツだ

じゃ、よろしくなー

(さすが、室長‥)

サトコ

「とりあえず、行きましょうか?」

東雲

‥‥‥

応援席に戻ると、加賀教官がじろりとこちらを見た。

加賀

今まで何してやがった

東雲

作戦会議です

石神班に勝つための

(どうしてそんなすぐバレるようなウソを‥!)

(ほら、加賀教官、舌打ちしてるし!)

サトコ

「そ、それより東雲教官が次に出る競技は‥」

加賀

借り物競争だ

東雲

うわ‥

大の大人になにをやらせるんだか‥

加賀

借り物競争のキモは、指示に対する判断力と即決力だ

テメェも教える側なら、クズ共に手本を見せて来い

東雲

‥了解です

サトコ

「教官ー、頑張ってくださーい!」

加賀

まだ早いだろうが、クズ

サトコ

「す、すみません」

(でも、今度こそやる気のある教官を見られますように!)

鳴子

『次は借り物競争です』

(いよいよ教官の出番だ!)

黒澤

おつかれさまでーす

あ、歩さん、出るんですね

サトコ

「そうなんです。室長の代わりに急きょ出場することになって」

黒澤

ははっ、それで1人だけ気怠げなんですね

隣にいる千葉くんとは大違いだなぁ

(あ、千葉さんも出るんだ)

(ハチマキを締め直して‥気合い入ってるなぁ)

みんなが見守る中、スタートの合図が鳴り響く。

黒澤

うわぁ‥歩さん、やる気なさすぎ

サトコ

「がんばれー、教官ー!」

鳴子

『通常の借り物競争は、最後の障害物のみ借り物のお題を引きますが』

『今回は5つの障害物すべてが「借り物」!』

『まさに「ザ・借り物競争」となっています!』

(5つ全部が「借り物」って、なんだか大変そう‥)

(教官、本当に大丈夫なのかな)

鳴子

『まず、最初に第1ポイントに着いたのは千葉選手!』

『これは‥リレーのバトンを持って走り出しました』

『どうやらお題は「バトン」だったようです!』

サトコ

「他の人たちも、どんどん第1ポイントに到着してますね」

黒澤

でも、最初の借り物をクリアできていないみたいですよ

これなら歩さんにも、まだチャンスが‥

鳴子

『ここでようやく東雲教官の到着です』

『昼下がりのマダムのごとく、気怠げにお題の紙を手に取りましたが‥』

『ああっと、早い!』

『なんと東雲教官、隣の選手のハチマキを奪って走り出しました!』

『いったいなんのお題だったのか!』

サトコ

「‥何だったんでしょうね」

「『赤いもの』とか『細長いもの』でしょうか」

黒澤

いや、案外『応援団の塊』とかかもしれませんよ

鳴子

『おっと‥東雲教官、また後続の選手に追い抜かれました!』

『基本的にやる気がないのか』

『それともハンデのつもりなのか』

黒澤

もちろん、やる気がないだけですよね!

歩さんが本気の時は、容赦なく競争相手を潰しにかかりますし

サトコ

「そ、そうですか‥」

(その本気の教官を見てみたいんだけどなぁ)

けれども、教官はその後も気怠げに走り続け‥

鳴子

『いよいよ、最終ポイントです』

『これはお題が難しすぎるのか‥みんな、戸惑ったように動きません』

『おっと‥ここでようやく東雲教官が到着!』

サトコ

「最後のお題、難しそうですよね」

黒澤

大丈夫ですよ。決断力と判断力なら歩さんはピカイチですから

ここもすぐにクリアして‥

鳴子

『おや、これは‥』

『東雲教官、なぜかうろたえています!』

(えっ!?)

鳴子

『これまで難なくお題をクリアしてきた教官が動揺するとは‥』

『いったいどんなお題なのか!』

『ああっと、ここで千葉選手が走り出しました』

『そしてなんと!』

『千葉選手を追いかけるように、東雲教官も走り出した!』

サトコ

「‥気のせいかもしれないですけど」

「2人とも、こっちに向かって走って来ていますよね」

黒澤

ええ、間違いありませんね

鳴子

『2人が向かっているのは、どうやら加賀班の応援席のようです』

『これは、もしかして2人とも同じものを狙っているのか‥』

『しかも、追いかける東雲教官がかなり必死な様子!』

たしかに教官は、真剣な顔つきでこっちに向かって走ってくる。

(どうしよう、なんか‥)

(今の教官、かっこいい‥)

千葉

「佐々木!」

東雲

え‥

千葉

「氷川、佐々木はどこ?」

サトコ

「鳴子なら、実況席だけど‥」

千葉

「あっ!そうだった‥!」

(千葉さん、鳴子を探してたんだ‥)

(って‥)

東雲

来て

サトコ

「はい?」

東雲

いいから来い!

サトコ

「は、はいっ!」

鳴子

『おおっと、東雲教官のお目当ては補佐官の氷川選手だ!』

『2人とも仲良くゴールに向かって‥』

東雲

足をフル回転させて!

サトコ

「さ、させてます!」

東雲

その程度で?

キミの足、脳の指令が届いてないんじゃないの?

サトコ

「そ、そんなこと言われても‥」

(ていうか、そんなに罵倒しなくても‥)

そんな私たちの目の前に、実況席から千葉さんと鳴子が飛び出してきた。

千葉

「行こう、佐々木!」

鳴子

「う、うん!」

(うそ、割り込まれた‥!?)

東雲

走れ、スッポン!

サトコ

「スッポン関係ありません!」

千葉

「頑張って、佐々木」

鳴子

「もちろん!任せて‥」

(あと10メートル‥)

(5メートル‥)

サトコ

「きゃあっ!」

東雲

ちょ‥キミ‥っ!

最後の最後で、足がもつれて前につんのめる。

勢いあまった私は、そのまま前転して勢いよく誰かにぶつかった。

(うっ‥痛たた‥)

???

「いい度胸だな、このクズが」

(こ、この声は‥)

(やっぱり!よりによって‥)

東雲

いいじゃないですか、兵吾さん

おかげで1位だったんですから

‥そうですよね、石神さん

石神

ああ、最後に倒れ込んだ分、氷川が早かった

(うそ‥)

サトコ

「やった!やりましたよ、教官!」

東雲

べつに

たかが借り物競争くらいで‥

颯馬

そのわりに、最後は必死だったようですが

加賀

最初から本気を出せばいいものを、このガキが

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そのときだった。

鳴子

「やだー、千葉くん!分かってるじゃん!」

「『学校で一番かわいい子』で私を選ぶなんて!」

千葉

「はは‥」

笑顔の2人を見て、東雲教官はなぜか舌打ちする。

東雲

‥ほんと、全力出して損した

サトコ

「どういうことですか?」

東雲

べつに、こっちの話

サトコ

「はぁ‥」

(あ、そういえば‥)

サトコ

「教官のお題はなんだったんですか?」

東雲

サトコ

「私を選んだってことは『補佐官』とか『教え子』とか‥」

東雲

‥スッポン

サトコ

「えっ?」

東雲

『手のかかるスッポン』‥

だからキミ

サトコ

「えっ、ヒド‥っ」

「本当にそれがお題だったんですか!?」

「さすがにピンポイントすぎますよね?」

東雲

‥‥‥

サトコ

「教官ー!」

結局、疑問を残したまま教官には逃げられて‥

サトコ

「今日の体育祭、いろいろ大変だったけど、おもしろかったね」

鳴子

「うん、特に最後の競技がね」

サトコ

「ああ、メドレーリレーね」

「なぜか最後の最後で公安課と警護課の対決になってたけど‥」

鳴子

「昴様、カッコよかったね」

「颯馬教官とどっちを応援するか迷っちゃったよ」

サトコ

「えっ、そこは颯馬教官を応援しようよ。同じ公安なんだから」

鳴子

「ええっ、でもサトコだって藤崎巡査部長をずっと見てたじゃない」

サトコ

「そ、そこは別枠だから‥」

???

「ね、言ったじゃないですか。1分以内にサトコさんを選ぶって」

(え、私?)

???

「いやー、歩はもうちょっと迷うと思ったんだけどな」

「お題がお題だしなぁ」

黒澤

残念でしたね、室長

では、明日のランチは室長のおごりで‥

声がする方に向かうと、難波室長と黒澤さんの姿があった。

サトコ

「あの‥今の話って借り物競争のことですか?」

黒澤

うわっ

難波

なんだ、お前ら。盗み聞きはよくないぞー

鳴子

「すみませーん」

「でも公安のタマゴとしては、それくらいのことはできないと」

難波

はは、そうきたか

で、なんだって?

サトコ

「借り物競争のことです」

「室長たちは、東雲教官が引いたお題を知ってるんですか?」

黒澤

もちろん知ってますよ

あのお題仕込んだの、オレですから

難波

だが、氷川に教えると歩に怒られそうだしなぁ

サトコ

「大丈夫です!東雲教官にはナイショに‥」

東雲

誰に内緒にするって?

サトコ

「!」

(ま、まさか‥)

鳴子

「あ、おつかれさまです」

東雲

おつかれさま。学校で1番かわいい鳴子ちゃん

鳴子

「やだなぁ、それほどでも‥」

東雲

ところで、そこのスッポン

オレの部屋のゴミ箱、片付けておいてくれる?

(う‥)

<選択してください>

A: スッポンって誰のこと

サトコ

「スッポンって誰のことですか?」

東雲

ああ、ゴメン、間違えた

キミは『手のかかるスッポン』だったね

(うっ、ヒドイ‥)

東雲

ほら、ヘコんでないで

さっさとゴミ箱片付けて来て

サトコ

「はい‥」

B: わかりました

サトコ

「‥分かりました」

難波

なんだ、氷川は素直だなー

たまには歩に逆らってもいいんだぞ

『うるさい、この〇×△野郎』とかなー

(えええっ!?)

東雲

どうする?せっかくだから言ってみる?

サトコ

「い、言えませんよ!そんな恥ずかしいこと‥」

「それじゃあ、私はこれで‥」

東雲

忘れないでよ。ゴミ箱

サトコ

「‥分かってます」

C: キノコのくせに‥

サトコ

「キノコのくせに‥」

東雲

え、なに?今なんて‥

鳴子

「ああ、確かに!」

「東雲教官、きれいなマッシュルームカットですもんね」

東雲

鳴子

「そっかぁ‥それでキノコなんですね」

東雲

そ、そうらしいね‥

たまにしか言われないけど‥

(まずい、教官の笑顔がどんどん引きつり気味に‥)

サトコ

「あ、あの‥私はこれで!」

「ゴミ、ちゃんと捨てておきますんで!」

サトコ

「はぁあ‥」

(結局、借り物競争のお題、聞き出せなかったなぁ)

(せっかくチャンスだと思ったのに)

サトコ

「っと、ゴミ捨て、ゴミ捨て‥」

「ん‥?」

(なんだろう、この紙‥)

サトコ

「『敵の心を折るもの』『サッカーボール』‥」

(これ、もしかしてさっきの『借り物競争』のお題!?)

私は慌てて残りの3枚も確認する。

(『ネクタイ』『任務の必需品』‥)

(『誰にも譲れない大事なもの』‥)

サトコ

「誰にも譲れない‥」

(あ、まずい‥なんか顔がにやけて‥)

バタン!

東雲

おつかれさま‥

‥なに、その顔

サトコ

「教官、これ!見ました。この紙!」

東雲

‥ああ

趣味悪いね。ゴミを見て喜ぶなんて‥

サトコ

「ゴミじゃないです!宝物です!」

「一生大事にします!」

ドンッ!

東雲

ちょ‥なに抱きついて‥

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(教官、大好き‥!)

東雲

やめ‥離れなってば

化粧水つけさせて‥

サトコ

「無理です、手のかかるスッポンですから」

このあと、お肌の手入れを怠った私はひどい日焼けに悩まされたのだったのだけど‥

それを差し引いでも、この体育祭は楽しい思い出となったのであった。

Happy  End

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