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出会い編 石神3話

成田

「氷川!やる気あるのか!」

サトコ

「すみません!」

成田

「お前のは尾行とは言わない。丸岡を見習え!」

サトコ

「はい!」

自主トレーニングの効果か、体力的にはかなりついていけるようになった。

予習・復習のおかげもあって、講義も随分と理解できるようになった。

けれど‥

(実技が‥ああ、どうしよう‥)

(丸岡さんを見習えって言われても、あの人ほどんどの科目で1位だし‥)

丸岡

「‥なんだ」

サトコ

「な、何でもないです」

(無意識にジッと見ちゃった‥)

丸岡

「ふん。足手まといにならないようにすることだな」

「グループ演習になってドジされるとたまったもんじゃない」

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サトコ

「う‥そうですよね。備えておきます」

(なかなか厳しい人なんだな、丸岡さん‥)

鳴子

「サトコは射撃と尾行術がねぇ‥私もだけど」

千葉

「でも氷川、逮捕術はなかなかのものじゃない?」

鳴子

「そりゃサトコに長いモノを持たせれば右に出る者なんてそういないよ」

サトコ

「‥取り柄が剣道だけなんで‥」

成田

「尾行術が合格点に達していないヤツは後片付けしてから終われ!」

サトコ

「はい‥」

(このままじゃダメだ‥自主練増やそう‥)

【教官室】

サトコ

「石神教官、クラス全員のレポート持って来ました」

石神

それはいいが‥今日のあれは何だ

(射撃訓練のことだよね‥)

サトコ

「‥練習、します」

石神

闇雲にやって上達するものではない

サトコ

「分かっています。成績優秀者から盗めるところを盗みます」

石神

今のまま現場に出れば、間違いなく事故が起きる

サトコ

「はい‥」

石神

退学届についてはいつでも受け付けてやるぞ

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サトコ

「!」

石神教官は皮肉ったように口角を上げると、レポートに目を通し始める。

サトコ

「‥失礼します」

言い返せる言葉なんてあるはずもなく、私はすぐにその場を後にした。

(絶対に見返してやる‥!)

(‥って言っても、命中率を上げなきゃ話にならないし、体幹を1から鍛え直すべきかな‥)

伏射という文字通り伏せた状態での射撃では、どういうわけか合格点をもらえたけど、

基本の立射となるとまともに標的に当たることの方が少ない。

(周りの射撃音に驚くことはなくなったけど、やっぱり身体がブレるんだろうな‥)

サトコ

「夜の筋トレにヨガを足そう‥」

千葉

「お疲れ、氷川」

サトコ

「わ‥千葉さん!」

考えながら歩いていると、バッタリと千葉さんに会った。

サトコ

「今から食堂?」

千葉

「うん。ちょっと出遅れちゃったけどね」

サトコ

「それは私も‥」

千葉

「ハハッ、そうだね。じゃあ一緒に行こうか?」

サトコ

「うん」

(千葉さんは他のピリピリした同期と違って話しやすいな‥)

年上、ということもあるのかもしれないけれど、物腰が柔らかでとても気さくだ。

千葉

「最近、氷川頑張ってるよね」

サトコ

「まだまだ追い付けなくて‥」

「私は人の何倍も努力しないと生き残れないから」

千葉

「勇ましいね」

サトコ

「‥それって褒め言葉?」

千葉

「もちろん」

サトコ

「妙齢の女子への褒め言葉に勇ましいって‥」

千葉

「あれ、マズかったかな」

サトコ

「ふふっ」

【食堂】

受け取ったトレイを手に、テラスのテーブルへ向かう。

千葉

「氷川、ここでいい?」

サトコ

「あ、うん‥」

ドン‥!

サトコ

「わ、ごめんなさい!」

トレイを置いた瞬間、私の肘が誰かに当たった。

???

「どこに目を付けてるんだ」

サトコ

「す、すみません!」

振り返ると、常に成績上位の同期、丸岡さんが腕をさすっていた。

丸岡

「これだけ何もできなくても石神教官の専属補佐官になれるんだもんな」

「いい気なもんだよ」

サトコ

「え‥」

(そんな風に思われてたんだ‥)

千葉

「丸岡、言いすぎだろ」

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丸岡

「なんだよ。本当のことだろ?」

丸岡さんは私を一瞥してさっさとカフェテラスを後にした。

千葉

「‥気にすることないよ。言わせておけばいい」

サトコ

「そうだね‥」

改めて席に着くと、千葉さんは驚いた様子で私を見る。

千葉

「強いなーとは思ってたけど、氷川って本当に強いんだね」

サトコ

「いやいや。それは買い被りすぎだって」

「そりゃ丸岡さんのイヤミにだってそれなりに傷付くし‥」

「でも実際、大した成績も残せてない自分が悪いわけだし」

千葉

「いくら成績が良くても、他人の足元を見てるような奴はダメだと思うよ」

「アイツとは話したことなかったけど、さっきので見方が変わったかな」

サトコ

「それでも‥丸岡さんくらいの実力が私にもあったらなって思うかも‥」

(そしたら、石神教官も少しは認めてくれるかもしれないのにな‥)

千葉

「‥氷川は本当に努力家なんだな。見習わないと」

サトコ

「ええっ、何言ってるの」

「私があまりにできなくてヘコんでる話、聞いてたよね?」

千葉

「ハハッ、あんまり聞いてなかったかも」

サトコ

「はぁ‥」

(鳴子もだけど、こうして話せる同期ってありがたいなぁ‥)

千葉さんが笑い飛ばしてくれたおかげで、私はあまり落ち込まずに済んだ。

(‥今日も1日が終わった‥)

最後のコマの颯馬教官の講義を終えた。

(颯馬教官の講義は優しくていいな‥)

(いや、石神教官の講義が嫌とかそういうんじゃないけど)

サトコ

「よいしょ」

資料を返却するように頼まれていたので、書類を抱え地下へと向かった。

【資料室】

サトコ

「これでよし、と」

棚に分厚い書類を戻し、部屋を出ようとしたとき‥‥

???

「ぶみゃー」

サトコ

「!?」

資料を棚に戻して、声に振り返る。

ブサ猫

「ぶにゃ」

サトコ

「猫‥?」

声のした方へ行くと、ちょっと太めのブサ猫が机の上でくつろいでいた。

(この子‥どうやって入ったんだろう‥)

サトコ

「っていうか、何か反応しないの?」

ブサ猫

「‥‥‥」

近づいても、撫でても、ブサ猫は微動だにせず目を瞑る。

(なんてふてぶてしい‥でもかわいいな)

ふわふわの身体を撫でながら、その手触りに和んでいると‥‥

カシャッ!

サトコ

「へ‥」

???

「いやー、殺伐とした公安施設になんて癒しの光景!」

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サトコ

「な、なんですか!?」

突然カメラのシャッター音と共に、スーツ姿の男性が現れた。

???

「へぇ~女子生徒もいたんですね」

サトコ

「あ、あなたは‥」

東雲

あ、透じゃん

ちょうど通りかかったのか、東雲教官もその男性の横で立ち止まる。

???

「歩さ~ん!ご無沙汰です!」

(透‥?歩さん‥?)

???

「ああ、これは失礼しました!」

「石神班の笑いと癒しを担当しております、貴女の黒澤透です☆」

サトコ

「え‥っと、申し遅れました。公学校に在籍している氷川サトコといいます」

「石神班の方なんですね」

(‥ってもしかして、変人とか、おちゃらけとか言われてた人かな)

東雲

そうそう、正解。その人だよ

サトコ

「わ、私声出てました!?」

東雲

出てないけど、出てるようなものかな

黒澤

何なに~?何を考えてたの?

<選択してください>

A: 素直に言う

サトコ

「以前、教官たちから黒澤さんについて伺ったことがあったもので‥」

黒澤

え!そうなんですか?

照れるなぁ

東雲

変人って言われて照れるなって

黒澤

な~んだ‥

B: 濁す

サトコ

「その‥石神教官みたいな人ばかりじゃないんだと思いまして」

東雲

ちゃらけた変人ってハッキリ言えばいいのに

サトコ

「そんなこと一言も言ってません!」

黒澤

ハハッ、オレみたいなのが1人くらいいないと困るでしょ~?

C: 先に謝る

サトコ

「すみません!」

東雲

先に謝るようなことを考えてたんだ?

サトコ

「いえ、その‥東雲教官は変人がいるって言ってたし」

「後藤教官からはちゃらけた人がいるって聞いてたもので‥」

「石神教官の下にそんな人がいるだなんて想像できなくて‥」

黒澤

おお!なんだー意外とみんなオレの噂話してくれてるんですね!

嬉しいな~

(本当に他の人たちと違って楽しそうな人だな)

黒澤さんは、ふとドアの方に視線を向けると、みるみるうちに輝く笑顔になった。

黒澤

後藤さ~ん!黒澤透、ただいま戻りました~!

後藤

‥‥‥

(‥後藤教官、見なかったことにして素通りしようとしてる)

黒澤

オレがいないと、お葬式みたいだったんじゃないですかー?

後藤

すこぶる平和だった

黒澤

またまたそんなつれないこと言っちゃって

後藤

もう一回行ってきていいぞ。地球の裏側辺りまで行って来い

黒澤

残念ながら今日は石神さんに帰還報告に来たんですよ♪

後藤

‥‥‥

あからさまにげんなりする後藤教官にくっついて、黒澤さんは資料室を出ていく。

東雲

これ、サトコちゃんが仕舞った?

サトコ

「あ、はい。今さっき‥」

東雲

こっちの棚は年号順に並べてね

サトコ

「すみません!分かりました」

東雲教官は資料を探しに来たのか、書棚を端から目視している。

東雲

透は石神班の新人刑事だよ。しばらく海外へ行ってたんだ

サトコ

「そうなんですね」

東雲

公安らしくない人だなって思った?

サトコ

「らしくない‥とまでは思いませんでしたけど、教官たちとは雰囲気が違うなと‥」

東雲

ふーん‥ま、あれでも誰よりも公安向けの人材だよ

少なくともサトコちゃんよりはずっと向いてる

サトコ

「‥‥‥」

(石神教官といい、言葉のナイフが胸に刺さるな‥)

【中庭】

サトコ

「ほら、着いたよ」

ブサ猫

「ぶにゃ」

そのまま資料室に放置しているわけにもいかず、ブサ猫を抱えて中庭へやってきた。

(それにしても重いなこの子‥)

(いざというとき逃げられなそう‥)

黒澤

おやおや、よく会いますね。氷川さん

サトコ

「黒澤さん!」

黒澤

聞きましたよ~。石神さんの専属補佐官だって‥

サトコ

「え、あ‥はい。そうなんです」

黒澤

こんないたいけな女の子がそんな‥可哀そうに

石神さんって怖いでしょ。オレなんてもう何度あの氷の瞳に殺されかけたか‥

サトコ

「い、いえ!確かに凍てつきそうな時もありますけど、厳しく指導して頂けるのでありがたいです」

黒澤

なんて健気!!

サトコ

「いえ、そんな!私は石神教官に認めてもらって、立派な刑事になりたいんです」

黒澤

‥‥‥

サトコ

「ええっ」

黒澤さんは今にも泣きだしそうな顔で私を見つめている。

黒澤

氷川さん!

サトコ

「は、はい‥」

黒澤

オレは貴女を応援します!

サトコ

「あ、ありがとうございます」

黒澤

いじらしい氷川さんにマル秘情報を預けましょう

実は石神さん、あんな顔して甘党なんですよ

サトコ

「えっ、そうなんですか!?」

黒澤

信じられないでしょう?中でも愛して止まないのが‥

???

「そこで何をしている」

黒澤・サトコ

「!?」

思わず黒澤さんと目を見合わせて、恐る恐る同時に振り返る。

黒澤

石神さーん!探してたんですよ

黒澤透。無事に戻って参りました!

石神

わざわざここまでくる必要はない

黒澤

後藤さんにもさっき同じこと言われちゃいました

石神

‥‥‥

黒澤

ああ、この視線も久しぶり‥

氷川さん、オレはこれでドロンしますので、どうか頑張ってくださいね!

サトコ

「え‥」

黒澤さんは脱兎のごとく駆け抜けて行った。

(結局、石神さんは甘いものの中でも何が一番なんだろう‥)

石神

‥こんなところで油を売っている暇などあるのか?余裕だな

サトコ

「い、今からトレーニングルームに行くところなんです!」

石神

フン‥とにかく、黒澤の言うことは真に受けるな

<選択してください>

A: 何のことでしょう

サトコ

「何のことでしょう」

石神

とぼけていられるうちはそれでいい

サトコ

「石神教官って甘と‥」

B: 楽しい人ですね

サトコ

「黒澤さんって楽しい人ですね」

石神

あれで仕事が出来なければとっくに捨ててるんだがな

サトコ

「甘党っていう弱みを握られているからですか?」

C: 甘党のことですか?

サトコ

「‥甘党のことですか?」

石神

追加課題を出してやってもいいぞ

サトコ

「それってパワハラ‥」

石神

‥‥‥

サトコ

「ウソです!失礼しました!」

私も逃げるようにその場を離れる。

(最初の頃に比べたら、厳しいだけじゃなくなってきたかも‥)

いつ辞めさせられてもおかしくない状態。

それでも、ただ冷たいばかりだった壁が少し温度を持ったような‥

少しは前に進んでいる気がして、私はやる気満々にトレーニングルームへと向かった。

【教場】

カリキュラムや寮生活にもすっかり慣れてきたある日‥

石神

これからテストを行う

鳴子

「え!抜き打ち!?」

石神

真面目に講義と訓練を受けていれば答えられる問題ばかりだ」

赤点を取ったものにも補習は行わない

(よかった‥補習はないんだ)

石神

氷川。嬉しそうな顔をしているが、補習はなくともペナルティは用意している

サトコ

「う‥あの、赤点のラインは‥」

石神

90点以下の者は覚悟しておけ

(きゅ、90点って‥!お、鬼すぎる‥!)

鳴子

「私、不安しかない!」

サトコ

「‥頑張ろうね!」

千葉

「うん。やるしかないね!」

石神

採点が終わった。これより上位の者のみ発表する

(昨日、夜中に復習したところが出てたし、結構いい線いってるかも‥!)

(いや、でも90点以上だし‥)

石神

非常に残念だが、赤点の方が多い結果だな

テスト用紙を見ながら眉間に皺を寄せている。

石神

トップは丸岡、98点だ

同期A

「また丸岡か‥」

同期B

「実技も成績いいもんなアイツ」

石神

合格者のみ挙げていく。続いて‥

教官は淡々と結果を発表していった。

石神

最後に氷川。91点

サトコ

「うそ‥」

鳴子

「サトコ~すごいじゃん!」

サトコ

「自分でもびっくりしてる‥」

石神

合格点に満たなかった者は、後日追試をする

結果によっては覚悟しておけ

鳴子

「こ、怖‥!」

石神

それから氷川。これを資料室から持ってくるように

石神教官から、ファイル名がびっしりと書かれたメモを手渡される。

サトコ

「はい」

(これもまた鬼みたいな量だな‥)

同期A

「専属補佐官ってよりは便利屋じゃないか?」

同期B

「補佐する能力がそんなもんだってだけだろ」

サトコ

「む‥」

(‥でも実際、そう言われても仕方ないんだよね)

専属補佐官とは名ばかりで、私は基本的に雑用ばかりを任されていた。

【個別教官室】

サトコ

「石神教官、持って来ました」

石神

ああ

指示された資料をファイリングして教官室へ向かうと、石神教官はPCに向けていた顔を上げた。

石神

‥一応、予習復習はきっちりしているようだな

サトコ

「え‥」

石神

抜き打ちのわりにはそれなりだったじゃないか

(もしかして‥褒めてくれてる‥!?)

サトコ

「ありがとうございます!」

石神

喜ぶことではない。それなりと言っただけだ

自分の立場を忘れないことだな。今日のテストにしても100点を取って当たり前だろう

サトコ

「はい‥次は頑張ります」

(相変わらず厳しいけど、でも初めて認めてもらえた‥!)

(嬉しい、な)

サトコ

「失礼します」

ホッとして石神教官に頭を下げる。

そして顔を上げた瞬間‥‥

(あれ‥)

石神

‥おい!

視界が歪む。

どういうわけか、身体に力が入らない。

頭を打つ‥そう思った瞬間、石神教官の焦った声が聞こえた。

to be continued

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