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石神 恋の行方編 10話

【教場】

サトコ

「うぅ‥胃が痛い」

鳴子

「私もどうにか颯馬教官の専属補佐官に‥!」

千葉

「佐々木のは邪念が邪魔しそうな気がするんだけど‥」

石神教官と思いが通じ合って半月ほど‥

成績順に専属補佐官が決められる特別試験が実施された。

男性同期A

「結果来たぞ!」

(どうか石神教官の専属補佐官に戻れますように‥!)

貼り出された結果に、ドキドキしながら目を向ける。

鳴子

「‥あ!」

千葉

「‥‥‥」

サトコ

「え、どうなの?見えないんだけど‥」

鳴子と千葉さんは、ニヤニヤしながら私を見る。

場所を変わって食い入るように視線を巡らせた。

サトコ

「!!」

(や、やった‥!)

石神教官の名前の横に、自分の名前がある。

鳴子

「うふふ。良かったね、サトコ」

千葉

「自分で取り返したな」

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サトコ

「う、うん‥!」

「でも‥ど、どうしよう!」

(死に物狂いで頑張ったけど、まさかホントに戻れるなんて‥!)

鳴子

「どうしようも何も」

「さっさと石神教官のところへ行ってきなさい♪」

千葉

「そうだな」

サトコ

「‥行ってきます!」

慌ててに荷物をまとめて、教官室まで全速力で走った。

【寮門】

サトコ

「はぁ‥」

(あんなにウキウキと会いに行ったのに、石神教官が本部にいるなんて‥)

舞い上がっていた分、大きなダメージを受けて寮へと向かう。

(落ち込む前にレポート書かなきゃ)

(石神教官、前にも増して講義に関しては鬼のような厳しさだし‥)

思い返しただけでも背筋が伸びる。

サトコ

「早く帰ろう‥」

ため息交じりに寮の扉を開けた。

【教官室】

翌日。

サトコ

「失礼します」

黒澤

サトコさん、ちょうどいいところに!

サトコ

「?」

お昼休みに顔を出すと、黒澤さんに出迎えられた。

黒澤

報告書を渡すついでに、みなさんにランチの配達に来たんですけど

この後ラーメン屋に誘われてしまって‥

サトコさん、良かったらオレの分食べてくれませんか?

サトコ

「え、いいんですか?」

黒澤

どうぞどうぞ

サトコ

「次の講義準備の手伝いに来ただけなんですけど‥ちゃっかり頂きます!」

黒澤

ついでに石神さんにも渡してください♪

サトコ

「は、はい。ありがとうございます‥」

黒澤さんがニコニコと差し出す包みを受け取って、奥の個室へと向かった。

【個別教官室】

サトコ

「あの‥石神教官」

「黒澤さんからお届け物です」

石神

‥‥‥

(あれ、準備がもう‥)

まとめるのを手伝うはずだったのに、講義で使う回覧資料がすでに積み上げられている。

サトコ

「‥昨日からまた専属補佐官になったんですけど」

「私の仕事、取らないでください」

(せっかく昼休みは一緒にいられると思ったのに‥)

せっかくの口実がなくなってしまった。

石神

座れ

サトコ

「へ‥」

石神

“昼休み”のつもりで呼んだんだ

サトコ

「‥‥‥」

石神

ニヤけるな

サトコ

「ふふっ。無理です」

緩みきった顔でソファに腰を下ろす。

黒澤さんに貰ったテイクアウトの包みを開くと、パスタとサラダが入っていた。

サトコ

「わぁ、美味しそうですね!」

「あとでもう一回お礼言わなきゃ」

石神

‥‥‥

教官は顔をしかめてフォークを取り出すと、私の方のトレイにキノコを移動させる。

サトコ

「‥何してるんですか」

石神

見て分からないか

サトコ

「もしかして‥キノコ嫌いなんですか?」

石神

‥食べなくても生きていけるだろう

(子どもみたいなこと言ってる‥)

サトコ

「ふふっ‥ギャップありすぎです」

石神

うるさい

サトコ

「石神教官って、自分を普通の人とは違う‥って言いますけど」

「十分、人間らしいと思いますよ」

石神

‥‥‥

サトコ

「プリンが好きな男性っていうのもまたそういないし、可愛いポイント‥」

石神

ほう。言ってくれるじゃないか

サトコ

「!」

(ま、魔王が出た‥!)

石神教官は器用にキノコだけを移し終えると、眉間にシワを寄せたままで隣で深く腰を下ろす。

サトコ

「山盛りキノコパスタ、いただきます!」

石神

‥そこまで盛ってないだろう

サトコ

「言ってみたかっただけです」

石神

‥‥‥

呆れたように微笑む気配。

2人きりの時だけは、教官の笑みに優しい空気が纏う。

(なんて貴重な‥)

ガタッ

サトコ

「?」

(何の音だろう‥)

モグモグと口を動かしながら振り返ってみるけれど、そこには何もない。

石神

‥‥‥

サトコ

「どうかしたんですか?」

教官が無表情でドアに近づいて、ドアノブを引く。

黒澤

イテッ

東雲

ちょっと‥

透が押すからこうなるんじゃん

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黒澤

違いますよ。加賀さんですって

加賀

あぁ?

人のせいにするんじゃねぇ

颯馬

フフ‥バレてしまいましたね

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後藤

‥‥‥

(うわぁ‥)

倒れ込んだ黒澤さんと東雲教官の後ろに、楽しげに微笑む顔が3つ。

石神

お前ら‥

黒澤

あ、石神さんだー

‥なんて

あはは‥

石神

‥‥‥

黒澤さんは引きつった笑みを浮かべながら、そそくさとドアを閉めた。

【寮門前】

(資料室で予習まで付き合ってもらっちゃった‥!)

石神教官と過ごせる時間が多い1日で、少し浮かれ気味に寮へ帰る。

サトコ

「へへ‥」

千葉

「ごきげんだね」

サトコ

「千葉さん!」

(いつの間に‥!)

サトコ

「わわわ‥今、絶対ニヤけてたよね」

千葉

「うん」

「まぁ‥専属補佐官に戻れたわけだし、いいんじゃない?」

「見なかったことにするよ」

サトコ

「お、お恥ずかしい顔をお見せしました」

千葉

「ハハ」

サトコ

「‥‥‥」

千葉

「‥‥‥」

なんとなく言葉が途切れて、肩を並べたままゆっくりと歩く。

千葉

「‥でも、本当に良かったな。戻れて」

サトコ

「うん‥」

千葉

「前にさ、氷川に諦めるなって言ったけど‥」

「本当はどこかで後悔してた」

サトコ

「え‥」

千葉

「応援してたよ。今もそうだ」

「でも、あわよくば氷川の願いなんて砕け散ったらいいのにって思う部分もあった」

「最低だよな」

サトコ

「‥‥‥」

「そんなことないよ」

「‥ありがとう、千葉さん」

千葉

「‥また屋上に行きたくなったらいつでも呼んで」

「その時には、心の底から応援してやれる男になっておくよ」

サトコ

「‥‥‥」

千葉

「じゃあ、また明日な」

サトコ

「うん‥」

千葉さんは眉を下げて、いつものように笑って手を振る。

(何でもっと簡単にいかないんだろう‥)

自分の好きな人が、自分のことを好きになってくれる。

そのたった1つのシンプルな願いが、こんなにも難しい。

(それでも、石神教官じゃないとダメなんだよね‥)

サトコ

「‥‥‥」

石神

通行の邪魔だ

サトコ

「!」

石神教官は私を追い越すと、何も言わずに先に行く。

サトコ

「今日、宿直なんですか?」

石神

‥‥‥

サトコ

「?」

追いかけて声を掛けても、少しもこちらを見てくれない。

サトコ

「石神教官‥?」

石神

‥何の話をしていたんだ?

サトコ

「え‥」

(これってもしかして‥)

サトコ

「‥気になります?」

石神

‥‥‥

サトコ

「うふふ」

(少しは妬いてくれたってことですよね)

石神

お前‥

サトコ

「あ、今ものすごく鬱陶しいなって思ってますね」

石神

分かるならその顔をやめろ

サトコ

「ちょっと嬉しいことがあったので無理です」

「ふふっ」

石神

‥‥‥

どうやら諦めたらしく、石神教官はそれ以上何も言わずにエレベーターのボタンを押す。

しつこく浮かれたまま、その背中に続いた。

Good  End

Happy  End

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