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石神 恋の行方編 シークレット1

エピソード 2.5

「せいぜい兄妹だろうな‥」

【カフェ】

潜入先のカフェで、石神教官と向かい合う。

インカムから聞こえてきた声に身構えると、

言われた通りに黒髪の女性が私たちの隣のテーブルに着いた。

(一見、普通のお客さんなのに、麻薬の売買に関わってるなんて‥)

(現行犯で押さえなきゃ!)

教官の肩越しに見える女性の背中。

待ち合わせていたのか、おそらく女子大学生と思われる客が同じテーブルに現れる。

他愛もない会話をしながら、ゴソゴソとバックを探って‥

サトコ

「‥‥‥」

石神

‥‥‥

視線を向けて頷くと、教官は席を立って女性の逃げ道を塞ぐ。

黒髪の女性

「!」

女子大生

「え、何‥」

その瞬間、入口からドカドカとガラの悪い男たちが入ってくる。

サトコ

「警察です。すぐに外に出てください!」

石神

麻薬特例法違反で逮捕する

黒髪の女性

「!」

売人だった女性は抵抗することなく、手錠を受け入れる。

店にいた他の客たちを避難誘導しながら、

仲間と思われる男1人に手近にあったモップで応戦して‥

石神

氷川!

サトコ

「え‥」

「!」

振り返ると、別の男に胸倉を掴まれる。

(油断した‥!)

反撃しようと拳を握ったところで、風を切るように目の前から男が消える。

サトコ

「!?」

(い、一瞬で吹っ飛んで行ったんだけど‥)

石神

あとは頼む

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サトコ

「‥了解です」

石神教官の重い蹴りを受けて伸びてしまった男に駆け寄り、即座に手錠をかけた。

【店外】

店の外でも乱闘になっていたらしく、そこに当たっていた公安の刑事に被疑者たちを引き渡す。

石神

戻るか

サトコ

「はい‥」

(撤収も恐ろしく早いんだな‥)

先に出た黒澤さんたちが待つ車へさっさと向かう石神教官の背中を、小走りで追いかけた。

【車内】

黒澤

あ、おかえりなさい

サトコさん!もう完璧だったじゃないですか!

車に乗り込むと、黒澤さんがニコニコと出迎えてくれる。

サトコ

「いえ、私は本当に何も‥」

黒澤

いやいや

合図を送るタイミングはバッチリでしたし、避難誘導してくれたおかげで怪我人もゼロ!

素晴らしい働きでしたよ。ね、後藤さん

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後藤

ああ

黒澤

もっと褒めてあげたらいいのに

後藤

お前がペラペラと先に全部言ったんだろう

石神

概ねいい動きをしていたんじゃないか

(珍しく石神教官まで褒めてくれてる‥!)

サトコ

「あの‥さっきはありがとうございました」

「おかげさまで私も無傷です」

石神

殴られてそれ以上バカになられても困るからな

サトコ

「‥‥‥」

(結局そういうオチ‥)

助けてもらった瞬間のときめきは、静かに胸の中に仕舞う。

黒澤

2人ともナイスカップルでしたよ

パンケーキで “あーん” なんてもう、羨ましい限りで

サトコ

「そ、そんなことしてません!」

「それにカップル設定じゃなくて、兄妹でいいって言われましたし」

石神

カップルである必要もなかっただろう

黒澤

兄妹で仲良くパンケーキっていう方が違和感アリアリですよ

ね、後藤さん

後藤

俺に振るな

黒澤

あ、でもちょっと待ってくださいよ‥

石神さんとサトコさんが兄妹だったら‥

【黒澤妄想】

氷川サトコ17歳。

今日は大好きな兄が久しぶりに実家へ帰ってくる。

(顔合わせるのってもしかしてお正月ぶり‥?)

(仕事忙しいみたいだし‥)

妙にソワソワと部屋の中を歩き回る。

石神

ただいま

サトコ

「お兄ちゃん!おかえりなさい!」

石神

‥そんなところに突っ立ってどうしたんだ?

サトコ

「その‥久しぶりだし、なんだか落ち着かなくて」

石神

バカだな

可愛い妹に優しい眼差しを向ける、兄・秀樹。

石神

それで、学校の方はどうだ?

サトコ

「ん?相変わらずだよ。授業についていくのに必死」

石神

そういう話じゃない

サトコ

「じゃあどういう話?」

石神

‥あいつと付き合うのか?

サトコ

「えっ」

(クラスメイトに告白された話はしたけど‥)

サトコ

「‥結局、断っちゃったんだよね」

石神

なんだ、他に好きなヤツでもいるのか?

サトコ

「!」

石神

図星か

お兄ちゃんはフッと笑って、私の顔を覗き込む。

【車内】

黒澤

お兄ちゃん以上の男の人なんていない‥!

サトコ

「黒澤さん」

黒澤

妹・サトコは心の中でそう思いながらドキドキと、兄・秀樹を見つめる

サトコ

「黒澤さん!!」

黒澤

はい?

サトコ

「もう、何言ってるんですか!」

黒澤

ええ~?いいと思いません?

我ながら完璧!

サトコ

「よくないです!」

(設定はともかくとして、的を得てるから心臓に悪い‥)

黒澤

ちなみにこの後2人は‥

石神

黒澤

黒澤

は、はい‥

地を這うような低く冷淡な声に、黒澤さんが震えあがる。

(こうなるって分かってるのにやめないんだよね‥)

石神

お前は一度死の淵に立たなければ分からないらしいな

黒澤

ヒィィィ!た、助けて後藤さん!」

後藤

自業自得だ

石神

仏教の地獄に大叫喚地獄というものがあるのを知っているか

黒澤

妄語の戒めですよね。なんとなくは‥

石神

妄語とはウソをつくことだが、お前の場合は妄想の語が過ぎる

大叫喚地獄とは文字通り、大きな鍋や釜に入れられて大きく叫び喚く地獄だ

どうだ?

黒澤

石神さんが言うと本気で怖いからやめてー!!

魔王が降臨した笑みを浮かべて、石神教官は黒澤さんを締め上げる。

(頑張って、黒澤さん‥!)

助けに入るのも怖くて、ささやかながらエールを念で送った。

【学校門前】

サトコ

「すみません。送ってもらっちゃって‥」

これから本部で取り調べが始まるのに、学校へ寄ってくれた。

後藤

気にしなくていい。ゆっくり休め

サトコ

「ありがとうございます」

石神

場合によっては数日間、講義には出れないかもしれない

俺がいなくてもしっかりやれ

サトコ

「はい!」

黒澤

またお盆には帰ってきますよ

寂しがらないで待っててくださいね

サトコ

「ふふっ、わかりました」

石神

‥まだ懲りてないようだな

黒澤

ああ、マズイ

ついクセで‥

石神

‥‥‥

黒澤さんの悲鳴を乗せて、車が走っていく。

(そっか。しばらく会えないかもしれないんだ‥)

(いや、寂しがる前にしっかりやんなきゃ‥!)

くるりと踵を返して、校門をくぐる。

(お盆には帰ってきますよ‥って、ホント黒澤さんの想像力って逞しい)

思いだし笑いが堪えられずに、俯きがちに寮までの道を急いだ。

End



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