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Ishigami’s Home 1話

朝の空気もだいぶ暖かくなり、目覚めるのも苦にならなくなってきた。

サトコ

「今日もいいお天気になりそう。昼間は暑く感じるくらいかも‥」

(捜査は体力勝負‥しっかり朝ごはんで栄養つけてもらわなくちゃ!)

サトコ

「石神さん、朝ごはんの準備ができました」

石神

ああ‥

新聞を読む石神さんに声を掛けると、視線を上げる。

(石神さんと同棲なんて‥)

笑顔で炊きたてのご飯をよそいながらも、心の中では大騒ぎだ。

石神

!?

‥今日も朝から豪勢だな

サトコ

「す、すみません‥」

「バランスとか考えてたら、つい品数が多くなってしまって‥」

「食べきれない分は、私が食べるので気にしないでください!」

石神

‥いや、これくらい豪華だと仕事にやる気が出る

ふっと和らいだ声に、私は石神さんの顔を見つめる。

石神

お前の料理は美味いからな

サトコ

「実は今日のために、いろいろ勉強したんです!」

「石神さんの栄養を考えて、もっと頑張ります!」

石神

気持ちは嬉しいが、ほどほどにな

サトコ

「っ‥はい」

石神さんは優しく微笑みながら、ポンと私の頭に触れる。

石神さんの気遣いに胸がいっぱいになる。

お味噌汁に焼き魚に煮物とおひたし‥

結局石神さんは、和食の朝食を全部食べてくれた。

(あの量、全部綺麗に食べてくれたんだ‥!)

石神

ごちそうさま

サトコ

「ごちそうさまでした。あの‥お口に合いましたか?」

石神

美味かった。ありがとう

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(よかった‥!)

サトコ

「お茶、淹れますか?」

石神

いや‥今日は早めに出るからいい。朝イチで確認したい書類がある

食卓を離れて出勤の支度をする石神さんに、私も上着を準備する。

サトコ

「どうぞ」

石神

す、すまん‥

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準備した上着を広げると、石神さんが照れ臭そうに袖を通す。

サトコ

「今日は遅くなりそうですか?」

石神

急な事件が入らなければ、そんなに遅くはならないと思うが‥

遅くなるようだったら連絡する

サトコ

「わかりました。連絡待ってますね」

(ふふ、これってなんだか、本当に新婚さんみたい!)

石神

それでは行ってくるが、お前も油断のないようにな

サトコ

「は、はい‥!」

石神さんの真剣な声に、私も背筋を正して気を引き締める。

(どんなに石神さんとの生活が楽しくても‥)

(これは潜入捜査なんだから浮かれてちゃダメだよね!)

サトコ

「ひ、秀樹さんも、気を付けて!」

(秀樹さんって呼ぶの、なんだかまだ緊張する‥)

小さな声で返すと、石神さんも真剣な顔で頷いた。

公安学校に向かう石神さんを見送り、私は向かいの一軒家に視線を移す。

(今日は何か動きがあるかな‥)

(潜入捜査を始めて、今日で3日目か‥)

【室長室】

それは4日前のこと‥

(難波室長から呼び出しって何だろう‥)

サトコ

「失礼します」

室長室に入ると、石神さんの姿があった。

緊張が走ると、難波室長は真剣な顔でこちらを振り向く。

難波

おお、来たか

サトコ

「何かあったんですか?」

難波

氷川に、大事な話があるんだ

(大事な話って‥)

(室長から直々に話されるってことは、余程のことなんじゃ‥)

難波室長は石神さんを手招きすると、自分の隣に立たせる。

話の内容が気になりドキドキしていると、難波室長が口を開いた。

難波

今日から、お前と石神は夫婦だ

サトコ

「え!?」

(石神さんと夫婦って‥上司命令で結婚ってこと!?)

<選択してください>

A: まさか‥!

(まさか、石神さんとの関係が室長に知られて‥!)

内心あわてながら石神さんを見ると、石神さんは冷静な顔を崩していない。

(もしかして、石神さんも覚悟を決めてくれたとか‥!?)

(ど、どう返事したらいいの?)

難波

なかなかいい反応だな。氷川

サトコ

「えっ?」

石神

わざわざ誤解を招くような言い方をしないでください

B: お断りします!

(きっと、石神さんとの関係がバレたんだ!)

(訓練生に手を出したなら、責任とれって言われたのかも‥)

(ど、どうしよう‥)

サトコ

「し、室長!‥お断りします!」

難波

俺に断ってどうする

石神

室長‥きちんと事情を説明してください

難波

石神、そんな怖い顔するな

石神

‥‥‥

C: プロポーズは?

(ついに、石神さんとの関係がバレちゃったんだ!)

私を見ている石神さんを見て、覚悟を決める。

(結婚はいいけど、一番大事なことが‥!)

サトコ

「あの‥石神教官からのプロポーズの言葉は‥?」

石神

なっ!?

難波

そうだな。順序は守らなきゃな、石神

石神

‥‥‥

(考えてみれば公安の上司相手に、いつまでも隠しておけることじゃなかったのかも‥)

石神

室長‥真面目に話をしてください

氷川が本気にしてしまいます

サトコ

「え‥?」

難波

純粋な新人を見ると、つい‥ね。すまんな、氷川

(じょ、冗談だったの‥?)

(石神さんとの新婚生活、想像しちゃったよ)

サトコ

「あ、あの‥それで、呼び出しのご用は‥?」

難波

ああ、本題に入ろうか。夫婦になれと言ったのは‥

お前たち二人には、夫婦として擬態捜査に行ってもらいたい

サトコ

「夫婦として、擬態捜査‥どんな事件なんですか?」

石神

ある住宅街で麻薬の取引が行われているという情報が入った

別件で追っている麻薬ディーラーを追うためにも、我々で捜査にあたることが決まった

サトコ

「そういえば‥最近は普通の主婦が薬物に手を出す事件も聞きますね」

難波

そういうわけで、お前たちにはターゲットの向かいの家に新婚夫婦として住んでもらう

主婦の情報網や勘は侮れないからな‥くれぐれも、本物の夫婦らしく振舞うように

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サトコ

「は、はい!」

(擬態捜査とはいえ、石神さんと夫婦に‥)

ドキドキしながらチラッと石神さんの様子を窺うが、相変わらずの落ち着きぶりだ。

(そうだよね‥仕事なんだから、余計なことを考えてる場合じゃない!)

難波

まぁ、石神と氷川なら、なんの心配もいらないな

サトコ

「え‥っ」

難波室長の意味ありげな微笑みに言葉を詰まらせると、石神さんがフッと笑った。

石神

当然です

サトコ

「い、石神教官!?」

(まさか、恋人同士だからなんて‥)

石神

氷川は私が鍛えた訓練生です。必ず、成功させてみせますよ

(あ、そういうことか‥)

難波

何か動きがあったら報告してくれ。頼んだぞ

サトコ

「はい!」

石神

はい

さっそく明日から、ターゲットの向かいの家に移り住むことになった。

【潜入先の家】

サトコ

「わぁ‥温かみのある家ですね。長野を思い出します」

石神

古風な作りの家だな。この辺りはITバブルの頃に建てられた家が多いと言うが‥

サトコ

「そうなんですね‥ターゲットのご主人の仕事もIT関係なんですか?」

石神

ああ、ベンチャー企業の社長だ。居間から向こうの様子はあまり見えないが‥

居間にある大きな窓から石神さんは周囲を確認する。

サトコ

「庭に桜の木があるなんて素敵ですね」

石神

もう結構咲き始めてるな

サトコ

「来週あたり満開でしょうか?」

石神

ああ‥楽しみだ

(開花予想でも、来週が見頃だって言ってたもんね」

(石神さんと2人でお花見したいな‥)

サトコ

「ここからだと向かいの家の様子は見えませんね」

石神

黒澤からの報告によれば、2階のベランダに上がれば付近の家の様子を探れるようだ

洗濯物は、そこで干すようにしよう

サトコ

「はい!‥あ、石神さんの洗濯物も私が洗っていいんですか?」

石神

‥夫婦で洗濯物が別というのも、おかしいからな

サトコ

「そ、そうですよね!それじゃ、丁重に洗わせていただきます!」

石神

普通に洗ってくれればいい

サトコ

「は、はい‥」

(夫婦としての潜入だから、当たり前なんだけど‥)

(なんだか、本当の新婚さんみたい‥)

石神

‥顔がニヤけてるぞ

サトコ

「す、すみません!なんか‥本当に新婚みたいだなって思っちゃって」

「緊張感ないですよね‥」

石神

そうだな‥

石神さんは私を見つめると、その距離を詰める。

(叱られる‥)

石神

夫婦になったら、洗濯は頼んだぞ

サトコ

「え?」

覚悟した私に降ってきたのは、穏やかな声だった。

<選択してください>

A: どういう意味ですか?

(夫婦になったらって‥どういう意味‥?)

サトコ

「あ、あの‥それって」

石神

‥そういうことだ。いつか、本当の夫婦になった時に

サトコ

「!!‥は、はい!」

(石神さん‥ちゃんと考えてくれてるってことだよね‥?)

(つい都合のいい方に考えちゃう‥)

B: 結婚してくれるんですか!?

サトコ

「結婚してくれるんですか!?」

石神

‥‥‥

サトコ

「あ‥す、すみません!つい‥」

石神

いや‥。お前との将来はちゃんと考えているつもりだ

サトコ

「石神さん‥」

石神

その時は、できれば家事はしてもらえると助かる

サトコ

「は、はい!任せてください!」

C: 喜んで洗濯します!

石神

まぁ、共働きなら交代制でもいいんだが‥

サトコ

「いえ!洗濯くらいします!喜んでします!」

石神

‥なら、頼む

サトコ

「はい!」

石神

捜査中、周りから少しでも怪しまれるようなことがあってはならない

この潜入捜査中は、常に夫婦のように‥俺のことを本当の夫だと思え

サトコ

「‥はい!」

(ってことは、石神さんも私の事を本当の妻だって思うってことだよね‥)

石神

‥‥‥

石神さんは私の心の中を見透かしたように、見つめたまま黙り込む。

サトコ

「す、すみません!調子に乗って‥」

石神

周りにバレてはいけないからな。本当の妻だと思うようにする

サトコ

「っ‥」

(心の声が読まれてた‥!)

心なしか照れた顔を見せる石神さんに、私の頬も熱くなる。

(嬉しい‥けど、ニヤけちゃダメ!)

石神

家の中では構わないが、外では敬語で話さないように

それから、名前で呼べ

サトコ

「あ‥そうですよね。夫婦なのに姓で呼んでたらおかしいですよね」

「秀樹‥さん‥?」

石神

‥もっと自然に呼べ

サトコ

「秀樹さん‥」

石神

ああ、それでいい

(石神さん、心なしか耳まで赤い気が‥?)

こうして、色々な意味で波乱を予感させる擬態捜査が始まったのだった。

【家先】

石神さんを見送り、私はホッと一息つく。

(日中家を空けるわけにはいかないから、学校には行けないし‥)

(お向さんの動向に気を付けてよう)

ひとまず、家の中に入ろうとした時、

家の前の通りに宅配便のトラックが止まった。

(お向かいさんへの荷物?)

私は塀を身を隠し、そっと様子を見る。

宅配便

「笹岡さーん、お荷物でーす」

笹岡妻

「はーい」

宅配便

「ちょっと個数多いですけど、大丈夫ですか?」

笹岡妻

「はい。玄関の方まで入れて頂いていいですか?」

宅配便のトラックから下ろされるのは、大きな段ボール5つ。

女性はキョロキョロと周りを気にしている様子だ。

(あんなにたくさんの荷物‥もしかして‥)

段ボールは無地のもので、どこから送られたものかはわからない。

(届いた時間と段ボールの個数、宅配便のトラックのナンバーを控えておこう)

携帯している手帳にさっと書き留め、宅配業者がいなくなるまで様子を窺っていた。

【家中】

サトコ

「とりあえず、荷物のこと石神さんに報告しなきゃ!」

携帯を取り出すと、すぐに石神さんから着信が入る。

サトコ

「は、はい!」

石神

別の場所から監視している捜査員から連絡があった

ターゲットが2階ベランダに洗濯物を干し始めたそうだ

お前もすぐに洗濯物を干して、接触を図れ

サトコ

「了解です!あ、私からも1つ報告があります」

私は先ほどの段ボールの件を石神さんに報告する。

石神

わかった。宅配業者の方にも調べを回してみる。他に気が付いたことがあれば、すぐに連絡しろ

サトコ

「はい!私は今から2階に急ぎます!」

電話を切ると、洗濯物を持ち2階へと走った。

【ベランダ】

(あの人がターゲットの女性‥ごく普通の優しそうな奥さんに見えるけど‥)

私がベランダに出ると、向こうも気づいたのか微笑んで会釈をしてくれる。

(いい人そうに見えるけど、あの人が本当に薬物に手を出しているの‥?)

to be  continued

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