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石神 カレ目線 2話

「見捨てられない」

【個別教官室】

教官室で事務処理をしていると、氷川が教官室へやってきた。

氷川から資料を受け取ると、ふとテストが行われていたことを思い出す。

石神

‥一応、予習復習はきっちりしているようだな

サトコ

「え‥」

石神

抜き打ちのわりにはそれなりだったじゃないか

俺の言葉に、氷川はパッと顔を輝かせる。

石神

自分の立場を忘れないことだな。今日のテストにしても100点を取って当たり前だろう

サトコ

「はい‥次は頑張ります」

キツイ言葉を掛けるも、氷川は嬉しそうな顔をしていた。

(氷川は完全に努力家のタイプだろう)

(今回もこれだけの点を取るのに相当な努力をしたんだろうな)

サトコ

「失礼します‥」

氷川が頭を下げ、そして顔を上げた瞬間‥‥

石神

‥おい!

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氷川の身体がふらつき、倒れそうになる寸前のところでその身体を抱きとめる。

その衝撃で、俺のメガネが床に落ちた。

サトコ

「すみませ‥」

石神

動くな

サトコ

「っ‥」

氷川は何か言いたそうにするも、そのままゆっくりと目を閉じる。

石神

眠ったか‥

(顔色も悪い。かなり無茶をしたんだろう)

(しばらくこのままでいてやるか‥)

俺は最近の氷川の行動を思い返す。

(あのことがあってから、特に訓練に集中しているようだったな)

(苦手なものも、克服しようと自主練にも励んでいるようだし‥)

しばらくすると、氷川は目を覚ます。

石神

大丈夫か‥?

サトコ

「!!」

氷川は慌てて身体を離すと、申し訳なさそうな顔をした。

石神

大方、連日の無理が祟ったんだろう。昨日も徹夜か?

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サトコ

「‥‥‥」

石神

体調管理も仕事のうちだ。少し考えろ

サトコ

「はい‥」

説教をしながらも、氷川の肩を支える。

氷川の身体は思っていたよりも華奢で、そのまま腕の中に納まりそうなほど小さく感じた。

(俺の言葉を真に受けて、努力を重ねて‥こいつは本当に素直な性格なんだな)

身体を壊してまで頑張ろうとする氷川に、少しだけ胸が痛くなった。

【資料室】

数日後。

氷川の不正入学が成田にバレてしまうも、

成績トップをとるという条件で氷川は学校にいることを許された。

サトコ

「石神教官、お疲れ様です!」

石神

ああ

それから資料室で、氷川の姿をよく見かけるようになった。

(ほとんど毎日と言っていいくらい、ここにいるな‥)

資料を探しながらチラリと氷川を見ると、真剣な表情で教本に向き合っている。

俺は資料を見つけると、氷川の邪魔をしないように静かに部屋を出た。

【個別教官室】

(トレーニングも欠かさずしているようだし‥)

(いくら学校に残すためとはいえ、無理難題を押し付けてしまった)

前に他の教官にそれとなく聞いてみたが、氷川は積極的に講義を受けているようだった。

(トレーニングや勉強だけじゃない。アイツは補佐官の仕事も手を抜かずにやっている)

(‥今回ばかりは、少し手を貸すか)

俺は空いた時間を使い、テストで出そうな重要な個所をぎっしりとまとめた。

(かなり詰め込んだせいか、量が多くなったな‥これに目を通すだけでも大変だろう)

だが、氷川ならきっと出来る‥そんな気持ちが、どこかにあった。

【寮 入口】

寮に向かっていると、氷川と千葉の姿が目に入った。

サトコ

「あ、千葉さん!今帰り?」

千葉

「氷川、お疲れ」

同期と楽しそうに話し始める氷川に、思わずため息が漏れる。

(こんな時にのんきにおしゃべりか‥そんな余裕なんてないだろう)

石神

入口を塞ぐな

サトコ

「わ、すみません‥」

石神

「こんなところで立ち話とは、余裕だな氷川」

俺に気付いた氷川は、ハッとした表情をする。

サトコ

「千葉さん、お互い頑張ろうね」

氷川は千葉にそう言って、階段を駆け上がって行った。

石神

‥‥‥

(慌ただしい奴だな‥いや、マイペースと言った方が正しいか‥)

しかし、成績トップを目指して努力をし続けていることも事実だった。

(アイツは公安になるには素直すぎる)

(だけど‥もし、本当に成績トップをとって無事に卒業したら‥)

(どんな刑事になるのか、見ものだな)

【資料室】

ある日、資料室に行くと今日も氷川は勉強をしていた。

氷川がノートに書き込む音が聞こえていたが、しばらくしてその音が止む。

サトコ

「あの‥」

石神

なんだ

サトコ

「ここの解説を読めばなんとなくは理解できるんですけど、実際に講義を聞いてなくて‥」

先日の講義の際、別の講義を選択していたという氷川に、仕方なく説明を始める。

石神

構成員の顔を覚えていれば、いざという時の咄嗟の一歩に救われることがある

サトコ

「面識率‥」

説明が終わり、そのまま自分の仕事に戻った。

(よく根を上げずにここまで頑張れるものだな)

(きっと他の教官も‥あの成田も、こいつの努力を認めざるを得ないだろう)

サトコ

「‥‥‥」

石神

‥まだ何か聞きたいのか?

サトコ

「へっ‥い、いえ!」

「ああ、あの!ひとつお願いがあるんですけど‥」

「‥できれば、予習に付き合って頂けると嬉しいな‥なんて」

石神

‥は?

怪訝そうな顔をする俺に、氷川は必死に食らいついてくる。

(ここまで必死にならなくても、教えてやらないこともないが‥)

(自分から予習に付き合ってくれなど、素直すぎるにもほどがあるだろう‥俺にはないものだな)

サトコ

「実は‥私の友達がパティスリーコヤマでパティシエをしてるんですよ」

「よければそこのプリンを献上‥」

石神

‥賄賂のつもりか

サトコ

「はい」

(ここにきて賄賂とは‥ハッキリ言い過ぎだ。どれだけポジティブ思考なんだ‥)

呆れながらもプリンに乗せられ、

出来る時だけと条件を付けて氷川の予習に付き合うことになった。

それから数日後。

いつものように氷川の予習に付き合っているものの、今日はいつもと様子が違っていた。

サトコ

「取り調べなんですけど‥」

「こう、私にピッタリな効果絶大な必殺技なんてないものかと」

石神

‥‥‥

(どうしてここまで、尾行や取り調べに食いつくんだ?)

(もしかして‥何かあったか?)

石神

‥何か余計なことを考えているな

サトコ

「!」

(こいつは‥本気で公安になる気があるのか?いくらなんでも、顔に出すぎだろう‥)

(何かあったのは、確実だな)

石神

‥まあいいだろう

俺は氷川の質問に答える。

(もしかして、丸岡と何かあったのか‥?)

(‥万が一のことが起こらないとも限らない)

(氷川の動向にも注意しておくに越したことはない、か‥)

to be continued

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