カテゴリー

石神 カレ目線 6話

「喜怒哀楽」

【学校廊下】

潜入捜査からしばらく経ったある日。

俺は覚悟を決め、資料室に向かって歩いていた。

(氷川はまだ資料室にいるだろうか‥)

潜入捜査を終えた後、俺の中の氷川の立ち位置が確実に変化していた。

(あれからまた、ほとんど話をしていないが‥)

氷川が潜入捜査の前と同じように、資料室に通っていることは知っていた。

石神

‥‥‥

資料室の前に着き、ドアノブに手を掛けて一度制止する。

(このまま逃げていてはダメだ)

(しかし‥氷川が俺のことが“好き”というのは、俺の勘違いかもしれない)

(これを確認するためにも‥)

俺はドアノブを回し、資料室に入った。

【資料室】

資料室にやってくるも、そこには誰もいなかった‥

石神

もう帰ったのか‥ん?

机の上に広げられているノートを見つける。

イスに座ってノートに手を伸ばしパラパラとめくると、しっかりと勉強している様子が見て取れた。

石神

‥俺の目がなくても、真面目にやっているようだな

サトコ

「‥っ」

息を飲む音が聞こえ、顔を上げるとそこには氷川がいた。

(こうしてまともに顔を合わせるのは、いつ振りになるのか‥)

(少し前までは、ここでよく勉強を見ていたのにな)

氷川は俺の向かいに座ると、恐る恐る口を開いた。

サトコ

「あの‥この間の船のことなんですけど」

石神

なんだ

サトコ

「私のせいで‥石神教官にも迷惑が掛かったのではないかと‥」

石神

ああ、大いにな

俺の言葉に、氷川はシュンっと小さくなる。

石神

お前の行動のせいではない。俺も同じことをしたまでだ

サトコ

「え‥?」

石神

総司令官の立場で制止を無視して現場に乗り込むとは、なかなか貴重な体験をした

あの後俺は、上層部からこれでもかというほど嫌味を言われた。

(まあ、嫌味を言われるのは慣れてるからな。たいしたことじゃないが‥)

(それよりも‥自分があんな突発的な行動をとるなんて思いもしなかった)

黒澤や颯馬‥それに加賀や東雲にも、時折あの時のことをからかわれる。

(からかうとまではいかないが‥あの後藤ですら、あの話を持ち出すことがあるからな)

サトコ

「石神教官‥ひとつ、聞きそびれてたんですけど」

「あの時、私に確かめたいことがあるって言いましたよね」

石神

‥ああ

サトコ

「確かめてもないのに死なれたら困るって‥何を聞きたかったんですか?」

石神

‥‥‥

俺はすうっと息を吸い、真っ直ぐに氷川を見据えた。

石神

俺は‥俺のことが好きなのか

サトコ

「‥‥‥」

氷川は固まったまま、何も言わない。

(この反応は‥そうだと言っているようなものだろう)

サトコ

「‥‥‥」

石神

‥そうか

勘違いだったようだな

何も言わない氷川に痺れを切らし、席を立つと‥

サトコ

「‥好きです」

石神

‥‥‥

サトコ

「勘違いじゃないです‥勘違いなんかにしないでください」

(やはり、そうだったか‥)

(正直、俺の中で氷川に対する想いが大きいのも確かだ)

(だけど、俺は‥)

石神

‥そう言われても、やはり俺にはよく分からない

そういうことはもうずっと排除してきたからな

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-021

俺は自分の中の氷川への気持ちを、持て余していた。

石神

お前が刑事になりたいと言うのなら、教官としてできることをしてやろうと思った

サトコ

「‥迷惑だったから、距離を置いたんじゃないんですか?」

石神

ああ、迷惑だ

サトコ

「‥‥っ」

石神

‥お前がいないと、静かすぎて困る

サトコ

「‥え?」

俺は一歩一歩氷川に近づき、その身体を抱きしめる。

石神

確か、お前が言うには恋愛もそう悪いものではないんだったな

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-022

サトコ

「‥そ、そうですよ」

「邪魔に感じるときだってあるかもしれませんけど‥でも、悪いものじゃありません」

石神

なら、それを俺に教えてくれ

サトコ

「‥それって‥」

腕の中から伝わる温もりが、俺の中の想いを確定的なものへと変化させる。

(ああ、俺はいつのまにかー)

(こんなにも、氷川のことを好きになっていたのか)

(俺は今まで、仕事の邪魔になるものはすべて排除してきた)

(恋愛なんて、邪魔以外の何ものでもないと思っていた。だが‥)

(“恋愛もそう悪いものではない”‥氷川のこの言葉を、信じよう)

俺は氷川を抱きしめる腕に、力を込めた。

【水族館】(現在)

氷川の横顔を見ながら、あの時のことを思い返す。

(いつでも一生懸命で諦めることをせず、前を向いて努力を怠らない‥)

(そんな氷川に、自分でも気づかないうちに惹かれていたんだな)

(氷川のことをハッキリと意識したのは潜入捜査の時、か‥)

ボーっと考え込んでいると、気付いたら目の前に氷川の顔があった。

サトコ

「あの‥石神さん?ボーっとして、どうしたんですか?」

石神

‥俺はあの時から、氷川のことが好きだったのかと思っていたんだ

サトコ

「あっ‥」

俺は氷川を、腕の中に閉じ込める。

氷川の体温が伝わり、それが何よりも心地よかった。

サトコ

「い、石神さん!?」

石神

いい加減、慣れろ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-023

サトコ

「っ‥」

おでこにキスを落とすと、氷川の顔はみるみるうちに赤くなっていった。

サトコ

「こ、こんなところで‥」

石神

大丈夫だ

ここは陰になっているし、他の客は魚に夢中で、俺たちのことなんか誰も気にしていない

サトコ

「そ、そういう問題じゃないです‥」

そう言いながら服の裾をギュッと掴む氷川に、愛おしさが募って行った。

石神

女から男の家に行きたいなんて、大胆な発言は出来るのにな

サトコ

「違いますって!私はただ、純粋にブルーダイヤモンドを見てみたいと思っただけで‥」

石神

それじゃあ、俺の部屋に興味はないってことか?

サトコ

「そ、それは‥まったく興味がないわけではないですけど‥」

「‥って、何を言わせるんですか!?」

石神

フッ‥

腕の中で必死に弁明する氷川に、思わず笑みが零れる。

石神

お前はこれからもずっと‥変わらないんだろうな

サトコ

「ん‥」

今度は唇にキスを落とし、氷川を開放した。

サトコ

「い、石神さん‥」

(こうして一緒にいるだけで、こんな穏やかな気持ちになるなんて‥)

(確かに“恋愛もそう悪いものではない”のかもしれない)

俺は顔を真っ赤にしたままの氷川の手を取り、歩き始めた‥

End

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする