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カレのお願いごと 加賀 カレ目線

【花宅】

花の子守りをした数日後、姉貴から呼び出された。

美優紀

「今、東京スカイタワーで七夕イベントをやってるんだって」

「お客さんにチケット貰ったんだけど、私たち行けないし、アンタにあげるわ」

「サトコちゃんと行って来たら?この前のお礼に」

【教官室】

貰ったイベントのチケットを、ぼんやりと眺める。

(そういや、あの日はもともとアイツと出かけるつもりだったな‥)

(あのバカなら、こういうの尻尾振って喜びそうだし、連れて行ってやるか)

チケットをしまった時、教官室に歩とメガネ野郎が入ってきた。

東雲

‥兵吾さんって、意外とメルヘンですよね

加賀

あ゛?

石神

‥フッ

メガネに鼻で笑われて、カチンとくる。

加賀

テメェ‥なんのつもりだ

石神

いいんじゃないか、たまにはそういうのも

東雲

喜ぶのは兵吾さんか、それともどっかの誰かさんか‥

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2人の視線をたどると、さっき仕舞ったはずのチケットがポケットから見えている。

(チッ‥めんどくせぇ)

舌打ちをして、教官室を出た。

【教場】

その日の講義中、カクンカクンと揺れている頭を見つける。

(‥誰かと思ったら、あのバカか)

(俺の講義で寝るとは、いい度胸してやがる)

ハッと目を覚ましたり、首を振ったり、どうやら必死に睡魔と闘っているらしい。

ホワイトボード用のマーカーを手に取ったところで、講義終了のチャイムが鳴り響いた。

加賀

‥チッ

男子訓練生A

「なあ‥加賀教官、いま舌打ちしたよな?」

男子訓練生B

「俺たちをいたぶり足りなかったとか‥?」

加賀

‥クズが、命拾いしたな

サトコに言ったつもりだったが、なぜか他の連中が真っ青になる。

逃げ出すように教場から出ていく訓練生の中、アイツはまだ座ったままだった。

加賀

おい、クズ

サトコ

「!?」

(‥ボケッとしやがって。まだ寝てたのか)

(他の野郎にそんな無防備な顔見せてんじゃねぇ)

サトコ

「な、なんでしょう‥?」

加賀

後で俺の教官室に来い

返事も聞かず、教場を出る。

ビクつくサトコの姿を見てると、不思議とさっきまでの苛立ちがなくなっていた。

【個別教官室】

サトコ

「失礼します‥」

恐る恐る教官室に入ってきたサトコは、俺の機嫌を窺うように視線を外す。

その様子に満足した俺は、更に睨み追い打ちを利かせる。

サトコ

「ぐ、グラウンド何周すればいいですか!?」

加賀

あ?

サトコ

「それとも、資料整理ですか!?」

「な、何をしたらいいですか!」

加賀

チッ‥

(どこまでマゾなんだ、こいつは)

加賀

やりたきゃ好きにしろ

サトコ

「え?」

加賀

この前、ガキの子守りに付き合わせた礼だ

チケットを渡すと、サトコの表情が一転して晴れる。

サトコ

「もしかして‥デートですか!?」

加賀

ニヤけてんじゃねぇ

サトコ

「すみません!スカイタワー前に18時ですね!」

加賀

俺を待たせたらどうなるか‥わかってるな?

サトコ

「はい!絶対に加賀さんよりも早く行きます!」

チケットを見て目を輝かせるサトコを見ると、勝手に口の端が持ち上がった。

(‥花に感謝するか)

サトコ

「ところでこのチケット、どうしたんですか?」

加賀

姉貴がよこした

サトコ

「じゃあ、美優紀さんに感謝ですね!」

加賀

しなくていい

サトコ

「えっ!?でも、美優紀さんがくれたんですよね?」

首を傾げるサトコを見て、苦笑いを隠しきれなかった。

【東京スカイタワー】

デート当日、待ち合わせ場所へ来るとサトコはまだ来ていないようだった。

(あのバカ‥俺を待たせるとはどういう了見だ)

(‥まだ、待ち合わせの15分前か)

予定よりも随分早く着いてしまったらしい。

(さすがにこれは、アイツの方が遅くても仕方ねぇか)

(‥最近、アイツを待つことが多いな)

喫煙場所まで移動して、タバコを1本咥える。

(別に、アイツが遅刻してくるわけじゃねぇ‥)

(‥俺が、待ち合わせ時間よりもだいぶ早く来てるってことか)

加賀

‥どんだけハマってんだ、あのクズに

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自嘲気味に笑い、煙を吐き出す。

(他人のために動こうなんざ、考えたことすらねぇ)

なのに最近は、仕事以外ではアイツのことを考える割合が大きい。

(一番のバカは俺だな‥)

タバコを吸い終わり、火を消したとき、

サトコが向こうからキョロキョロしながら歩いてきた。

(‥気づいてねぇのか)

時計を見ると、待ち合わせの10分前だった。

(まぁ、クズにしちゃ上出来だ)

自分の方が早く着いたと思っているのか、サトコが満足そうにスカイタワーの入口に立つ。

近づいて、後ろから声を掛けた。

加賀

遅ぇ

サトコ

「!?」

加賀

いつまで待たせんだ、クズ

サトコ

「も、もう来てたんですか!?早めに家を出たはずなのに‥!」

サトコに背を向け、入口へ向かう。

慌てた様子のサトコは従順に追いかけて来た。

【スカイタワー内】

七夕イベント中のスカイタワーは、どこを見てもカップルだらけだった。

(他にやることねぇのか、この雑魚どもは)

舌打ちする俺の隣で、サトコが目を輝かせて天井を仰ぐ。

サトコ

「すごいですね!綺麗‥!」

加賀

‥‥‥

(‥傍から見りゃ、俺たちもこの雑魚どもと同じか)

人混みは面倒だが、サトコのこの顔は悪くない。

サトコ

「この星のライトアップってやっぱり七夕が近いからでしょうか」

加賀

七夕イベントだからな

サトコ

「そうなんですか‥確か織姫って、こと座でしたよね?」

「あ!あれかな?」

サトコが、明後日の方向を指さす。

加賀

‥こと座はあっちだ

サトコの頭を持って、グイッと回転させた。

サトコ

「痛い!加賀さん、もっと優しくお願いします!」

加賀

喚くな

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サトコ

「頭、もげる‥」

文句を言うサトコを放って天井を見上げると、意外にしっかりとした作りだと気付いた。

(ちゃんと光の強さも表現してるのか‥)

(案外、クオリティ高ぇな)

七夕のアナウンスが流れ、それに沿って歩き出す。

ふと隣を見ると、サトコが寂しそうに天の川を眺めていた。

(‥くだらねぇこと考えやがって)

迷子防止に手を取ると、ようやくその表情が緩んだ。

(テメェの頭でいくら難しいことを考えても無駄だ)

(余計なことなんざ考えてねぇで、黙って俺の隣にいりゃいい)

まるで俺の考えを察したかのように、サトコが軽く手を握り返してきた。

【スカイタワー外】

短冊を見てから、サトコが分かりやすくソワソワし始めた。

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(相変わらず、考えていることがだだ漏れだな‥)

(あんなただの紙切れに何書いたって、意味ねぇだろ)

サトコ

「あの‥加賀さんは、七夕にお願い事とかしたことありますか?」

加賀

興味ねぇな

サトコ

「でも、もしかしたら織姫と彦星が叶えてくれるかもしれませんよ」

加賀

正気か?

サトコ

「そんな神経を疑う、みたいな顔で見なくても‥」

加賀

‥‥‥

(願い事か‥)

叶えばいいと思うことはあっても、わざわざそれを形にしたことはない。

だがコイツは俺の願い事が気になっているらしく、やたらと食い下がってくる。

サトコ

「加賀さんは、どんなお願いするんですか?」

加賀

テメェで考えろ

そう言ったものの、願い事と言われても特に浮かばない。

サトコ

「昇進‥とかはないですよね。自分の力でできるし」

「あ!花ちゃんに素敵な彼氏ができますようにとか」

加賀

まだ早ぇ

しゅんとなるサトコを見て、ふとさっき考えたことを思いだした。

(余計なことなんざ考えずに、黙って俺の隣にいりゃいい‥か)

(もしかして、今の俺の願いは‥)

サトコ

「えーっと‥もしかして私のこととか‥」

加賀

‥‥‥

珍しく考えを見透かされたのかと、気に入らない。

(‥テメェは俺の短冊にでもなったつもりか?)

(そこまで聞いたからには、しっかり願い事叶えてくれんだろうな)

慌てふためくサトコを見て、心の中で笑う。

(たとえテメェにそのつもりはなくても、もう逃げられねぇ)

(‥逃がすつもりも、ねぇ)

俺の笑みを見て、サトコがびくびくと震えている。

その様子に、また気持ちが持っていかれる。

(‥どうしようもねぇ)

(信じたこともねぇ織姫と彦星に願うほど)

(俺は‥コイツを)

サトコの顎を持ち上げて、自分の気持ちを再確認した。

End

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