カテゴリー

ヒミツの願い 難波 1話

イケメン総選挙 2015

アナタにしてほしい カレのお願いごと‥♡

【外出先】

とある休日、コンビニへ出かけた帰り道、突然の雨に襲われた。

(さっきまで晴れてたのに、急に降ってくるなんて‥)

(走って帰れる感じでもないし、しばらくここで雨宿りさせてもらおう)

サトコ

「はあ‥それにしても、ツイてないな」

???

「この雨じゃ、織姫と彦星も会えないかもしれないな」

(え!?)

ロマンチックな台詞に振り返ると、そこに立っていたのは、空を見上げる難波室長だった。

サトコ

「あの、今のって‥」

(聞き間違い‥?)

難波

ん?何の話だ?

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-008

サトコ

「あ、いえ‥あの、お疲れさまです」

難波

ああ

サトコ

「室長も雨宿りですか?」

難波

いきなり降ってきたからなー

そうだ、コーヒーでも飲むか?

サトコ

「!?」

思わず、室長を二度見してしまう。

難波

なんだ?

サトコ

「い、いえ‥」

(珍しい‥!いつもは教官たちに奢らせてるのに‥)

難波

まだ止まなそうだしな

時間があるなら、ちょっと休んでいくか

サトコ

「え‥」

見ると、私たちが雨宿りしているのは喫茶店の軒下だった。

サトコ

「いいんですか?お時間は‥」

「って、いないし!」

喫茶店に入っていく大きな背中が見えた。

(相変わらずマイペース‥というか、ゆるい‥)

【喫茶店内】

窓際の席に、室長と向かい合って座る。

お互いに注文した後に、会話が途切れてしまった。

(教官室とかならまだしも、こんなところで室長と2人きりって気まずい‥)

(っていうか、気恥ずかしいな‥それに、緊張するし)

サトコ

「えーと‥室長もお買い物ですか?」

難波

ん?ああ、コンビニにタバコ買いにな

サトコ

「私も今、コンビニ行ったんですよ。どうしてもプリンが食べたくて」

「でも売り切れで、結局杏仁豆腐買って帰ってきたんですけど」

「あ!プリンと言えば石神教官ですね!」

難波

ああ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-009

サトコ

「石神教官って昔からプリン好きなんですか?」

「あ、加賀教官は柔らかいものがお好きだとか」

「室長も、好きなものとかありますか?」

必死に会話を盛り上げようとしたけど、室長は「んー」とか「あー」とか言うばかりだった。

(な、なんか一人で空回っている気がする‥)

(でも、何か話していないと気まずいというか‥)

店員

「お待たせしました。こちら、特製シュークリームです」

サトコ

「あ、はい!私です!」

難波

へー、デカいな

サトコ

「特製って言われたら、食べるしかないですよね!」

私が食べている間、室長はゆったりとコーヒーを口にしている。

店内に流れるジャズのBGMに、聴くともなしに耳を傾けた。

(あれ‥?なんか別に、会話がなくても気まずくないかも)

(むしろ、沈黙が心地いい‥室長もぼんやり外見てるし‥)

難波

‥タオルだな

サトコ

「はい?」

難波

さっきの。それと、タバコと酒だ

サトコ

「‥‥‥」

(タオル‥?なんの話‥?)

(‥あっ!?もしかして、『好きなもの』の話題!?)

再び沈黙が訪れたけど、やっぱり気まずさはなかった。

(不思議だな‥室長が大人だから?)

(これが大人の余裕ってやつですか‥)

ふと、コーヒーカップを持つ室長の左手に視線が行く。

薬指には、結婚指輪。

(既婚者なんだよね‥なんか想像できないけど)

(奥さん、どんな人なんだろう?奥さんとも、こうやって会話しないでのんびり過ごすのかな)

そう思うと、なんとなく胸が痛む気がする。

この間の合宿から、室長を見るとなぜか胸が騒いだ。

難波

小降りになってきたな

窓の外を見ると、確かに雨足はだいぶ弱まってきている。

サトコ

「今なら、走ればそんなに濡れずに帰れそうですね」

難波

そうだな。そろそろ出るか

私がシュークリームを食べ終えたのを確認して、室長が席を立った。

【喫茶店外】

その後、私がお手洗いに行っている間に、お会計は済んでいた。

サトコ

「室長、お金は‥」

難波

ほら

私の言葉を遮り、室長が傘を差し出す。

サトコ

「これ、どうしたんですか?」

難波

マスターが、1本だけ残ってた傘を貸してくれた。お前が使え

サトコ

「でも‥」

雨足は弱まったとはいえ、まだ降り続いている。

サトコ

「室長はこの後、学校に戻られるんですか?」

難波

ああ。まだ仕事が残ってるからな

サトコ

「私も、寮に戻るんです。同じ方向だし‥」

「よかったらご一緒しませんか?」

私の提案は予想外だったのか、室長が少し目を見張る。

難波

なんだ、こんなおっさんと相合傘してくれるのか?

サトコ

「え?」

(相合傘‥?あ!)

サトコ

「い、言われてみればそうですよね‥いや、あの、そうつもりじゃなくて」

「あ、だけど決して、嫌とかじゃなくてですね‥!」

難波

わかったわかった

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-010

苦笑いしながら、室長が傘を広げる。

難波

ほら、入れ

サトコ

「は、はい‥失礼します‥」

難波

傘をさすか、微妙な降り方だしな

サトコ

「そうですね。また急に降ってくるかもしれませんし」

難波

そうなんだよな。それがなぁ

【商店街】

ぼやきながらも、室長は私の歩調に合わせて歩いてくれる。

トン、と肩が触れて、恥ずかしくなって慌てて離れた。

難波

‥雨に濡れちまうけどいいのか?

サトコ

「え‥?」

難波

んー‥小降りとはいえ、なかなか止まないな

サトコ

「そ、そうですね」

(私と室長って、周りからはどう見えてるんだろう‥)

(娘と父親‥?いや、さすがにそれはないか‥)

いつかの合宿で、『乳くさい』と言われたことを思い出す。

(でも、他のホステスさんとは楽しそうに話してたし)

(派手な格好すれば、私も子ども扱いされなくなる‥?)

無意識のうちに、そんなことを考えている自分に驚く。

その瞬間、強く腕を引っ張られた。

難波

氷川

サトコ

「!」

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-011

気が付くと、室長に抱きしめられるように胸に顔を埋めて、その腕の中にいた。

私たちのすぐそばを、車が走り抜けていく。

サトコ

「す、すみません!」

難波

大丈夫か?気を付けろよ

サトコ

「はい‥」

室長からは、ふわりといい匂いがする。

タバコの匂いのイメージが強かったので、微かに胸が高鳴った。

(柔軟剤の香り‥?)

難波

お前はこっち側歩け

身体を離すと、室長が私の腕を引っ張って歩道側に移動させる。

難波

気付かなくて悪かったな

サトコ

「わ、私こそぼんやりしてて、すみません‥」

(普段は適当そうだし、何考えてるか分からないけど、やっぱりモテそう)

【寮門】

寮の近くまで来ると、学校との分かれ道で室長が立ち止まる。

サトコ

「そうだ!室長、さっきのお金‥」

難波

ああ、いらんいらん

サトコ

「そういうわけにいきません。ちゃんと払います」

食い下がる私に、室長が少し考えるしぐさを見せる。

難波

そーだなぁ‥なら、また付き合ってくれ。それでいい

サトコ

「え‥」

難波

な?

大きな手で、頭をくしゃっと撫でられる。

微かな固い感触が、なぜか印象に残った。

(指輪の、感触‥)

どうして、こうも複雑な気持ちになるのか。

それに気付かないフリをして、室長の言葉に小さく頷いた。

サトコ

「じゃあ‥お言葉に甘えて」

難波

そうそう。若者は素直な方がいい

ぐっ、と室長が私に傘を差し出す。

難波

ここからはお前が使え

サトコ

「でも、室長が濡れちゃいます」

難波

これくらいなら大丈夫だ

私に傘を握らせると、室長が急ぐ様子もなく学校の方へ歩いていく。

サトコ

「室長!ありがとうございました!」

私を振り返らないまま、室長がひらひらと手を振る。

(左肩、濡れてる‥私が歩いていた方とは反対側‥)

(‥私が濡れないように、傘を傾けてくれてたんだ)

そのことにお礼を言おうとしたけど、室長の姿はもう小さくなってしまっている。

(大人って‥ずるいな)

自分の中に芽生えようとしている気持ちにフタをして、私も寮へと足を向けた。

End

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする