カテゴリー

塩対応 プロローグ

【グラウンド】

サトコ

「えっと‥こ、こうですか?」

石神

違う!もっと力を抜け

サトコ

「で、でも‥力を抜いたら‥」

石神

どこを見ている。お前は俺だけに集中しろ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-001

(そ、そんなこと言われても‥!)

鳴子

「サトコ、力みすぎだよ!」

千葉

「女性が男性を押さえ込むには、力では負けちゃうから」

「相手の動きを封じるように、ポイントを押さえないと」

石神

その通りだ

石神教官との犯人取り押さえ訓練中、鳴子たちからも応援が入る。

石神

他の者は、みんなできているんだがな

サトコ

「す、すみません!相手の腕を取るのがなかなか難しくて‥」

成田

「結局今日も、お前が最後か」

犯人役の成田教官が、嫌味な笑みを浮かべて歩いてきた。

成田

「こんな簡単なこともできずに、刑事になりたいとは笑わせる」

サトコ

「うっ‥」

成田

「まったく、出来が悪い訓練生を持つと大変だな、石神」

石神

はぁ‥まったくです

(っ!!石神教官にも、『出来が悪い』って思われてる‥!)

(分かってたことだけど、そんなこと言われなくても‥)

【更衣室】

石神教官の講義が終わると、落ち込みながら鳴子と一緒に更衣室に入る。

サトコ

「はぁ‥さっきは散々だったなぁ」

鳴子

「成田教官に捕まっちゃったのが運のツキだったね」

「私は犯人役が颯馬教官だったから、優しかったけど」

サトコ

「いいな‥でも千葉さんは加賀教官だったんだよね?」

鳴子

「うん‥怖くてなかなか捕まえられなかったって言ってたよ」

サトコ

「最恐の犯人役だもんね‥」

「うっかり捕まえても返り討ちにあいそうだし、捕まえなくても叱られそうだし‥」

ジャージを脱いでから、ロッカーに制服が入っていないことに気付く。

サトコ

「そうだ‥今日はジャージで学校に来たんだった!」

鳴子

「もしかして、寮に制服忘れた?」

サトコ

「そうみたい‥ちょっと取ってくるね!鳴子、先に行ってて」

鳴子

「え‥サトコ!?ちょっと待って!」

鳴子の悲鳴のような声と、更衣室のドアを開けるのとはほぼ同時だった。

【廊下】

ドアを開けると同時に、鳴子の声が飛んでくる。

鳴子

「サトコ!その格好で取りに行くの!?」

サトコ

「‥え?」

(‥そうだ!私、ジャージの上着、脱いだまま‥!)

自分の格好を見ると、下着が透けてしまっているキャミソール1枚の姿だった。

東雲

うわー‥

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-002

その声に顔を上げると、東雲教官が虫けらを見るような視線を向けている。

慌てて身体を隠したけど、何もかもが遅かった。

サトコ

「し、東雲教官!!!」

「あの‥すみません!」

東雲

キミってほんと、変質者だよね

サトコ

「変質者!?」

東雲

刑事希望のくせに、公然わいせつ罪で捕まる日も遠くなんじゃない?

サトコ

「公然わいせつ罪‥」

東雲

粗末ではしたないものを、そんなに見せびらかしたいわけ?

サトコ

「粗末ではしたない‥」

(そ、そこまで言わなくても‥!)

しかし、返す言葉もなく、静かにドアを閉めるしかなかった。

急いで制服に着替えて、鳴子と一緒に廊下を走る。

鳴子

「早く早く!次の講義、間に合わないよ!」

サトコ

「うん‥鳴子まで巻き添えにしてごめんね」

話ながら走っていると、向こうから後藤教官が歩いて来るのが見えた。

サトコ

「後藤教官!お疲れさまです!」

後藤

‥‥‥

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-003

(‥あれ?)

鳴子

「サトコ!急いで!」

サトコ

「う、うん‥」

(後藤教官、こっちを見てもくれなかった‥聞こえてなかったのかな?)

【教場】

鳴子と一緒に、ギリギリの時間に教場に飛び込む。

颯馬

あなたたちが最後ですよ

サトコ

「遅くなってすみません!」

千葉

「2人とも、こっちこっち」

鳴子

「千葉くん、席取っておいてくれたんだ」

サトコ

「ありがとう、千葉さん」

手招きする千葉さんの隣に座ると、早速颯馬教官が口を開いた。

颯馬

では、この間の小テストを返します

‥‥‥

(‥ん?颯馬教官、こっち見た‥?)

颯馬

教官たちが厳しい、課題が多い、毎日の訓練で疲れている‥

いろいろと理由はあるでしょうが、その合間の勉強も大事です

また、颯馬教官がこちらをチラリと見た気がした。

颯馬

成績が悪いのは自分の責任ということを、忘れないでくださいね

今度はハッキリ、目が合った。

颯馬教官の意味深な笑顔に、訓練生たちはゴクリとつばを飲み込む。

(まさか‥)

ゾクゾクとイヤな予感がしていると、一人ずつ、颯馬教官が名前を呼んでいく。

颯馬

‥サトコさん

サトコ

「は、はい‥」

恐る恐る教卓の方へ向かうと、颯馬教官がニッコリ笑った。

(あれ?意外と悪い点数でもない‥とか‥?)

颯馬

貴女には、補習が必要のようですね

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-004

サトコ

「えっ?」

颯馬

いったいどうしたら、こんな点が取れるんでしょう?

その笑顔とは対照的に怒りを含んだ声に、教場内がざわめく。

男子訓練生A

「おい‥あれ、絶対怒ってるだろ、颯馬教官‥」

男子訓練生B

「ものすごい怒りのオーラが滲み出てるな‥」

颯馬

どうしますか?特別補習という方法もありますが

その場合、勉強以外の記憶がなくなるまで、みっちりやりますけど

サトコ

「勉強以外の記憶がなくなるまで‥!?も、申し訳ございません、復習して出直します!」

鳴子

「サトコ‥あの颯馬教官を怒らせるなんて」

千葉

「何点だったのか、聞くのも怖いね‥」

みんなの視線を一身に浴びながら、肩を落として鳴子たちのところへ戻る。

(はぁ‥なんか今日はツイてないな。いや、点数が悪いのは自分のせいなんだけど)

(きっと今日は、運が悪い日なんだ‥)

席に座ると、私の点数を見た鳴子たちが絶句した。

鳴子

「これは‥怒られるのも仕方ないわ‥」

千葉

「氷川‥がんばれよ‥」

サトコ

「うん‥」

(そうだ‥まだ午前中なんだし、これから頑張ればきっと午後からの運勢は回復するはず!)

(終わってしまったテストの点は変えられないけど、未来は努力次第で変えられるよね)

颯馬教官の講義が終わった後、そう意気込んでいると、恐ろしいほど冷たい声が響いた。

颯馬

サトコさん、ちょっといいですか?

サトコ

「はい‥」

颯馬

テスト最下位の罰として、全員分のノートを後藤教官へ届けてください

サトコ

「わ、わかりました!」

鳴子

「やっぱり最下位だったんだ‥」

千葉

「あの点じゃ、ダントツだろうな‥」

みんなの憐みの視線を感じながら、ノートを抱えて教場を出た。

【廊下】

(後藤教官に届けるってことは、教官室に持っていけばいいのかな)

廊下を歩いていると、さっきと同じ場所で後藤教官を見つける。

サトコ

「後藤教官!これ、颯馬教官から預かりました!」

後藤

‥‥‥

サトコ

「教官室に持っていけばいいですか?」

後藤

‥あ、ああ

そっけなく返事をし、後藤教官が私の側を通りすぎていく。

(‥後藤教官?)

(そういえばさっきも、挨拶したけど見向きもされなかった‥)

サトコ

「もしかして、颯馬教官から私のテストの点数を聞いて‥?」

「それとも、石神教官から『出来が悪い』って言われたことかも‥」

(まさか、東雲教官があのスケスケキャミソール事件のことを話しちゃったとか‥!?)

(どうしよう‥後藤教官に嫌われてる!?)

鳴子

「いたいた、サトコ!ノート運ぶの手伝うよ」

千葉

「一人で全員分なんて大変だろ?」

サトコ

「鳴子‥千葉さん‥」

優しい2人の言葉に、つい泣きついてしまった。

鳴子

「後藤教官に無視された?」

千葉

「うーん‥でもどんな理由があっても、無視するような人ではないと思うんだけどな」

サトコ

「私もそう思うけど‥」

鳴子

「きっと聞こえなかっただけだよ。ほら、早く教官室にノート運んじゃおう」

「もうすぐお昼だし、カフェテラス行こうよ。美味しいもの食べたら元気出るって」

鳴子たちに慰められて、教官室にノートを置いた後カフェテラスへ向かった。

【カフェテラス】

今日のメニューを見ると、オススメはエビフライ定食だった。

(大好きなエビフライ定食‥!やっぱり午後は運気が上がったかも)

(これを食べたら、午前中の出来事がチャラになりそう!)

サトコ

「おばちゃん、エビフライ定食ひとつ!」

おばちゃん

「あらーごめんね。今さっき最後のひとつが出ちゃったのよ~」

サトコ

「え!?」

鳴子

「残念‥でもほら!ビーフシチューも好きだったでしょ?」

おばちゃん

「ごめんねー、それもさっき終わっちゃったの」

千葉

「あ!じゃあ、こっちのハンバーグ定食‥」

おばちゃん

「それも限定10食だからね、すぐに売り切れちゃったのよ~」

サトコ

「そ、そんなぁ‥」

(す、好きなものがことごとく売り切れ‥何この不運‥!?)

泣く泣く、鳴子たちと一緒にお蕎麦をすする。

サトコ

「私、今日は呪われてるかもしれない‥」

鳴子

「考え過ぎだって!そういう日もあるよ!」

千葉

「そうだよ。人生、上手く行かないことの方が多いって」

難波

おいおい、その若さでなに達観したようなこと言ってんだ

振り返ると、難波室長がのんびり歩いて来るのが見えた。

サトコ

「室長‥」

難波

どうした?氷川、辛気臭い顔して

サトコ

「自分のダメさ加減が憎いです‥」

難波

なんだなんだ、氷川らしくないな

コトン、と室長が私の前にDOSSを置く。

難波

これでも飲んで、元気出せ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-005

サトコ

「ありがとうございます‥」

難波

何があったか知らんが、あんまり深く考えすぎるなよ

サトコ

「はい!」

難波

あ、それと‥そのDOSSシールは石神に渡してくれ

手を振り、室長がカフェテリアを出て行った。

(今は、室長の優しさが身に沁みる‥)

(ありがたくいただこう‥そしてシールは、あとで石神教官に持っていこう)

東雲

あ、スケスケキャミソールの変態さんだ

サトコ

「!?」

千葉

「スケスケキャミソール‥?」

サトコ

「な、なんでもないよ‥!」

「東雲教官!それはどうかご内密に‥!」

東雲

なら、口止め料としてちょっと手伝って欲しいんだけど

サトコ

「わ、わかりました!」

(下着が透けた姿を見られたなんて、絶対誰にも知られるわけにいかない‥!)

(ましてや、あんな色気のない下着だなんて‥!)

急いでお蕎麦を食べ終えて、東雲教官を追いかけた。

【資料室】

資料室にやってくると、東雲教官が大量の書類とファイルをテーブルに置く。

東雲

最近起きた事件をファイリングするだけだから

サトコ

「かなりの量ですね‥」

東雲

みんなやらないから、だいぶ溜まっちゃったんだよね

じゃあ、頼んだよ

サトコ

「え!?ちょ、東雲教官!」

(まさか、私一人でやるの!?)

東雲

早く終わらせないと、兵吾さんに怒られるから

じゃあ、頑張って

サトコ

「怒られるって‥私がですか!?」

(それは怖い‥命が危ない!)

サトコ

「それにしても、この量を一人でなんて、今日はほんとにツイてないな」

(って、落ち込んでる場合じゃない、早く終わらせないと)

加賀教官が眉間に皺を寄せた顔が思い浮かんで、慌ててファイリングを始める。

急いだ甲斐あってか、思ったよりも早く終わらせることができた。

【教官室】

ファイリングした資料を持って教官室を訪れると、東雲教官が悠然と座っていた。

東雲

なに?終わったの?

サトコ

「はい。これ、どこに置けばいいですか?」

東雲

いま兵吾さん不在だから、そこの机の上に置いといて

特に急ぎの仕事がある様子もない東雲教官に、そう告げられる。

(暇なら、手伝ってほしかった‥)

とりあえず加賀教官のデスクにファイルを置いて、教官室を後にした。

【カフェテラス】

教官室を出て寮に戻ろうとすると、鳴子たちが待っていてくれた。

鳴子

「サトコ、お帰り~」

千葉

「結局一人でやったの?」

サトコ

「うん‥でも思ったより早く終わったよ」

鳴子

「‥‥‥」

書類整理が終わってホッとする私を、鳴子が無言で見つめてくる。

サトコ

「どうしたの?」

鳴子

「サトコって、男に尽くすタイプだよね」

サトコ

「へ?」

鳴子

「頼まれても絶対に断らないし、文句も言わないし」

「千葉さんも、そう思うでしょ?」

千葉

「え?えーと‥」

(千葉さん、なぜか顔が赤い‥)

鳴子

「でも、そんなんじゃいつか痛い目見るよ!」

「女の子は、やっぱ尽くされた方が幸せなんだよ」

サトコ

「そ、そうかな‥?」

鳴子

「二番目に好きな人と結婚した方が、幸せになれるって言うでしょ?」

「もったいないよ!サトコはもっと男に尽くされなきゃ!」

(うーん尽くされる、か‥)

(もしあの人が、私に尽くしてくれたら‥)

その姿を想像して、思わず首を振る。

(いやいや!今だって十分優しくしてもらってるし‥)

(それに、尽くしてるって自分では思ったことないからな‥)

千葉

「大丈夫だって!相手に尽くすのが氷川の魅力なんだから!」

サトコ

「え?そ、そうかな」

鳴子

「それは、千葉さんがサトコに尽くしてほしいからじゃないの?」

千葉

「ち、違うよ!」

加賀

おいクズ

空気が一気に張りつめて、不穏な何かが漂う。

(こ、この声は‥)

加賀

聞こえねぇのか

そこの、クズ以下のクズが

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-006

(クズ以下のクズ‥!ものすごく心臓に突き刺さる言葉‥)

サトコ

「あの‥それはもしかしなくても、私のことでしょうか‥?」

加賀

テメェ以外に誰がいる

さっきの書類を整理したのは、テメェか

サトコ

「そ、そうですけど‥」

加賀

誰があの書類をファイリングしろって言った

サトコ

「え?でも東雲教官が‥」

加賀

必要なのはあれじゃねぇ。次の年の事件の資料だ

資料室に書類を置いてやったから、さっさとファイリングしてこい

サトコ

「え!?またですか!?」

加賀

やるよな?嫌とは言わせねぇ

鋭い眼光で睨まれて、背筋が伸びる。

サトコ

「は、はい!氷川サトコ、喜んで引き受けます!」

鳴子

「ご愁傷様‥」

千葉

「やっぱり氷川って、とことん尽くすタイプだよな‥」

鳴子

「でしょ‥?」

2人の声を聞きながら、泣く泣く資料室へ戻った。

【校門】

ようやく資料整理を終えて、暗くなってから学校を出た。

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-007

(今日は散々だった‥厄日だったのかな‥)

千葉

「氷川、お疲れさま」

サトコ

「千葉さん?どうしてここに」

千葉

「そろそろ終わる頃かなって思って、待ってたんだ」

「いくら学校から寮まで目の前でも、こんな時間に一人で歩くのは危ないだろ?」

つらいことばかりだったので、その優しさに泣けてくる。

寮まで一緒に帰る間、千葉さんに自分のダメさについての愚痴を聞いてもらった。

サトコ

「はぁ‥千葉さんに話したら、すっきりしちゃった」

千葉

「氷川は全然ダメじゃないよ。すごく頑張ってると思う」

「教官たちも、きっとちゃんと見てくれてるから」

サトコ

「うん‥ありがとう」

千葉

「ところで、なんかいろんなことがあったけど」

「今日1日の出来事で、氷川がい一番つらかったことって‥何?」

(今日一番つらかったことは‥)

<選択してください>

A: 教官からの無視

B: クズ以下のクズ

C: 出来が悪いと言われた

D: 笑顔で怒られた

E: 公然わいせつ罪

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする