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塩対応 加賀 2話

飲み会はお開きになり、私たちは居酒屋を出る。

(加賀さんに尽くしてもらえる、千載一遇のチャンス‥!)

(これを逃す手はない!)

でも、勢い込んだのはいいものの、具体的にどうすればいいのかわからない。

サトコ

「えっと、加賀さん‥あの」

加賀

帰り、家に来い

サトコ

「へ?」

加賀

犬のくせに、聞こえなかったのか?」

サトコ

「い、いえ!聞こえました、バッチリ!」

東雲

オレにもバッチリ聞こえたけどね

黒澤

そうですね!バッチリ!

サトコ

「!!!」

「か、加賀教官、酔っ払ってるんですか!?」

「今のは何て言うか‥じょ、冗談ですよね!?ははは‥」

ニヤニヤするふたりに慌てる私とは裏腹に、加賀さんは特に気にも留めていない。

(他の人に聞こえる距離で、部屋に誘うなんて‥絶対、間違いなく酔ってる‥!)

(酔った加賀さんって、何がどうなるんだろう‥?想像できなすぎて、怖いような楽しみなような)

東雲教官や黒澤さんの反応を窺いながら、小さく頷いた。

【加賀の部屋】

教官たちからなんとか逃れて、私は加賀さんの家にやってきた。

サトコ

「お邪魔しちゃって大丈夫でしたか?」

加賀

ああ

まだ酔いは醒めていないらしく、加賀さんがソファにどさりと身を投げ出す。

サトコ

「今、お水持って来ますね。ちょっと待っててください」

キッチンから水の入ったコップを持ってくると、加賀さんがテーブルを指した。

加賀

そこに置いとけ

サトコ

「でも、何か飲んだ方が」

加賀

喚くな

腕を掴まれて、強引にソファに座らされ、後ろから抱きしめられた。

サトコ

「か、加賀さん?」

加賀

‥さっきの話、本当か?

サトコ

「え‥」

加賀

テメェも、その辺のクズ女と一緒か?

さっきの加賀さんの言葉を思い出して、返事に躊躇してしまう。

サトコ

「それは‥」

加賀

正直に言え

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(ダメだ‥いくら酔ってるからって、加賀さんに嘘なんかつけない)

サトコ

「‥はい」

クズ、と言われる覚悟で素直にうなずく。

途端に、加賀さんの表情が険しくなったのがわかった。

サトコ

「で、でも‥加賀さんじゃなきゃ思わないです」

加賀

あ?

サトコ

「最近、よく『尽くす女』って言われるんですけど」

「好きな人だから、尽くしたいって思うんです。他の人じゃダメなんです」

加賀

‥‥‥

サトコ

「でも、欲張りだってわかってますけど‥」

「やっぱり、加賀さんに尽くされたいって思うこともあります」

加賀

‥相変わらずクズだな

サトコ

「すみません‥」

加賀

そうじゃねぇ

サトコ

「え?」

顔を上げると、加賀さんが満足そうな笑みを浮かべていた。

加賀

他の奴じゃダメなことくらい、言わなくてもわかる

俺にしか反応しねぇように、躾けてきたからな

サトコ

「は、反応‥!?」

加賀

‥‥‥

何かを考えるように少し沈黙したあと、加賀さんが小さくため息をついた。

加賀

チッ‥仕方ねぇ

サトコ

「え?」

加賀

今日は、テメェの好きなようにしてやる

サトコ

「‥好きなように?」

加賀

言ってみろ。何してほしい?

(あれ‥!?この展開、私の妄想と同じ‥!?)

(っていうか、加賀さんがこんなこと言ってくれるなんて‥夢!?)

加賀

望みがねぇなら、話は終わりだ

サトコ

「ま、待ってください!あります!たくさんあります!」

加賀

ひとつだけだ

サトコ

「ですよね‥」

「そ、それじゃあ、あの‥甘えてくる加賀さんが見たいです」

加賀

‥‥‥

(怒ってる‥!?調子に乗り過ぎた!?)

(でもいつも足蹴にされて罵られてばっかりだから、たまにはそういう加賀さんが見たい‥)

加賀

膝貸せ

サトコ

「え?ツラ貸せ?」

加賀

テメェはどこまでマゾだ

いいから黙って膝貸せ

(膝を‥貸す!?)

(ど、どうやって‥!?膝って貸せるものだっけ!?)

加賀

バカが

困惑する私に、加賀さんが舌打ちする。

加賀

膝枕のことだろうが

サトコ

「膝枕!?か、加賀さんを!?」

ガッと、勢いよく顔面を掴まれた。

(またアイアンクロー!)

加賀

テメェが甘えろって言っただろうが

サトコ

「す、すみません!急な展開に頭がついていかなくて」

「それに、『膝貸せ』じゃわからないですよ‥」

苦笑いしてソファに座り直すと、まが加賀さんの舌打ちが聞こえた。

サトコ

「‥照れてます?」

加賀

命が惜しくないなら続けろ

サトコ

「惜しいです、すみません‥」

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(でもこれ絶対、照れてるよね)

顔を隠すように、加賀さんが私の膝に頭を乗せた。

(こ、こんな無防備な加賀さん、初めて‥!)

<選択してください>

A: 触ってもいいですか?

サトコ

「あの‥さ、触ってもいいですか?」

加賀

あ゛?テメェは変態か

サトコ

「ち、違います‥!」

(いつもはここで怯むけど、今日はどうしても加賀さんに甘えてほしい!)

サトコ

「髪‥撫でたいです」

加賀

チッ‥いちいち聞いてんじゃねぇ

サトコ

「は、はい」

B: どんな感じですか?

サトコ

「あの‥どんな感じですか?」

加賀

何がだ

サトコ

「私の膝‥加賀さん好みの柔らかさかなって」

加賀

そうだな‥

C: 今度私もしてください

サトコ

「今度、私にも膝枕してください」

加賀

気が向いたらな

サトコ

「あと、私もまた膝枕してあげたいです」

加賀

気が向いたらだ

(絶対、向かないんだろうな‥)

加賀さんの髪を撫でると、加賀さんも私の太ももを撫でる。

サトコ

「くすぐったいですよ‥!」

加賀

今さらだろうが

‥この感触、キープしとけ

テメェは、この柔らかさだけが取り柄だろ

サトコ

「他に取り柄ないですか‥?」

加賀

ねぇな

(言い切られた‥)

しょんぼりとしながらも、加賀さんの髪を撫で続ける。

(はぁ、幸せ‥なんか、ものすごく満たされる‥)

加賀

発情してんじゃねぇ

サトコ

「し、してませんよ!」

「あの‥気持ちいいですか?」

加賀

‥さあな

そう言いながらも、加賀さんは黙って頭を撫でさせている。

(か、かわいい‥!無抵抗で無防備な加賀さんなんて、新鮮すぎて‥)

嬉しさと気恥ずかしさに少し頬が赤くなった私を、加賀さんは見逃さなかった。

加賀

テメェが赤くなってどうすんだ

サトコ

「すみません‥だって」

言いかけて、慌てて口をつぐむ。

加賀

なんだ

サトコ

「あの‥怒らないでくださいね」

「加賀さんがかわいくて、つい照れちゃって‥」

加賀

‥‥‥

(うわ‥ものすごく嫌そうな顔)

サトコ

「すみません‥『かわいい』なんて、嫌ですよね」

「でも、こういう加賀さんは初めてだったから」

加賀

ほう‥

いつものようにニヤリと笑うと、加賀さんが私の腕を引っ張った。

サトコ

「なっ‥!?」

加賀

この程度でそのザマとは、躾が足りねぇらしいな

限界の恥ずかしさを知れば、膝枕程度で右往左往しなくなるか?

サトコ

「げ、限界の‥!?」

「って、加賀さん‥まだ酔ってるんですか!?」

加賀

酔いなんざとっくに醒めた

強引に私を押し倒すと、加賀さんがテーブルのコップに手を伸ばす。

その水を口に含むと、私に深く口づけてきた。

サトコ

「‥‥!?」

加賀

テメェの酔いも醒ましてやる

サトコ

「わ、私はそんなに酔ってな‥」

加賀

そうか

なら、身体に聞くまでだ

いつもより少し熱を帯びたその手が、服の上から私の身体をなぞるように這う。

加賀

どこから脱がしてほしい?

サトコ

「え‥?」

加賀

今日は、テメェの言うことを聞いてやる約束だからな

言ってみろ、どうしてほしい?

(どうしてほしい、って‥!)

加賀

普段より激しいのが望みか?

それとも、いつもとは違う躾をしてやるか

サトコ

「ま、待っ‥」

あっという間に形勢逆転して、いつものように加賀さんが私を見下ろした。

(本当に、もう酔いは醒めちゃったんだ‥)

(甘える加賀さんが見れないと思うと、ちょっと残念‥)

焦らすように肌を伝う加賀さんの指に、甘い吐息が漏れる。

加賀

‥テメェは、黙って俺だけに尽くしてりゃいい

サトコ

「加賀さん‥」

加賀

他の奴が何と言おうと、放っておけ

テメェは、『俺に』尽くす女、だからな

サトコ

「‥はい」

(そうだ‥私が好きな加賀さんは、怖くて傲慢で‥)

(でもちょっとだけ優しくて、私のことを考えてくれて‥我が道を行く人なんだ)

加賀

テメェの主人は誰だ?

意地悪な笑顔で、加賀さんが私を組み敷きながら尋ねてくる。

サトコ

「‥加賀さんです」

「尽くしたいと思うのも、いじめてほしいと思うのも‥」

加賀

上出来だ

そのあとは、言葉もなく抱き合う。

でもその唇も腕も、普段以上に優しく感じられた。

【廊下】

加賀さんの部屋にお泊りしてから、数日が経った。

(いつも通りの加賀さんが好き‥って思ったのは本心だけど)

(でもやっぱり、甘えてくれる加賀さんをまた見たいな)

サトコ

「うーん、でもそんな簡単に酔わせるのは無理だし」

鳴子

「あ、いたいた!サトコ、聞いた?駅前の和菓子屋で新しい大福が発売されたって!」

サトコ

「えっ?あの老舗の和菓子屋さん?」

鳴子

「なんでも、大人向けの和スイーツってテーマで、お酒が入ってるらしいよ」

サトコ

「お酒入り大福かぁ‥」

(あの和菓子屋さん大福、加賀さんのお気に入りなんだよね)

(『柔らかさが他の比じゃねぇ』とか言ってたっけ)

サトコ

「その大福に、お酒入り‥」

「そうだ‥!鳴子、それだよ!」

鳴子

「え?何が?」

(お酒入りの大福を食べたら、きっと加賀さんはほろ酔いになるはず‥!)

(そうしたら、また甘えてくれる加賀さんが見れるかも!)

【教官室】

早速、例の大福を買って教官室を訪れた。

サトコ

「失礼します。あの‥加賀教官は?」

石神

個別教官室にいる

サトコ

「ありがとうございます」

個別教官室のドアをノックしようとすると、東雲教官が私の手元を指した。

東雲

何それ

サトコ

「え‥?」

石神

それは‥駅前の老舗和菓子屋の袋だな

(石神教官、詳しい‥!)

(和菓子屋にプリンは売ってないのに、甘いものはちゃんとチェックしてるんだ)

サトコ

「えーっと‥加賀教官に差し入れを持ってきたんです」

「新しく出た大福なんですけど」

東雲

へぇ。毒入り?

サトコ

「毒!?そんなの入ってませんよ!」

加賀

ぎゃーぎゃーうるせぇ

目の前のドアが開いて、加賀さんが顔を出した。

サトコ

「わっ!?す、すみません!」

加賀

テメェか。何の用だ

サトコ

「加賀教官に、差し入れを持ってきたんです」

加賀

‥‥‥

私の持っている袋を見ると、加賀さんの態度が和らいだ。

加賀

入れ

サトコ

「はい!」

東雲

ふーん。兵吾さんの奴隷が、逆に餌付けするつもり?

サトコ

「そ、そんなんじゃ‥」

石神

補佐官に食べ物で懐柔されるとは、滑稽だな

加賀

なに?もういっぺん言ってみろクソメガネ

一触即発の雰囲気が漂った時、後藤教官が教官室に入って来た。

後藤

石神さん、聞き込みの現場近くに洋菓子屋があったんで、プリン買ってきました

石神

よくやった

加賀

テメェこそ、部下に懐柔されてるじゃねぇかよ

石神

フッ‥折角買って来てくれたんだ。食べなきゃもったいないだろ

石神教官を無視して、加賀さんが私の首根っこを掴む。

加賀

さっさとしろ。大福は鮮度が命だ

サトコ

「‥鮮度?」

東雲

できたてが美味しい、ってことでしょ

サトコ

「あ、なるほど!」

納得しながら、個別教官室に引きずり込まれた。

【個別教官室】

部屋に入ると、早速大福を取り出す。

サトコ

「新商品が入ったって鳴子に聞いて買ってきました」

「今までの大福より大人向きらしいですよ。一口サイズだから食べやすいし」

私から大福を受け取り、加賀さんが小さな大福を口に入れる。

(これでまた、酔った加賀さんが見れる‥!?)

加賀

‥‥‥

サトコ

「‥加賀さん?」

明らかに眉間に皺が寄っている様子に、思わず唾を飲み込んだ。

加賀

なんで酒の味がする

サトコ

「えっ‥?」

<選択してください>

A: お気に召さなかった?

サトコ

「えーと‥お気に召さなかったですか?」

加賀

分かってて買ってきたのか

サトコ

「いえ、その‥わ、私も食べたことはないので!」

加賀

よく覚えとけ

B: お酒が入ってるなんて知らなくて

サトコ

「お、お酒が入ってるなんて知らなくて!」

加賀

買う時に気付くだろ

ほぅ‥わざとか

サトコ

「そんな‥と、とんでもない!」

C: 大人の味ですよね?

サトコ

「お酒のおかげで、大人の味になってますよね?」

加賀

今すぐテメェのその味覚音痴をどうにかしろ

サトコ

「味覚音痴!?」

加賀

テメェには、大福の良さがわからねぇらしいな

加賀

大福に、余計なもんは必要ねぇ

もうひとつ大福を手に取ると、それを私の口に放り込んだ。

サトコ

「むぐっ‥」

加賀

大福ってのは、餅の中に餡が入ってりゃそれでいい

酒は、邪道だ

サトコ

「お、おいひいじゃないれふか」

加賀

酔ってんのか?

口の中に大福が入っているせいでうまく喋れない私を、加賀さんが鼻で笑う。

(酔わせようとしたのに、逆効果‥!?)

サトコ

「い、いきなり口の中に大福をねじ込まないでください!」

「窒息したらどうするんですか!」

加賀

食わせてやっただけ、ありがたいと思え

テメェが普段から望んでる、『あーん』だろ

サトコ

「!!!」

言われてみれば、確かにそうかもしれない。

(でもそれなら、もっとロマンチックに食べさせてくれればいいのに‥!)

加賀

で?なんのためにこんなもん買ってきやがった

サトコ

「そ、それは‥加賀さんに美味しい大福を食べてほしくて」

加賀

ほう‥なら次は、テメェを味わう番だな

いつものように壁際に追い詰められて、逃げ場を失う。

(こんなはずじゃなかったのに‥!)

(やっぱり、加賀さん甘えてもらうのは、そんなに簡単じゃないんだ‥)

観念しながら、甘く激しいお仕置きを覚悟する私だった‥

【教官室】

その頃、教官室では‥

東雲

ほんっとにバカで単純だよね。あの子って‥

兵吾さん、別に酒に弱いわけじゃないのに

颯馬

フフ‥早くその事実に気付くといいですね

石神

酒入りの大福か‥日本酒なら、プリンにも合いそうだな

行きつけの洋菓子屋で、作ってもらえるよう頼んでみよう

後藤

しかし‥なんで氷川は加賀さんを酔わせようとしてるんだ‥?

あの飲み会の後、何があったんだ?

加賀の個別教官室を眺めながら、ざわざわする教官たちだった‥‥

Happy  End

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