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塩対応 石神 2話

サトコ

「あの‥どういうことでしょうか?」

睨みつけてくる加賀教官に、恐る恐る口を開く。

加賀

覚えてないとは言わせねぇ

加賀教官は凄味を利かせたまま、目の前に一枚の紙を突き出す。

サトコ

「こ、これは‥!」

それは昨日、加賀教官の講義で受けた小テストの答案用紙。

そして右上には、大きく『0』と記されていた。

サトコ

「な、なんで‥!?」

(あんなに勉強したはずなのに!)

加賀

なんでもクソもねぇ。テメェはどこまでもクズだな

サトコ

「えっ、なんで‥」

「あっ!!!」

目の前の答案用紙をよく見てみると、解答欄が1つずつズレていた。

(まさか、こんな初歩的なミスをするなんて‥!)

いくら寝不足だったからとはいえ、あり得ない自分のミスに愕然とする。

千葉

「えっと‥」

鳴子

「それじゃあね、サトコ。私たち、先に行ってるから」

千葉

「ちょっ、ちょっと佐々木!引っ張るなって!」

鳴子

「いいから、早く行く千葉くん!」

鳴子は口早に言い、千葉さんを連れてそそくさと姿を消した。

(置いてかれた‥)

加賀

何、よそ見をしてやがる

サトコ

「っ‥」

加賀教官は私の顎に手を添え、強制的に顔を上に向かせる。

(こ、これは顎クイというやつでは‥!)

混乱しているせいか、そんなことが脳裏を過る。

しかし昨日とは違い、別の意味で心臓がドキドキしていた。

加賀

クソメガネはロクな教育をしてねぇな

サトコ

「す、すみません!つい、ボーっとしてしまいまして‥」

加賀

俺の授業に集中できねぇって言いてぇのか、テメェは

サトコ

「け、決してそんなわけでは‥」

???

「‥恐喝にしか見えないぞ」

サトコ

「わわっ!」

聞き覚えのある声がし、腕を引かれる。

声を発した人物は、私を加賀教官から守るように背中に隠した。

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(この背中は‥)

愛しい人の背中を、見間違えるはずがない。

サトコ

「石神教官‥」

石神さんはチラリと私を見て、加賀教官に視線を戻す。

加賀

ああ゛?テメェが生ぬるい教育しかしてねぇからだろうが

石神

‥‥‥

威嚇してくる加賀教官に、背中越しでもわかるぐらいに鋭い視線を向ける石神さん。

(ど、どうしよう!このままだと、ふたりの争いが勃発して‥)

石神

‥ちゃんと、俺からきつく言っておく

加賀

ああ?

石神

‥‥‥

加賀

‥チッ。次はねぇからな

加賀教官は吐き捨てるように言うと、その場から去っていった。

(言い合いが始まるかと思ったけど‥)

石神さんの言葉に、肩透かしを食らった気分になる。

(全部私が悪いのに‥石神さんは自分の指導のせいにしたんだ)

補佐官のミスは、教官のミスだと言うように。

石神さんの優しさに触れ、鼓動がトクンと高鳴った。

サトコ

「石神、教官‥」

石神

‥‥‥

名前を呼ぶも反応を示さず、何かを考えるようだった。

サトコ

「あの‥石神教官!」

石神

‥ああ、すまない。少し考え事をしていた

石神さんはそう言って、加賀教官が去っていった方を見つめる。

(もしかして‥)

ふと、嫌な予感が過る。

成田

『相変わらず出来が悪いな』

加賀

俺の授業に集中できねぇって言いてぇのか、テメェは

(石神さんにも、本当に出来が悪いって呆れられたかも‥)

今までのことを鑑みると、そう思われても仕方ないのも確かだ。

(私はまだまだ未熟かもしれないけど‥こんなところで、石神さんに呆れられたくない)

サトコ

「石神さ‥‥」

石神

‥今日の夜、何か予定は入っているか?

サトコ

「え‥?」

予想だにしない言葉に、目を丸くする。

サトコ

「今、なんて‥?」

石神

夜の予定を聞いている。空いているのか?いないのか?

サトコ

「は、はい!空いています!」

石神

それなら、家に来ないか?

サトコ

「家って‥石神さんの家にですか?」

石神

それ以外にないだろう

突然のお誘いに、頭が真っ白になる。

<選択してください>

A: 周りを確認する

(どうしよう‥すごく嬉しい!)

舞い上がりそうになるも、ハッと気づく。

サトコ

「い、石神教官!お誘いはありがたいですが、何もこんなところで‥」

石神

心配しなくても、ちゃんと確認済みだ

サトコ

「そう、ですよね‥」

石神さんの返事に、ほっと息をつく。

(石神さんに出来が悪いって思われていたら、どうしようって思ってたけど‥)

嬉しいお誘いに、顔がほころんだ。

B :石神に抱きつく

サトコ

「ありがとうございます!」

石神

っ!

嬉しいという思いが逸り、石神さんに抱きついた。

サトコ

「まさか、石神さんから誘っていただけるなんて‥」

石神

‥氷川

サトコ

「はい?」

石神

いくら誰もいないとはいえ、場所は弁えろ

サトコ

「あっ‥す、すみません」

石神

いや‥

慌てて離れると、石神さんは取り直すように咳払いをする。

だけど、その耳は少しだけ赤く染まっていた。

C: 本当に、いいんですか!?

サトコ

「本当にいいんですか!?」

石神

‥氷川、声が大きい

サトコ

「あっ‥」

石神さんから注意を受け、慌てて周りを確認する。

サトコ

「大丈夫です!誰もいません!」

石神

分かってる‥ちゃんと確認してるからな

石神さんは苦笑いしながら、私の頭をポンポンっと撫でた。

石神

家に誘ったくらいで、ここまで分かりやすくテンションが上がるとはな

サトコ

「だ、だって‥突然で驚きましたし。それに‥」

石神

それに?

サトコ

「嬉しかったから‥」

石神

そうか‥

そして今度は柔らかい笑みを浮かべ、私の頭から手を離す。

石神さんに触られた箇所は、温もりが残っていた。

石神

‥とはいえ遊びに誘っているわけじゃない

サトコ

「え‥?」

石神

話は家で、じっくり聞かせてもらう

サトコ

「話って‥」

石神

先ほどのことの、だ。それ以外にないだろう

きらりと光る石神さんのメガネに、脱力する。

(思わず期待しちゃったけど‥やっぱり、そうだよね‥)

サトコ

「はい‥」

私は力なく、頷くのだった。

【石神の部屋】

放課後になり補佐官の仕事を終えると、石神さんの車で岐路に着く。

石神

‥‥‥

そして私は今、鋭い視線に耐えながら石神さんの前で正座をしていた。

石神

それで、初歩的なミスを犯した理由は何だ?

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サトコ

「それは、その‥つい、うっかり‥」

石神

うっかり、だと?

私の返答に、石神さんの眉がピクリと跳ねる。

サトコ

「す、すみません!前日に遅くまで勉強をしていたせいか、頭がボーっとしてしまいまして‥」

石神

言い訳をするな

サトコ

「はい!」

石神さんの喝に、背筋が伸びる。

石神

体調管理は、仕事のうちだと何度も言っているだろう

実際に現場に出て何かあった場合、それを体調のせいにするつもりか?

サトコ

「いいえ‥」

石神

気が緩んでいる証拠だ。もっと、引き締めていけ

サトコ

「はい!」

石神

分かったなら、いい

その一言に、場の空気が僅かに緩む。

石神

それで‥そんなに遅くまで勉強をしなければいけないほど、分からない科目があるのか?

サトコ

「それは‥」

(あの夢が原因だなんて、なんだか言い辛いし‥)

サトコ

「はい。少しでも苦手科目をなくそうと思いまして」

石神

そうか‥今日は俺が、勉強を見てやる

サトコ

「いいんですか?」

石神

ああ。お前は補佐官でもあるからな。それくらいの面倒は見る

サトコ

「ありがとうございます!」

私は鞄から教材とノートを取りだし、テーブルに広げる。

サトコ

「まずは、取り調べについてですが‥」

石神

ああ、これは‥

石神さんは、ひとつひとつ丁寧に説明してくれる。

サトコ

「‥なるほど。取り調べひとつとっても、教官によってはこんなにも解釈が違うんですね」

石神

そもそも、取り調べに正解というものはない。取調官によって、方法が異なるのは当たり前だ

サトコ

「そういえば、前に訓練で加賀教官のお手本を見たことがありますが‥すごい迫力でした」

「私には到底無理な手法で‥改めて、すごいなって思いました」

石神

そうか

サトコ

「はい!颯馬教官も。別の意味ですごいですよね」

「あの笑顔で凄まれたら、すぐに白状しちゃいそうです」

加賀教官や颯馬教官の取り調べの訓練を思い出す。

それぞれ違う手法を使って、見事に容疑者の口を割らせていた。

サトコ

「私も、早く教官たちみたいになりたいな‥」

石神

お前が加賀や颯馬になる必要はない

サトコ

「え‥?」

石神さんは一瞬ハッとした表情をし、視線を僅かに逸らす。

石神

‥お前は、お前にしかなれない公安を目指せ

サトコ

「私にしか、なれない‥?」

石神

そうだ

(私にしかなれない、か‥)

今までいろいろな教官の元で指導を受けて来て、一歩一歩前に進んでいるという自覚はある。

(刑事になりたいっていう夢はあったけど‥)

私はひょんなことから公安学校に入って、公安を目指すことになった。

公安に入ったら何がしたいか、どうなりたいか‥

そこまで明確に考えたことは、なかったかもしれない。

サトコ

「‥難しいです」

石神

焦る必要はない。まだ時間はあるんだからな

サトコ

「はい‥」

そんな話をしていると、ふと東雲教官の授業が脳裏を過った。

サトコ

「そういえば‥」

石神

なんだ?

サトコ

「東雲教官の授業で言われたんです。明確なビジョンを持つことは何よりも大切だって」

「ビジョンがしっかりしていれば、迷うことなく自分がこれからどうすべきか自ずと見えて来る‥」

「そう言ってました」

石神

‥‥‥

石神さんは、静かに私の話に耳を傾けている。

サトコ

「自分で言うのもなんですが、私は直感型なので‥」

「今までそういった考えをしたことがほとんどなかったんです」

「だから、そんな考えがあるんだなって感動しちゃいました」

「東雲教官は私とそう歳も変わらないはずなのに、すごいですよね」

「東雲教官だけじゃありません。後藤教官や他の教官だって‥」

石神

‥サトコ

サトコ

「あっ‥」

石神さんは少しだけ語気を強め私の名前を呼ぶと、腕を掴んでくる。

サトコ

「石神さん?どうし‥‥きゃっ!」

そのまま腕を引かれ、私の身体はすっぽりと石神さんの腕の中に収まった。

石神

それ以上、言うな

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サトコ

「っ、ん‥」

そして石神さんは私を抱きしめたまま、唇を塞ぐ。

サトコ

「ん‥」

いつもより、強引に塞がれる唇。

息をつく間もないくらいに繰り返されるキスに、眩暈を覚えた。

サトコ

「石神、さん‥」

キスの合間に、愛しい彼の名前を呼ぶ。

石神さんは私の言葉に反応を示しつつも、キスを止めることはなかった。

サトコ

「‥はぁ」

長いキスが終わりを告げ、唇が名残惜しそうに離れる。

(突然、どうしたんだろう‥)

今までになかった強引なキスに、戸惑いを覚えた。

石神

っ、すまん!

石神さんは我に返ったように、私から離れようとする。

すると‥‥

サトコ

「きゃっ!」

石神

っ!?

バタンッ!

体勢が悪かったせいか、そのまま倒れてしまった。

サトコ

「いたた‥」

石神

‥‥‥

サトコ

「あっ‥」

石神さんは私の顔の横に手をついており、顔は唇が触れ合いそうなほど近くにあった。

(こ、これは‥床ドンというやつでは‥!)

至近距離で見つめられ、心臓が今にも破裂しそうなほどドキドキと高鳴っていた。

<選択してください>

A: 視線を逸らす

(な、なんだか‥恥ずかしい‥)

私はそっと、視線を逸らした。

石神

‥何故、視線を逸らす

サトコ

「だ、だって‥」

石神さんの吐息が、唇に触れる。

サトコ

「恥ずかしい、から‥」

石神

‥サトコ

額を合わせ、石神さんは甘く囁く。

石神

‥俺を誘っているのか?

サトコ

「さ、誘っているなんて、とんでもない!」

石神

そこまで全力で否定しなくてもいいだろう

石神さんは私の返答に、面白そうに肩を震わせた。

B: 石神の頬に手を伸ばす

サトコ

「石神さん‥」

私は石神さんの頬に、そっと手を伸ばした。

指先から、彼の温もりが伝わってくる。

(こうして石神さんに触れているだけで‥なんだか、安心するな)

石神

サトコ‥

石神さんも同じ思いなのか、柔らかい笑みを浮かべ目を細めた。

それから私たちは言葉もなく、見つめ合う。

石神

‥‥‥

そして先に口を開いたのは、石神さんだった。

C: キスをする

僅かに触れ合いそうになる唇が、もどかしく感じる。

サトコ

「ん‥」

なんだかこそばゆく感じ、気付いたら石神さんの唇に自分のそれを押し当てていた。

石神

サトコ‥

唇が離れると、石神さんは驚いたように私の名前を呼ぶ。

石神

サトコからなんて、珍しいな

サトコ

「たまにはいいですよね?」

石神

そうだな‥

石神さんはフッと笑みを浮かべ、私の額にキスをひとつだけ落とし、

石神

お前からのキスというのも、悪くない

触れるだけのキスを、私の唇に贈った。

石神

‥これが、黒澤の言っていた床ドンというやつか

サトコ

「知っているんですか?」

石神

まあな。一通りのことは黒澤にしつこく聞かされた‥

サトコ

「ふふっ、黒澤さんらしいですね」

石神

ああ

私たちは、くすくすと微笑みあう。

石神

情けないが‥お前がアイツらにいろいろされるのを見て妬いた

サトコ

「え‥?」

石神

‥なんて、俺らしくないな

苦笑いする石神さんに、あの時の光景を思い返す。

黒澤

‥サトコさんは、素敵な女性ですね

(石神さん、妬いてくれたんだ‥)

石神さんの想いに、愛しさが募っていく。

サトコ

「らしくもないなんて、そんなことありません」

「その‥石神さんからの床ドン、嬉しいです」

話しているうちに恥ずかしさが増し、言葉が尻つぼみする。

私は頬に熱が上がるのを感じながら、石神さんをじっと見つめた。

石神

俺だって‥いつも、お前に触れたいと思っている

サトコ

「そう、なんですか‥?」

石神

当たり前だろう?好きな女に触れたいと思わない男なんて、いないからな

石神さんは柔らかい笑みを浮かべると、私の頬をそっと撫でる。

石神さんの指に触れただけで、熱が灯っていくように感じた。

石神

サトコ‥

そしてそのまま、私の頬に手が添えられ‥‥

サトコ

「ん‥」

何よりも甘く、とろけるようなキスを受けた。

唇が離れると、石神さんはポツリとつぶやく。

石神

アイツの言葉を、鵜呑みにしてしまったな‥

サトコ

「アイツ、ですか‥?」

首を傾げながら見上げると、私の視線を受けた石神さんは薄い笑みを浮かべた。

石神

なんでもない

サトコ

「ん‥」

そして再び、私の唇は深く塞がれる。

それから私たちは永遠と思われるほど長い間、キスを交わし続けた‥‥

Happy  End

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