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塩対応 颯馬 1話

サトコ

「つらかったこと‥」

千葉さんから聞かれて、頭の中に浮かんだのは颯馬さんだった。

サトコ

「テストの点数が悪かったこと‥かな」

「補佐官なのに、こんな低い点数取ったら呆れられるよね」

千葉

「よりによって颯馬教官の小テストだったしな」

サトコ

「うん‥」

千葉さんの言葉がさらに重くのしかかる。

千葉

「で、でも!クラスの平均点も低かったし‥氷川だけのことを言ってたわけじゃないよ」

「次のテストで挽回したらいいんだし、一緒に頑張ろう」

サトコ

「千葉さん‥」

「そうだよね。落ち込んでいても成績は上がらないし!」

「落ち込んでる暇があったら、復習しなきゃ!」

千葉

「ははは、氷川らしいね」

「俺も復習したいなっておもっていたし、よかったら付き合うよ」

サトコ

「え、いいの?千葉さんがいてくれたら心強いよ」

千葉

「そ、それならよかった‥」

「さっそく、資料室で勉強して帰ろうか」

千葉さんの言葉に頷き、私たちは再び学校へと戻ることにした。

【資料室】

千葉

「氷川、こっちのひっかけ問題はクリア出来てるのに‥」

「ストレートな問題の方が、氷川は弱いみたいだね」

サトコ

「うん‥そうなんだよね」

千葉

「俺は、こっちの引っかけ問題の方が解けなかったよ」

(こっちの引っかけ問題は、前に颯馬さんから教えてもらったんだよね)

(そのおかげか、こっちは難なく解けた覚えがある‥)

颯馬

おや‥?

サトコ

「‥あ、颯馬教官」

颯馬

熱心ですね、ふたりで勉強ですか?

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千葉

「はい。お互いに間違ったところを復習し合おうってことになって‥」

颯馬

そうですか‥

千葉

「もしかして颯馬教官も資料室を使いますか?」

「それなら、すぐに場所を移しますが‥」

颯馬

いいえ、私のことはお気になさらず

あなたたちのように勉強熱心だと、私も嬉しいです

分からないことがあったら、遠慮なく教官室まで聞きに来てくださいね

千葉

「ありがとうございます」

颯馬

‥それにしても、千葉くんは本当に優しいですね

サトコさんも、そう思いませんか?

サトコ

「えっ‥」

<選択してください>

A: 颯馬さんの方が優しいです

(‥颯馬さんの方が優しいです、なんて千葉さんの前じゃ言えないよね)

颯馬

フフ‥

颯馬さんは、私の考えを見透かしたように意味ありげな笑みを浮かべている。

B: 私が頼りないからですよ

サトコ

「きっと、私が頼りないからですよ」

千葉

「えっ、頼りないなんて思ってないって」

颯馬

‥フフッ、随分と仲がいいんですね

羨ましいです

C: そうですね、頼りになります

サトコ

「そうですね、とても頼りになります」

颯馬

‥‥‥

千葉

「氷川、そんな風に言われると‥照れるって」

千葉

「俺、別に誰にでも優しいってわけじゃないですよ」

颯馬

どういうこと、でしょうか?

千葉

「一生懸命な氷川を見ていると、助けたくなるっていうか‥」

「それに、自分も負けていられないって思うんです」

颯馬

‥そうですか

サトコさんを、頼みましたよ

それと、先日頼んだ資料‥よろしくお願いしますね、サトコさん

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サトコ

「は、はい‥!」

千葉さんの真っ直ぐな言葉に、颯馬さんはニッコリと微笑みを浮かべながら答える。

そして、そのまま資料室から出て行ってしまった。

千葉

「あれ?颯馬教官、資料室に何の用だったんだろ‥」

サトコ

「‥‥‥」

千葉

「氷川?」

(颯馬さん、本当は資料室に用事があったんじゃないのかな‥)

(‥もしかして、避けられた‥とかじゃないよね?いや、考え過ぎだ!偶然かもしれないし‥)

自分の心に言い聞かせるけど、

颯馬さんから見放されたような気になってしまい、気持ちが少しずつ沈んでいく。

サトコ

「‥‥‥」

千葉

「おーい、氷川?」

サトコ

「あっ‥ごめん!」

目の前でヒラヒラと手を振られ、私はハッと我に返る。

千葉

「さすがに疲れたよな」

「今日はもう終わりにして帰ろ‥」

サトコ

「大丈夫だよ!」

(ここで休むわけにはいかない、颯馬さんから頼まれた仕事もあるし‥)

(挽回するために今度こそ頑張らないと!)

ネガティブになりそうな気持ちを振り払い、私は前向きな気持ちを取り戻す。

私は再び返された答案用紙に視線を落とした。

【廊下】

(よし!きっと、これなら大丈夫!)

大事に抱きしめているのは、昨夜完成した捜査資料をまとめたもの。

補佐官の仕事をして、勉強を疎かにしないように両方を頑張ったつもりだった。

(‥でも結局資料は完成したけど、テストの方は上手くいかなかったな)

(両方ちゃんと出来てこその補佐官なのに‥)

補佐官として結果を出せなかった自分の不甲斐なさが、悔やまれてならない。

(今回の資料は頼まれた資料だけじゃなくて、関連資料もまとめたし‥)

(類似事件との共通点とか、颯馬さんの役に立ちそうなことを盛り込めた)

(‥次は補佐官の仕事もテストも両立できるように頑張ろう!)

千葉

「氷川、どうかしたの?」

サトコ

「あ、千葉さん。颯馬教官を見なかった?」

「昨日頼まれていた仕事が終わったから、提出しようと思ってるんだけど‥」

千葉

「颯馬教官なら、階段の近くで見たけど」

「それより氷川‥大丈夫?」

サトコ

「え?どうかしたの?」

千葉

「いや、クマが酷いけど‥ちゃんと眠れてる?」

サトコ

「ク、クマっ?そんなにヒドイかな?」

千葉

「うん‥徹夜したことがバレバレなぐらい」

「そんなに無理しちゃダメだよ」

サトコ

「うん、ありがとう。でも、大丈夫だから」

「それじゃ颯馬教官に渡しに行ってくるね!」

千葉

「あ、氷川!」

私は逃げるようにして、颯馬さんのいる場所へと向かう。

【階段】

(うーん、やっぱり徹夜は顔に出ちゃうか‥)

千葉さんに言われたことを気にしつつ、颯馬教官の姿を探す。

サトコ

「あ、颯馬教官‥」

話かけようとしたけど、私はその場で歩みを止めてしまった。

(颯馬さん、と‥鳴子?)

(あのふたりの苦合わせって、ちょっと珍しいな)

話の邪魔をするわけにもいかず、その場を静かに立ち去った。

【廊下】

(きっと、この前の講義の話とかだよね)

(鳴子、わからないところがあるって言ってたし)

私は、あまり気にしないようにしつつ、仕上げた資料を教官室に提出して教場に戻った。

【階段】

翌日。

いつものように登校すると、遠くに颯馬さんの姿を見つける。

サトコ

「颯馬教官、おはようございます」

颯馬

おはようございます、サトコさん

サトコ

「鳴子もおはよう」

鳴子

「おはよ、サトコ」

颯馬

それでは佐々木さん、先ほどの件よろしくお願いしますね

鳴子

「はい‥」

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酷く疲れた様子の鳴子は、そのまま教場に向かっていく。

鳴子の疲れている理由も気になるけど、今の私は別のことで頭がいっぱいだった。

サトコ

「颯馬教官、あの‥もしかして鳴子に仕事を頼んだんですか?」

颯馬

ええ、そうですよ

サトコ

「あの、私に言ってもらえれば‥」

颯馬

そういえば、私が頼んでいた資料を仕上げてくれていたんですね

サトコ

「え、はい‥」

颯馬さんが私の話を遮るように、昨日提出した資料の話を持ち出した。

颯馬

私が頼んだ部分だけではなく、関連資料もまとめられていて驚きました

しかも類似事件のことまで調べていて‥大変だったんじゃないですか?

サトコ

「いえ、私は颯馬教官の補佐官ですから‥あれくらいは頑張らないと」

颯馬

‥‥‥

サトコ

「颯馬教官?」

颯馬

私が頼んだ仕事を頑張ってくれるのは嬉しいですが、勉強の方は大丈夫ですか?

サトコ

「はい。この前のような結果にならないよう、頑張ります!」

颯馬

そうですか。では、次のテストを楽しみにしていますよ

颯馬さんはニッコリ微笑みながら告げる。

改めてテストのことを言われると、プレッシャーが重くのしかかってきた。

(でも、頑張らなきゃだよね!)

颯馬

もうすぐ講義が始まりますから、そろそろ行きましょうか

サトコ

「はい」

「あの、颯馬教官‥何か仕事があったら言ってくださいね」

颯馬

ええ、サトコさんに頼めそうな仕事があったらお願いします

(つまり、今は仕事がないっていうこと?)

(それとも‥私には頼める仕事がないってこと‥?)

じわりと胸にこみ上げてきた不安を堪えるように、私はギュッと手を強く握りしめていた。

【カフェテラス】

午前中の講義を終え、私は鳴子と千葉さんの3人でお昼ご飯を食べていた。

鳴子

「あ~、もう疲れた~‥」

「改めてサトコの凄さを知ったよ」

サトコ

「え、どうしたの?鳴子」

鳴子

「颯馬教官に仕事を頼まれたんだけど‥」

「教官って、かっこいいけどめちゃくちゃスパルタなんだもん」

「サトコは普段勉強や訓練だけじゃなくて」

「補佐官の仕事もちゃんとこなしてるし、凄いと思うよ」

千葉

「確かに颯馬教官はスパルタだよな‥。でも、どうして氷川に頼まないんだろう」

「氷川は別件で仕事を頼まれてるとか?」

サトコ

「ううん、それが何もお願いされてなくて‥」

鳴子

「え、そうなの?」

「てっきりサトコに仕事があるから、こっちに来たのかと思ってたよ」

千葉

「でも、氷川って弱音も吐かないし偉いよな‥」

鳴子

「うん、あれを愚痴も零さずやってるサトコは本当にスゴイと思う!」

サトコ

「そ、そんな風に言われることじゃないと思うけど‥」

「頼まれたからにはしっかりとやりたいし、颯馬教官の期待を裏切りたくないから」

鳴子

「やっぱりサトコはさすがだね‥尊敬するよ」

よほど疲れているのか、鳴子はいつも以上に食が進んでいた。

(補佐官って、大変なのかな?)

(確かに忙しい時は忙しいけど‥)

改めて考えてみると、そこまで大変だと自分では思っていなかった。

多少は慣れたこともあり、この慌ただしい毎日を当たり前のように過ごしてたからな‥

(でも、鳴子や千葉さんから認めてもらえるのは嬉しいな‥)

(これからももっと頑張ろう‥!)

そんなことを考えながら、私はお昼のハンバーグランチを食べていた。

【廊下】

サトコ

「あれ‥」

放課後、寮に帰る準備をしていると颯馬さんと男子訓練生が話をしている姿が目に入る。

男子訓練生

「えっ!?こ、これを明後日までに!?」

颯馬

ええ、何か問題でもありますか?

男子訓練生

「い、いえ‥頑張ります」

颯馬

よろしくお願いしますね

颯馬さんの微笑みに、男子訓練生は渡されたファイルを抱え、

逃げるようにして資料室に向かって行った。

サトコ

「颯馬教官‥」

颯馬

おや‥?サトコさん

<選択してください>

A: 資料まとめなら、私がします

サトコ

「颯馬教官、資料まとめなら私がしますよ‥?」

「資料まとめは、補佐官の仕事ですし‥」

颯馬

サトコさんはいいんですよ、私は彼に頼んだのですから

優しい口調だけど、はっきりと言われてしまい、私は次の言葉が出なかった。

B: どうして、私に頼んでくれないんですか?

サトコ

「どうして、私に頼んでくれないんですか?」

「この前の資料まとめ、ミスがあったんでしょうか?」

颯馬

そうではありませんよ

サトコさんの資料はとても役立っています

サトコ

「それなら‥」

颯馬

貴女には、他にやることがあるでしょう?

サトコ

「‥っ」

C: 何も言えない

(どうしよう、何も言えない‥)

(仕事を他の人に頼んだ理由を聞きたいけど‥)

颯馬

サトコさん、貴女は考えていることがすぐ顔に出てしまいますね

サトコ

「え‥」

颯馬

別の人に仕事を頼んだ理由を聞きたい、と顔に書いてありますよ

サトコ

「あっ‥」

颯馬

‥お答えしてあげたいのですが、特に深い意味はないので気にしないでください

颯馬さんの言葉に、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。

(‥もしかして)

(颯馬さん、私があまりにもダメだから補佐官交代を考えているとか‥?)

遠ざかっていく颯馬さんの背中を見つめながら、私はそんな不安に苛まれていた。

【教場】

更に数日が経ったけど、颯馬教官は一度も私に仕事を頼んでは来なかった。

むしろ、私の周りの人たちの方が頼まれている回数が多くなっていくくらいだ。

男子訓練生A

「最近、颯馬教官っていろんな訓練生に仕事頼んでるよな?」

男子訓練生B

「実は俺も、昨日頼まれちゃってさ‥」

「あの笑顔と仕事の量が比例していないっていうか、とにかく大変だった」

男子訓練生A

「けど、なんで補佐官の氷川に頼まないんだろうな?」

どうしても、颯馬さんのことになると耳ざとくなってしまう。

(‥人の話を盗み聞きなんてよくないけど、理由が気になるし)

(やっぱり、私に呆れられてるってことなのかなぁ‥)

そんなことを考えていると、聞きたくない言葉が耳に入ってきた。

男子訓練生A

「もしかして、新しい補佐官を探してるとか?」

サトコ

「‥っ!」

男子訓練生B

「氷川は補佐官降ろされるってことか?」

男子訓練生A

「だってさ‥それ以外に理由が思い当たらないっていうか‥」

男子訓練生B

「それってチャンスじゃん!」

ここ数日、心を占めていた不安を他人の口から聞くと、心に刺さる。

(やっぱり、颯馬さんは私を補佐官から外すつもりなのかな‥)

(ここ最近、他の人に頼んでいるのは‥次の補佐官を探すため‥?)

心に落ちた不安は、私の心を染めていき、振り払おうとしても消えてはくれなかった。

to be continued

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