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塩対応 東雲 2話

【恐竜展】

週末。

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念願だったデートの日がやってきた。

サトコ

「すごい混んでますね。しかも子どもばかり‥」

東雲

夏休みだからね

ああ、こっち向いて

サトコ

「はい‥」

振り向くと、教官は私のシャツの衿にパチンと何かを嵌めた。

サトコ

「あの、これは‥」

東雲

プレゼント

サトコ

「ホントですか?」

(まさか、いきなりプレゼントをもらえるなんて‥)

ウキウキしながらガラス壁を見た私は、自分の姿に絶句した。

サトコ

「あ、あの‥このシャンプーハットみたいなものは‥」

東雲

フリルだよ。トリケラトプスの

サトコ

「トリ‥?」

東雲

ティラノ並みのメジャーな恐竜

中生代白亜紀後期に生息していて、三本の角が‥

(そ、そういうことじゃなくて‥)

(これは‥さすがにちょっと‥)

子ども1

「ああっ、トリケラトプスだーっ!」

子ども2

「あのお姉ちゃん、トリケラトプスになってるー!」

(えっ‥なんか注目されてる?)

(どうしよう、ここはとりあえず‥)

サトコ

「がおーっ!」

子ども1

「すごーい!」

子ども2

「かっこいーっ!」

サトコ

「そ、そうかな」

子どもたちに囲まれて照れていると、教官が隣に並んでにっこり笑った。

東雲

良かったね。人気者になれて

通販でわざわざ取り寄せた甲斐があったよ

(えっ、わざわざ?)

サトコ

「それって今日のために‥ってことですか?」

東雲

当然

(そうなんだ‥今日のために‥)

(今日のために、わざわざ教官が‥!)

東雲

‥気に入ってくれた?

サトコ

「はい!一生大事にします!」

東雲

ありがと

じゃあ、行こうか

フリルつけたままで

サトコ

「はい!」

(ちょっと首が重たいけど、『教官の愛』と思えばこれくらい‥)

(‥っと)

ふと、例の『リスト』が脳裏を過った。

(そうだ‥移動中って手を繋ぐチャンスだよね)

(つまり『恋人繋ぎ』のチャンス‥)

チラチラっと教官の手を見る。

けれども『恋人繋ぎ』どころか、手を握る気配すらない。

(‥大丈夫、ちゃんとリストに書いてるし)

(神様、リスト様‥どうか教官と、念願の『恋人繋ぎ』を‥)

東雲

‥なに

さっきからチラチラ見て

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サトコ

「!」

東雲

何か用?

サトコ

「え、ええと‥」

(よし、今だ!)

サトコ

「こ‥こここ、恋人つな‥」

係員

『皆様、お待たせいたしました』

『“魅惑の恐竜ショー”の会場時刻です!』

とたんに、子どもたちが歓声をあげて走り出した。

サトコ

「あの‥この騒ぎはいったい‥」

東雲

大ホールで“魅惑の恐竜ショー”をやってるんだよ

どこかのテーマパークみたいに、恐竜が動いたり吠えたりするから結構人気で‥

サトコ

「私たちは行かなくていいんですか?」

東雲

行くよ。けど‥

サトコ

「だったら急ぎましょう!いい場所、確保しないと!」

東雲

えっ‥ちょ‥

キミ‥っ

【大ホール】

猛ダッシュが功を奏したのか、

私たちは、見やすい場所を確保することができた。

サトコ

「うわっ、すごい!ちゃんと動いてる!」

東雲

‥‥‥

サトコ

「ああっ、見てください、教官!プテラノドンですよ!」

動いたり吠えたりする恐竜たちを、教官と一緒に見て回る。

偽物だと分かっていても、迫力十分ですごく面白い。

(確かにコレは人気が出るはずだよね。大人でも十分楽しめるし‥)

(ん?このブース‥やけに人が多いな)

東雲

ああ‥

ここはパス

サトコ

「でも、子どもたちがたくさん集まってますよ」

チラッと見えた看板には『恐竜の水族館』と書いてある。

(なになに‥『恐竜の泣き声が合図、口から水鉄砲のように水が』‥)

(水!?)

すると、タイミングよく恐竜が「ゴォォン」と泣き声を上げた。

(マズい!)

サトコ

「教官、危ない!」

ブシャーッ!

サトコ

「ぷは‥っ!」

ブシャーッ!

ブシャーッ!ブシャーッ!

(こ、これ‥水鉄砲っていうより『水の大砲』‥)

(どうりで子どもしかいない‥)

サトコ

「!?」

(マズい、教官のカサ‥)

(じゃなくて、自慢のサラサラヘアーがペッタンコに‥)

サトコ

「あ、あの‥」

「涼しくなりました‥よね?」

東雲

そうだね

もともと涼しかったけど

(うっ、確かに‥)

東雲

‥なに庇ってんの

サトコ

「え‥」

東雲

ふつう逆

庇われるの、キミじゃないの?

(ええっ!?)

サトコ

「も、もしかして教官‥実は私を庇ってくれるつもりで‥」

東雲

まさか

だから最初にパスって言ったじゃん

(‥そうだった)

サトコ

「でも、その‥」

<選択してください>

A: 身体が勝手に‥

サトコ

「身体が勝手に動いちゃったんで‥」

東雲

なにそれ。SP?

キミ、警護課に行きたいの?

サトコ

「違っ、そうじゃなくて!」

「愛ですよ、愛!愛ゆえにですよ!」

東雲

あーハイハイ

(うっ‥軽くあしらわれた‥)

B: ドライヤーがないから

サトコ

「ドライヤー、持ってきてないですから」

「教官、髪の毛濡れたらイヤかなぁって」

東雲

ほんとにね

(うっ‥)

東雲

ほんっとーにね!

(2度も言わなくても!)

C: 私、補佐官なんで

サトコ

「私、補佐官なんで‥」

東雲

違う

サトコ

「えっ‥」

東雲

恋人なんじゃないの、今は

デート中だし

(きょ‥)

サトコ

「教官~っ!」

(ええっ、避けられた!?)

東雲

なに抱きつこうとしてんの

そんな恰好で

(え‥)

子ども1

「わーっ、おねーちゃん、スケスケー!」

子ども2

「紫だー!紫のスケスケだー!」

(ああっ‥)

(そうだ!今日のシャツ、かなり薄手で‥)

バサッ!

サトコ

「わっ‥」

(これ、教官のジャケット‥)

東雲

着れば

サトコ

「でも‥」

東雲

訴えられたくないし

この子たちの親に『公然わいせつ罪』で

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(うっ‥)

東雲

それに知ってるの、オレだけでいいし

キミのスケキャミなんて

(教官‥)

東雲

なにボーっとしてんの

ほら、行くよ

教官の手が、まだ湿っている私の手を捕まえた。

それも、指と指をからめるようにして。

(これって‥これって‥)

(『恋人繋ぎ』いただきましたーっ!)

とはいえ、濡れた服が気持ち悪すぎて、デートは続行不可能になり‥

【東雲の部屋】

東雲

シャワー浴びる?

サトコ

「できれば‥」

東雲

じゃあ、着替えは用意しておく

タオルはその辺の使って

サトコ

「ありがとうございます」

【バスルーム】

サトコ

「ふぅ‥」

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(良かった、シャワー借りられて。ベタベタで気持ち悪かったんだよね)

(それにしても、すごすぎるよ、あの『尽くされたいリスト』‥)

(念願の『恋人繋ぎ』もやってもらえたし。次は‥)

サトコ

「!」

(この状況って、もしかして‥)

サトコ

「着替え、着替えは‥」

(‥やっぱり。これ、教官のTシャツだよね)

(ってことは『彼シャツ』のチャンス‥)

少しドキドキしつつも、下着を身に付け、Tシャツに袖を通す。

(あ‥アロマっぽい香り‥)

(教官の服、よくこの香りがしているよね)

(なんか、これを着てると教官に包まれてるみたい‥)

サトコ

「‥あれ?」

(このTシャツ‥思ってたよりも丈が‥)

(これだと下着が半分くらいしか隠れてないよね)

改めて鏡を見る。

そこに映っていたのは‥‥

(‥なんか違う)

(これじゃ、ただの『ズボンを履き忘れた人』だよ)

(でも、せっかくの『彼シャツ』のチャンスが‥)

サトコ

「‥そうだ!」

【リビング】

数分後‥

サトコ

「教官、シャワーありがとうございました」

東雲

あっそう。良かっ‥

ゲホッ!

(あ、咽てる‥)

東雲

ちょ‥ゲホッ‥

なにその格好

サトコ

「ええと‥『彼シャツ』‥?」

東雲

じゃあ、なに

その腰のバスタオルは

サトコ

「これは、その‥」

「思ったより下着が見えて‥」

バサッ!

東雲

さっさとそのズボン履いて

サトコ

「でも、せっかくの彼シャツ‥」

東雲

別物だから

タオルを巻いてる時点で

サトコ

「うっ‥」

(た、確かに自分でも『何か違う』って思ったけど)

(せめてシャツの丈が、もう少し長かったら‥)

東雲

そもそも好きじゃないし

彼シャツとか

サトコ

「えっ」

東雲

いかにもじゃない

欲望丸出しな感じで

(欲‥っ!?)

サトコ

「そ、そんなつもりじゃ‥!」

「違うんです!ただ、ちょっとドキッとしてほしかっただけなんです!」

東雲

むしろギョッとしたけどね

(うっ‥)

東雲

とにかくジャージ履いて

背中向けてるから

サトコ

「‥分かりました」

(おかしいな‥なんで今回はうまくいかなかったんだろう)

(『彼シャツ』のことも、リストにちゃんと書いてたのに‥)

東雲

履いた?

サトコ

「はい。もう大丈夫です」

東雲

‥‥‥

‥なに、その裾の捲り方

サトコ

「えっ、ダメですか?」

東雲

ありえない

左右の高さがバラバラとか

サトコ

「でも、踏んづけなければいいかなって‥」

東雲

よくない

(えっ‥なんで教官がひざまづいて‥)

サトコ

「!!」

(ジャージの裾、捲り直してくれてる!?)

(こ、これって『袖クル』ならぬ『裾クル』なんじゃ‥)

サトコ

「あ、あの‥教官‥?」

東雲

尽くされたいんでしょ。オレに

でも、キミ、分かってなさすぎ

サトコ

「??‥なにがですか?」

東雲

リストの使い方

まず、なんで『尽くされたいリスト』を書いたの

サトコ

「ええと、それは‥」

「たまには尽くされたいなぁって思って‥」

「それでリストに書けば願いが叶うって聞いて‥」

東雲

確かにそれは間違ってない

リストは物事を明確にするために書くものだから

サトコ

「明確‥?」

東雲

ただ『尽くされたい』だけだと、何をしてほしいのか分からない

でも、リスト化すれば具体的に何を望んでいるのかがはっきりする

『デートに誘って欲しい』『恋人繋ぎがしたい』‥

『彼シャツをやってみたい』

サトコ

「はぁ‥」

(って、いまの‥実際に私がリストに書いてたことだよね)

(まさか、教官‥全部覚えてる‥とか?)

東雲

問題はその後

『具体的な内容』を書きだしたら、実現するための道筋を作る必要がある

もし『甘いキスをしてほしい』なら‥

実現させるための行動を起こさなければいけないわけ

(行動‥?)

東雲

たとえば‥

はい、このチョコボンボン咥えて

サトコ

「あ、はい‥」

東雲

次、目を閉じて

(目を閉じ‥)

(‥そっか!)

そうやくピンときた私は、チョコボンボンを咥えたまま軽く顎を上げた。

まさにキスを待つときみたいに。

東雲

‥合格

つまり、ここまでやって、初めて『リストの願いが叶う』ってわけ

こんなふうに‥

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ちゅ‥っと、チョコボンボンごと唇を吸われた。

くすぐったくなるほど、ゆっくりとした舌遣いで。

(うわ‥)

(口のなか‥とろけて‥)

東雲

で、次は?

サトコ

「え‥」

東雲

キミのしてほしいこと

ちゃんと道筋を作って、オレを誘いなよ

(うう、じゃあ‥)

(『バックハグ』をしてほしい場合は‥)

<選択してください>

A: 背中を向ける

(こうやって‥背中を向けて‥)

東雲

‥なに、この猫背

こうしてほしいってこと?

教官の指が、スッと背筋を辿った。

サトコ

「ぎゃっ!」

「違‥そうじゃなくて‥っ」

「バックハグです、バックハグ!」

東雲

あっそう

32点

教官はため息をつきつつも、背中から私を抱きしめた。

B: 寄りかかる

(こうして‥寄りかかって‥)

サトコ

「‥伝わりますか?」

東雲

だいたいね

ま、悪くないんじゃない

ちゅ、とつむじに唇を落とされた。

驚いて振り返ろうとしたけど、阻止したように抱きしめられた。

背中から、ぎゅうっと強く‥

C: 背中が寒いと呟く

サトコ

「背中‥寒いなぁ‥」

東雲

‥‥‥

サトコ

「背中‥スースーするなぁ‥」

東雲

‥‥‥

サトコ

「背中‥あたためてほしいなぁ‥」

東雲

しつこい

下手くそ

18点

(低っ‥!)

東雲

絶対伝わらないから

‥オレ以外には

(え‥)

教官は小さく笑うと、背中から私を抱きしめた。

東雲

ほんと好きだよね

こんなふうに背中から抱きしめられるの

サトコ

「だって、なんか安心して‥」

東雲

そう?おんぶと大して変りない気もするけど

ま、密着度はある意味高め‥

‥‥‥

なぜか、そこで教官の言葉が途切れた。

サトコ

「‥教官?」

東雲

‥‥‥

サトコ

「教官、どうし‥」

「ひゃっ!」

思わず悲鳴を上げたのは、いきなりうなじにキスされたからだ。

サトコ

「ちょ‥なにを‥」

東雲

他は?

サトコ

「えっ‥」

東雲

やってほしいこと‥

コレの他に‥

サトコ

「え、ええと‥」

東雲

ああ、これだっけ‥

『耳つぶ』‥

サトコ

「‥っ!」

ゾクゾクと走った痺れを堪えるように、身体を固く縮こまらせる。

それなのに、教官は耳元から唇を離してくれない。

(な、なんでいきなり‥っ)

(まだ道筋っていうか、何もしかけてないのに‥)

東雲

で、次は?

サトコ

「!!」

東雲

言いなよ

どうされたい?

サトコ

「ど、どうって‥」

「だったら、ひとまず離れて‥」

「きゃ‥っ」

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(ズルい‥!)

(そんなとこを舌で‥とか‥っ)

東雲

早く言えば?

じゃないと、また耳つぶ‥

サトコ

「十分です!もう十分尽くしてもらいましたから!」

私は、渾身の力を振り絞って、教官の身体を押しのけた。

サトコ

「ありがとうございます!ほんとにほんっとーに大満足なんで!」

「今日はここまでってことで‥」

東雲

無理

サトコ

「え‥」

東雲

ぜんぜん足りない

サトコ

「ちょ‥教官‥」

「‥っ」

(なんでこんな‥)

(さっきまで普通だったのに‥っ)

キッカケはバックハグだったらしい‥

そう気づいたのは、だいぶ後になってからのこと。

今、この瞬間にそんなことを考える余裕は欠片もなくて‥

サトコ

「教か‥待って‥」

「なんか‥飛ばし過ぎ‥」

「んん‥ん‥っ」

結局この日は『尽くされた』というよりも、キスで『食べ尽くされて』‥

一日が終わっていったのだった。

【寮】

さて、週明け。

(教官、今日は泊りだったよね)

(もう寮監室に来ているかな)

【寮監室】

サトコ

「おつかれさまです」

「差し入れのピーチネクター、持って来ました」

東雲

ありがと‥

そこに置いといて‥

ふわぁ‥

サトコ

「‥お疲れですね」

東雲

いろいろね

室長の新しいスマホの設定をするのに、半日付き合わされたし

そう言いながらも、教官はもう一度あくびをする。

(もしかして、栄養ドリンクの方が良かったかな)

(それか、なにか元気が出るようなもの‥)

(‥そうだ!)

サトコ

「バックハグしますか?」

東雲

は?

サトコ

「その‥この間みたいにガッツリしたのは困りますけど‥」

「ちょっとハグすることで、教官が元気になってくれるならいいかなぁ、なんて‥」

東雲

??

なんで?

サトコ

「なんでって‥教官、好きですよね?バックハグ」

「この間だって、それでスイッチが‥」

話している途中で、いきなり寮監室のドアが開いた。

加賀

歩、この書類‥

(えっ、加賀教官!?)

突然のことに驚いた私は、書類を抱えていた加賀教官を避けきれなくて‥

バサバサバサッ‥

(ああっ、書類が‥)

加賀

テメェ‥

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サトコ

「すすす、すみません!でも悪気があったわけじゃ」

加賀

黙れ、クズ

ドンッ!

(ひっ‥肘ドン‥っ!)

加賀

テメェは何度ジャマをすれば気が済むんだ

本気で調教されてぇのか?このクズが‥

サトコ

「い、いえ‥滅相もない‥」

精一杯拒絶しながら、私は東雲教官の姿を探す。

(教官、出番です!)

(また、ここから連れ去って‥)

東雲

あ、ユーカリのアロマ、切らしてた

兵吾さん。オレ、ちょっと出てきますんで

(うそーっ!)

加賀

‥調教決定だな。来い

サトコ

「む、無理です!遠慮します‥っ」

「無理ーーっ!」

月曜日の夜‥

私の悲鳴は、館内に虚しくこだましたのだった‥‥

Happy  End

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