カテゴリー

元カレ 後藤2話

私は居酒屋を出ると、後藤さんの背中を追いかける。

サトコ
「後藤さん!」

後藤
······

後藤さんは私の呼びかけに足を止め、振り返った。

後藤
···何か用か?

サトコ
「っ···」

無表情で返す後藤さんに、息を飲む。

サトコ
「そ、その···今日はすみませんでした」

後藤
別に謝ることなんてないだろ?

サトコ
「それは···そうかもしれませんが···」

後藤さんの言うことは、もっともだった。

(いくら元カレがいるとはいえ、謝ることなんて何もないのかもしれない)

だからといって、謝らずにはいられなかった。

サトコ
「あの···後藤さん、お仕事が残っているんですよね?それなら、私も手伝います」

後藤
いや、一人で大丈夫だ

サトコ
「でも、二人でやった方が早く終わりますよね?」
「今から一人でなんて、遅くなっちゃいますし···」
「それに、私が後藤さんと一緒にいたいんです。お願いします!」

後藤
······

私の言葉に、後藤さんの手がピクリと動く。

後藤
っ···

だけど後藤さんは、何かを抑え込むようにギュッと手を握った。

後藤
···俺のことは気にするな。遅くならないうちに、早く帰れ

サトコ
「っ···」

後藤さんは口早に言い、私に背を向ける。
私はそんな後藤さんの背中に、手を伸ばす。

サトコ
「後藤さん、待ってください···」

後藤
······

しかし、歩みを早める後藤さんに、私の手は空を切る。

後藤
気を付けて帰れよ···

サトコ
「······」

私は行き場をなくした手を見つめ、胸に当てた。

(追いかけたい···だけど、今追いかけたらダメな気がする)

胸に当てている手に、力を込める。
胸の奥が、じんわりと冷えていくように感じた。

【寮 自室】

私は寮に戻るとシャワーを浴び、ベッドにダイブする。

サトコ
「はぁ···」

(まさか、こんなことになっちゃうなんてな···)

ハジメと久しぶりに会えたのは、単純に嬉しかった。
付き合っている時は楽しかったし、別れた時は辛かったけど···それも今になっては大切な思い出だ。

サトコ
「···ダメダメ、暗くなってても仕方ないよね」

気合いを入れ直すためにも、両手で頬をパンッと叩く。

サトコ
「い、痛い···」

(ちょっと、強く叩きすぎちゃったかも···)

予想以上の痛みに頬を擦っていると、携帯のバイブが鳴った。

サトコ
「あれ?こんな時間に誰からだろう···?」

LIDEを開くと、『狭霧一』という文字が目に入った。

ハジメ
『さっきはごめんな。彼氏とうまくやれよ』

サトコ
「えっ!?」

『彼氏』という言葉に、思わず声が漏れてしまう。

(ハジメ···後藤さんが彼氏だって気づいたいたのかな?)

それとなく聞いてみると、すぐに返信が来る。

ハジメ
『だってサトコ、後藤さんのことずっと気にしていただろ?』
『いくらなんでも、分かるって』

サトコ
「······」

(まさか、あんな短時間で気付かれちゃうなんて···)
(東雲教官の言う通り、私ってわかりやすいのかな?)

頬に手を当て、軽くつねる。

(それに、ハジメにも気を使わせて···私、何やってるんだろう···)

軽く自己嫌悪に陥っていると、続けてLIDEが着信した。

ハジメ
『サトコとは、色々なことがあったよな』
『もちろん、いい思い出だけじゃない』
『だけど···俺にとって、お前との思い出は大切なものなんだ』
『だから、お前には幸せになってほしいって思ってる』
『夢のことだけじゃなくて···恋愛に関しても、お互い頑張ろうな!』

サトコ
「ハジメ···」

(ありがとう···)

勇気をもらい、心の中でお礼を言う。

(思い返してみれば、後藤さんの様子がおかしくなったのはハジメの話が出た時からだし···)
(もしかしたら、私たちのことを気にしているのかもしれない)

自惚れかもしれないけど···後藤さんの態度は、そう捉えられなくもなかった。

(このまま後藤さんと気まずいままだなんて···絶対に嫌だ!)

サトコ
「···よし!」

私は勢いをつけて起き上がると、後藤さんに連絡を入れる。

サトコ
「明日、少しでもいいので会えませんか?···送信、と」

(お仕事をするって言ってたし、少し急すぎたかな?)

そう思うものの、すぐに返信が来た。

後藤
分かった

サトコ
「後藤さん···」

短文なものの、返信の早さに胸の奥がギュッと詰まる。
待ち合わせの場所や時間を決め、私は早々に布団にもぐりこむ。

(明日はちゃんと、後藤さんと話をしよう)

少しだけ不安が顔を覗かせたが、それを抑え込むように眠りについた。

【カフェ】

翌日。
後藤さんに指定された場所は、カフェだった。

(後藤さん···まだ来ていないみたい)

私は店内に入り、後藤さんを待つことにした。

(ここのお店には始めてきたけど···なんだか、懐かしい感じがする)

お店の雰囲気が、どことなくハジメとよく言っていたカフェに似ていた。

(そういえば、学校が終わるとよくカフェで待ち合わせをしていたっけ)

ふと思い出すのは、ハジメと付き合っていた頃のこと。

(···昨日ハジメと会ったせいか、少し感慨深くなっているのかな)

そんなことを考えると、愛しい人がこちらにやってくる。

後藤
サトコ、遅れてすまない···

後藤さんは急いで来たのか、息を切らせていた。

サトコ
「私なら、大丈夫ですよ。あれからお仕事をしていたんですよね?」

後藤
まあ、な···

袖口で軽く汗をぬぐいながら、後藤さんは答える。

(忙しいのに、わざわざ時間を作ってくれたんだ···)

後藤さんの想いが嬉しくて、胸の奥がじんわりと温かくなった。

サトコ
「後藤さん、何か注文されますよね?何がいいですか?」

後藤
いや···今日は一緒に来てほしいところがあるんだ

サトコ
「行きたいところ、ですか?」

後藤
ああ···いいか?

断る理由なんてなくて···私は首を縦に振った。

【街】

サトコ
「······」

後藤
······

(なんだか、少しだけ気まずいかも‥)

昨日あんなことがあったせいか、私たちの間には沈黙が降りていた。

(このままじゃダメ···後藤さんにちゃんと話すって決めたじゃない!)
(自分からちゃんと話さなきゃ···)

サトコ
「あ、あの···っ」

口を開きかけると、後藤さんの手が私の手にそっと触れた。
繋がれた手から、後藤さんの温もりが伝わってくる、

サトコ
「後藤、さん···?」

後藤
······

見上げると視線が絡み合い、後藤さんがフッと微笑んだ。
柔らかい表情に、ドキッと胸が高まる。

サトコ
「······」

それからまたしばらくの間、沈黙が続いた···
でも、先ほどのように気まずいものではなく、心地いいものだった。

【雑貨屋】

それからしばらく歩いていくと、ショッピングモールに到着する。
私たちは、近くにあった雑貨屋に入った。

(こうしてのんびりと雑貨屋を見て回るの、久しぶりだな)
(訓練や実習で、忙しかったもんね)

サトコ
「あっ、可愛い!」

可愛い猫の置物を見つけ、小さく声を上げる。

(二匹の猫が対になってるんだ···)

サトコ
「ふふっ、キョトンとした顔がブサ猫みたいで可愛いな···」

後藤
欲しいのか?

猫の置物を手に取ると、後藤さんが顔を覗かせた。

<選択してください>

A: お揃いにしませんか?

サトコ
「はい!せっかくだし、お揃いにしませんか?」

後藤
お揃い···?

サトコ
「この置物、対になっているので···一つが私ので、もう一つが後藤さんの···なんて、どうですか?」

後藤
······

後藤さんは、私の手元にある猫の置物をじっと見る。

(後藤さんにしては、ちょっと可愛すぎるかな···?)

後藤さんの部屋に、この置物が置いてある様子を思い浮かべる。

(後藤さんの部屋に猫の置物···なんだか、可愛いかもしれない)

後藤
···なにを考えてるんだ

後藤さんは、手の甲でコツンと私の頭を叩く。

後藤
顔、ニヤけているぞ

サトコ
「えっ、嘘!?」

後藤
フッ···まあ、アンタとお揃いのものを持つのも、悪くないかもな

後藤さんは、フッと微笑んだ。

B: 後藤にねだってみる

(たまには恋人っぽく···ねだってみるのもいいかな?)

私は勇気を出して、後藤さんの裾をつまむ。

サトコ
「あの···後藤さん。これ、ほしいです···」

後藤
······

(あ、あれ···?)

後藤さんは手の甲で口元を押さえながら、そっぽ向いてしまう。

(やっぱり、ねだるのはダメだったかな···!?)

サトコ
「ご、後藤さん!今のは、冗談と言いますか···」

後藤
···やる

サトコ
「え···?」

後藤
アンタが欲しいって言うなら、買ってやる。···元々、そのつもりで聞いたんだ

後藤さんは少しだけ頬を染めながら、チラリと私を見て言う。

サトコ
「いいんですか···?ありがとうございます!」

満面の笑みを浮かべる私に、後藤さんはフッと笑みを浮かべた。

サトコ
「後藤さん、せっかく対になっていますし···」
「一つは私で、もう一つは後藤さんのって、お揃いにしませんか?」

後藤
お揃い?
まぁ···たまには、そういうのもいいだろう

サトコ
「はい!」

C: 今は止めておこうかな···

サトコ
「今は止めておこうかな···」

後藤
いいのか?

サトコ
「はい。他に欲しいものが見つかるかもしれませんし···」

ふと目線を向けると、猫の置物と目が合った。
猫の置物は、「買ってくれないの?」と言わんばかりに私を見てくる。

サトコ
「くっ···可愛い···!」

後藤
フッ···何やってるんだ。そんなに欲しいなら、買えばいいだろう?

サトコ
「で、でも···」

後藤
···俺が買ってやる。元から、そのつもりで聞いたんだ

サトコ
「えっ、でも···」

後藤
たまにはいいだろ

サトコ
「···ありがとうございます!」
「あっ、せっかく対になっているなら、一つずつ持ってお揃いにしませんか?」

後藤
お揃い、か···

後藤さんは少しだけ考える風にして、頷く。

後藤
···アンタとお揃いのものなんて、持ってなかったからな

私たちは猫の置物を買うと、雑貨屋を後にした。

【図書館】

それから私たちは他のお店や駅前広場を回り、最後に図書館にやってきた。

(あれ···?)

図書館の敷地に足を踏み入れると、既視感に囚われる。

(今日、回ったコースって···)

ふと足を止め、ぼんやりと思考を巡らせる。
カフェで待ち合わせをしてショッピングモール、その後はコンコースに行って···最後は、図書館。

(ハジメとデートしていたときに、よく回っていたコースと似ている···)

ここまで偶然が続くと、さすがの私も気づく。

(もしかして、後藤さんは···)

サトコ
「あの···」

発しようとしていた言葉が、後藤さんによって遮られる。
後藤さんの指が、私の唇に触れていた。

後藤
······

後藤さんは私の目を見つめ、ゆっくり口を開く。

後藤
···アイツが、アンタの初めてをいっぱい知ってて悔しかったんだ
だから、アイツとの思い出を、俺との思い出に塗り替えたかった

私の唇から指を離し、後藤さんは自嘲的な笑みを浮かべる。

後藤
···そんなことしなくても、アンタはちゃんと俺のことを見ていてくれるのにな

サトコ
「後藤さん···」

後藤さんの気持ちを聞き、胸がきゅっと締め付けられる。

後藤
···アンタもこんな気持ちだったんだな

サトコ
「え···?」

後藤
俺と···夏月のことだ

(夏月さん···)

過去に後藤さんと相棒だった女性。
彼女はもういないけど、後藤さんと惹かれあっていたことは感じていた。

後藤
アイツとのことで···知らない間にアンタを傷つけていた

サトコ
「······」

切なげに話す後藤さんに、彼への想いが溢れてくる。

サトコ
「···お互い、ハジメとの思い出も夏月さんとの思い出も、消せるものじゃないです」
「私にとっても後藤さんにとっても、大切なものだと思うから···」
「だけど、もう過去の思い出でしかないんです」

後藤
サトコ···

サトコ
「私、これからたくさん、後藤さんと思い出を作っていきたいです!」
「いろいろなところに行って、いろいろな事を経験して···」
「時にはケンカをしちゃうこともあるかもしれませんが···」
「それも、大切な思い出になると思うんです」

後藤
ああ···そうだな

サトコ
「あっ···」

後藤さんは私の腕を引き、腕の中に閉じ込める。

後藤
これからたくさん···いろいろな初めてを作っていこう

サトコ
「っ···はい!」

目を細めて微笑むと、後藤さんは私のおでこに口づけをした。

後藤
それに、アイツが最初なら···俺が最後の男になればいい

サトコ
「っ···後藤さん」

後藤
···顔、赤くなってる

サトコ
「んっ···」

後藤さんは楽しそうに笑うと、自身の唇で私の唇を塞いでくる。
少しだけ長いキスをし、名残惜しそうに唇が離れた。

サトコ
「後藤、さん···」

私はふと、ここが図書館の前だということに気付く。
今は人通りがないものの、いつ人が通りかかるか分からない。

<選択してください>

A: ここ、図書館の前ですよ

サトコ
「ここ、図書館の前ですよ···?」

後藤
···そうだな

後藤さんはそう言ったまま、私を放そうとしない。

後藤
···こうやって、俺に抱かれるのは嫌か?

サトコ
「嫌だなんて、そんなことありません!」

後藤
フッ···即答だな

サトコ
「あっ···」

つい声が大きくなってしまい、私は恥ずかしさのあまり後藤さんの肩に顔を埋めた。

サトコ
「後藤さん、ズルいです···」

後藤
···本当にズルいのは、アンタの方だ

B: 後藤の背中に腕を回す

(だけど···)

後藤さんの温もりを感じていたい···
私は彼の背中に、そっと腕を回した。

サトコ
「···もし、知り合いが通ったらどうしますか?」

後藤
それは困るな

サトコ
「私だって困ります。もし、誰かにバレたらと思うと···」

後藤
···だけど、この腕を離す気はないんだろう?

顔を上げると、後藤さんはニヤリと口角を上げていた。

(ここで肯定するのは、なんだか悔しい···)

サトコ
「···後藤さん、なんだか東雲教官みたいです」

後藤
歩···?

サトコ
「はい。なんだか、意地悪っぽいところが···」

後藤
意地悪、か···

サトコ
「っ···」

後藤さんは私の耳元に唇を寄せると、ふっと息を吹きかける。

後藤
アンタのいろいろな反応が見れるなら、それも悪くないな···

C: 慌てて後藤から離れる

サトコ
「だ、ダメです、後藤さん!こんなところで···あっ!」

慌てて後藤さんから離れようとすると、バランスを崩してしまう。

後藤
おっと···

そんな私を、後藤さんが抱きとめてくれた。

後藤
アンタって本当、おっちょこちょいだな

サトコ
「す、すみません···」

後藤
まあ、それがサトコらしいと言ったらサトコらしい、か···

後藤さんは私を抱いたまま、ポンポンっと頭を撫でてくる。

サトコ
「···子ども扱いしないでください」

後藤
子ども扱いなんてしてない。俺の彼女だろ?

サトコ
「っ···」

後藤さんの言葉に、顔に熱が上がるのを感じる。

(本当、後藤さんには敵わないよ···)

悔しいと思う反面、それが心地よくも感じる自分がいるのも確かだった。

後藤さんは、私を抱く腕に力を込める。

後藤
···今日は、アンタを離したくない

サトコ
「後藤さん···」

後藤さんの言葉が、胸にしみわたる。

(私たちは、まだ付き合い始めたばかりなんだよね···)
(教官と訓練生、誰にも言えない関係は前途多難なことばかりだけど···)

サトコ
「ふふっ、これも新しい思い出ですね」

一つずつ、新しい思い出が積み重ねられていく。

後藤
···そうだな

私たちは微笑みあい、どちらともなく口づけを交わした···

Happy  End

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする