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元カレ 石神 1話

グシャッ

石神
······

(あっ···)

視線の先には、無言で書類をくしゃくしゃに丸めている石神さんの姿があった。

サトコ
「あ、あの···石神教官?その書類は···」

石神
書き損じたものだ。問題ない

いつもの調子で言って、石神さんはゴミ箱に丸めた書類を捨てる。
だけど眉間には、深いシワが刻まれていた···

(石神さん···もしかして、怒ってる?)

そんな石神さんの様子を横目で気にしていると、黒澤さんと東雲教官が迫ってきた。

東雲
それで、キミみたいな子と付き合ってた物好きな男ってどんな奴なの?

サトコ
「物好きって···東雲教官、失礼です」

東雲
だって、本当のことでしょ

サトコ
「なっ!元カレは普通の人ですよ」

加賀
普通の奴が、クズなんかと付き合うわけないだろ

颯馬
加賀さん、それは言い過ぎじゃありませんか?
サトコさんのような個性豊かな人が好みだという方も、いると思いますよ

サトコ
「颯馬教官も遠回しに酷い事言ってますけど···」

颯馬
おや、それはすみません。フォローしたつもりだったんですが···

黒澤
イケメンとの噂は聞いていますが···
ハッ!
イケメンで物好きな人ってことですね!

サトコ
「だから、物好きじゃありません!」
「ちゃんと目標があって、それに向かって進んでいけるような人です!」

東雲
へぇ?

私の言葉に、東雲教官がニヤリと笑みを浮かべる。

東雲
元カレは、サトコちゃんみたいにちゃーんと目標がある人なんだね
似た者同士ってことでお似合いなんじゃない?ですよね、石神さん?

(し、東雲教官!なんてことを···!)

表だって文句を言うこともできず、私はジト目で東雲教官を見た。

石神
···何故、俺に話を振る

東雲
興味なさそうな顔してますけど、大事な補佐官のことは気になるかと思いましたので

石神
···氷川がどんな奴と付き合っていたかなんて俺には関係ない

(で、ですよね···)

石神さんの反応にホッとしつつ、胸がきゅっと締め付けられる。

(ちょっとだけ寂しいなって思っちゃうけど···)
(私たちが付き合っていることは秘密なんだから、石神さんの反応が正しいんだよね)

黒澤
大丈夫ですよ、サトコさん。オレはサトコさんの恋愛に興味ありますので!

黒澤さんは、何故か自信満々に胸を張る。

黒澤
やっぱり、初めてのデートで手を繋ぐっていうのは定番ですよね

サトコ
「ノーコメントで」

黒澤
やや、まさか手を繋いだりキス以上のことを···

サトコ
「してません!そりゃあ、手は繋ぎましたけど···」

黒澤
ほほう、手を繋いだと···告白はやっぱり、相手の方からですか?

東雲
サトコちゃんの方からじゃない?
サトコちゃんって勢いで生きているところがあるから
その流れで告白とかしてそうだよね

(な、なんで分かっちゃったの!?)

私とハジメが付き合うきっかけ···つまり告白をしたのは、私からだった。

颯馬
フフ、その反応は···図星ですね

サトコ
「そ、それは、ですね···」

東雲
サトコちゃんは分かりやすいからね

サトコ
「うう···」

黒澤
それじゃあ、手を繋いだのもサトコさんからなんですか?

東雲
ああ、告白した時のように勢いに乗って···みたいな?ありそうだよね

サトコ
「ち、違います!それは、彼からで···」

黒澤
へぇ、彼氏さんからですか!そこはさすがに、男を魅せますね!

(しまった···!)

さっきから黒澤さんたちに乗せられ、自爆しているような気がする。

(さすが公安刑事···誘導尋問が上手すぎる!)

東雲
言っておくけど、これ誘導尋問でも何でもないから
サトコちゃんが、自分からペラペラ話してるだけだから

(ま、また心を読まれた···!)

ここまで来ると、東雲教官が恐ろしい存在に感じる。

<選択してください>

A: もうしゃべらない

(これ以上話したら、もっとボロが出ちゃう···!)

私はもうしゃべらないと決め、口を堅く閉ざした。

黒澤
サトコさんの元カレさんに、ますます興味が沸いてきました!

サトコ
「······」

黒澤
···って、あれ?おーい、サトコさん···?

サトコ
「······」

黒澤
歩さん、どうしましょう!サトコさんが話してくれません!

東雲
どうせ、これ以上ボロを出さないように~って、黙っているだけでしょ。考えが安直だよね

サトコ
「···!」

(ダメだ···ここで話したら、東雲教官の思うつぼだ!)

平常心を保つよう、自分に言い聞かせる。

東雲
サトコちゃんが黙っちゃったことだし、今までの情報から元カレの素性を調べて···

サトコ
「し、東雲教官!?素性を調べるって···あっ···」

東雲
···しゃべらないんじゃなかったの?

東雲教官はニヤリと笑みを浮かべた。

B: 石神に助けを求める

サトコ
「石神教官!助けてください!」

石神
···は?

石神教官は書類から視線を離し、チラリと私を見る。

東雲
なんでそこで、石神さんに助けを求めるのかな?

サトコ
「そ、それは、その···そう!私が石神教官の補佐官だからですよ!」
「石神教官だったら、きっと補佐官である私のことを放ってはおけないはず···!」

東雲
それ、よく自分で言えるよね。さすが、神経が図太いというかなんというか

サトコ
「いいじゃないですか、別に!」

黒澤
石神さん、可愛い補佐官がこう言っていますよ

石神
お前ら···

石神さんは深いため息をつく。

石神
だから、俺に話を振るなと言ってるだろう

サトコ
「で、ですよね···」

私は石神さんの返答に、がくりと肩を落とした。

C: 話を逸らす

サトコ
「あの···みなさん、喉が渇いていませんか?よかったら、お茶を淹れますね」

私はそう言って、東雲教官たちに背中を向ける。

東雲
ねぇ、あきらかに話を逸らそうとしてるでしょ?

(ギクッ!)

私は恐る恐る、振り返る。

サトコ
「そ、そんなことないですよ?」

颯馬
サトコさん、目が泳いでいますよ

サトコ
「泳いでません!」

颯馬
フフ、本当に面白い方ですね

颯馬教官は本当に楽しそうに、笑みを浮かべる。

サトコ
「ここで颯馬教官が敵に回ったら、私に勝ち目は···」

颯馬
敵だなんてヒドイですね。そもそも、私は誰の味方でもありませんよ?

サトコ
「そ、颯馬教官にまで心を読まれた···!」

黒澤
「サトコさん、サトコさん。口に出てますよ

サトコ
「···ハッ!」

慌てて口を塞ぐも、時すでに遅し。

(始めから、教官たちに立ち向かおうだなんて考えが無謀だったんだ···)

黒澤
いや~、サトコさんは本当に素直で面白い方ですね。話していてとても楽しいです!

サトコ
「うぅ···私は楽しくありません···」

東雲

それじゃあ次は、サトコちゃんの初キスについて聞かせてもらえる?

サトコ
「は、初キス!?」

(そ、そんなこと、さすがに話せない···!)

サトコ
「あ、あの!私はこれで失礼します!」

黒澤
あっ、サトコさん···

サトコ
「それでは!」

私は勢いよく頭を下げ、脱兎のごとく教官室を後にした。

【個別教官室】

翌日。
放課後になり、私は石神さんの個別教官室で補佐官の仕事をしていた。
デスクに向かい、資料を整理していく。

サトコ
「石神さん、まとめ終わりました」

石神
ああ。次はこれを頼む

サトコ
「はい」

新たな書類を受け取り、まとめていく。

石神
······

私はチラリと視線を上げるも、石神さんはいつものように黙々と手を動かしていた。

(昨日、あんな話をしちゃったけど···)
(石神さんからは、何も聞かれていないんだよね···)

少しは聞かれるかな?と思っていただけに、肩透かしを食らった気分になる。

(石神さん、元カレのことどう思っているんだろう)
(いつも冷静でヤキモチ妬かなそうだし、なんとも思っていないのかな···)

黙々と作業をこなしていると、資料が出来上がる。

サトコ
「石神さん、終わりました」

資料を手渡そうと、石神さんに差し出す。

サトコ
「あっ···」

ふと、石神さんの手が私の手に触れた。

石神
······

石神さんはそのまま私の手を取ると、手元をじっと見つめてくる。

サトコ
「あ、あの···どうかしましたか?」

石神
前から思っていたが···サトコは、手が綺麗だな

サトコ
「えっ!?」

予想もしない言葉に、思わず固まってしまう。

石神
指が真っ直ぐで、綺麗で···

そう言いながら、自身の指を私の指に絡める石神さん。
優しい指使いに、鼓動が早くなった。

石神
···女性らしい、手だと思う

サトコ
「あ、あの、その···」

頬に熱が上がるのを感じ、言葉を失ってしまう。

サトコ
「えっと···あ、ありがとう、ございます···」

石神
ああ

石神さんはフッと微笑むと、私の瞳をじっと覗き込んだ。

石神
今週の土曜日、空いているか?

サトコ
「え···?」

石神
休暇が取れたんだ。···どこかに出かけよう

(石神さんから、デートのお誘いだ···!)

久しぶりの『デート』という言葉に、パッと表情が明るくなる。

サトコ
「はい!」

元気よく返事をすると、石神さんは私の頭をポンッと撫でる。
石神さんのしぐさのひとつひとつが、愛おしいという想いに変化していった。

(ふふっ、石神さんとのデート、楽しみだなぁ···)

【街】

数日後。
約束の土曜日になり、私は石神さんとデートをしていた。
ショッピングをしたり、コンコースに行ったりして、
普段は忙しくていけないところをゆっくりと回った。

石神
そろそろ、昼時だな

サトコ
「そうですね。お腹も空きましたし、どこかでランチでもしますか?」

石神
ああ

歩きながら、入るお店を見て回っていると···

???
「あれ···サトコ?」

名前を呼ばれて振り返る。
そこにいたのは···

サトコ
「ハジメ!?」

ハジメ
「久しぶり···っていうか、この間ぶりだな」
「この前は全然話す時間なかったから、また会えて嬉しいよ」

そう言って、ハジメは爽やかに微笑んだ。

ハジメ
「サトコ、そちらの方は?」

ハジメは、石神さんに視線を向ける。

(ハジメは公安学校の関係者じゃないから、恋人だって正直に話しても大丈夫だよね?)

サトコ
「この人は···」

石神
氷川の上官の、石神です

サトコ
「え···?」

私が何かを言う前に、石神さんが先にそう答えていた。

(上官って···確かにそうだけど、彼氏って言ってくれないのかな?)
(ハジメには、隠す必要なんてないのに···)

不安が過るも、もしかしたら石神さんには何か考えがあるのかもしれない。
私はそれ以上何かを言うことなく、口をつぐんだ。

ハジメ
「初めまして、狭霧と申します」
「サトコには昔からお世話になっていて···じゃないか」
「むしろ、俺がお世話する側だったか?」

サトコ
「もう、そんなことないでしょ?いくら私より年上だからって···」

そこまで話して、ハッと気づく。

(マズイ···このまま話していると、元カレだってバレちゃう!)

例えバレたとしても、何も問題はないはずだった。
だけど、知られたくないという思いがあるのも事実。

(ど、どうしよう···)

石神
···よかったら、狭霧さんも一緒にランチでもいかがですか?

サトコ
「えっ!?」

石神さんのまさかの提案に、声を上げてしまう。

石神
どうした、氷川?

サトコ
「い、いえ···」

(どうしてハジメを誘うの···?)

石神さんの様子を窺うも、何も気づいてないようだ。

ハジメ
「ご一緒してもいいんですか?」

石神
ええ、もちろんです

ハジメ
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

(本当は二人が一緒になるのを回避したいけど···)

石神さんの考えが読めない上に、微笑んでいるハジメを見て、何も言うことができなかった。

【レストラン】

私たちは近くのレストランに入ると席に着き、注文をする。

ハジメ
「サトコは、アイスレモンティーの砂糖なしでよかったよな?」

サトコ
「う、うん」

ハジメがスマートに注文していく。

(ハジメ、私がいつも頼むもの覚えててくれたんだ···)
(···そうだ!)

私はメニューを開き、石神さんの分も注文しようと口を開いた。

<選択してください>

A: プリン

(石神さんといったら、やっぱりプリンだよね)

サトコ
「すみません、プリンをお願いします」

ハジメ
「プリン?サトコ、プリンが好きだったっけ?」

サトコ
「ううん、私じゃなくて···」

チラリと石神さんを見ると、厳しい目で私を見ていた。

(ひぃっ!)

石神さんの力強い視線い、縮み上がる。

ハジメ
「もしかして、石神さんが···」

サトコ
「ううん、違うの!私、最近プリンにハマってて···デザートに食べようと思ったんだ!」

ハジメ
「そうなのか」

サトコ
「うん!」

なんとかその場を切り抜け、ホッと息をつく。

(プリンが好きって知られるの、嫌だったのかな?)
(そういえば、普段から知られないように気を付けていたかも···)

気を遣ったつもりなのに、やってしまった···と、心の中で反省した。

B: きのこのリゾット

(石神さんが好きなのはプリンだけど、周りには知られないようにしているみたいだし···)
(あと、石神さんが苦手なものは···)

メニューが多く、どれにしようかとグルグル考え込んでしまう。

(えーっと、えーっと···)

ハジメ
「サトコは、何にするか決まった?」

サトコ
「う、うん···きのこのリゾットにしようかな」

ハジメ
「へぇ、きのこのリゾットか」

サトコ
「うん。石神さんが好きで···あっ!」

石神
······

石神さんは無言で目を伏せた。

(違う!きのこは石神さんが苦手なものだった!)

私は慌てて、別のものを注文する。

サトコ
「す、すみません。いろいろ考えてたら、間違えてしまって···」

石神
気にするな

サトコ
「はい···」

私はがくりと、肩を落とす。

ハジメ
「···サトコと石神さんは仲がいいんですね」

石神
は?

ハジメ
「上司の好き嫌いを知っているなんて、仲が良い証拠だなって思ったんです」

ハジメはそう言って、ニッコリと微笑んだ。

(本当は付き合っているからなんだけど···)

石神さんが何を考えているのか分からない以上、下手なことは言えない。

サトコ
「う、うん···」

石神さんの様子を窺いながら、そう答えた。

C: コーヒー

(石神さんが好きなのはプリンだけど···ここは無難なものがいいよね)

サトコ
「コーヒーをお願いします」

ハジメ
「あれ?コーヒー?」

サトコ
「うん。石神さん、いつもコーヒーを飲んでいるから」

ハジメ
「そうなんだ。上司の好みを知るのって、大事だもんな」
「砂糖とミルクは?」

サトコ
「それは···」

(えっと···あ、あれ?なんだっけ···?)

いつもならちゃんと覚えているのに、気を張っているせいか、ど忘れしてしまう。

石神
···砂糖は多めで、ミルクもお願いします

ハジメ
「分かりました。石神さんって甘党なんですね」

ハジメは意外そうに、石神さんのことを見る。

石神
ええ、まぁ···

石神さんは、少しだけ居心地悪そうにそう答えた。

(石神さんもいつものように冷静だし、ハジメも社交的だから大丈夫だと思うけど···)

その後のことが、気がかりでならない。
特に、石神さんが何を考えてハジメを誘ったのか分からなかった。

(どうか、何事もありませんように···!)

私は心の中で、そう強く願った。

to be continued

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