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研修 加賀 2話

加賀さんに手を引かれて、みんながいる場所からどんどん遠ざかる。

サトコ

「いいんですか?黙って抜け出したりして」

加賀

むさ苦しいだろ

サトコ

「でも、せめて一言断っておいた方が」

加賀

ガキじゃねぇんだ。必要ねぇ

加賀さんの手に、微かに力がこもった。

(‥ふたりきりで、お祭りを回れるんだ)

(研修中だし、教官たちもいるし、無理だと思ってたけど‥)

サトコ

「‥ふふ」

加賀

気色悪りぃ

サトコ

「すみません‥加賀さんも同じ気持ちでいてくれたのかなって」

「あ!見てください、花火売ってますよ」

花火を売っている露店を見つけて、思わず立ち止まる。

サトコ

「ちょうど暗くなってきたし、やりませんか?」

加賀

こんな子ども騙し、何が楽しい

サトコ

「子ども騙しだからいいんですよ。童心に返れるじゃないですか」

加賀

くだらねぇ

(だよね‥加賀さんが花火してるところなんて、想像できないもんね‥)

(ムリにやるものでもないし、とりあえず今日は諦めよう‥)

考えている間に、加賀さんが花火の露店へ向かう。

そして、手持ち花火のセットを持って戻ってきた。

加賀

これでいいのか

サトコ

「え?」

加賀

どこでやる

サトコ

「か、買って来てくれたんですか?」

加賀

たまにゃ、飼い犬の遊びに付き合ってやるのも悪くねぇ

サトコ

「犬は花火しませんよ‥花火でわかるのは子どもの心です‥」

加賀

似たようなもんだろ

(それは、私の精神年齢が低い、と‥?)

(でも、加賀さんが一緒に花火してくれるなんて‥)

加賀

ニヤけんじゃねぇ

サトコ

「無理です」

加賀

‥チッ

サトコ

「すみません」

舌打ちされるといつもは戦々恐々としてしまうのに、今日は頬が緩みっぱなしだった。

【神社 奥】

ひと気のないところまで来ると、しゃがみこんで加賀さんとふたりで花火に火を点けた。

サトコ

「加賀さんがライター持ってて助かりました」

加賀

‥そういや今日はタバコ吸ってねぇな

サトコ

「だ、大丈夫ですか?禁断症状とか出ませんか?」

加賀

人をなんだと思ってやがる

‥テメェといると、タバコの本数が減る

サトコ

「えっ、そうなんですか?私、目の前でタバコ吸われても平気ですよ」

加賀

知ってる

サトコ

「じゃあ、どうして‥」

加賀

‥吸ってる暇がねぇからだろ

(吸ってる暇がない‥?)

サトコ

「‥それって、タバコ吸うよりも私と一緒にいる方が楽しいから、とか‥」

加賀

‥‥‥‥

(こ、怖い‥ものすごく睨まれてる‥)

(でも睨まれてる時って、結構図星なことが多いんだよね)

サトコ

「あ、また頬が緩みそうです」

加賀

‥クズが

サトコ

「ふふ‥」

(なんか‥加賀さんとこんなふうに花火ができるなんて、思ってもみなかったな)

(この夏一番の思い出になるかも)

サトコ

「そうだ!せっかくだし、勝負しませんか?」

加賀

勝負?

サトコ

「はい!同時に線香花火をつけて、先に落とした方が負けです」

加賀

ガキだな

サトコ

「線香花火って、落ち着きのない人ほど早く落ちるそうですよ」

加賀

テメェか黒澤かってとこか

サトコ

「いえ、黒澤さんよりは落ち着きがあると思います‥」

「でもせっかくだし、出来るだけ長く楽しみたいなって思って」

加賀

そうだな‥

どうせ勝負するなら、なんか賭けねぇと面白くねぇ

サトコ

「じゃあ、負けた方は勝った方の言うことをなんでも聞くっていうのはどうですか?」

「なーんて、ちょっと当たり前すぎ‥」

加賀

受けてやる

サトコ

「えっ!?早っ」

加賀

今の言葉、忘れんなよ

(な、なんか不吉な予感‥!)

<選択してください>

A: やっぱりやめましょう

サトコ

「や、やっぱりやめましょう!刑事が賭け事なんてよくないですから!」

加賀

金銭賭けるわけじゃねぇだろ

テメェがあとで困るだけだ

(不吉‥!負けたら何させられるかわからない‥!)

B: 加賀さんこそ忘れないで

サトコ

「い、いいでしょう‥加賀さんこそ、忘れないでくださいね‥」

加賀

声、震えてんじゃねぇか

サトコ

「だって、こういう時に勝ったためしがないんですよ‥」

加賀

それがテメェの運だ

C: 何させるつもり?

サトコ

「な、何させるつもりですか‥!?」

加賀

さあな

(あの笑顔が怖い‥!すごい無茶ブリされる気がする!)

サトコ

「あの、やっぱりやめ‥」

加賀

ほら、持て

(いつの間にか線香花火を準備されてる‥!加賀さん、やる気だ!)

同時に、線香花火に火を点ける。

(負けたら加賀さんの言うことをひとつ聞かなきゃいけない‥)

(ものすごい量の資料整理させられるとか、あり得る‥!)

サトコ

「大丈夫‥!じっとしてたら落ちない‥絶対落ちない」

ポトッ

サトコ

「‥‥‥‥」

加賀

早かったな

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サトコ

「ええ!?もう!?」

加賀

テメェの負けだ

(うう‥!なんて嬉しそうで極悪な笑顔!)

加賀

なんでも言うことを聞くんだったよな?

サトコ

「はわわ‥」

加賀

刑事目指してる人間が、約束を守らねぇなんてことは

サトコ

「な、ないです!ちゃんと守りますからっ‥」

思わずそう言ってしまった時、トン、と背中になにかがぶつかった。

どうやら、後ろの木に追い詰められてしまったらしい。

加賀

目閉じろ

サトコ

「目‥!?」

加賀

さっさとしろ

サトコ

「は、はい!」

(ま、まさかこんなところで‥!?)

(でも加賀さん、そこまで飢えてないって‥!)

不意に髪に触れられる気配に、ピクリと肩が震えた。

加賀

もういいぞ

サトコ

「え‥」

目を開けて触れてみると、どうやら髪にかんざしをつけてくれたらしい。

サトコ

「これ‥」

加賀

さっき見てただろ

サトコ

「え!?あのかんざし、買って来てくれたんですか‥?」

加賀

たまには飼い犬に褒美もやらねぇとな

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サトコ

「でも、いつの間に‥買いに行く暇なんて」

加賀

さあな

(もしかして、輪投げの時いなくなったのって‥)

(う、嬉しい‥加賀さんが私のことを考えてくれてたっていうだけで幸せすぎる‥!)

サトコ

「ありがとうございます!一生大事にします!」

嬉しさのあまり加賀さんに飛びつこうとした瞬間、大きな手で顔を思いっきりつかまれた。

サトコ

「ア、アイアンクロー!?」

加賀

なんのつもりだ

サトコ

「す、すみません‥喜びを全身で表現しようと思ったんです‥」

ようやく加賀さんの手が離れ、しゅんとしながら花火の残骸に目をやる。

サトコ

「あっという間に全部終わっちゃいましたね」

加賀

ああ

サトコ

「じゃあ片付けて、そろそろみんなのところに帰りましょうか」

(少し寂しいけど、でも加賀さんとふたりきりの時間を楽しめたし)

(これで、明日の研修も頑張れそうだな)

花火を片付けて歩き出そうとした時、下駄が足から離れた。

サトコ

「えっ?」

加賀

‥鼻緒が切れてる

サトコ

「あっ‥ほんとだ‥」

(どうしよう‥これじゃ旅館まで戻れない‥)

(途中でサンダルとか売ってるかな‥?)

加賀

‥ほら

その声に振り返ると、加賀さんがこちらに背を向けてしゃがみこんでいた。

サトコ

「‥え?」

加賀

早くしろ

サトコ

「えっと‥」

加賀

その足で、どうやって帰るつもりだ

(まさか、おんぶしてくれるの!?)

サトコ

「で、でも私‥重いですから!」

加賀

テメェの重さくらいわかってる

何度、俺の上に乗ったと思ってる?

サトコ

「!!!???」

加賀

さっさとしねぇなら置いていく

サトコ

「ま、待ってください!それじゃ、あの‥失礼します」

加賀

ああ

恐る恐る、加賀さんの背中におぶさる。

(加賀さんの匂い‥)

(研修は鬼だし、奴隷のようにコキ使うし、優しい言葉は何も言ってくれないけど)

浴衣を選んでくれたり、かんざしを買ってくれたり‥加賀さんの不器用な優しさが嬉しかった。

【旅館】

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加賀さんにおんぶされたまま、旅館へと戻ってきた‥‥

‥と、思いきや‥何故か先ほどとは違う旅館の前。

サトコ

「加賀さん、ここ、私たちが泊まってる旅館じゃないですよ」

加賀

それがどうした

サトコ

「え?どうしたって‥」

私を背負いながら、加賀さんは当然のように、目の前の旅館へと入っていく。

旅館の履物に替えると、フロントに向かう加賀さんを追いかける。

サトコ

「加賀さん!これはいったい‥」

フロント係

「お二人様ですね。お部屋へご案内いたします」

加賀

ああ

(ど、どういうこと!?頭がついていかない‥)

(泊まってる旅館に戻らなくていいの!?)

【部屋】

部屋に案内されると、加賀さんは座椅子に座ってくつろぎ始めた。

サトコ

「あ、あの‥どういうことなのか、さっぱり」

加賀

向こうじゃ、ゆっくりできねぇ

それともテメェは、あいつらいる方がいいか?

<選択してください>

A: 加賀さんとふたりがいい

サトコ

「いえ‥加賀さんとふたりきりの方が嬉しいです」

加賀

だったら、この話は終わりだ

サトコ

「加賀さん、最初からここに泊まるつもりだったんですか?」

加賀

どうだろうな

B: 向こうも気になる

サトコ

「教官たちと一緒にいる方がいいというか、向こうの反応が気になるというか」

加賀

なら戻れ

サトコ

「いえ‥加賀さんと一緒にいたいですから」

(無断外泊で怒られるとしても、いま加賀さんとふたりきりでいられる方が嬉しいし)

C: 石神教官に怒られそう

サトコ

「石神教官に怒られるんじゃないかと、ハラハラして」

加賀

プリンの言うことなんざ、どうでもいい

(どうでもよくはない‥けど、今夜はここに、加賀さんとふたりきりでいられる‥)

(なのに、一人で戻れるはずないよ)

(明日の研修は朝ごはんの後からだし、それまでに向こうの旅館に帰れば大丈夫だよね)

加賀さんが先に温泉に行き、私も追いかけるように女風呂へと向かった。

ゆっくり温まってあがってくると、緊張しながら部屋の扉を開けた。

(ふたりだけで泊まる‥ってことは、つまり、そういうアレだよね‥)

(今回は研修だから、まさかそんなことになろうとは‥)

(そういえば加賀さんは‥?もう戻ってきてるよね)

部屋に入ると、加賀さんの姿を探す。

でも、縁側にもどこにも加賀さんの姿はない。

静まり返った部屋に、微かに寝息が聞こえることに気付いた。

サトコ

「‥え!?」

振り返ると、加賀さんが布団で眠ってしまっている。

(えええ!?)

(ま、まさか加賀さんが先に寝ちゃうなんて‥!)

信じられない気持ちで、加賀さんを起こさないようにそっと、隣の布団に寝転がる。

(訓練生全員を指導しなきゃいけないんだから、きっと私よりハードだったんだよね)

(それに、研修前も全然休みがなかったみたいだし‥)

サトコ

「疲れてるんだろうな‥」

「でも、まさかこの状況で寝ちゃうとは‥」

(‥ん?私、なんかガッカリしてる‥?)

(いや!別に何か期待してたわけじゃないんだけど!)

サトコ

「最近、ほんとに加賀さんに染まって来たな‥」

「‥でも」

かんざしを外して、じっくり眺める。

(加賀さんももしかして、私に染まってくれてる‥?)

(昔だったら、絶対にこんなことしてくれなかったよね)

そっと加賀さんの胸に顔を埋めて、目を閉じた。

(うう‥なんか苦しい‥)

(なんで‥?ていうか、ここ、どこだっけ‥)

うっすら目を開けると、目の前に加賀さんの姿。

加賀

よく寝てたな

サトコ

「え!?な、なんで‥」

(あ!そっか、昨日加賀さんと別の旅館に泊まって‥)

(っていうか、この状況‥抱き枕にされてる!?)

サトコ

「あの‥加賀さんは、よく眠れましたか?」

加賀

‥テメェより先に眠っちまうとはな

サトコ

「そうですね。てっきり起きているのかと思ってたので、ちょっとびっくりしました」

加賀

物足りなそうな顔してんじゃねぇ

サトコ

「し、してませんっ‥!」

加賀

期待してたんだろ?

寝起きのはずの加賀さんが、体勢を変えて私を組み敷く!

サトコ

「か、加賀さん!今、朝です!」

加賀

それがどうした

昨日の分、今から愉しませてやるよ

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サトコ

「りょ、旅館に戻らないとっ‥」

容赦なく、加賀さんの手が浴衣の合わせから中へと差し入れられた。

加賀

負けたら、なんでも言うこと聞くんだったよな?

サトコ

「それ、まだ続いてたんですか!?」

加賀

‥他の男に優しくされて、尻尾振ってんじゃねぇ

サトコ

「え?」

帯を解かれて、加賀さんの前に肌をさらけ出す。

必死に浴衣を押さえながらも、思わず加賀さんを見つめ返した。

加賀

しかも、よりにもよってあの焼きプリン野郎に懐きやがって

サトコ

「焼きプリン?」

(それってもしかして、石神教官のこと‥?)

サトコ

「な、なんで石神教官の話が」

加賀

俺はテメェに資料の整理をやらせたはずだ

あのカスタードに資料を持たせるとは、駄犬が偉くなったもんだな

(あ‥!?もしかして、昨日の研修帰りのこと!?)

加賀

他にもまだあるが‥

あとは、身体に教え込んでやる

浴衣を腰まで下ろされると、加賀さんが私の肌に顔を埋めた。

サトコ

「ひゃっ‥」

加賀

二度と他の男にじゃれつかねぇようにな

サトコ

「じゃれついてなっ‥」

両手首を帯で結ばれて、強引に快感を与えられる。

次第に抵抗できなくなり、身体は加賀さんの言いなりになった。

加賀

それでいい

サトコ

「ん‥も、うっ‥」

加賀

全然足りねぇな

激しく揺さぶられ、心も身体も加賀さんでいっぱいになる‥

いつしか自分から求めるように、加賀さんを抱きしめていた。

【研修 旅館】

みんなで泊まっている旅館に戻ってくると、急いで部屋に向かった。

(今回、鳴子は不参加だったし‥女一人だったから個室で助かった)

(あとは、誰にも見つからないようにこっそり部屋に戻って)

後藤

氷川?

サトコ

「!!!」

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恐る恐る振り返ると、後藤教官が立っていた。

サトコ

「お、お、おはようございます‥」

(ど、どうしよう‥朝帰りって気付かれたかも‥!?)

後藤

氷川も温泉に行ってたのか

サトコ

「!!‥は、はい!そうなんです、朝風呂を楽しみたくて‥!」

後藤

誰もいない朝の温泉もいいものだな

(よかった‥無断外泊したこと、気付かれてなさそう)

(よし、このまま何事もなかったように部屋に戻って)

加賀

おい、クズ

サトコ

「!?」

加賀

忘れてんじゃねぇ

加賀さんが、私の携帯を手渡してくれる。

後藤

忘れる‥?

っ‥‥‥

サトコ

「いや、あの、これは‥!」

(なんでこのタイミングで!?加賀さん、わざと!?)

慌てる私を見てニヤニヤ笑う加賀さんを、恨めしい気持ちで見つめるしかなかった。

Happy  End

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