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温泉 石神

サトコ

「‥きゃっ!」

急に腕を引かれ、バランスを崩してしまう。

石神

っ‥

よろけた私を抱きかかえるように支えてくれたのは、石神さんだった。

石神

サトコ‥大丈夫か?

石神さんは心配そうに眉尻を下げ、顔を覗き込んでくる。

支えられているため、私たちの身体はピッタリとくっついていて‥

サトコ

「は、はい‥ありがとうございます」

私の頬は、ポッと赤く染まった。

石神

顔が赤くなっているな‥

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サトコ

「これは、その‥気にしないでください!」

「それより、こんなとこ見られたら‥」

石神さんは、私の赤く染まった頬をそっと撫でる。

(ん、くすぐったい‥)

抱き合うような形のまま、僅かに身をよじる。

すると‥

(足音が‥こっちに向かってくる!?)

宴会場の方から足音が聞こえ、スッと背筋が凍った。

石神

こっちだ

サトコ

「あっ‥!」

石神さんは私の腕を引っ張り、近くにある階段の陰に身を寄せた。

顔が近づき、思わず声を上げそうになるも我慢する。

サトコ

「っ‥」

そして足音が近づき、私たちがいる場所へ差し掛かると‥

黒澤

ふ~ん、ふふふ~ん♪

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黒澤さんは私たちに気付かないまま、鼻歌を歌いながら上機嫌に通り過ぎて行った。

石神

‥行ったか?

サトコ

「行きましたね」

石神

そうか‥

私たちは顔を見合うと、ホッと息をついた。

石神

っ‥

サトコ

「‥?」

石神さんの頬が、薄っすらと赤く染まっていく。

石神

その‥すまなかった

そして小さく謝りながら、私から身体を離した。

今までの私たちの体勢を思い出し、みるみるうちに頬に赤みがさしていく。

石神

ここまでする必要はなかったんだが‥咄嗟に、な

サトコ

「は、はい‥」

私たちの間に、少しだけ気まずい沈黙が訪れる。

(あっ、そういえば‥)

私はその気まずさを打ち消すように、声を上げた。

サトコ

「石神さんって、歌がお上手だったんですね!」

「後藤教官とのデュエット、すごくかっこよかったですよ」

石神

‥‥‥

(あ、あれ‥?)

石神さんは眉間にしわを寄せ、露骨に嫌そうな顔をした。

石神

‥仕方なく歌っただけだ

サトコ

「そ、そうですか‥」

(やっぱり、嫌だったんだ‥)

(難波室長からの命令だったし‥石神さんも、大変なんだな)

それでもマイクを握り、最後まで歌い切った石神さん。

そんな石神さんを、素直に感心している自分がいた。

サトコ

「そろそろ、宴会場に戻りますか?」

石神

ああ

石神さんが頷くと、私たちは宴会場に向かって歩き始める。

石神

‥サトコ

サトコ

「なんですか?」

石神

‥‥‥

少しだけ考え込むようにし、石神さんは口を開く。

石神

アイツらが寝たら‥俺の部屋に来ないか?

サトコ

「えっ、いいんですか!?」

石神

‥声がでかいぞ

サトコ

「す、すみません、つい‥」

シュンっと小さくなる私に、優しい視線が向けられる。

石神

ああ‥今日ぐらい、いいだろう

サトコ

「っ、はい、ありがとうございます」

(今回は二人きりにはなれないと思っていたから‥嬉しいな)

サトコ

「それじゃあ、教官たちが寝静まった頃、部屋に行きますね」

石神

ああ、待ってる

石神さんとの約束に、胸を弾ませる。

(早く、石神さんと二人きりになりたいな‥)

私は軽い足取りで、歩みを進めた。

【宴会場】

難波

おお、遅かったな

宴会場に戻ると、教官たちは頬を赤らめていた。

空になってるお酒の本数は、私がトイレに立つよりもあきらかに多くなっている。

黒澤

黒澤透、ただいま戻りました!

加賀

いちいちうるせぇ

東雲

透、なんか面白いことしてよ

颯馬

つまらなかった場合は‥容赦しませんよ?

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黒澤

ひいっ!戻ってきたばかりだというのに

‥後藤さん、助けてください~!

後藤

‥‥‥

黒澤

って、黙々とご飯を食べてないで、何とか言ってくださいよ!

うぅ‥透、悲しくて泣いちゃいます‥

東雲

へぇ、それじゃあ泣いてみせなよ?ほら、早く

黒澤

歩さんがイキイキしてます‥!

颯馬

フフ

黒澤

こ、こうなったら

‥加賀さん、助けてください!

加賀

ああ゛?テメェがどうなろうが関係ねぇ

黒澤

ですよねー‥オレの周りには鬼しかいません‥

(普段の飲み会でも、あまり気を緩めないのに‥)

温泉で疲れが取れたのか、どこかいつもとは違う姿を見せる教官たち。

そんな教官たちに、目をパチクリさせた。

石神

はぁ‥情けない

教官たちの姿を見て、石神さんは深いため息をつく。

サトコ

「ま、まぁ、たまにはこういうのもいいんじゃないですか?」

石神

そういうものか‥?

‥ん?

石神さんは、ふと難波室長のお猪口に目を止める。

難波室長のお猪口は、空になっていた。

石神

氷川、お前も適当に楽しめよ

そう言いながら、石神さんは近くにあるお酒を持って難波室長にお酌をしに行こうとする。

(楽しめって言われたけど、石神さんにだってたまには羽を伸ばしてもらいたいし‥)

サトコ

「私が行きます!」

私は石神さんからお酒を受け取り、難波室長の隣に膝をついた。

サトコ

「難波室長、どうぞ」

難波

おお、気が利くな

笑顔でお猪口を差し出され、なみなみと注ぐ。

颯馬

サトコさん、こちらもお願いしてもいいですか?

サトコ

「あっ、はい!」

颯馬教官から始まり、東雲教官、後藤教官へと、次々にお酌をして行った。

サトコ

「どうぞ」

黒澤

ありがとうございます!

最後に石神さんにお酌が終わると、難波室長に呼び掛けられる。

難波

おお、女将!こっちもいいか?

(女将って‥私のこと!?)

注いだばかりだというのに、難波室長のお猪口は空っぽになっていた。

私は再び、難波室長のお猪口にお酒を注いでいく。

難波

へぇ‥

サトコ

「‥?」

熱い視線を感じて顔を上げると、難波室長がまじまじと私を見ていた。

難波

うなじと酒‥たまんねぇな

サトコ

「そ、そうですか‥?」

楽しそうに笑いながら褒めてくれる難波室長に、嬉しさが顔を覗かせる。

加賀

クズが。調子に乗ってんじゃねぇ

東雲

サトコちゃんのうなじに興奮するやつなんて、いないでしょ

(あ、相変わらずヒドイ!)

黒澤

‥うなじ、ですか?

黒澤さんがピクリと反応すると、私の隣へやってきた。

サトコ

「く、黒澤‥さん?」

黒澤

ん~‥

そして私のうなじをじっと覗き込むと、パッと顔を明るくする。

黒澤

難波さんの言う通り、サトコさんはうなじ美人ですね!

東雲

透、下手な慰めはサトコちゃんのためにならないよ?

黒澤

慰めなんかじゃないですって!

こんなに綺麗なうなじの人なんて、そうそういませんよ‥

酔った黒澤さんは私のうなじをじっと見て、おもむろに手を伸ばす。

(えっ‥!?)

私は黒澤さんの行動に驚き、身を固くした。

黒澤さんの指が、私のうなじに触れそうになる瞬間‥‥

パシッ!

サトコ

「あっ‥」

石神

‥‥‥

いつの間に近くにいたのか、石神さんが黒澤さんの手を弾いた。

サトコ

「えっと‥石神、教官‥?」

石神

‥‥‥

石神さんは自分の行動に驚いているのか、僅かに視線を泳がせる。

石神

‥黒澤。後藤が呼んでいるぞ

後藤

なっ‥!

黒澤

後藤さんですか?もう、しょうがないなぁ~

黒澤さんは嬉々とした表情で、後藤教官の元へ行く。

後藤

石神さん‥

石神

‥‥‥

無言の石神さんに小さく肩を落としながら、後藤教官は黒澤さんの相手をすることなった。

東雲

透はただでさえウザいのに、酒が入ると余計に絡んでくるからね

東雲教官はニヤニヤと笑みを浮かべながら、石神さんに視線を向ける。

颯馬

フフ、後藤が呼んでいたらしいですし、いいんじゃないですか?

石神

‥‥‥

サトコ

「あっ‥!」

みんなの視線に耐えられなくなったのか、石神さんは近くにあったお酒を一気に煽る。

難波

へぇ、いい飲みっぷりじゃないか

石神

‥ありがとうございます

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難波

酒はたくさんある。心置きなく飲めよ

石神

では‥

石神さんは空いたグラスにお酒を注ぎ、口にする。

(あのお酒って、度数が高かったような‥)

ペースが速くなる石神さんに、不安が過った。

難波

そろそろいい時間だし、お開きにするか

難波室長の一声で、宴会は終わりを告げる。

難波

部屋に戻ったら、飲み直すかな

颯馬

フフ、相変わらず酒豪ですね

黒澤

歩さ~ん。オレ、まだまだいけますよぉ~

後藤

俺は歩じゃない

東雲

後藤さん、後はよろしくお願いします

後藤

お、おい、歩!

加賀

その辺に寝かしときゃいいだろ

後藤

はぁ‥

後藤教官はため息をつきながら、黒澤さんに肩を貸して宴会場を後にする。

他の教官たちも宴会場から去って行き、私と石神さんだけが残った。

サトコ

「‥‥‥」

石神

‥‥‥

私たちの間に、静寂が訪れる。

(そういえば‥さっき、石神さんから誘われたんだっけ)

サトコ

「‥私たちも、部屋に戻りますか?」

石神

ああ

石神さんは短く返事をするものの、先ほどの約束のことは何も言ってこない。

(結構飲んでたし‥もしかして、忘れちゃったのかな?)

小さく肩を落とすも、あまり石神さんに無理をしてほしくない。

(石神さんの歌も聞けたし‥一緒に温泉に来れただけ、いいよね)

持ち前の前向きさを発揮し、自分にそう言い聞かせた。

【廊下】

宴会場を後にした私は、自分の部屋へと戻ろうとすると‥

石神

どこに行く?

石神さんに腕を引かれた。

サトコ

「どこって‥」

石神

‥忘れたとは言わせないぞ

サトコ

「っ‥」

力強く腕を引かれ、ドキッと胸が高鳴る。

そして私たちは、そのまま石神さんの客室へと向かった。

【石神の部屋】

石神

サトコ‥

サトコ

「っ‥」

石神さんは部屋の扉を閉めると、私の身体を抱きすくめた。

どこか甘い声音で名前を呼ばれ、心臓が早鐘を打つ。

石神

さっきは、すまなかった

サトコ

「ん‥」

優しい手つきで頬を撫でられ、くすぐったい。

真剣な表情で私の顔を覗き込む石外さんの瞳は、熱をはらんでいた。

サトコ

「さっきって‥」

石神

‥室長と黒澤のことだ

あんなことをするなんて、俺らしくもないが‥

お酒のせいか、薄っすらと赤い石神さんの頬。

そんな石神さんの頬は、より一層赤みを増していく。

石神

‥お前に、触れられたくなかった

真剣な表情で見つめられ、私も同じように頬が赤くなった。

サトコ

「私は‥嬉しかったです」

石神

そうか‥

ふわりと笑みを浮かべると、石神さんも笑みで返してくる。

そして、私のうなじに指を滑らせた。

石神

確かに、室長たちの言う通り‥綺麗だな

サトコ

「く、くすぐったいです‥」

石神

そういえば、お前は首元が弱かったな

楽しそうに笑みを浮かべながら、石神さんはうなじに顔を寄せる。

石神

‥お前のうなじは、誰にも見せたくない

サトコ

「んっ‥」

首筋に吐息が掛かったかと思うと、唇があてがわれる。

そして小さなしびれが走ったかと思うと、石神さんは顔を離して私の髪の毛を下ろした。

石神

これで大丈夫だな‥

サトコ

「あっ‥」

石神さんは満足そうに微笑むと、私を布団の方へ誘う。

私を抱きすくめて額をコツンと合わせると、唇にキスを落とした。

石神

‥お前は、俺のものだろう?

どこか甘えるような声音に、母性本能がくすぐられる。

背中に腕を回すと、石神さんは安心したようにホッと息をついた。

(石神さんは、酔ったらヤキモチになるんだ‥)

彼の新しい一面を見て、頬が緩む。

石神

‥なにを笑っている

石神さんは背中に回された腕を解くと、私に覆いかぶさってくる。

私の顔の横に腕をつき、空いている方の手で指を絡めてきた。

石神

今は、俺だけを見てくれ

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サトコ

「石神さん‥」

石神さんの唇が、私の唇を塞ぐ。

とろけるようなキスを受け、私たちの熱は一つになっていった。

【廊下】

翌日。

朝早く石神さんの部屋を後にした私は、温泉に入った。

サトコ

「ふぅ、気持ち良かったな‥」

自分の部屋に戻ろうと、廊下を歩いていると‥

颯馬

おや、サトコさん。おはようございます

サトコ

「おはようございます」

颯馬教官が目の前を通りかかり、足を止めて挨拶した。

颯馬

早いですね。サトコさんも、朝風呂ですか?

サトコ

「はい。今の時間は誰もいなくて、大きいお風呂を独り占めしちゃいました」

颯馬

そうですね。私も、今から

‥‥‥おや?

颯馬教官は、私のうなじに目を止めた。

サトコ

「どうかしましたか?」

颯馬

首元、赤くなってますよ

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サトコ

「えっ!?」

私は慌てて鏡を取り出すと、首元を見る。

(こ、これって‥キスマーク!?)

石神さんがうなじに触れた瞬間、僅かに感じた電気が走るような痺れる感覚。

(あの時についたんだ‥)

昨日の出来事を思い出し、頬が熱くなっていく。

サトコ

「こ、これは、ですね‥あの‥」

「そ、そう!昨日、アブ蚊に刺されまして‥!」

颯馬

フフ、それは大変ですね

サトコ

「は、はい!薬を塗らないといけないので、失礼します!」

私は颯馬教官の視線から逃れるように、その場を後にする。

(今日は絶対首元隠さなきゃ‥!)

痕を隠すように首元に手を当てると、石神さんの唇が触れた箇所が熱を持っていくように感じた。

Happy  End

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