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ふたりの恋敵編 石神3話

【カフェテラス】

(今夜少しでも早く出られるように、雑務の手伝いに行こうかな‥)

夜のデートを前に、すでに浮き出し立っている。

食べ終わったトレイを手に席を立つと、不思議そうに鳴子が私を見上げた。

鳴子

「あれ、今日なにかあったっけ?」

サトコ

「明日の講義の準備、手伝いに行こうかなと思って」

千葉

「昼休みも教官室か。熱心な専属補佐官だね」

サトコ

「そ、そういうわけじゃなくてね?」

鳴子

「いいんじゃない?サトコが楽しそうにやってることだし」

そそくさと席を離れると、鳴子と千葉くんはどこか茶化すように私に手を振っていた。

【教官室】

サトコ

「失礼します!」

黒澤

あ、サトコさんじゃないですか~!

いらっしゃいませ!

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サトコ

「く、黒澤さん‥!こんにちは」

(いらっしゃいませって‥)

(黒澤さん、まるで教官室の住人のように毎日いる気がする‥)

サトコ

「あれ‥石神教官はご不在ですか?」

颯馬

すぐ戻ってくると思いますよ

東雲

‥あれ?

サトコ

「な、なんですか‥?」

東雲教官がジーッと私の顔を見つめる。

東雲

ふーん‥なるほどね

キミ、もしかして、今日の夜デートとか?

サトコ

「え!?」

(な、何で知ってるの東雲教官‥!)

東雲

いつもより気合いの入ったメイクだし

手抜き感がない‥つまり何か予定があるってことでしょ

サトコ

「!?」

黒澤

おや、まさかの図星ですか!

サトコさんも隅に置けませんね

<選択してください>

A: まだ何も言ってません!

サトコ

「まだ何も言ってません!」

東雲

へ~

サトコ

「っていうか、手抜きについては放っておいてください!」

(明日の講義の準備を手伝えればいいかなと思って来ただけなのに‥)

(妙なところを突っ込まれるなんて‥)

東雲

デート前に仕事頑張ろう!ってとこ?

サトコ

「!!!」

颯馬

フフ‥今日のサトコさんも可愛らしいですよ

(誰も話を聞いてくれない‥)

B: 黙秘権発動します

サトコ

「黙秘権発動します!」

加賀

ああ゛!?

クズにそんな権利あるわけねぇだろうが

サトコ

「か、加賀教官‥!いつの間に‥!」

加賀

くだらねぇこと言ってねぇで

早くそこを退け、邪魔だ

サトコ

「ひぃ!」

加賀教官はドアのところにいた私の首根っこを掴む。

颯馬

フフ‥サトコさんは、相変わらず健気で可愛らしいですね

C: そんなわけないじゃないですか

サトコ

「そんなわけないじゃないですか」

東雲

へー

黒澤

こうして教官陣のイジリにも耐える健気な姿‥

なんと感動的な‥

(飛躍しすぎだし、芝居がかってるし‥)

サトコ

「言い過ぎですよ黒澤さん‥」

黒澤

実際にサトコさんは健気なんですって

じゃなきゃあんな鉄か鉛の塊みたいな人の補佐官なんて務まんな‥‥

石神・後藤

「‥‥‥」

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黒澤

!?

(あ‥)

ほとんど気配を感じさせず、教官室のドアが開いた。

黒澤

‥サトコさん

よかったら間に入って頂けると、ものすごく嬉しいです

サトコ

「ハハ‥」

「あれ?でも石神教官に用があるからここにいるんじゃないんですか?」

「お仕事の話なら私、席外さなきゃ‥」

黒澤

まぁ、そう言わずに

ね!

東雲

透の変わり身っていつも粗いよね。ネタなんだろうけど

加賀

さっきからガタガタうるせぇ

さっさとうせろ、黒澤

黒澤

な、なんでオレだけなんですか!?

加賀

黙れ

黒澤

す、すみません‥!オレが用があるのは後藤さんなんで!

さあ行きましょう後藤さん。直ちに行きましょう

石神

‥‥‥

黒澤

ひぃぃ!

(相変わらずだなぁ、黒澤さん‥)

石神

‥氷川、どうかしたか?

サトコ

「あ、はい!何か石神教官のお手伝いできることがあるかと思いまして‥」

石神

そうか。それは助かる

(良かった‥!)

颯馬

フフ、やっぱりサトコさんは可愛らしくていいですね

東雲

そうですか?単純すぎてバカっぽいですけど

加賀

圧倒的に色気も足りねぇ

サトコ

「‥‥‥」

「‥颯馬教官、ありがとうございます」

東雲

妙なスルースキル身に付けるとか、生意気

サトコ

「なっ!そんなスキル身に付けてませんから‥!」

石神

氷川、構わなくていい。行くぞ

サトコ

「はい‥」

小さく呟いて、私は奥の個別教官室へと向かった。

【レストラン】

サトコ

「んん!」

「美味しい!」

石神

デザートも頼むか

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サトコ

「プリンにします!」

石神

‥無理に合わせなくてもいい

お前が食べたいのを頼んでいいんだぞ

サトコ

「石神さんのおかげですっかりハマちゃったんですよ」

石神

‥‥‥

仕方なさそうに微笑んで、石神さんはウエイターに注文してくれる。

(オシャレなイタリアンで食事‥)

(なんだろう。ものすごくカップルっぽい気がする‥)

石神

どうかしたのか?

サトコ

「いえ‥その、嬉しくて」

石神

ここ最近、喜ぶハードルが低すぎないか

サトコ

「え‥そうですか?」

「それはちょっとマズイかもしれません」

石神

サトコ

「本当なら、吉川議員みたいにテキパキ仕事できる補佐官になりたいのに‥」

「何を呑気に喜んでるんだろう‥」

「いや、でも嬉しいものは嬉しいですし」

石神

フッ‥

サトコ

「あ、笑いましたね」

石神

プライベートな時間くらい、肩の力を抜け

サトコ

「はい‥」

「でも、やっぱり憧れちゃうんですよね」

「莉子さんとか、吉川議員みたいにバリバリ仕事できる女の人って」

(吉川議員については、岩下議員を支えてる感じが特に‥)

(私もあんなふうに石神さんの隣に立てればいいんだけどな)

石神

‥根っこの部分は似たようなものを持っているんじゃないか?

お前もそのうちそうなるのかもしれないと、期待せずに見守っておくことにする

サトコ

「ええ‥」

「その根っこの部分ってなんですか?」

石神

指導する側の人間にしてみれば一番厄介なんだが‥

サトコ

「?」

石神

諦めの悪いところだ

サトコ

「‥どうもご迷惑をおかけしております」

石神

どうだろうな

危なっかしくて目は離せないが、迷惑とは思わない

(そうだったんだ‥)

石神

‥待て

仕事の話をしない方向で肩の力を抜けと言ったはずなんだが

サトコ

「あ、ホントですね」

(せっかく連れ出してくれたのに、仕事の話ばっかり‥)

石神

‥サトコらしいな

(う、わぁ‥)

(その顔は反則‥!)

石神さんがあんまり穏やかに微笑むから、

私は照れを隠すようにもぐもぐとカプレーゼに舌鼓を打った。

【車】

(もう着いちゃうな‥)

(でも、ゆっくりできた‥)

石神さんの心遣いが嬉しくて、名残惜しさも今日は幾分サッパリしている。

サトコ

「あ、石神さん」

石神

なんだ?

サトコ

「爆破事件については、引き続き捜査が続いてるんですよね?」

石神

ああ

サトコ

「訓練としてはかなりイレギュラーになっちゃいましたけど、いい勉強になりました」

「ありがとうございました」

石神

‥そうか

最後まで追うことができれば良かったんだが

サトコ

「大物政治家が狙われたかもしれないのに、訓練生風情が前には出られません」

「そのあたりは弁えてるつもりです」

「ただ、石神さんが‥」

石神

(無理することにならなかったらいいんだけど‥)

連日、学校不在で本庁に張り付いていたこと。

視察中も、私たち訓練生より一歩向こうに思考を巡らせていたこと。

岩下議員に話を聞いた際の、何かを探っていた様子。

(きっと何か、抱えてるんだよね‥)

そのうえ、こうして私のことまで気遣ってくれている。

サトコ

「‥いえ、今日はありがとうございました」

「石神さんとゆっくり過ごせて嬉しかったです」

石神

ああ‥俺もだ

ちょうど学校付近に車を滑り込ませると、石神さんはギアをパーキングに入れた。

サトコ

「本当は‥もう少し自分に何かできればって思うんですけどね」

「いつも石神さんに助けられてばっかりだから‥」

石神

‥‥‥

サトコ

「理想や憧ればかりが先に立っている今の自分じゃ、どうしようもないことも分かってます」

「だから‥長い目で見て待っててもらえませんか」

「刑事としても、女性としても、ちゃんとできるまで」

石神

フッ‥

(ガーン‥笑われた)

石神

‥少なくとも今こうしている間は、ちゃんと女として見ている

サトコ

「え‥」

石神

俺はお前に救われている

そこは自信を持て

サトコ

「‥‥‥」

石神さんの指先が、私の髪をそっと耳にかける。

サトコ

「自信持てるほど女らしさもない‥です」

石神

それは俺が決めることだろう

サトコ

「な‥」

<選択してください>

A: 浮かれてもいいんですか?

サトコ

「う、浮かれてもいいんですか?」

石神

いいんじゃないか?

サトコ

「うそ‥」

石神

普段、感情が読めないと言われることが多い分

お前にはそれなりに意思表示しているつもりなんだが‥

B: 物好きですね

サトコ

「‥物好きですね」

石神

どうだろうな

それなりにいい趣味しているとは思うが‥

サトコ

「ええ‥そんなバカな」

石神

どうとでも思えばいい

C: そう言われるとさすがに照れます

サトコ

「そう言われるとさすがに照れます‥」

石神

俺も今、まずいことを口走ったと思っているところだ

サトコ

「自分で言ったんじゃないですか」

石神

‥‥‥

心臓が、ドキドキと音を立てる。

私の必死の照れ隠しに石神さんはクスリと笑って、額に優しく口づけた。

【学校 廊下】

翌日‥‥

校内放送

『氷川サトコ、5秒で教官室に来い』

『急がねぇと、テメェを土に埋めるからな』

サトコ

「ええっ!?」

鳴子

「ちょっとサトコ!加賀教官からご指名って‥」

「いったい何したの?」

サトコ

「いや‥覚えはないんだけど」

「昨日今日は何もやらかしてないはずなのに!」

わけもわからないまま、持っていたテキストを鳴子に預ける。

サトコ

「ごめん!私の机に置いといて!」

鳴子

「任せて!」

「頑張れサトコ!加賀教官に負けるな~!」

(鳴子‥加賀教官には勝てるわけないよ‥)

私は訳も分からないまま、教官室へ走った。

【教官室】

サトコ

「氷川です!失礼します」

「加賀教官は‥」

呼び出されるままに教官室へ向かうと、難波室長の姿があった。

サトコ

「!」

「室長、お疲れさまです」

難波

ああ、お疲れ。急に呼び出して悪かったな

サトコ

「いえ‥あの、加賀教官は‥」

難波

ああ、呼び出すように頼んだのは俺だ

石神

‥‥‥

(そうだったんだ‥ひとまずお説教じゃないのかな‥?)

(でも、何事なんだろう‥)

ホッとしたのも束の間、どこか固い空気に身構える。

と、難波室長はいつものように緩く微笑んだ。

難波

ちょっと氷川に相談があってな

サトコ

「?」

石神

‥今朝、3日後に地下鉄爆破テロを起こすと予告があった

公安が目をつけていたテログループによるものだろうということだが

要求は曖昧で信憑性には欠ける

(テロ予告‥!?)

思いのほか、話が大きい。

サトコ

「でも実際に起きたら大変じゃないですか‥」

難波

そうだ

で、まぁ‥この間の爆破事件のこともあるしな、氷川は顔割れてることだし

できれば岩下近辺の調査を氷川に任せられればと思ってる

大っぴらに動ける人員は貴重だ

サトコ

「え」

(岩下議員‥?)

難波

もしかしたらこの前の事件と関係があるかもしれないしな

石神

「室長。やはり氷川は‥」

難波

訓練もこの前のテロのせいで、頓挫したんだろ?

ちょうどいいんじゃないか?

サトコ

「許可して頂けるなら、私は是非」

難波

ただし‥失敗は許されない

サトコ

「っ‥!」

突然の、背後が凍りそうなほどの冷淡な声に息を飲む。

難波

できないなら、今はっきり言え

(できない、なんて言いたくない‥)

サトコ

「‥やらせてください」

石神

‥‥‥

難波

よしわかった‥

お前の教官は渋ってるが、まあ、そういうことで頼む

石神

はぁ‥分かりました

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(対象がテロだし‥訓練生連れてくのも気が進まないのかな)

(足引っ張らないようにしなきゃ‥)

サトコ

「気を引き締めて頑張ります!」

【ホテル】

‥と意気込んで捜査に臨んだものの、予告されていたようなことは起こらないまま5日が過ぎた。

石神

今日で切り上げる

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サトコ

「でも、前の爆破事件の犯人も捕まってないんですよね‥?」

「岩下議員が狙われていた可能性がある以上はまだ‥‥」

石神

それ以上のことは俺たち関かわることではない

訓練としても十分な時間は取れたはずだ

サトコ

「‥はい」

(テロ予告も悪戯だとは思えないけど、ないものはないし‥)

難波室長からの直々の指示だっただけに、この不発感が釈然としない。

モヤモヤしていると、ホテルからスーツ姿の人たちが続々と出てきた。

サトコ

「あ、吉川議員と一緒に出てきましたね。岩下議員‥」

石神

総理の立会演説が始まる頃合いの移動だ

残念ではあるが、あとは他の人間に任せればいい。行くぞ

サトコ

「はい‥」

政治家たちの輪の中にはSPもいるし、それを見守っている公安捜査員も近くにいるはずだ。

(気配が全くない‥さすがプロ)

吉川・岩下

「‥‥‥」

サトコ

「‥‥?」

(今、岩下議員に耳打ちした‥?)

岩下

「‥‥‥」

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岩下議員は微笑んで、ポンッと吉川議員の背中を叩く。

一礼した吉川議員はひとり、ホテルの中へ戻って行った。

(また何か、フォローしてるのかな‥)

気になりながらも確かめる術はなく、私は石神さんの後を追いかけた。

【学校 資料室】

(真面目に自習‥って思ってたけど、やっぱり気になる‥)

ノートを広げてはみたものの、頭に浮かぶのは事件のことばかりだ。

(予告されたテロがなかったのは幸いだったけど、だからって終わったわけじゃないし‥)

(石神さんもたぶん、まだ捜査したがってた‥)

そもそも、難波室長直々の指示だ。

テロ予告自体はもちろん大問題ではあったけれど、もっと他に‥

(私みたいな訓練生を使ってまで、捜査したことがあった‥?)

サトコ

「‥‥‥」

(どうしよう。開けちゃいけない箱を開けちゃった、みたいな‥)

(こういう時、吉川議員ならサクッと対応するのかなぁ)

岩下議員が動けない時に、吉川議員が察して動いていた。

まだ到底真似できないけれど‥自分の目指す姿だ。

(出来る範囲で、ならいいよね‥?)

(いつも言われているように一歩先も考えて、迷惑かけない程度に‥)

【岩下 選挙事務所】

翌日。

講義を終えて岩下議員の事務所へ向かうと、改めて爆破事件のあった場所に立った。

(もう数日経つし、ほとんど何も残ってないけど‥)

サトコ

「改めて見たら凄い場所で爆破したんだな‥」

ビルの真ん前。

それも、車が塞がなければ人通りのある道路だ。

吉川

「‥氷川さん?」

サトコ

「吉川議員!お疲れさまです」

吉川

「もう事情聴取も済んでるはずですけど、まだ何か‥?」

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サトコ

「い、いえ!今日は通りかかっただけで」

(顔合わせる気なかったのに‥!)

棘のある声に気持ちが後ずさる。

(‥でも、ここで引き下がったらダメだ!)

吉川

「‥そう。ごめんなさい」

「このところ警察の目ばかりだから気が立ってて‥」

サトコ

「選挙期間中ですし、ずっと気を張ってますもんね」

吉川

「ええ」

サトコ

「その後、岩下議員のお加減はいかがですか?」

吉川

「あの通りの人だから多少無理はしてるでしょうけど、平気な顔して動き回ってるわ」

サトコ

「ああ‥なんとなく想像できます」

「でも、選挙のこともありますし、じっとしていられないんでしょうね」

吉川

「そうなの!今回は何としても一位通過してもらわなきゃ‥」

サトコ

「へ‥」

吉川

「あ‥ごめんなさい。つい熱くなっちゃって」

サトコ

「フフ、本当に信頼されてるんですね」

吉川

「もちろん。岩下先生が総理になれるなら、私は協力を惜しまない」

吉川議員の目の輝きが、彼への絶大な信頼を物語っている。

サトコ

「‥素敵だと思います。本当に」

吉川

「ありがとう。じゃあ、帰り気を付けて」

サトコ

「はい!失礼します」

カツカツとヒールを鳴らして吉川議員は事務所へ入って行った。

【カフェテラス】

そうして、講義終了の空き時間は、岩下議員の行動を追うような過ごし方をするようになった。

とはいえ、単独捜査なんてできるわけもなく、

“視察”というよりは“追っかけ”と言っていいレベル。

(今日で3日目‥ランチはしっかり食べて夕方に備えようかな)

東雲

あ、見つけた‥

サトコ

「?」

見上げると、いつになく厳しい表情の東雲教官が頭を抱えている。

東雲

キミさ、何回言えば分かるの

注意受ける側の身にもなってって前にも言ったはずだけど

サトコ

「え‥」

東雲

さっき、吉川から察庁にクレームが入った

一体、今度は何をしてくれたわけ?

サトコ

「そんな‥」

「吉川議員からですか‥?」

(クレームって、どうしてっ‥?)

(顔を合わせた日も問題はなかったはずだし、その後は見かけてないのに‥)

東雲

上手く言い逃れできる程度にやってたんだっていう努力は認めなくもないけど

まだまだ詰めが甘いって言ってんの

サトコ

「あの、何て言われたんでしょうか‥?」

東雲

『周りうろつくな』って‥言われたらしいよ

しかも、察庁のお偉いさんが、石神さんの管理が悪いからだってさ

サトコ

「!」

東雲

‥今のでわかったでしょ

もう余計なことしないで、黙って大人しくしてたら?

(悪いのは私なのに‥)

(私の行動が全部、石神さんの評価に直結しちゃうんだ‥)

サトコ

「‥ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

カフェテラスを出ようと踵を返す。

東雲

言い忘れてたけど‥石神さんなら今日はもう来ないよ

察庁に呼ばれてるから

サトコ

「‥はい」

東雲教官の顔を見ないまま答える。

【廊下】

(また‥石神さんの足を引っ張っちゃった‥)

自分なりに、迷惑にならないように努めていた。

顔を知られているから無茶もしなかったし、講義があるため四六時中というわけでもない。

少しでも何か得られるかもしれない、そうじゃなくても無駄にはならない‥その一心だった。

(何か得るどころか、石神さんの評価下げてどうするの‥)

私は、泣きたい気分で廊下を走った。

to be continued

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