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ふたりの恋敵編 石神6話

【学校 校門】

難波室長と話をした翌日。

週末とあって講義もなく、動くにはうってつけの日だ。

(まだまだ石神さんには手も届かないけど、まずは一歩‥!)

???

「氷川」

サトコ

「!」

気合いを入れていると、後ろから声を掛けられた。

サトコ

「後藤教官‥」

後藤

‥頭は冷えたらしいな

室長が嬉しそうに話してた

サトコ

「後藤教官のおかげです」

後藤

は?

サトコ

「ホントに、石神教官の何を見ていたんだろうって‥」

「大きなものを抱えながら、ちゃんと私のことも見てくれてたのに」

「私は全然見えてなかったんです。だから、これから見てこようと思います」

後藤

‥ああ

サトコ

「あ、だから頭が冷えたというよりは、より燃えてる感じなんですけど」

後藤

ハハ

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いいんじゃないか。アンタらしくて

後藤教官は声を立てて笑う。

サトコ

「ただですね‥」

「私が熱くなるといつもいい結果にならないので‥」

後藤

‥‥‥

<選択してください>

A: どうするべきか相談する

サトコ

「ど、どうするべきかと‥」

後藤

なんだ、振り出しに戻るのか

サトコ

「いえ、考えはあるんですけど自信が‥!」

後藤

あるなら先に言え

B: 代理の石神教官役をお願いする

サトコ

「石神教官の代わりに、ご指導いただけませんか」

後藤

‥俺に石神さんの代わりは務まらない

アンタは、石神さんの専属補佐官だろ?

サトコ

「‥そうですよね」

後藤

助言はしてやれるけどな

C: 自分なりのプランを伝える

サトコ

「動くより先に、自分の考えていることを聞いて頂けたらと‥」

後藤

いい心がけだな

まずはどうするんだ?

サトコ

「‥迷惑をかけないために報告を聞いてもらえますか?」

後藤

ああ

サトコ

「これから岩下議員の元へ向かいます」

「とりあえずはそこまでです。その先は結果次第なので、また相談します」

後藤

いいだろう

‥動くなら逐一報告しろ

サトコ

「はい!」

(今回は本当にミスできない‥)

(慎重に、慎重に‥!)

ペコリと頭を下げて、私は大通りに向かって駆け出した。

【会館】

サトコ

「え、やっぱりそうなの?」

タクシーを拾って、都内にある文化会館へ着いて早々、電話片手にロビーの隅に移動する。

千葉

『うん。吉川議員が公式に出してたスケジュール‥』

『この2~3日はキャンセルになってるみたい』

サトコ

「‥分かった。ありがとう」

千葉

『今日そこには岩下議員以外に派閥関係者はいないはずだから』

サトコ

「本っ当にありがとう!恩に着るよ!」

千葉

『大袈裟だな。何かあったらいつでも頼って』

電話越しなのに頭を下げたくなるのを耐え、私は改めて姿勢を正した。

(演説会、そろそろ終わるかな‥)

腕時計を確認していると、会議室のドアが開いてぞろぞろと政治家が出てくる。

(岩下議員は‥)

岩下

「おや、キミは‥」

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サトコ

「岩下議員‥!」

岩下

「石神くんのところの氷川さんだったかな」

「‥どうしたんだい?」

どこか躊躇いがちに、岩下議員が尋ねる。

サトコ

「‥大事なお話があって来ました」

岩下

「‥‥‥」

秘書官

「先生、この後はオリエントホテルに14時の予定です」

サトコ

「少しでいいんです!お時間頂けませんか」

「お願いします‥!」

岩下

「オリエントホテルか‥食事会だったね」

「それは僕がいなくても話が進むだろう。30分ほど遅刻すると伝えてくれないか」

秘書官

「ですが‥」

岩下

「頼むよ」

秘書官

「‥承知しました」

岩下

「氷川さん、ここでどうだろう」

岩下議員は苦い笑みを浮かべて、会議室を指す。

サトコ

「ありがとうございます‥!」

(良かった。時間もらえた‥!)

【会議室】

岩下

「君がここへ来たということは、何か分かったということだね」

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サトコ

「え‥」

まるで私を待っていたかのような口ぶりに、口をつぐむ。

(もしかして‥岩下議員も気づいてる?)

岩下

「僕は、君たちの捜査に協力するつもりでいるよ」

「まずは君の話を聞こうか」

サトコ

「私は‥吉川議員の所在を知りたくてここに来ました」

岩下

「‥やはりそうか」

サトコ

「‥‥‥」

岩下議員はひどく悲しそうに目を伏せた。

岩下

「彼女とは今、連絡が途絶えてるんだ」

「僕にもどこにいるのか分からない」

サトコ

「選挙期間中の戦力なのに、ですか‥?」

岩下

「ああ」

「だからこそ、なのかもしれない」

サトコ

「‥詳しくお聞かせ願えますか」

岩下

「どこから話そうか‥そうだな」

「彼女はとにかく熱心でね‥仕事にも、僕に対してもそうだ」

「なんというか‥彼女の好意を分かっていながら」

「上手く距離を保とうとしていた僕が悪かったのかもしれない」

サトコ

「え‥」

(好意‥?)

サトコ

「それは‥恋愛的な意味合いで、ですか?」

岩下

「こんなおじさんが自惚れてると思うだろう?」

「一度そのようなことを言われたけれど、彼女とは歳の差もあるし、やんわりと断ったんだ」

サトコ

「‥‥‥」

“岩下先生が総理になれるなら、私は協力を惜しまない”

キッパリとそう言った吉川議員を思い出す。

(岩下議員のことが好きだから、あそこまで頑張れたってこと‥?)

彼女が献身的に岩下議員に尽くす姿勢は‥憧れや尊敬以上のものがあった。

そう思うと、さらに自分と石神さんの関係と重なってしまう。

岩下

「ここからは君たちの仕事も絡んでくる話になるだろうが‥」

「僕の周りにいる議員たちの中で」

「ある組織と関わっている人物がいると疑っていたところだったんだよ」

「そんな折に選挙カーでの爆破事件が起きてね」

サトコ

「ある組織って‥」

岩下

「海外に拠点を置くテロリストだ」

サトコ

「!」

岩下

「石神くんが話を聞きに来たときに、ああ、ついに来たかと思ったよ」

「僕にはまだ確証がなかったから、石神くんがどこまで掴んでいるのかも気になった」

「事が事だからね。選挙を前にしての混乱は避けたかった」

「何よりそれは、国家を揺るがすことになりかねない」

「それに‥吉川君も、頑張ってくれていたからね‥」

サトコ

「今は、確証がおありなんですね‥?」

岩下

「わからない‥」

「だが、彼女が行方をくらましている理由を考えれば‥」

(吉川議員がテロリストと繋がっていた‥)

高架下での爆破以降、行方をくらませていること自体がそれを認めていると、

岩下議員は考えているということだ。

岩下

「ただ一生懸命な子なんだよ。僕と共に働いてくれるなら、いい政治家に育ててやりたかった」

サトコ

「‥‥‥」

痛いくらいに、重なってしまう。

私の一生懸命さが空回って、でも、しっかりと見守ってくれている石神さんがいることと。

岩下

「続発するテロは、総理降ろしの一端にするつもりだろう」

「今の政治網を破たんさせて、僕が前に出やすい道を作りたいという思惑だと思う」

サトコ

「そんなことのために、人の命を脅かすんですか‥」

岩下

「ああ。言語道断だ」

「だが、人は何かに囚われると周りが見えなくなってしまうからね」

「特に彼女の場合、その性質が強い」

サトコ

「‥周りが見えなくなるのは、私も分からないでもないです」

岩下

「ん?」

サトコ

「私は‥吉川議員と同じなんです」

「石神さんに追いつきたい一心で空回って、迷惑をかけて、その繰り返しです」

「大事な人の力になりたいという吉川議員の気持ちは多分、人一倍分かります」

岩下

「そうか‥」

サトコ

「でも、誰かを傷つけてまで希望を叶えようだなんて理解できません」

「‥‥‥‥‥確保に、ご協力いただけますか?」

岩下

「‥‥‥」

半ば願うように、岩下議員の目を真っ直ぐに見つめる。

ついにこの時が来た‥そういった具合に、彼は静かにうなずいた。

【教官室】

サトコ

「‥ということで、岩下議員の協力を得て」

「明日午後4時に官邸へ来るようにと吉川議員宛に留守電を残してもらいました」

「元々、明日は吉川議員を含めた数名で総理と会談する予定があったそうです」

後藤

‥‥‥

加賀

‥‥‥

颯馬

‥‥‥

東雲

‥‥‥

サトコ

「あ、あれ‥」

「あの、勝手な真似してるのは重々承知してます」

「どうぞ怒るなり煮るなり焼くなりしてほしいんですけど‥できれば、全部終わってから‥!」

無言のまま固まる教官陣に焦る。

(でも、許してもらわなきゃ‥)

サトコ

「お願いします!」

「石神教官の任務を最後までやり遂げたいんです」

「力を貸してください‥!」

呆れられてもいい。

見放されてもいい。

今回だけは、ここで手を引くなんてできない。

???

「‥ホロリ」

「サトコさん‥オレ、感動のあまり目から汗が」

サトコ

「黒澤さん、いつからそこに」

いつの間にか、固まる教官陣に黒澤さんが加わっている。

黒澤

どうぞ怒るなり煮るなり焼くなり‥からです

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サトコさんの姿に胸が苦しくなって声が出ませんでした

東雲

暑苦しいことこの上ないでしょ

黒澤

オレこういうの好きですもん

加賀

むっつりクソメガネが手間取らせやがって

颯馬

フフ‥そう言いながら加賀さん、嬉しそうですけどね

加賀

ああ?

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黒澤

ここは男黒澤、石神さんとサトコさんのためにひと肌脱ぎます!

サトコ

「え、じゃあ‥」

加賀

呆けてる暇なんかねぇぞクズ

サトコ

「‥‥‥」

(伝わったんだ‥!)

後藤

氷川‥

サトコ

「! はい‥」

後藤

‥よくやったな

<選択してください>

A: ありがとうございます!

サトコ

「ありがとうございます!」

加賀

クソメガネ班は基本的に甘ぇんだよ

まだ何も解決してねぇだろうがクソが

サトコ

「う‥」

「ハイ」

颯馬

それでも、サトコさんがここまで食い下がるとは思いませんでした

B: まだこれからです

サトコ

「‥っ」

「‥はい。でもまだこれからです」

後藤

ああ

東雲

ねぇ、どうやって室長を口説いたわけ?

そこが一番不思議なんだけど

サトコ

「く、口説いてなんかないです」

後藤

確かにそこは俺も気になるな

サトコ

「とにかく必死で‥」

C: 後藤教官のお説教あってのことです

サトコ

「後藤教官のお説教あってのことです」

後藤

石神さんには及ばない

東雲

あれ?オレと颯馬さんのアシストは無視なわけ?

サトコ

「もちろん感謝してます!」

颯馬

フフ‥石神さんも驚くでしょうね

加賀

‥おい、忠犬

ふと、加賀教官が真面目な顔で私を見る。

(クズから忠犬に格上げ‥?)

加賀

クズがクズなりに突っ走りやがったおかげで、明日カタを付けられる

サトコ

「あ、やっぱりクズなんだ‥」

加賀

ああ?

サトコ

「いえ!なんでもありません!」

加賀

ちょうどテログループの国内拠点が分かったところだ

明日、一気に畳み掛けるぞ

サトコ

「! はい!」

そこから、私は教官たちに交じって、捜査会議に加わった。

【総理官邸】

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翌日。

首相官邸で、約束の時間を待った。

黒澤

病院、行かなくて良かったんですか?

石神さんの調子、だいぶ良くなったみたいですよ

サトコ

「できるなら行きたかったですけど‥」

「でも、せっかく起き上がれるようになったところでこんな話聞かされたら」

「かえって心配事増やすだけのような気がしまして‥」

黒澤

どうかなぁ

後藤さんあたりがサラッと喋ってそうですけどね

サトコ

「私から聞かされるよりはまだ安心できるんじゃないですか?」

「伊達に危なっかしい訓練生代表じゃないんで」

黒澤

ハハ

(それに吉川議員がテロリストと繋がっている以上、どう出てくるか分からないし‥)

あれほど根回ししてくれていた石神さんなら、

自分が動けない中でのこの状況は気が気じゃないはずだ。

黒澤

よし、では10分前です

配置はさっき言った通り。絶対に無茶しないこと

‥いいですね

サトコ

「はい‥!」

(今日でカタを付けるんだ‥!)

覚悟を決めて、約束の部屋へ向かう。

【廊下】

(いた‥)

ひとりで廊下を進むと、会議室の前で吉川議員を見つけた。

吉川

「‥‥‥」

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サトコ

「あなたを、捕まえに来ました」

吉川

「そう‥」

サトコ

「‥捕まる気でここへ来たんですか?」

吉川

「私がマークされ始めてどれほど経つと思ってるの。いつでも捕まる覚悟はあったわ」

「‥選挙さえ終われば」

サトコ

「‥岩下議員のためなら協力は惜しまないというのは、手段を選ばないということだったんですか」

吉川

「あなたには分からないわ」

サトコ

「分かってないのはあなたの方です!」

「あんなに懐深く、あなたを育てようとしてくれてる人を裏切ってどうするんですか!」

吉川

「例えそうでも、あの人はこの国を支えていくべき人よ」

「私の行動には、岩下を裏切ってなお価値がある」

意思の固さが窺えるその瞳を前に、怒りよりも悲しさが込み上げてくる。

サトコ

「‥そんなことのために、テロリストと組んだんですか」

吉川

「今回の衆院選を狙って問題を起こしたかっただけよ。総理の直近のせいにする手筈も済んでた」

(なんてこと‥)

サトコ

「そのせいで誰かが死んでも構わないって言うんですか?」

「岩下議員さえ怪我をさせて‥!」

吉川

「あれは予定外だったのよ‥!」

「私だって好き好んで大事な人を傷つけたわけじゃない!」

サトコ

「あれもあなただったんですか‥」

吉川

「負傷者が出ない算段だったのに‥!」

「あなたが関わるようになってから、すべてが狂っていったのよ!」

サトコ

「‥‥‥」

(高架下爆破の関与を認めた‥)

黒澤

「‥‥はい、オッケーです!」

「周介さん、そっち踏み込んでください!」

吉川議員とテログループの繋がりの確証を得てから

双方同時に確保する‥という作戦通りに事が進む。

私は何とか、吉川議員の口から“関与の証拠”を引き出すことに成功した。

吉川

「な、何を‥」

黒澤

吉川秋穂さん。そこを動かないでください

身を潜めていた黒澤さんが、吉川議員の背後へ回り込む。

私は正面からジリジリと間合いを詰めていた。

(最後まで焦らない、気を抜かない‥)

心の中で繰り返しながら、黒澤さんと呼吸を合わせる。

吉川

「‥動かないで」

サトコ

「!」

黒澤

吉川

「動くべきではないのはあなたたちよ」

サトコ

「‥っ」

吉川議員が私に拳銃を向けるのと、その後ろから黒澤さんが拳銃を抜くのと‥

ほとんど、同時だった。

イヤモニの向こうからは、テロリスト確保の声が聞こえてくる。

(あと一歩で石神さんの任務完了なのに‥)

(また私が無にするの‥?)

吉川

「岩下を頂点に立たせる大義のためなら、私はひとりでも多くの邪魔者を消すわ」

黒澤

‥‥‥

サトコ

「‥‥‥」

素人でも、十分に命中する距離。

ゴクリ‥と息を飲む音が、やけに大きく聞こえた。

to be continued

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