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ふたりの恋敵編 石神GE

【石神のマンション】

そして約束の日。

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石神さんのマンションの前まで来てはいいものの、

エントランスのインターホンに手を伸ばそうとして引っ込めて、

伸ばして引っ込めて‥を繰り返している。

(ま、丸一日一緒にいられるなんて今さら緊張‥)

(どうしよう、どうしよう、どうしよう‥!)

(いや、嬉しいんだけど。めったにないチャンスだし‥!)

気持ちを落ち着けようと、胸に手を当てて深呼吸する。

サトコ

「お、落ち着け‥」

(‥これじゃ、なんだか不審者だよ‥)

(じゃなきゃ、どこかの中学生‥)

石神

サトコ?‥なにをしているんだ?

サトコ

「!?」

部屋にいるとばかり思っていた石神さんはちょうどコンビニに行っていたようだ。

挙動不審な私の様子を不思議そうな顔で見つめている。

サトコ

「い、いえ!ちょっとした心の準備を‥!」

石神

は?

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(石神さんとふたりきりっていうのはドキドキしすぎていろいろ大変なんですよ‥!)

って、言ってしまえば自爆するようなもので、言えるはずもなく‥

サトコ

「‥いえ、こっちの話です」

石神

行くぞ

石神さんが訝しがるのが分かったけれど、私は気付かないフリをして部屋へと向かった。

【リビング】

サトコ

「これ、一緒に食べませんか?」

部屋に入ってすぐ、パティスリーの袋をテーブルに置かせてもらう。

石神

‥‥‥

サトコ

「さすがに石神さん、お店の袋を見ただけで分かるんですね!」

石神

よく買えたな‥朝から並んだのか?

そこは超がつく人気店で、常に行列が出来ている。

サトコ

「あの行列に並べる日なんてそうありませんし、思い切って行ってみたんです」

「人気のふわとろプリンがどうしても食べたくて」

「その‥‥石神さんと」

石神

‥‥‥

サトコ

「石神さんが誘ってくれた日から、密かにこのチャンスを狙ってたんですよね」

「ここ最近、のんびりプリンの日なんてなかったですし」

「私からの退院祝いということで!」

石神

お前は‥

呆れ気味に微笑んだかと思えば、

石神さんは私の手を引いてソファに腰を下ろし、後ろから抱きしめた。

サトコ

「!」

(こ、これは‥)

前に回された腕と、私の肩口に埋められた顔。

石神さんの香りが鼻先を掠めて、胸がきゅんと反応する。

石神

‥‥‥

サトコ

「あ、あの‥」

石神

サトコ‥

サトコ

「はい‥」

石神

‥‥‥

サトコ

「?」

(あれ?反応がない‥)

黙り込んでしまった石神さんを振り返ると、そのまま唇が重なる。

愛おしげに食んでは、添えた指先すら優しく髪を撫でた。

(う、わぁ‥)

胸の奥が甘く疼いて、信じられないくらい早く脈を打つ。

サトコ

「い、石神さん‥」

石神

‥‥‥

身体が離れると、石神さんは少し考えるように視線を彷徨わせた。

濡れた唇が視界に入って、クラクラと眩暈を覚えそうになる。

(初っ端からこんなんじゃ、今日一日が思いやられる‥!)

‥と、軽く肩を掴まれて、固い胸が頬に当たった。

サトコ

「!」

石神さんは私を抱き寄せたままで、静かに口を開く。

石神

‥お前の一生懸命なところが、俺は好きだ

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サトコ

「え‥」

ダイレクトに響いてくる鼓動が、私と同じようにドキドキと音を立てた。

サトコ

「き、急にどうしたんですか‥」

石神

今回の事件では、一歩間違えれば命を落としていたかもしれないからな

大事なことは、ちゃんと伝えようと思った

サトコ

「大事なこと‥」

(好き、っていうのが大事なこと‥)

(あのまま石神さんが目を覚まさなかったら、ちゃんと想いを伝えられなかった‥)

石神

無理に背伸びしなくていい

前にも言ったが‥お前はちゃんと愛されている

サトコ

「‥‥‥」

石神

‥分かったか?

サトコ

「‥っ」

石神さんに追いつきたい。

支えになりたいと空回り気味だったことを、ちゃんと見ていてくれた。

(だからってこんなの反則‥)

嬉しすぎて言葉にならない。

私はブンブンと音がしそうなくらいに首を縦に振る。

口を開けば、一緒に涙まで出てしまいそうだ。

石神

フッ‥こういう時は大人しいんだな

サトコ

「やめてください‥今、いつもみたいにギャーギャー言える余裕ないです」

石神

お前の賑やかさに救われるんだが‥

たまにはこのくらいでもいいかもしれない

サトコ

「石神さん‥」

(それ、ズルいです‥)

石神

いつでも素直でいいということだ

お前には、ありのままでいて欲しい

(嬉しいご褒美‥)

(私、今日の思い出だけで生きていけそう‥)

石神さんは改めて私を抱きしめ直して、そっと頬を寄せる。

温かで、くすぐったくて‥

私は幸せな気持ちで、石神さんに寄り添った。

【寝室】

サトコ

「‥‥‥」

「‥‥‥‥?」

気が付くと、私は真っ暗な部屋にいた。

(あれ‥私、今‥)

ああ、そうか‥あのまま眠っちゃったんだ。

サトコ

「‥‥!?」

(眠っちゃった‥!?)

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ガバッと起き上がると、そこは石神さんの部屋のベッドの上だ。

(ちょっと待って‥)

(石神さんと一緒にプリン食べて、買い物がてらお散歩して‥)

(お家デートって贅沢ですね~なんて言いながら喋っ‥‥はっ!)

(会話の途中から記憶がない‥!)

混乱していると、寝室のドアが開く。

石神

なんだ、起きていたのか

サトコ

「すみません!思いっきり寝てました!」

(‥‥‥って、裸!上半身、裸!!)

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さらに続くパニック。

石神さんはお風呂上りなのか、髪もまだ濡れたままだ。

サトコ

「あ、ああああの‥!」

石神

さすがに話の途中で寝るとは思わなかったがな

(やっぱりそうだったんだ‥)

(いや、それより目のやり場が‥!)

石神

サトコ

「石神さん‥少しは察してください」

「私をその辺の恋愛スキルの高い美女のように扱わないでください‥」

石神

‥‥‥

サトコ

「い、石神さん!早く上に何か着てくださいよ‥!」

石神

お前の寝落ちに対して、少し仕返ししてみようと思ってな

サトコ

「う‥ごめんなさい」

石神さんはパジャマを着ると、そっと私の傍に腰を下ろす。

石神

‥眠くなるほど、今日は早起きしてくれたんだろう

サトコ

「え‥」

石神

あの店のプリンは、開店前から並ばなければ買えない

コツン‥とおでこがぶつかる。

サトコ

「‥それも知ってたんですか」

石神

その点については、まだサトコの知識より上回っていたいところだからな

サトコ

「プリンのことくらい、私に勝たせてくださいよ」

石神

‥悩みどころではあるが、まだダメだ

サトコ

「ふふっ、そうなんですね」

くだらない言い合いがくすぐったくて、間近で微笑みあう。

石神

‥ありがとう

サトコ

「!」

石神

‥まだ寝るか?

サトコ

「‥目、覚めちゃいました」

(石神さんが、優しいから‥)

(あと、仕返しのせいで‥)

石神

なら‥もう少しこのままでいてくれ

サトコ

「‥‥‥」

(石神さんにはきっと、いつまでたっても敵わないんだろうな‥)

観念して目を閉じると、優しい口づけが待っている。

ほのかなシャンプーの香りと、大切な人の温もりを感じて‥

(でも、追い付きたいって目標にするくらいいいよね‥?)

石神さんの首に腕を回しながら、誰にともなく問いかける。

石神

サトコ‥

甘い口づけを交わす合間の、少し掠れた囁き。

この人が安らげる場所でいられるようにと願いを込めて、返事の代わりに石神さんの首に腕を絡めた。

Good  End

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