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ふたりの恋敵編 石神HE

【カフェ】

サトコ

「石神さん!見てください!上もスゴイですよ!」

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「水中にいるみたい‥!」

石神

ああ

サトコ

「あっちにいる魚も綺麗!」

石神

‥‥‥

大きな水槽に囲まれたカフェで、色とりどりの熱帯魚が出迎えてくれる。

あまりに綺麗で大興奮する私を見て、石神さんは仕方なさそうに目尻を下げた。

(いけない!はしゃぎ過ぎちゃった‥)

サトコ

「すみません‥つい」

石神

いや、連れて来て正解だった

石神さんはホッとした様子で肩を竦めた。

(昨日の時点で、行き先お任せしちゃったもんね‥)

【寮】

講義が終わり、石神さんが寮監の日とあって一緒に寮へ戻ってきた。

石神

明日、どこか行きたい場所はあるか?

サトコ

「それが‥考えてはいるんですけど‥」

「石神さんと行きたいところが、いっぱあって絞れないんです」

石神

‥フッ、お前らしいな

(石神さんとなら行きたい場所なんていくらでも思い浮かぶんだよね‥)

(映画館、美術館、もちろん水族館もだし、遊園地に美味しい餃子のお店探しに‥)

きっとどこへ行っても、石神さんと一緒というだけで楽しい。

サトコ

「‥‥‥」

「ダメだ。やっぱり決められません」

「石神さんは、どこがいいとかありますか?」

石神

お前が好きそうな場所を見つけたんだが、希望も聞いておこうと思ってな

サトコ

「!」

「それなら、そこにしましょう」

石神

何も聞かずに決めていいのか?

サトコ

「はい!」

「行き先が内緒っていうのも楽しいですし」

石神

‥なら、そうしよう

【カフェ】

(さすが石神さんのチョイス‥)

大型水槽に囲まれたカフェは静かな雰囲気で、周りもカップルの客が多い。

石神

アカハチハゼまでいるのか‥

サトコ

「どれですか?」

石神

カクレクマノミと一緒に泳いでいるだろう

黄色い顔の下にブルーのラインが入っている

サトコ

「わ‥綺麗な子ですね」

石神

‥‥‥

石神さんは楽しそうに、熱帯魚が泳ぐのを眺めている。

(ふふ、私より夢中になってるかも)

トロピカルフルーツジュースを飲みながら、完全にオフの顔をした石神さんをこっそり見つめる。

石神

ここはなかなかいいな

サトコ

「そうですね」

(熱帯魚もいいけど、それを見る石神さんも可愛い‥)

私は水槽を眺めるふりをして、石神さんの横顔を見つめていた。

【公園】

すっかり暗くなった公園を、のんびりと散策する。

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石神

選挙戦も、明日で終わりだな

サトコ

「あっという間でしたね」

吉川議員の逮捕はマスコミにセンセーショナルに取り上げられ、

岩下議員は辞退するのではないかと言われている。

反対に、世論調査では岩下議員の躍進に期待の声が上がっていた。

(結果はどうあれ支持者は多いし、どんな形でも頑張ってくれそうだよね‥)

ぼんやりと川の流れを眺めながら、岩下議員の人柄を思う。

石神

サトコ‥

サトコ

「? はい」

隣に並んだ石神さんが、ふと私の右手を取った。

石神

‥俺はお前を信頼している

(え‥)

突然の真摯な目に、瞬きしかできない。

石神

お前が考えている以上に、俺はお前のことを信じている

サトコ

「石神さん‥」

石神

なにも焦る必要はない

‥お前はちゃんと、成長している

自分の手で得た経験以上に身になるものはない。そろそろ自信を持っていいんじゃないか?

サトコ

「‥‥‥」

石神

もしまだ、無鉄砲に道を踏み外すようなことがあれば、ちゃんと俺が手を引いてやる

(石神さん‥そんな風に思ってくれてたんだ‥)

嬉しくて、勿体なくて、言葉にならない。

涙目になるのを堪えながら、なんとか石神さんを見上げる。

石神

つまり‥

あまり強がるな

サトコ

「え‥?」

石神

お前は何かというと、平気だ、大丈夫だと‥

俺に対して理解があり過ぎる

サトコ

「‥でも、無理はしてません」

石神

ああ

サトコ

「‥やっぱり嘘です。ホントは淋しいときもありますけど」

「相手が石神さんだから頑張れるんです」

「そこだけは、どう言われようと強がります」

石神

‥頑固にも程がある

サトコ

「‥‥‥」

仕方なさそうに微笑む石神さんが愛しくて、どうしようもなくて‥

私は一歩前に出て、ぎゅうっと石神さんを抱きしめた。

サトコ

「私なりのペースで、いつか石神さんの隣に立てる刑事になります」

石神

ああ、楽しみに待ってる

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サトコ

「それで‥」

「石神さんが帰って来たいって思える場所になりたい‥です」

石神

‥‥‥

この人に追いつきたい。

この人を支えたい。

寄り添える場所まで行かなければ、支えるなんてできないのに、なんてちぐはぐな願いだろう。

石神

‥前にも言っただろう

もうなっている

サトコ

「う‥」

大きな手のひらが、私の頭をポンポンと撫でる。

なんだか胸がいっぱいで、石神さんの腕の中でこっそり涙を流した。

【石神のマンション】

サトコ

「元気に泳いでますね」

石神

ああ。変わりない

ディスカスに交ざって泳ぐチョコレートグラミーを見つめたまま、軽く5分は過ぎただろうか。

石神

‥いつまで水槽に張り付いているつもりだ?

サトコ

「自分でここに入れたからか、なんだか可愛くて‥」

石神

‥‥‥

視界の隅っこで、ソファに新聞を広げていた石神さんが立ちあがる。

(この子たちに名前付けたらもっと愛着湧くかも‥)

石神

そろそろ、俺の方にも来てくれないか

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サトコ

「!?」

私の後ろから、石神さんも水槽を覗き込む。

透明な水槽には、石みたいに固まる私と、私に頬を寄せる石神さんが映りこんでいた。

サトコ

「あ、あの‥」

顔を横に向けると、言葉ごと飲み込まれるみたいに唇を塞がれた。

当たり前に瞼が下りて、ひたすらに優しい温もりを感じる。

石神

‥サトコ

サトコ

「はい‥」

石神

こうしてる時が、一番落ち着く‥

不思議なものだな

石神さんは私の髪に頬を寄せて、ひどく大切そうに抱きしめた。

サトコ

「‥私は、石神さんとこうしてる時が一番ドキドキします」

「安心して、ドキドキして‥やっぱり不思議ですね」

石神

‥‥‥

再び触れた唇は、伝え合うように優しいものから、求めるものへと変わっていく。

石神さんの手が、確かめるように髪から頬を撫でた。

はっきりと熱を帯びて、吐息すら絡めとられる。

石神

サトコ‥

サトコ

「‥‥‥」

黙ったまま頷くと、石神さんは静かに部屋の照明を落とした。

【寝室】

サトコ

「‥‥‥」

朝、目が覚めて‥石神さんの寝顔が目の前にある。

(び、びっくりした‥)

こうして迎える朝には、まだ慣れない。

石神

‥ん‥

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サトコ

「!」

(できればまだ起きないで‥)

(もう少し願い見てたいから、お願いします‥!)

全力で念じると、少し身じろぎをしながらも、石神さんは寝息を立てている。

‥どうやら私の願いは通じたらしい。

(石神さんって、まつ毛長いんだよね‥)

(鼻も高いし、綺麗な横顔‥)

(さっきの『ん』って身じろぎも可愛かったし‥)

石神

‥?

見惚れていると、薄っすらと瞼が開く。

何度かぼんやりと瞬きをして、流し目でちらりと、視線がかち合った。

サトコ

「‥おはようございます」

石神

‥‥‥

‥目が覚めたなら起こしてくれ

サトコ

「すみません」

「石神さんの寝顔があまりにも可愛かったので‥」

石神

か‥

‥‥‥

照れたかと思えば困惑して、悩ましげに私の方へ向き直る。

石神

‥可愛い、はやめてくれないか

サトコ

「レアな石神さんなのに‥」

(男の人に『可愛い』はないか‥)

(いや、でも可愛いものは可愛いし‥)

ひとり考えあぐねていると、石神さんはゆっくりと体を起こす。

石神

‥可愛いのは俺ではない

お前の方だろう‥

ボソッと何かつぶやきながら、眼鏡を手に取った。

サトコ

「えっ?今なんて‥」

石神

‥さあな

サトコ

「もう可愛いとか言いませんから、教えてください‥」

「ホント聞こえなかっただけなんで」

石神

‥‥‥

石神さんは私の顔の横に手をついて、反対の手でそっと髪を撫でる。

サトコ

「っ‥」

甘い仕草にドキドキしていると、石神さんの口元が悪戯っぽく笑んだ。

石神

‥寝癖がついていると言っただけだ

サトコ

「へ‥」

「うそ‥!」

慌てて前髪を押さえつけると、その手すらそっと取られる。

石神

おはよう‥

サトコ

「寝癖でこんなの恥ずかしすぎます‥」

石神

今更だろう

サトコ

「女としてのなけなしのプライドが‥!」

石神

無駄なこと考えずに、とりあえず大人しくしていろ

サトコ

「無駄‥!」

「無駄って言いましたか今‥!」

スマホ 011

石神

‥お前がいると本当に賑やかだな

サトコ

「!」

黙らせるみたいに、キスで唇を塞がれる。

角度を変えながら、少しずつ深く絡んで‥ふと、間近で見つめ合う。

石神

‥大人しくなったな

サトコ

「っ、はい‥」

石神

‥‥‥

(うう‥幸せすぎて胸が痛い‥)

こうして同じ朝を迎えられることが、奇跡みたいに思える。

この後、鏡を見て寝癖なんてないことを知って、

私はまた石神さんにブツブツ言うハメになったけれど‥

“お前がいないと、静かで困る‥”

そう言っていたのは、石神さんの方で‥

私の抗議を、石神さんはどこか嬉しそうに聞いていたのだった。

Happy  End

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