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難波 出会い編 シークレット1

Episode 3.5

「おっさんのかわいいヒミツ」

【カフェテラス】

午前の訓練が終わり、今日もようやくお昼休み。

(ようやく休憩だ~!)

(公安学校に来てから、お昼休みの素晴らしさを実感させられてるなあ‥)

鳴子と約束したカフェテラスへと急いでいると、前から室長と石神教官が歩いてきた。

慌てて端に寄って会釈する。

難波

そういうことなら、後は任せる

石神

はい

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2人は話しながら、軽く手を上げて通り過ぎて行った。

その後に残される、ふわっとしたいい香り。

(ん?この香り、確か前にも‥)

(たぶん、室長だよね‥)

カレーライスを持って席に着くと、鳴子が鼻をクンクンさせ始めた。

サトコ

「どうしたの?」

鳴子

「私もカレーにすればよかったかなーって」

「この匂い、やっぱり間近でかぐと食欲をそそられるんだよね」

サトコ

「取り替えてあげようか?」

鳴子

「ありがと。でも大丈夫!今日はラーメンって決めたんだから」

鳴子は自分で言い聞かせるように言うと、ラーメンを食べ始めた。

サトコ

「匂いといえばさー」

「いい香りがする男の人ってどう思う?」

鳴子

「そういうのいいよねー。私、好き」

「特に、香水じゃなくて洗剤とか柔軟剤の匂い」

サトコ

「それは確かに、清潔感あるよね」

鳴子

「そうじゃなくて‥なんか妻子持ちの余裕を感じるじゃん?」

サトコ

「そ、そういうもんかな?」

鳴子

「そういうもんでしょー」

(そっかあ‥室長のあの香りは、妻子持ちの余裕ってことなんだ‥)

【寮 自室】

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その夜。

明日のテストの勉強をしていると‥‥

♪~

サトコ

「‥非通知?誰だろ?」

一瞬出るのを止めようかと思ったけれど、恐る恐る出てみる。

サトコ

「‥もしもし?」

???

『氷川か?』

(この声は、もしかして‥!)

サトコ

「あ、あの‥室長‥ですか?」

難波

‥そうだ

室長はどことなく辛そうな声で答えた。

(これは、湿布の依頼かな?)

難波

‥柔軟剤、持ってないか?

サトコ

「ええっ!?柔軟剤ですか」

「持ってますけど‥?」

難波

それを持って、今すぐ寮監室に来てくれ‥

サトコ

「は、はい‥」

(なんで今、柔軟剤?)

首を捻りながらも、柔軟剤を持って寮監室へと走った。

【寮監室】

サトコ

「失礼します‥」

そっとドアを開けると、赤い顔で不機嫌そうに座り込んでいる室長。

(なんか機嫌悪そうだけど‥)

サトコ

「どうかしたんですか?」

(もしかして、捜査で何かあったかな?)

(それにしてもの顔の赤さは‥?)

難波

これ、今から使わせてもらってもいいか?

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サトコ

「もちろん、構いませんけど‥」

難波

悪いな

柔軟剤を使わずに洗ったら、肌が荒れちまって‥

サトコ

「え‥?」

(じゃあ、この肌の赤さは肌荒れ?)

(こんな強面のおじさんが、実は敏感肌!?)

唖然として見ている私の前で、室長は悲しそうに自分の頬を撫でる。

難波

いけるかと思ったんだがな‥

ヒリヒリするのか、少し顔をしかめる室長。

(つらそうだなあ‥)

(でも、痛がる細かい反応がちょっとかわいいかも‥)

思わず笑ってしまいそうになるのを堪え、洗濯機に向かう室長を手伝った。

【洗い場】

難波

このくらいの量でいいのか?

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室長は大きな手に持った小さな計量カップを慎重に覗き込む。

サトコ

「お肌が弱いなら、もう少し多めでもいいかもしれませんね」

難波

‥そうか、じゃあ、ダブルで

室長は言うなり、容器から直接柔軟剤を流し込んだ。

(ええっ!?)

(緻密に量ってた割には、最終的にはかなりダイナミック!)

難波

ふう~

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洗濯機が回り始めると、ようやく室長の眉間からシワが消える。

サトコ

「湿布も貼りますか?」

難波

おお、頼む

いつもの場所から湿布を取り出すと、シャツを捲っていつもの場所に貼ってあげた。

(こんな感じでいいよね?)

サトコ

「はい、できました」

難波

いつも悪いな

お前は本当にスジがいい

サトコ

「あ、ありがとうございます‥」

(湿布貼りの腕前を褒められるのはちょっと複雑なんだけどな‥)

(でも、どんなことでも褒められるのはいいことだよね!)

ピピピッ!

難波

お、できたぞ

乾燥機の合図が響くと、パッと室長の表情が明るくなった。

難波

おお、これだ‥

室長はさっそくタオルを取り出すと、フカフカの肌触りを確かめるように顔を埋めた。

(すごく嬉しそう‥)

そしてひとしきり肌触りを味わうと、突然シャツを脱ぎ始める!

サトコ

「え!?」

「室長、ちょ、ま‥!」

難波

ん?

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なんだ‥まだいたのか‥

サトコ

「まだ、いました‥!」

難波

風呂、入るから

サトコ

「す、すみません。すぐ帰ります!!」

(室長、完全にフライングですよ~!)

赤面したのを隠すように俯いて出て行こうとすると、室長に腕を掴まれた。

難波

待て

サトコ

「は、はい?」

シャツを着ていない室長の身体が目の前に迫り、ますます頬が火照りを増した。

そんな私の耳元に、室長はそっと顔を寄せる。

難波

このことも秘密な

サトコ

「え‥?」

難波

敵に弱みを握られると何かと厄介だ

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(敵‥?)

敏感肌をつかって『敵』がなにを仕掛けてくるんだろう、と思いつつ笑いを堪えて頷いた。

(時々、見かけに似合わずかわいいこと言うんだよね‥)

【カフェテラス】

翌日のお昼休み。

鳴子とカフェテラスに行くと、室長が1人でお弁当を広げていた。

鳴子

「あれ、室長じゃない?今日も相変わらず愛妻弁当広げてるね~」

サトコ

「本当だ‥」

鳴子に引っ張られるように室長の方へ行く。

頬の赤みは、もうすっかり引いたようだった。

(よかった‥よくなったみたい)

(肌荒れに困る室長っていうのも結構かわいくてよかったんだけど‥)

サトコ

「ふふっ」

思わず笑いが漏れて、室長が顔を上げた。

鳴子

「室長、お疲れさまです!」

サトコ

「お疲れさまです」

難波

おお、お前らか‥

室長は私を見てから視線を素早く鳴子に飛ばし、またすぐに私を見た。

(今のはつまり‥昨日のことは言うなってことだよね?)

(はい、了解です!)

黙って頷くと、室長はホッとしたように再びお弁当を食べ始める。

鳴子

「わあ、今日も奥さまの手作り弁当なんですねー」

「このブリの照り焼きとか、すごくおいしそう!」

難波

ん?これか?

これは俺の‥

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後藤

室長、今ちょっといいでしょうか?

難波

おお、後藤

なんだ?

後藤

実は‥

サトコ

「それじゃ、私たちは失礼します」

鳴子

「失礼します!」

「じゃあ、私たちも並びますかー」

サトコ

「うん、そうだね‥」

カフェテリアの列に並びながら、後藤教官と話し込む室長の姿を見つめた。

(さっきのあれ、何て言おうとしたんだろう?)

(俺の好物?それとも‥?)

End

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