【個別教官室】
東雲
「ねえキミさ、唇荒れてない?」
サトコ
「え‥」
指摘された箇所に触れてみると、確かに少しカサついていた。
サトコ
「本当、ですね」
(最近、忙しくてちゃんとリップも塗ってなかったかも‥)
東雲
「常々思ってたけど‥キミって『女子力』って言葉と無縁だよね」
サトコ
「う‥」
(教官はあんなにプルンプルン‥)
(って、カレシの方が女子力高いってこと?)
(いやいや、シャレにならないから)
東雲
「あーあ、こんなに荒れてる」
サトコ
「わわっ!?近いです!近いですよ、教官!」
東雲
「大丈夫」
「カサつく唇には興味ないし」
サトコ
「うぅ‥」
至極真っ当な指摘に返せないでいると、顎を支えられて、上を向かされた。
サトコ
「!?」
東雲
「リップ、塗ってあげる」
サトコ
「い、いいですよ!自分で塗れますから!」
東雲
「いいから。ほら、薄く口開いて‥」
言われた通り唇を薄く開くと、教官はいつも使っているリップクリームを取り出した。
(もしかして‥これって、間接‥)
東雲
「‥やっぱ、やーめた」
サトコ
「え‥」
東雲
「キミのことだから、間接キスとかって考えてそうだし」
(バレてる!)
東雲
「こういうの、目薬の貸し借りと一緒で不衛生でしょ」
(ふ、不衛生‥)
(私、カノジョなのに‥)
東雲
「ていうか、唇がカサつく原因、知ってるでしょ?乾燥」
「つまり‥キス、してないからなんだよね」
サトコ
「え‥」
軽いリップ音に気付いた時には、もう東雲教官の唇は私のそれから離れていた。
慌てて唇を押さえる私を、教官は楽しそうに見ている。
サトコ
「さ、さっきはしたくないって‥」
東雲
「そんなこと言ってない」
「興味ないとは言ったけど‥キミの唇は別」
「どうして、キミは別なんだろうね」
カノジョだから、特別だから、と言って欲しい言葉はいくつもあるけど‥
もちろん、その答えは聞けないまま‥
東雲
「なに?もう少しだけ『ケア』してほしいの?」
私には素直に頷く選択肢しかないのだった。
Happy End