【資料室】
放課後。
サトコ
「んー‥これは、都条例でいうところの‥」
???
「氷川?」
聞き慣れた声に振り返る。
サトコ
「石神教官。すみません、何か御用でしたか?」
石神
「いや、通りかかっただけだ。謝る必要はない」
「課題か?」
サトコ
「はい。条例と捜査の関連性についてまとめているのですが‥」
石神
「なるほどな‥ヤツらしい課題だ」
サトコ
「あの‥ですね、ちょっとだけ質問してもいいですか?」
教官は腕時計を確認しながら、構わない、と答えた。
サトコ
「ここなんですけど‥」
資料集を指さしながら、説明をするとわかりやすく丁寧に解説をしてくれた。
サトコ
「なるほど!」
石神
「ひっかけ問題ではない。間違えやすい部分だから気を付けろ」
サトコ
「分かりました。お忙しいところ、ありがとうございました!」
再びレポートの文字を指で追い始めると、教官の視線に気付く。
サトコ
「どうかしましたか?」
石神
「いや‥爪が光ってる気が‥」
サトコ
「あ‥透明のトップコートだけ塗ってるんです」
石神
「トップコート?」
サトコ
「なんというか‥マニキュアの一種です」
「この時期、ちょっと欠けやすくって‥」
私が両手を隠すと同時に、教官が私に背を向けた。
サトコ
「‥すみません。校則違反でしたか?」
石神
「特に色が付いているわけではないから、問題ないだろう」
「ただ、お前もそういうことをするのか、と思っただけだ」
(‥‥なんていうか‥その感想は‥えーっと‥)
石神
「では。課題中、邪魔をして悪かったな」
サトコ
「あ、教官‥!」
袖を掴んだ瞬間、バッ!と振り払われる。
サトコ
「え‥」
石神
「あ‥す、すまない」
サトコ
「すみません、私‥」
石神
「ち、違う。今のは‥突然触れたから‥」
サトコ
「?」
石神
「いや、そうじゃなくて‥その‥」
「学校でお前を生徒として扱うようにしているのに‥」
「女っぽい部分を見た気がして‥」
何を言ってるんだ、と頭を抱える石神教官に思わず笑ってしまった。
石神
「笑うな」
サトコ
「すみません‥」
少しだけ口元を引き締めて袖を掴むと、今度は払われない。
石神
「‥むやみに触れるな」
サトコ
「はい」
返事をするときにはまた口元が緩みきっていて‥
夕日で伸びる影がいつまでも繋がっていればいいのに、と思った。
Happy End