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本命チョコ 加賀1話

【寮 自室】

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(今年もいよいよ、この季節がやってきました‥!)

バレンタインの前日、夜まで補佐官の仕事をしていた私は寮に戻って、

ノートパソコンの画面にレシピサイトを開き、キッチンで四苦八苦していた。

(最近、和菓子女子が流行っているらしくて、和菓子レシピには事欠かないけど)

(やっぱり、実際に作るのは難しいな‥でも加賀さん好みの柔らかさといえば、やっぱり大福だし)

サトコ

「えーと、次は‥求肥を作るために、ボウルに白玉粉とグラニュー糖を入れて」

今年は加賀さんに、ミルクチョコ大福を渡そうと思っていた。

(去年は色々と失敗しちゃったから、今年はしっかり気持ちを伝えたい!)

(他の教官たちには普通のチョコだけど、加賀さんには特別、想いが籠ったものを‥)

必死にパソコンとにらめっこしていると、コンコンと部屋のドアがノックされる。

(いい‥!和菓子はちょっとでも目を離すと失敗しちゃうかもしれないのに‥!)

無視しようかと思ったけど、ノックの音はしつこく鳴り続ける。

(はあ‥こんな時間に誰だろう?)

渋々ドアを開けると、そこに立っていたのは‥

加賀

遅ぇ

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サトコ

「!?」

加賀

ずいぶん、ゆっくりなご登場だな

サトコ

「かっ、かかか、加賀さっ‥」

(まずい‥!今部屋に入られたら、和菓子を作ってることがバレちゃう!)

バタン!

咄嗟にドアを閉めてから、我に返った。

(ハッ‥私は、いったい何を!?)

(っていうか、マズイ!目の前でドアを閉めるなんて‥!)

急いで散らかっていたキッチンを片付け、慌ててもう一度ドアを開ける。

すると、視線だけで私を殺しかねない加賀さんがそこにいた。

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加賀

‥‥‥

サトコ

「すすす、すみません!今ちょっと、その‥や、夜食を作ってたので!」

加賀

‥今の体型を維持できなきゃ、どうなるか分かってんな

サトコ

「へ?」

加賀

テメェの取り柄はこの柔らかさだけだ

俺に無断で痩せたり太ったりしてみろ

サトコ

「ど、どうなるんですか‥?」

加賀

テメェで考えろ

(捨てられる‥!間違いなくポイ捨てされる!)

サトコ

「体型維持するように頑張りますから!夜食、食べませんから!」

加賀

‥で?

サトコ

「え?」

加賀

俺の呼び出しを無視した言い訳を聞いてやる

(加賀さんの呼び出し‥?なんのこと?)

加賀

携帯、見てねぇのか

何度も呼び出したのに、全然つながらねぇ

そういえば、しばらくは携帯なんて確認せず大福を作っていた。

真っ青になる私に、加賀さんがチッと舌打ちする。

加賀

テメェのパソコンにデータを送る

それを、明日までに全部グラフ化しとけ

サトコ

「明日までですか‥!?」

加賀

できねぇってんなら‥

サトコ

「や、やります!やらせてください!」

それでも、目の前でドアを閉めてしまったせいか加賀さんの機嫌はまったくよくならず‥

加賀さんが帰った後に送られてきたのは、膨大なデータだった。

サトコ

「こ、これを明日までにデータ化‥!?」

「バレンタインの準備もあるのに‥!でも、加賀さんの命令は絶対だし‥」

ドアを閉めた時の冷ややかな表情を思い出して、覚悟を決める。

(徹夜するしかない‥!早く仕事を終らせて、大福作りに戻ろう!)

翌朝、目が覚めるとリビングのテーブルに突っ伏していた。

(あ‥私、寝ちゃったんだ)

(なんとかデータ化を終らせて、チョコと大福を作り終えて‥)

手元には、ラッピング途中のチョコの箱。

どうやら、ラッピングしながら力尽きて寝てしまったらしい。

(でも、なんとか作り終わってよかった‥!あとはこれを包んで、持っていくだけ‥)

鳴子

「サトコー!今日は特別講義だよ?」

「遅れちゃうから、先に行ってるね~!」

サトコ

「‥えっ?」

廊下から聞こえてきた鳴子の声に、慌てて時計を見る。

いつもなら、そろそろ寮を出ている時間だった。

(しまった、寝過ごした‥!)

(は、早くラッピング終わらせなきゃ!)

教官たちに渡すチョコと一緒に、加賀さんの大福も箱に入れて包む。

(加賀さんには、あとでゆっくり渡したかったけど‥)

(他の教官たちと同じタイミングで渡さないと、不自然に思われちゃうし)

急いでラッピングを済ませると、学校へ行く準備をして部屋を飛び出した。

【教場】

バレンタインは日曜日だったけど、

その日は特別講義があるため、ほとんどの訓練生が学校に来ていた。

(今日は確か、自由参加なはずだけど‥結構みんな参加してるな)

(やっぱり、バレンタインだからちょっと期待してたりするのかな)

とはいえ、この学校でチョコを渡す側なのは、私と鳴子しかいない。

(鳴子は、仲のいい訓練生に渡すって言ってたけど)

(私は、千葉さんと教官たちくらいにしか用意してないな)

【教官室】

サトコ

「失礼します‥教官、今お時間いいですか?」

教官室に入ると、黒澤さんや室長もいた。

黒澤

サトコさん、待ってましたよ☆

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サトコ

「えっ?」

黒澤

その手に持っている紙袋、オレたちへのチョコですよね?そうですよね!?

サトコ

「あの‥は、はい」

難波

もちろん、おじさんにもくれるんだろ?

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ふたりに手を出されて、苦笑いしながらも今朝ラッピングしたばかりのチョコを渡した。

黒澤

ややっ!?この不格好なリボンの結び方‥もしかして、サトコさんの手作りですか!?

サトコ

「不格好は余計です」

黒澤

感激です!サトコさんからの手作りチョコがもらえるなんて!

サトコ

「あの‥喜んでいただけるのは嬉しいんですけど、本当に普通のチョコですから」

他の教官たちにもチョコを配り、最後まで残しておいた包みを加賀さんに差し出す。

サトコ

「加賀教官‥いつもありがとうございます」

加賀

‥ああ

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短い返事ではあったけど、加賀さんはどこか嬉しそうに受け取ってくれた。

颯馬

サトコさん、ありがとうございます。開けてもいいですか?

サトコ

「あっ、はい!どうぞ」

黒澤

あれ!?サトコさん、なんでハート形じゃないんですか!

星や花形のチョコを見て、黒澤さんが抗議してくる。

サトコ

「だ、だって‥義理でハート形はおかしいかなと」

黒澤

ああ、聞きたくなかった残酷なその言葉‥

最後まで黙っててくれれば、もしかして本命かもしれないって夢が見れたのに‥

東雲

透、うるさい。ちょっとぐらい、黙っていられないわけ?

黒澤

無理です!これがオレの取り柄なんで

後藤

黒澤は喋らないと死ぬ病気だからな

(それ、前にも聞いたような‥)

(あ!ここで加賀さんに開けられると、他の人と違うものだってバレちゃう‥!)

慌てて加賀さんを振り返ったけど、開ける素振りはない。

どうやら、自分だけ別のモノだと感じ取っているらしい。

黒澤

あれっ?石神さん、その中身‥

ホッと胸を撫で下ろしたとき、黒澤さんの怪訝そうな声が聞こえてきた。

黒澤

一人だけ、違いません?

サトコ

「えっ?」

東雲

あ、ほんとだ。ラッピングも二重になってる

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振り返ると、石神教官の開けた箱にはさらにラッピングが施されたものが入っていた。

(あ、あれは‥まさか!)

思わず加賀さんが持っている箱と見比べる。

(リボンの色は合ってる‥なのになんで中身が違うの!?)

不思議そうに、石神教官が包みを開ける。そして、驚愕の表情を浮かべた。

石神

こ、これは‥

颯馬

大福‥ですか?

加賀

‥‥‥

(やっぱり‥!加賀さんに渡すはずだったミルクチョコ大福だ!)

(まさか‥今朝、慌てすぎて中身を間違えた!?)

教官たちに作ったチョコと、加賀さんの大福‥

大きさが似ていたのと寝惚けていたせいで、ラッピングし間違えてしまったらしい。

(どうしよう‥!間違えたから取り替えてくださいなんて、今さら言えないし)

サトコ

「えっと‥あの、実は今回は、当たりを入れてみたんです!」

下手なウソだとわかっていたけど、他の言い訳が思いつかない。

慌てまくる私を見て、東雲教官と颯馬教官は意味深に笑っている。

東雲

ふーん‥当たり、ね

颯馬

では、“偶然”当たりを引いた石神さんは、とても幸運だったということですね

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サトコ

「うぐっ‥」

(あのふたり、絶対私が間違えたって気づいてる‥!)

後藤

当たりを入れるなんて、なかなか面白いな

難波

氷川、和菓子を手作りするなんてやるな

黒澤

いいな~石神さん

オレのと交換しません?

(後藤教官と室長には、素直に感心されてる気がするけど)

(黒澤さんはだいたいみんなお見通しだから、よくわからないな‥)

恐る恐る加賀さんを振り返ると、震えるほど冷たい目で私を見下ろしていた。

加賀

‥チッ

(ヒイィィ‥!これは、お仕置きなんて生易しいものじゃない‥)

(このまま帰ったら‥私に待っているのは、死‥!!)

石神

‥‥‥

ありがとう、氷川

サトコ

「え‥」

石神

お前の気持ちは、ありがたくいただく

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サトコ

「え‥あ‥」

(『ありがとう、氷川』‥!?『お前の気持ちは、ありがたくいただく』‥!?)

(天変地異が起きてもお礼を言いそうにない石神教官が、大福くらいで私にお礼を‥!?)

石神教官は、まるでバカにするような笑みを浮かべて加賀さんをチラリと見た。

もう一度舌打ちして、加賀さんが無言で教官室を出て行く。

(完全にお怒りだ‥!とにかく、追いかけて謝らなきゃ!)

【廊下】

加賀さんを追いかけて、必死にその背中に声を掛ける。

サトコ

「加賀さん!待ってください!」

加賀

‥‥‥

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サトコ

「あのっ‥本当にすみませんでした!」

「チョコと大福作りが、明け方までかかっちゃって‥気がついたら眠ってて」

加賀

いい

立ち止まって、加賀さんがため息をつく。

加賀

テメェがグズでドジでノロマの使えねぇヤツなのは、百も承知だ

サトコ

「‥返す言葉もありません‥」

「石神教官に今さら返してもらうわけにもいかないので、作り直します」

加賀

‥‥‥

サトコ

「バレンタインには間に合わないかもしれませんけど‥あの、明日には必ず」

加賀

いや

私の次の言葉の続きを察したのか、言い終わる前に加賀さんが首を振る。

サトコ

「え?」

加賀

いらねぇ

サトコ

「いらないって‥」

聞き返そうとする私に背を向けて、加賀さんが廊下を歩いて行ってしまう。

その背中を眺めながら、ただただ、立ち尽くすしかなかった。

(去年は、一人で勘違いして失敗しちゃったから)

(今年は、去年の反省を踏まえてちゃんと直接渡そうと思ってたのに‥)

サトコ

「また失敗しちゃった‥」

「私って、どうしてこう、グズでドジでノロマなんだろう‥」

加賀さんに言われたことを思い出すと、気持ちはなおさら沈んでいくのだった‥

to be continued



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