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本命チョコ カレ目線 加賀1話

【教官室】

2月になっても、相変わらず忙しい日々が続いていた。

石神

後藤、さっきのは終わったか?

後藤

ええ。これでようやく一区切りです

颯馬

お疲れさまでした。だいぶ時間がかかってしまいましたね

石神

思ったよりも量があったな

眼鏡たちの話を聞きながら、こっちも自分の仕事を終える。

東雲

兵吾さん、オレ、そろそろ帰りますけど、他になにか‥

黒澤

あー疲れた~!アナタの黒澤が帰ってきましたよ~☆

東雲

‥あと5分早くここを出ればよかった

黒澤

ややっ!?これはみなさんお揃いで!

こんな遅い時間まで、お疲れさまです!

颯馬

黒澤も、こんな時間までお疲れさまです

黒澤

周介さん、オレを労わってくれるんですか!?

颯馬

ええ。だから少し静かにしてください

石神

黒澤、少し黙れ。みんな疲れてるんだ

黒澤

ひどい!オレだって本庁で頑張ってきたのに!

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東雲

意識失わせて黙らせた方が早いんじゃないですか?

後藤

そうだな。俺がやろう

黒澤

ちょ、後藤さん!そのゲンコツ、しまってください!

黒澤が来た途端、今までの集中力が切れた。

その後ろから、難波さんがめんどくさそうに入ってくる。

難波

みんな、お疲れさん

黒澤

そういえば、本庁ではバレンタインの話題で持ちきりでしたよ!

今年も、加賀さんと後藤さん宛のチョコがすごそうですね

加賀

くだらねぇ

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後藤

それよりも、いま抱えている捜査を解決する方が先だ

黒澤

それはモテる人の発言ですよ!

加賀さんは女性から大量にもらえるし、後藤さんに至っては男性からも‥

後藤

お前、もう帰れ

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黒澤

そんな冷たいこと言わないでくださいよ~

オレだって、本命のひとつふたつ、欲しいんですよ!

東雲

うざ‥

そうやってがっついてるところが、ダメなんでしょ

わめき続ける黒澤を無視して、さっき終わらせたばかりの仕事をまとめる。

(バレンタインなんざ、いちいち気にしてられるか)

東雲

さーて、透がうるさいのでオレはそろそろ帰りまーす

難波

残念だが、今日はまだ帰れねぇぞ

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本庁から、過去の捜査記録を明日までにまとめるように言われたからな

石神

‥相当な量ですね

難波

ああ、徹夜覚悟だ

東雲

怠‥

やっぱり、あと5分早く帰っとくんだった‥

渋々、歩がデスクに戻る。

全員諦めたように仕事を始めたが、次第に目の前の仕事に没頭し始めた。

(‥アイツはまだ起きてるな)

サトコにも手伝わせようと、何度か携帯に連絡を入れる。

だが、いつまで待っても返事がない。

(チッ‥相変わらず使えねぇ)

仕方なく、資料をパソコンのフォルダにまとめて教官室を出た。

【寮】

ドアをノックするが、なかなか反応がない。

何度目かでようやくサトコが顔を出した。

加賀

遅ぇ

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サトコ

「!!!」

「かっ‥かかか、加賀さん!」

動揺するサトコの肩越しに、ボウルや皿などの調理器具が散乱したキッチンが見えた。

(こんな時間に料理か‥?)

そう思う前に、勢いよく部屋のドアが閉まる。

加賀

‥‥‥

サトコ

「ああっ!?す、すみません‥つい!」

加賀

‥‥‥

サトコ

「ちょ、ちょっと‥その、夜食を作ってて!」

その慌てぶりは、見られてはまずいものがあるのだと自ら暴露しているようなものだ。

(飼い主に隠し事とはいい度胸じゃねぇか)

加賀

あとでテメェのパソコンにデータを送る

明日までに全部グラフ化しとけ

サトコ

「明日まで‥ですか‥!?」

絶望的な声をあげるサトコを放って、自分の仕事を片付けるためにドアを閉めた。

だが背を向けようとした時、キッチンに置いてある板チョコの包みが視界を過る。

黒澤

今年も、加賀さんと後藤さん宛のチョコがすごそうですね

加賀さんは女性から大量にもらえるし

(‥バレンタインか)

(ずいぶんと分かりやすい準備だな)

溜息をつきながらも、さっきの苛立ちが消えて苦笑いを浮かべている自分がいた。

【学校 廊下】

教官室に戻りながら、思い出したのは去年のバレンタイン。

アイツが作ったハートのチョコは真っ二つに割れ、『ごめんな』『さい』に分かれていた。

(‥飽きねぇな)

サトコと出会ってから、思えば一度も退屈したことはない。

面倒に巻き込まれムカつくことはあっても、こうしてアイツをそばに置いている。

(それが、俺の答えってわけか)

(それにしても‥)

どうやらサトコは今年も、自分のためにチョコを用意しているらしい。

さっきまではバレンタインなど忘れかけていたのに、今はそればかり考えている自分に気付く。

(‥結局、俺の気持ちを動かすのはアイツだけか)

(俺も、くだらねぇな)

自嘲気味に笑いながら、教官室へと戻った。

【教官室】

バレンタイン当日、サトコがチョコを持って教官室へとやってきた。

黒澤

サトコさん、待ってましたよ☆

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ややっ、サトコさん!それはまさか‥!

その手に持っている紙袋、オレたちへのチョコですよね?そうですよね!?

サトコ

「あの‥は、はい」

黒澤がわざとらしくサトコに近づく。

難波

おじさんにもくれるんだろ?

黒澤

この不格好なリボンの結び方‥もしかして、サトコさんの手作りですか!?

颯馬

サトコさんの手作りチョコ、楽しみですね

サトコ

「不格好は余計です」

(確かに、お世辞でも綺麗とは言えねぇな)

東雲

ねぇ、それ大丈夫?食べれる?

口に入れた瞬間、不審な死を遂げたり‥とかないよね

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サトコ

「し、しません‥たぶん!」

憎まれ口を叩く歩も、楽しみにしているのが表情から読み取れる。

サイボーグや後藤さえも、どこか落ち着きがない。

(なんでテメェらが浮かれてやがる‥)

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だが、黒澤の思惑通り、サトコは普段世話になっているからと全員に包みを配っている。

コイツのことだ、どうせ1つだけだと怪しまれる‥とか考えてるんだろう。

(まあ‥クズらしいな)

最後に、俺に箱を渡してきた。

サトコ

「加賀教官、いつもありがとうございます」

加賀

ああ

素っ気なく受け取る俺に、サトコは嬉しそうに頬を染めて笑っている。

(それで隠してるつもりか?)

(わかりやすすぎだ‥クズが)

なのに、その笑顔も悪くないと思えてしまう。

(仕方ねぇ‥あとでたっぷり、褒美をくれてやる)

だがその時、黒澤の大袈裟な声が聞こえてきた。

黒澤

あれっ?石神さんの中身‥一人だけ違いません?

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サトコ

「えっ?」

振り返ると、確かに他の奴らとは違い、石神の箱は包みが二重になっている。

石神を二度見して、サトコが俺のチョコを振り返る。

(‥バカが)

その様子から、俺宛のものを間違えて、眼鏡に渡してしまったことは容易に想像がついた。

(何やってんだ‥グズでノロマな駄犬が)

サトコと俺の様子を見て、クソ眼鏡は何かに気付いたらしい。

俺を見て、いつものようにイヤミっぽい笑みを浮かべた。

石神

ありがとう、氷川。お前の気持ちはありがたくいただく

サトコ

「えっ‥いえ、あの‥!」

加賀

‥‥‥

(サイボーグ眼鏡野郎‥わざとだな)

すべて察して、その上でわざと礼を言ったのは見え見えだ。

舌打ちをして、教官室を出た。

【廊下】

教官室を出てきたのは、サトコではなく眼鏡野郎に苛立ちを覚えたせいだ。

(アイツがグズなのは百も承知だ)

(ムカつくのは、わかってんのに礼なんざ言いやがったあのプリン眼鏡だ)

後ろから、慌てた様子でサトコが追いかけてくる。

サトコ

「加賀さん、本当にすみません‥!チョコと大福作りに、明け方までかかっちゃって」

「石神教官に今さら返してもらうわけにもいかないし‥帰って、作り直しますから」

(作り直す‥)

ふと見ると、サトコの手には昨日無理やりグラフ化させた資料があった。

昨日の夜、俺がやらせた仕事を終えた後、チョコを作ったのだろう。

(‥帰って作り直すとしたら)

(あのチョコは、みすみすサイボーグ野郎のものになるのか‥)

それはそれで気に入らない。

(それに‥チョコは文句も言わず、仕事を終らせて俺のためにチョコを作った)

(その気持ちが入ったものは、アイツにはもったいねぇ)

サトコ

「バレンタインには間に合わなくても、明日には必ず‥」

加賀

いらねぇ

気が付くと、そう答えていた。

呆然とするサトコに背を向けて、一人決心する。

(あのチョコは、必ずクソ眼鏡から取り返す)

(アイツの口に入る前にな)

to be continued

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