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本命チョコ カレ目線 難波2話

【難波 マンション】

2月15日、目が覚めるとベッドの上だった。

(あー‥頭痛ぇ‥)

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(‥ん?いま何時だ?)

時計を見ると、普段ならまだ眠っている時間だった。

でもここが自分の部屋であることは間違いなく、そのまま再びベッドに突っ伏す。

(昨日‥どうやって帰ってきた?)

(あのあと、黒澤も一緒に氷川と3人でハシゴして‥)

数件目までは覚えているのに、そのあとの記憶がない。

(ダメだ‥完全に潰れたな)

(黒澤はいいとして‥氷川はちゃんと帰れたか‥?)

重い身体を起こして部屋を見渡すと、ジャケットやら財布やらが散乱している。

ジャケットを拾い上げてポケットを探ると、いつも行くラーメン屋台の食券が入っていた。

(なるほど‥シメにラーメンを食ったのか‥)

(まあ、酒の後のラーメンってのは美味いからな)

くだらないことに納得しながら、ふと気づく。

いつもポケットに入っているパチンコの景品のお菓子が、ひとつもない。

(どこで配ってきたんだ?まあ、どうせまた勝手に増えるしな)

(ん?そういえば、氷川にもらったチョコは)

ようやくそこで、ハッとなった。

氷川がくれたあのチョコの箱が、どこにもない。

(まさか‥どこかに置いてきてないよな?)

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(いくら市販のとはいえ、大事に食べようと‥)

辺りをきょろきょろと見回し、ようやくベッドの枕元に置いてあるチョコを発見した。

難波

「‥季節外れのサンタみたいだな」

見つかったことにホッとして、一人でそう呟いて苦笑いした。

“本命”という二文字が、自分をいつになく浮かれさせていることにも気付いている。

(本命なんて、何年ぶりかねぇ)

(しかし‥氷川はほんとに分かりやすかったな)

(あんなんじゃ、いつか困る時がくるだろうに)

捜査上、顔に出してはいけないこともある。

だが、それを氷川ができるかというと、はなはだ疑問だった。

(不安だな‥しっかり指導してやらねぇと)

(とりあえず‥シャワー浴びて酒を抜いて来るか)

ベッドを離れ、バスルームへ向かった。

【室長室】

今日は捜査も入っていなかったので、いつものように学校で雑務を行う。

報告書の確認、捜査状況のチェックなどを済ませた後、ふとカレンダーの文字が目に留まった。

(ホワイトデー‥そういえば、そんなのもあったか)

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普段なら視界に入っても気にも留めないその文字が、今年はやけに大きく見える。

(氷川は、礼なんていらないって言ってたが‥もらいっぱなしってのもな)

(それにアイツと酒を飲むのは楽しかったし、わざわざチョコを用意してもらったし)

まずは、3月14日の氷川の予定を聞かなければならない。

だが、氷川を誘うと思うだけで、どこかで心が躍るのを感じた。

【廊下】

氷川を探して歩いていると、廊下で男子訓練生と話している姿を見つけた。

(えーと‥あれ、あいつ‥なんてったっけ)

(昨日、氷川に教えてもらったばっかりの‥ち‥ち‥千葉‥?だっけ?)

確か、バレンタイン前に後藤たちと一緒に氷川から手作りチョコをもらっていた奴だ。

(最近どうも、名前を覚えるのが苦手になってきてるな‥俺ももう、歳か)

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千葉はどこか照れ臭そうに氷川と話した後、廊下を歩いて行った。

氷川の肩を叩くと、俺を見た後、パッと笑顔になる。

サトコ

「室長、昨日はありがとうございました」

難波

いや、ちゃんと帰れたか?

サトコ

「はい。室長もだいぶ酔ってましたけど、大丈夫でしたか?」

難波

ひよっこに心配されるようになっちゃ、俺もそろそろ禁酒する歳か?

で‥黒澤は?あいつも酔ってただろ?

サトコ

「どうでしょう‥タクシーで一番最後に降りたのは、たぶん黒澤さんだと思うんですけど」

難波

まあ、何の連絡もないってことは問題ないな

早速、3月の第2月曜日を空けておくようにと言うと、元気な返事が返ってきた。

まるで、聞いているこっちまで背筋が伸びるような凛とした返事だった。

難波

お前の返事は、いつ聞いてもいいな。おっさんにはまぶしい

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頭を撫でると、教官室へ向かう。

(本当に、若さってのはいいもんだよな)

(俺にも、こんな頃があったか‥?)

微笑ましい気持ちで、氷川の笑顔を思い出した。

【室長室】

夕方、仕事が一段落するといつものように大きく伸びをする。

(あいたたた‥最近、デスクワークは目と腰と‥肩にくるな)

難波

はあ‥歳取るってのは嫌だな~

休憩がてら自分で茶を淹れてみるが、なぜかあまり美味くない。

(‥氷川が淹れてくれる茶と、何が違うんだ?)

首を傾げながら、昨日の氷川の言葉を思い出す。

難波

そういや、茶請けにしてくれって言ってたっけ

どれどれ‥どんなチョコを選んでくれたんだ?

家から持って来た箱を開けてみると、ウィスキーボンボンが入っていた。

(俺が酒好きだから、選んでくれたのか)

(そういや‥アイツが作ってくれたチョコ、食い損ねたな)

チョコを食べながらそう思い立ち、氷川にメールをしてみる。

(『茶を淹れるついでに、昨日のチョコ、持ってきてくれないか』‥なんて)

(アイツの気持ちがもし俺の勘違いでないとしたら‥)

(俺もたいがい、卑怯な大人だな)

5分後、廊下を走ってくる音が聞こえたと思うと、ピタリとドアの前でやんだ。

少ししてノックが聞こえ、『氷川です』と声がする。

難波

おお、悪いな。茶くらいで呼び出して

サトコ

「いえ‥!早速淹れます!」

難波

ああ、頼むな

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(なんつーか‥尻尾振って走ってくる飼い犬みたいな感じだな)

(氷川を見てると妙にあったかい気持ちになるのは、そのせいか)

茶を淹れてくれたあと、氷川が手作りチョコをくれる。

(これは‥生チョコってやつか?)

サトコ

「う、うまくできたと思うんですけど」

難波

じゃあ、早速いただくか

ひと口食べると、ラム酒が少し効いていてほんのり苦く、予想以上に美味かった。

氷川は俺の感想を待っている間、不安そうにしている。

(‥ダメだぞ。そんな無防備な顔)

(おっさんをよろこばせてどうするんだ?)

難波

これを食ったら、もうこっちは食えねぇな

市販ウィスキーボンボンを見て笑うと、氷川が笑顔を浮かべる。

不覚にも、もう少し見ていたいと思ってしまった。

(若い‥ほんと若い)

(そうだよな‥俺と、いくつ違うんだっけ?)

端によけたウィスキーボンボンをひとつ手に取り、氷川の前に差し出す。

難波

ほら

サトコ

「え‥」

難波

なんだ?あーん、って言えば口開けるか?

サトコ

「‥‥‥!」

一瞬にして真っ赤になる氷川の頭を、ポンと撫でる。

難波

お前なー、そんな分かりやすいと、男に遊ばれるぞ?

サトコ

「え‥」

難波

おじさん、なんか心配になっちゃうな

サトコ

「‥‥‥」

呆然と俺を見た後、あからさまに『バレた‥!?』という顔をしている。

(だからお前は、いつまでもひよっこなんだ)

(純粋で素直なのは、お前のいいところだけどな)

難波

まあ‥まっすぐすぎるのも、考えもんだぞ

サトコ

「はい‥?」

不思議そうに、氷川が首を傾げる。

その表情に苦笑しながら、もう一度氷川の頭を撫でた。

Happy  End

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