【レストラン】
（う‥ん‥）
（あれ、ここは一体‥）
東雲
「今日はホワイトデーだね、サトコ‥」
（えっ？）
東雲
「来年も再来年もオレと一緒に過ごして」
「ずっとオレだけのキミでいて」
（‥あーハイハイ‥）
（夢だ。１００％夢だ、これ）
（だって、こんな飴対応、教官じゃない‥）
東雲
「この指輪に、キミへの永遠の愛を誓うよ」
（え、ひざまづいた？）
東雲
「ん‥っ」
（な‥なんで指輪を口に含んで‥）
東雲
「‥甘」
「すごく甘いね、このジュエリーキャンディー‥」
（キャンディー？）
東雲
「キミの唇とどっちが甘いかな」
（はい‥！？）
東雲
「ねぇ、比べさせて」
「キミの唇も味見させて」
（ちょ、なに言って‥）
（ていうか、その上目遣い、反則ですから‥っ）
（あ‥っ）
（ふ‥、や‥）
東雲
「ごめん、火がついた‥」
「覚悟して」
「今夜は寝かせないよ」
（よ‥）
サトコ
「喜んでーっ」
【寮監室】
パァンッ！
サトコ
「！？」
（な、なに今の破裂音！？）
（いったい何が‥）
（あ‥）
東雲
「目、覚めた？」
サトコ
「は、はい‥」
東雲
「だったら作業再開して。ほら」
教官に突きつけられたのは、色とりどりのゴム風船だ。
サトコ
「これ‥あと何個膨らませればいいんですか？」
東雲
「最低２０個」
サトコ
「ええっ」
（もう唇が痛いんですけど‥！）
（それにさっきからすごく眠くて‥）
東雲
「次は風船２つだから」
サトコ
「え？」
東雲
「キミが眠った場合のペナルティー」
「耳元で同時に２つ割って‥」
サトコ
「頑張ります！氷川サトコ、力の限り頑張ります！」
大声で宣言して、私は再び風船に空気を入れ始めた。
（それにしても、変な夢見ちゃったな）
（教官に迫られるとか‥私、欲求不満だったりして）
（でも上目遣いの教官‥すごく色っぽかったような‥）
東雲
「‥なに？ジロジロ見て」
さとこ
「い、いえ、その‥」
＜選択してください＞
サトコ 「さっきの夢を思い出して‥」 東雲 「ああ、そういえばキミ‥」 「よだれ垂らしてたよね」 （よだれ！？） 東雲 「あと、すごい身もだえして‥」 サトコ 「あーあーあー！」 「ダメです、やめてください！」 「それ以上言うのは禁止‥っ」
サトコ 「今日も髪がキノ‥」 「いえ、サラサラだと思って」 東雲 「当然」 「昨日、炭酸トリートメントしたばかりだし」 サトコ 「は、はぁ‥」 （教官の女子力って一体‥）
サトコ 「な、何でもないです」 東雲 「ふーん‥」 （えっ？） 東雲 「ふーん‥」 「何でもない‥ね‥」 サトコ 「ちょ‥ダメです！教官、近づきすぎっ！」
東雲
「ああ、そういえば‥」
「３月１４日、よろしくね」
サトコ
「はい‥」
（‥ん？今のってもしかしてホワイトデーの約束？）
（そうだよね！３月１４日だし、絶対そう‥）
東雲
「着ぐるみは前日届くから」
（‥着ぐるみ？）
東雲
「集合は８時」
「雨天の場合は講堂での開催で‥」
（えっ、えっ？）
サトコ
「あの‥いったい何の話を‥」
東雲
「何って今年の『警視庁☆春の国家安全まつり』の話だけど」
「キミ、ポーピくん役だったよね」
（ええっ！？）
サトコ
「そんなの初めて聞きましたけど！」
東雲
「あっそう。じゃあ、今言ったから」
「せいぜい頑張って」
サトコ
「は、はぁ‥」
（なんだ、ホワイトデーのお誘いじゃないんだ‥）
（じゃあ、この大量の風船もイベント用なのかな）
【グラウンド】
さて、３月１４日がやってきた。
（感謝状の贈呈式まであと３０分だよね）
（そのあと、所轄向けの講習会があって‥）
（それから「ロシアンルーレット・チョコ『テロ撲滅大作戦』」の試食会が‥）
後藤
「氷川、贈呈式の名簿はあるか？」
サトコ
「ええと‥それなら千葉さんが持ってるはずです」
後藤
「そうか、わかっ‥」
謎の青年
「後藤教官！」
（ん？）
謎の青年
「先日はためになる話をありがとうございました」
「これ、候補生一同の気持ちです」
「どうか受け取ってください」
後藤
「いや、俺は大したことは‥」
謎の青年
「受け取ってください！」
後藤
「そ、そうか‥」
「ありがとう‥」
（誰だろう、この人‥）
黒澤
「後輩候補生ですよ、サトコさんの」
サトコ
「！」
黒澤
「１期下の訓練生候補です。これまでに交流したことは？」
サトコ
「いえ、一度も‥」
「って、どうして私が考えてたことが分かったんですか？」
黒澤
「そりゃ、愛の力ってやつです」
サトコ
「は、はぁ‥愛の力‥」
（‥ん？）
サトコ
「黒澤さん、何だか唇が腫れてませんか？」
黒澤
「あっ、気付いてくれましたか！？」
「実は昨日、歩さんに‥」
？？？
「透」
（あっ、この声‥）
東雲
「向こうで石神さんが呼んでる」
「早く行った方がいいんじゃない？」
教官はニッコリ笑うと、何故か黒澤さんの耳を摘まみ上げた。
黒澤
「痛たた‥っ」
「やだなぁ、歩さんったらすぐに照れ‥」
東雲
「ん、何？」
黒澤
「ちょ‥痛たたっ」
「分かっ‥分かりましたから‥っ」
（‥大丈夫かな、黒澤さん）
東雲
「ああ、氷川さん」
「キミもそろそろ出番じゃない？」
「中庭に子どもたちが集まってたけど‥」
（うっ、そうだった‥）
（今日の私の任務といえば‥）
【中庭】
男の子Ａ
「ようっ、ポーピ！」
男の子Ｂ
「また来てやったぞ！」
（出た‥おエライさんの子どもたち‥）
サトコ
「久しぶりだな、みんな」
「よーし、かかって‥」
男の子Ｂ
「とうっ！」
ドカッ！
サトコ
「ぐ‥っ」
（だ、だから本気すぎ‥）
男の子Ａ
「次はオレだ！パーンチ！」
男の子Ｂ
「キーック！」
サトコ
「痛‥っ！」
「ちょ‥優しく！もっと優しくして‥」
（もう‥ホワイトデーなのに何でこんな目に‥）
（去年は牧場に生かされて、今年は着ぐるみで‥）
男の子Ａ
「よし、ポーピの背中に乗ろうぜ！」
男の子たち
「おおっ！」
サトコ
「だから無理！背中は無理だってば‥！」
サトコ
「はぁ‥はぁ‥」
（や、やっと終わった‥）
（とりあえず、この着ぐるみは脱いで‥っと）
サトコ
「はぁぁ‥」
（私、いつまで「ポーピくん」担当なんだろ）
（そろそろ、次の１期下の子たちに代わってもらっても‥）
東雲
「なに脱いでんの」
「いちおう『ポーピくん』の『中の人』はいないことになってんだけど」
（うっ、教官‥）
サトコ
「すみません。でも暑さに耐えきれなくて、つい‥」
ふと、教官が手にしているものに目が行く。
だってそれはこの季節にしては珍しいものだったから。
サトコ
「その綿毛、たんぽぽですか？」
東雲
「そう。超早咲きのね」
（もう綿毛になってるってことは、花が咲いてたのはもっと前だよね）
（たぶん２月とかそれくらい‥）
そんなことを考えていると、教官がフッと綿毛を吹き飛ばした。
サトコ
「ちょ‥なんで私に向けて‥」
東雲
「パンケーキのお返し」
「今日１４日だし」
サトコ
「え‥」
東雲
「ホワイトデー」
「違ったっけ？」
サトコ
「い、いえ‥違ってませんけど‥」
（まさか、今のがバレンタインデーのお返し？）
＜選択してください＞
（と、とりあえずここは笑顔で‥） サトコ 「あ、ありがとうございまーす」 東雲 「３６点」 （低っ！） 東雲 「キミ、本音が顔に出過ぎ」 「それってどうなの。公安刑事のたまごとして」 サトコ 「だ、だって‥」 （綿毛だし‥） （ただの綿毛だったし！）
サトコ 「ひどっ！」 「お返しが綿毛とかひどすぎます！」 東雲 「そう？でも‥」 「少なくともオレはホワイトデーを『覚えてた』けど」 サトコ 「！」 東雲 「確かー、誰かさんはー」 「バレンタインデーを忘れててー」 サトコ 「あ、あれは‥っ」 「教官の合コン疑惑があったからで‥」
（ありえない‥） （ありえない‥けど‥） サトコ 「あ、ありがとう‥ございま‥す」 東雲 「‥‥‥」 「‥ぷっ」 サトコ 「な、なんで笑うんですか！」 東雲 「いや、その顔‥」 「歯食いしばってお礼とか‥」 （そ、それって誰のせいだと‥！）
すると、教官がポーピくんの着ぐるみを手に取った。
東雲
「これ、もう１回被って」
サトコ
「？？」
「イベントはもう終わりですよね」
東雲
「なに言ってんの」
「本番はこれからじゃん」
（ええっ！？）
そんなわけで‥
ポーピくん姿のまま、車に乗せられること数十分。
東雲
「はい。降りて」
（ここって‥）
【ホテル】
（なんでホテルのロビー？）
（しかも、ここ‥去年の忘年会で使ったホテル‥）
サトコ
「！！」
（まさかこれから今日のイベントの打ち上げ？）
（ってことは、これで宴会芸をやれってこと！？）
（それか一発芸とか‥）
東雲
「お待たせ。行くよ」
サトコ
「ま、待ってください！私、まだ心の準備が‥」
東雲
「いらないから。そういうの」
（いる！いります！）
（おエライさん相手の宴会芸なんて何も仕込んでないんですけどーっ！）
to be continued