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難波 恋の行方編 2話

【寮 自室】

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サトコ

「はあ‥なんだかなあ‥」

部屋に戻るなり、盛大なため息が出た。

難波

お前も男作れよな~

そうだ、後藤なんかどうだ?

あいつは、いい男だぞ~

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(別の男性を勧めるってことは、私には興味ないってことだよね‥)

サトコ

「わかってはいたけど、やっぱりなあ‥」

さらに大きなため息をつきながら顔を上げると、鏡の中の自分と目が合った。

(ダメだな、私‥負のオーラ出まくってるかも‥)

(これじゃ、うまくいくものもうまくいくわけないよね‥)

サトコ

「よし、頑張るぞ‥!」

「まだ振られたわけでもないし、好かれる努力だってしてないじゃない」

「そうだ!できるだけのことをしよう!」

激しく自分に言い聞かせ、本棚を探った。

サトコ

「確かこの辺に‥あった‥!」

取り出したのは、人気雑誌の男心研究特集。

半裸で微笑むイケメン男性タレントの姿が悩ましい。

(なんだかこの体勢、湿布を貼ってもらう時の室長に似てるかも‥?)

そう思った瞬間、雑誌の表紙の顔が頭の中で室長に差し替わった。

サトコ

「わっわっ‥室長、ちょっとセクシー過ぎですって‥!」

コンコン!

サトコ

「は、はい!」

(いけない‥私いま、すごく赤い顔してるかも‥?)

サトコ

「どちら様ですか?」

できる限り平静を装ってドアを開けると、鳴子がニヤニヤしながら立っていた。

鳴子

「な~に叫んでたの?」

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サトコ

「え?叫んで‥ないよ?」

鳴子

「あっ、そう‥」

サトコ

「どうしたの?こんな時間に」

鳴子

「サトコが浮かない顔して帰ってきたのが見えたから、気になって来てみたんだけど‥」

サトコ

「そ、そうだったんだ‥ごめんね、心配かけて」

鳴子

「落ち込んだり叫んだり‥もしかして、恋煩いじゃない?」

サトコ

「え‥」

半笑いの鳴子が上目使いでチラッと視線を投げる。

サトコ

「こ‥恋煩いなんて、そんな‥」

(いや、待てよ‥この際、鳴子に相談するっていうのも手かも‥)

サトコ

「こ、恋煩いと言えばさ、実は、友達の友達がね」

「ちょっと年上の‥いや、かなり年上の上司を好きになっちゃったかもしれないとか言ってて‥」

鳴子

「あー、はいはい」

「友だちの、友だちね?」

鳴子は自分を指差した後、その指を私に向けた。

サトコ

「ち、違うってば‥!」

鳴子

「わかってるって、ごめんごめん」

(さすがは鳴子、鋭いな‥)

鳴子

「で、友だちの友だちのために、こんなもの読んで座学を深めてるわけだ~」

鳴子は私から雑誌を奪うと、おかしそうにページをめくっていく。

鳴子

「なにこれっ‥!男心をつかむ10の法則だって!」

サトコ

「おもしろがってる場合じゃないの。私‥友だちの友だちは結構真剣なんだから」

鳴子

「分かってるって。だからこうして相談に乗ってるんじゃない!」

鳴子は私の背中をバシッと叩くと、雑誌を置いて立ち上がった。

鳴子

「男はやっぱり、胃袋をつかまないと!」

「こうなったら、明日から料理の猛特訓始めるから、友だちの友だちにサトコが教えてあげなよ!」

サトコ

「え、ええ~!?」

【教場】

サトコ

「ふああ~」

思わずアクビが出て、慌てて口元を手で覆った。

隣を見ると、つられたように鳴子もアクビをしている。

サトコ

「ごめんね、鳴子。私の特訓に付き合ってもらっちゃって」

鳴子

「それはいいけど‥さすがにこの生活でさらに早起きは辛いねー」

石神

それじゃ、今日の講義を始める

これから話すことは、午後の逮捕術の訓練の時に必要になる知識だ

よく聞いておくように

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サトコ

「はい」

訓練生たち

「はいっ」

(よぅし、室長に振り向いてもらうために、恋も仕事も頑張るぞ‥!)

【屋上】

鳴子

「それじゃ、いただきます」

サトコ

「‥どう?」

鳴子

「うん、おいしい!サトコ、料理うまいじゃない」

サトコ

「そ、そうかな‥それじゃ私も‥」

キレイに巻けた卵焼きに箸を伸ばそうとした、瞬間‥‥

難波

お、美味そうだな‥

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サトコ

「し、室長!?」

突然現れた室長は無造作に卵焼きをつまむと、口に放り込んだ。

(食べちゃった‥!)

難波

うん、うまいな

いいあんばいに出汁が利いてる

サトコ

「ほ、本当ですか?」

難波

ああ

鳴子

「このお弁当、全部サトコが作ったんですよ!」

難波

おお、そうか~ひよっこがなあ‥

おい、後藤。お前も食ってみろ

(ご、後藤教官にまで!?)

室長はもう1つの卵焼きを手に取ると、背後にいた後藤教官の口に押し込んだ。

後藤

ぐふっ‥

難波

どうだ?

後藤

う、うまいです

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難波

だよな?こんな腕持ってんのに、なんで彼氏がいないんだろうなあ

サトコ

「え‥?」

驚きの目を向けた私に、室長は笑顔で親指を立てて去って行った。

(もしかして、胃袋わしづかみ作戦成功‥?)

【学校 廊下】

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それからも、私は日々の訓練と料理の特訓に追われた。

(今日の逮捕術訓練は散々だったな‥)

(あそこでとっさに判断が遅れたのは、やっぱりちょっと疲れてるのかも‥?)

サトコ

「‥なんて弱気はダメ、ダメ!頑張らないと!」

気合を入れ直して更衣室に向かおうとすると、正面から室長が歩いて来た。

<選択してください>

A: 話しかける

サトコ

「室長、お疲れ様です」

難波

‥‥‥

(もしかして、また気づいてない?)

サトコ

「あの、室長!」

難波

ん?おお、ひよっこか~

‥お前、大丈夫か?

B: 会釈して通り過ぎる

軽く会釈し、そのまま通り過ぎようとした私の腕を室長がつかんだ。

難波

ちょっと待て

サトコ

「!?」

難波

お前、何やってんだ?

C: うっかりつまずく

徐々に縮まる距離にドキドキしていると、不意に体が前にのめった。

サトコ

「わっ‥!」

難波

‥っつ‥お前、何してんだ?

室長に抱きかかえられるように受け止められて、一瞬で顔が真っ赤になった。

サトコ

「す、すみません‥め、目地が‥!」

難波

また目地か‥

慌てて飛びのいた私の顔をまじまじと見て、室長の動きが止まった。

難波

お前ってやつは‥

難波

一緒に来い

サトコ

「え?」

室長は私の腕をとり、ずんずん歩いて行く。

(一緒に来いって一体どこへ‥?)

(室長、急にどうしちゃったっていうの?)

【保健室】

連れて来られたのは、保健室。

難波

ひよっこ、そこに座れ

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サトコ

「‥はい。でも、なんで‥?」

難波

はあ‥

室長は私の反応に、嘆かわしげなため息をついた。

難波

いいか?お前も一応、女の子なんだぞ?

サトコ

「!?」

難波

跡が残ったらどうすんだ

室長は私の目の前に手鏡を差し出した。

サトコ

「あ‥いつの間に‥」

逮捕術の訓練中にできたのか、頬に大きなひっかき傷ができている。

難波

ほれ、こっち向け

室長はピンセットで消毒綿を取ると、それで私の頬をそっと撫でた。

サトコ

「いたっ」

難波

少しの辛抱だ。じっとしとけ

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サトコ

「‥はい」

室長の真剣な顔が間近に迫り、心臓の鼓動が高鳴る。

(どうしよ‥近いよ‥!)

(このドキドキが伝わっちゃいそう‥!)

難波

‥お前、まさか照れてないよな?

サトコ

「え‥?」

一瞬で顔が真っ赤になったのが分かった。

難波

ぷっ‥こんなおっさんに照れるとは、重症だな

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サトコ

「そ、そういうわけでは‥」

難波

いいから、目を閉じてろ

室長は無造作に私の目元に触れ、目を閉じさせた。

静かな室内に、2人の呼吸の音だけが響く。

(これって一応、女扱いしてもらってるってことだよね?)

(なんか嬉しいな‥もしかして、このままいい雰囲気になっちゃったりして‥)

期待を込めてそっと薄目を開けた。

難波

よし、できた。もういいぞ

サトコ

「あ、はい‥」

室長はさっさと立ち上がると、私に背を向けて消毒綿を片付け始める。

(もう、終わり‥?)

難波

‥‥

視線を感じたのか、室長が振り返った。

難波

‥なんだ?

<選択してください>

A: ありがとうございました

サトコ

「いえ、あの‥ありがとうございました!」

難波

お前は本当に、目が離せないな

(それってまた、親心‥?)

B: 優しいんですね

サトコ

「いえ、その‥お優しいんですね」

難波

親御さんに訴えられでもしたら大変だからなあ

サトコ

「‥え?」

難波

前にもあったんだよ。ウチの娘を傷物にして!ってな

サトコ

「そ、そうだったんですね‥」

(別に、特別扱いでも何でもないってことか‥)

サトコ

「‥すみません、気を遣わせて」

C: なんでもありません

サトコ

「いえ‥なんでもありません」

難波

でもよかったよ。早目に気づいて

顔の傷と特殊任務は、早目早目のお手当てが肝心だ

(あくまでも仕事の一環ってことかな‥)

サトコ

「‥ありがとうございました」

難波

そんなことより、そろそろ行かないと次の講義に遅れるぞ

サトコ

「ああぁ!大変‥あと1分!」

「し、失礼します!」

もっと室長と一緒にいたい気持ちを断ち切り、教場へと急いだ。

【廊下】

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講義を終えた後は、射撃の自主練で汗を流した。

サトコ

「さすがに疲れたかも‥」

(でも集中したお陰で、気持ちにも気合が入った気がする‥!)

(この調子で、ますます訓練も頑張らないと)

(胃袋をつかむのも大切だけど、やっぱり一番は訓練で期待に応えることだよね!)

サトコ

「なんか冷えてきた。急いで帰って着替えよ‥」

小走りに廊下を進むと、室長が室長室に鍵をかけている。

サトコ

「あ、室長‥」

難波

なんだ、ひよっこ。まだいたのか

サトコ

「はい、少し射撃の自主練をと‥クシュン!」

難波

お前‥汗でびっしょりじゃないか

‥風邪ひくぞ

室長は着ていたスーツの上着を脱ぐと、私の肩にかけてくれる。

難波

ほれ

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サトコ

「え‥?」

ふわっと温かな香りが私を包んだ。

(これ‥室長の香りだ‥)

サトコ

「あの、でも、こんな‥」

難波

いいから、帰るぞ

サトコ

「‥はい」

室長の上着を着たまま歩き出す。

なんだか恋人同士になったみたいで、恥ずかしくも心が浮き立った。

(こんな風に急に女扱いなんて、ズルいよ‥)

【校門】

室長の上着を羽織ったまま、2人で並んで歩く。

(こんなに近くにいるのにな‥)

手が届かないほど遠い人なら、きっと諦めもつくのだと思っていた。

(こんなんじゃ、どんどん気持ちが離れなくなっちゃうよ‥)

サトコ

「‥クシュン!」

切ない気持ちとは裏腹に、間抜けなくしゃみが出た。

難波

大丈夫か?

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サトコ

「はい」

難波

訓練に熱をあげるのは感心だが、若いんだから

それだけじゃあ、もったいないぞ?

サトコ

「え?」

難波

後藤じゃダメなのか~?

あいつはオススメだぞ。なんせ、誠実を絵に描いたような男だからな

名前も誠二なだけに‥

サトコ

「あ、ああ‥はい」

難波

なんだよ~ノリ悪いな。ひよっこ

(だって‥好きな人に他の男の人を勧められるなんて、恋愛対象じゃないって言われてるみたい)

(私は‥私が好きなのは‥)

思わず、じっと室長を見てしまった。

難波

なんだ?

サトコ

「わ、私‥!好きな人、いますから!」

難波

そ、そうか‥

サトコ

「その人は、年上でちょっとゆるい感じなんですけど、仕事にはすごく真面目で」

「私に、正義を教えてくれた人なんです」

(い、言っちゃった‥!)

難波

‥‥‥

(でも、さすがに言い過ぎた?)

(室長、黙り込んでるし、室長のことだって気づかれちゃったかな‥?)

ドキドキしながら次の言葉を探す。

(どうしよう‥このままじゃ気まずい‥)

(何か言わなきゃ‥!)

難波

やっぱりなあ

サトコ

「え‥?」

難波

お前位の年齢だと、年上に憧れるもんなんだなあ

でもそういう憧れは、現実を知ればいずれ醒める

サトコ

「そ、そんなんじゃ‥!」

「憧れとかじゃなくて、私は心からその人のことを‥」

難波

お前は、そいつのことをどこまで知ってるんだ?

私の言葉を遮るように言った室長は、怖いくらい真剣な表情で私と向き合った。

難波

もし、そいつが仕事のために好きでもない女を抱くような男でも‥

好きだと言えるか?

サトコ

「そ、それは‥」

(室長のこと‥なのかな?)

(確かに私は室長のこと、まだ一面しか知らないのかもしれないけど‥)

目が泳いでいるのが自分でもわかった。

そんな私をじっと見ていた室長が、耐えかねたように表情を崩す。

難波

ぷぷっ‥

サトコ

「!?」

難波

お前ってさ‥

サトコ

「な、なんですか?」

(もしかして、からかわれた?)

難波

いいよなあ、若いって‥

俺みたいにおっさんになるとな、もう恋だの愛だの言ってる場合じゃないというか‥

俺はもう、恋なんて諦めたよ

サトコ

「室長‥」

室長は寂しげな笑みを浮かべると、ゆっくりと歩き出した。

近づいたと思った距離が、また遠くなる。

(なんであんな寂しそうな顔するんだろう‥)

(あんな顔されたら、ますます室長が好きだなんて言えなくなっちゃうよ‥)

to  be  continued

3話

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