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難波 恋の行方編 1話

【講堂】

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公安学校に入学して3ヶ月。

石神

それではこれより、中間審査の結果を発表する

名前を呼び上げられた者は合格だ

加賀

呼ばれなかったヤツは、今日付けで退学だからな

さっさと出ていけ

サトコ

「!」

鳴子

「さすがはエリートの集まる公安学校‥一発退学なんて容赦ないね」

サトコ

「どうしよ‥私、絶対不合格だよ‥」

鳴子

「そんなこと言ったら私だって‥」

「大丈夫、出て行く時は一緒だよ」

「とりあえず、今は神様に祈っとこ!」

サトコ

「うん‥」

胸の前でギュッと手を握り、その時を待った。

石神

千葉、佐々木‥

鳴子

「や、やったー!」

サトコ

「鳴子‥おめでと‥」

(ついにお別れの時かも‥)

(さよなら、鳴子‥)

石神

‥氷川

サトコ

「!?」

サトコ

「い、今、氷川って言った?」

鳴子

「うん、言った言った!」

サトコ

「じゃあ、私‥」

鳴子

「2人とも合格だよ!」

(やったー!!)

(これでまた鳴子と一緒に訓練できる‥!)

(室長の傍にも居られるんだ!)

教官たちの傍らで腕を組んでいる室長をチラリと見た。

その左手には、相変わらず指輪が光っている。

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難波

‥‥‥

石神

‥以上だ

難波

みんな、ご苦労だったな

合格した者は、ますます訓練に励んでくれ

サトコ

「はいっ!」

訓練生たち

「はい!」

加賀

情けねぇ返事してられるのも今のうちだけだ

今まで以上にしごいてやるから、覚悟しとけ

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サトコ

「ひ、ひぃぃ‥!!!」

石神

それじゃ、解散!

緊張が解けるとともに、講堂内は歓喜の声で溢れた。

鳴子

「やったね、サトコ」

サトコ

「お別れにならなくてよかったよー」

「お礼、言わないとな‥」

鳴子

「お礼って、誰に?」

<選択してください>

A: 室長

(それはやっぱり‥)

サトコ

「室長かな」

鳴子

「サトコ、室長にかわいがられてるもんねー」

サトコ

「そ、そうかな?」

(だったら嬉しいけど‥)

B: 後藤教官

サトコ

「まずは、後藤教官かな」

鳴子

「まずはってことは、次は?」

サトコ

「それは、まあ‥室長?」

鳴子

「本当は、室長に一番お礼言いたいんじゃないのー?」

サトコ

「そ、そんなことは‥」

C: 誰というわけじゃないけど‥

サトコ

「誰というわけじゃないけど‥」

鳴子

「またまた‥顔に『室長』って書いてあるよ!」

サトコ

「ええ!?」

思わず顔を覆った私を見て、鳴子が笑った。

鳴子

「嘘、嘘」

鳴子

「ほら、早く行かないとみんな教官室に戻っちゃうよ」

サトコ

「う、うん」

室長の方へ歩いて行くと、正面から来た後藤教官と目が合った。

サトコ

「後藤教官!」

後藤

ああ、氷川‥

サトコ

「お陰様で合格できました」

「射撃の補習、何度もありがとうございました!」

後藤

潜入捜査で忙しかったのによくやった

これからも頑張れよ

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サトコ

「はい!」

後藤教官と別れ、室長を探す。

でももうどこにも、室長の姿はなかった。

(お礼、言いそびれちゃったな‥)

(永谷さんの事件が終わってから、任務で会うこともほとんどなくなっちゃったし‥)

思わずため息が出た。

(捜査中は大変だったし怒られもしたけど、室長とずっと一緒で楽しかったなぁ‥)

【廊下】

自習しようと資料室に行ったものの、あまり勉強が手につかず早々に寮に引き上げることにする。

(ダメだなぁ、こんなんじゃ)

(ちゃんと勉強して成績維持しないと、室長の傍にすらいられなくなっちゃう‥)

サトコ

「あ‥」

目の前の扉から姿を現したのは、室長。

難波

おお、ひよっこ

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(ど、どうしよう‥こんな急に現れたら‥!)

難波

‥ん?どうした?

熱でもあんのか?

サトコ

「!」

顔を覗き込まれ、思わず大きくのけぞった。

サトコ

「そ、そんなんじゃ‥!」

言いながら、ますます顔が赤くなったのを感じる。

難波

まあ、分からなくもないけどな。お前の気持ちは

サトコ

「え‥?」

(私の気持ちって、まさか‥)

難波

試験の結果発表ってやつは、無駄に興奮するもんだよ

サトコ

「あ、ああ‥そう、ですよね‥」

難波

合格おめでとさん

この調子で頑張れよ~

サトコ

「ふぁいっ」

声がぶれるほどにガシガシと手荒く頭を撫でられ、さっきまでの緊張が嘘のように吹き飛んだ。

サトコ

「ありがとうございます‥」

(室長の態度、恐ろしいほどに何も変わってない‥)

(悲しいほどに子ども扱いだよ)

久しぶりの室長の手の感触。

嬉しいはずなのに、チクチクと胸が痛む。

(室長のこと、異性として意識してるのは私だけなんだよね‥)

サトコ

「‥いたっ」

難波

ん?

室長は撫でるのをやめ、不思議そうに自分の左手を見た。

難波

ああ‥悪い、悪い

サトコ

「‥‥‥」

結局、指輪をし続けていることも変わらない。

(奥さんなんかいないって言ったくせに‥)

サトコ

『どうして指輪、外さないんですか?』

難波

これは‥

外さないんじゃなくて、外せないんだ‥

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(あれって、奥さんのことを引きずってるってことかな‥)

難波

どうした?暗い顔して

サトコ

「え‥?」

難波

もしかして、そんなに痛かったのか?

サトコ

「い、いえ!そんなことは‥」

難波

悪かったなあ

詫びと言っちゃなんだが、合格祝いでもするか!

サトコ

「え?合格祝いですか?」

室長は戸惑う私に構わず、勝手に歩いて行ってしまう。

サトコ

「ちょ‥待ってくださいよ~!」

【射撃場】

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難波

よし、次はお前だ

撃ってみろ

サトコ

「は、はい!」

(合格祝いなんて言うから何かと思えば‥)

射撃のマンツーマンレッスンは、嬉しくもあり残念でもあり。

(まあ、2人きりになれるならどこでもいいよね)

難波

おいおい‥

サトコ

「は、はい?」

難波

何度も言わせるなよ

肘を締めるんだ

サトコ

「す、すみません‥!」

もう一度構え直してみるが、室長は納得いかないように顎を撫でた。

難波

そうじゃなくて‥

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サトコ

「!」

室長は私を後ろから抱え込むようにして構え方を直してくれる。

懐かしい香りが、私を優しく包み込んだ。

(この柔軟剤の香り‥久しぶりだな‥)

(でも香りも、室長にとってはきっと奥さんの思い出の香りだったりするんだよね)

複雑な思いで胸がかき乱される。

それを振り払うように、私はグッと引き金に力を込めた。

ズキュン!

難波

おお!

サトコ

「わ‥すご‥」

無心で放った弾は、見事に的の中心を打ち抜いていた。

難波

腕を上げたな、ひよっこ

室長は弾けんばかりの笑顔を浮かべる。

その瞬間、あらゆるもやもやが一気に消し飛んでいくのを感じた。

(たとえ室長の心に誰がいるとしても、今この瞬間の笑顔は私だけのもの‥)

(今は、それでいいんだって思わなきゃね)

サトコ

「ありがとうございます。これも室長のお陰です!」

難波

お陰なんて硬いこと言うなよ~

教官たる者、かわいい訓練生の教育のために全身全霊を捧げるのは当然のことだからな

満足げに胸を張る室長。

でも私の心は、再びもやもやに支配され始めていた。

(かわいい訓練生‥そうだよね。私はただの、訓練生の1人‥)

これを見事に命中させれば、室長との間にある分厚い壁も少しは崩せるような気がした。

難波

ズキュン!

サトコ

「あ‥」

難波

お前なあ‥

弾は大きく上にそれて、的をかすりもしていない。

難波

さっきの真剣な横顔、思わず見惚れちまったのによ‥

やっぱり全然かっこよくない

サトコ

「すみません‥」

(さっきと同じにできると思ったんだけど‥)

(いきなり急接近なんてしようと思うなってことかな)

ともすると焦りそうになる自分の気持ちをなだめつつ、銃を置いた。

難波

なんだ、もう終わりか?

<選択してください>

A: 少し休みます

サトコ

「少し休みます」

難波

じゃあ、イメージトレーニングするんだな

言うなり、室長は銃を構えた。

B: 室長の射撃が見たいです

サトコ

「久しぶりに、室長の射撃が見たいんですけど‥」

(室長の射撃姿、かっこいいもんなあ‥)

難波

俺の‥?

室長は一瞬ポカンとした表情になった。

難波

なんでだ?

サトコ

「そ、それは、その‥そう!イメージトレーニングです!」

難波

なるほどな‥

室長は満更でもなさそうに銃を構えた。

C: もう一度指導してくれますか?

サトコ

「もう一度、さっきみたいに指導してくれますか?」

難波

さっきみたいにって?

サトコ

「だから、その‥後ろから、こう‥」

難波

なんだ、お前。意外とやらしいな

サトコ

「そ、そんなんじゃありません!純粋な向上心ですっ!」

難波

なら、見てろ

言うなり、室長は銃を構えた。

♪~

難波

おっと‥

悪いな。呼び出しだ

(残念‥いいところだったのに‥)

難波

まったく‥意外と手こずってんなあ

サトコ

「もしかして、永谷さんの事件ですか?」

難波

ああ。黒幕がな‥なかなか尻尾を出してこない

サトコ

「え?でも、たしかあのとき‥」

石神

室長、今、警察庁から連絡が

加賀

永谷の野郎、黒幕の正体を吐いたらしいです

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サトコ

「永谷さんが正体を教えてくれたんじゃ‥」

難波

それが、黒幕がいるって話だけでな

誰なのかまではアイツも知らされてなかったらしい

まあ、当然といえば当然だが‥

室長は真剣な表情で何か考え込む素振りを見せた。

難波

まあいい。誰かに俺の居場所を聞かれたら、警察庁の警備局に行ったと伝えてくれ

サトコ

「警備局、ですか‥」

難波

新しい警備局長殿に色々報告しないとな

(そういえば最近、山田副総監が警備局長になったんだっけ)

難波

人事が動くと厄介ごとが増えてかなわん

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サトコ

「でも確か室長は、山田警備局長とお親しいんですよね?」

初めて後藤教官に連れられて警察庁に行ったとき、室長は当時の山田副総監と一緒だった。

難波

親しいわけじゃないが‥知らない仲じゃない

(なんだか微妙な感じだけど‥)

難波

これから何かと騒がしくなるぞ

あいつは恨みを買いやすいからな

呟くように言って、室長は射撃場を後にした。

【寮 談話室】

翌朝。

鳴子

「サトコ、聞いた?」

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サトコ

「ん?何を?」

鳴子

「新しい警備局長、いきなり襲われたらしいよ」

サトコ

「え!?襲われたって、誰に?どこかの組織?」

鳴子

「そうじゃないみたい。単なる一個人の嫌がらせみたいなことを言ってたけど‥」

サトコ

「そうなんだ‥」

(昨日、室長が言ってたよね)

(山田警備局長は恨みを買いやすいって‥)

『騒がしくなる』と言った室長の言葉が蘇り、少し胸がざわついた。

【警察庁】

午後の講義が終わるとすぐに、警察庁に向かった。

(後藤教官に頼まれた書類は、これで全部そろったよね)

封筒の中身を確認しながら歩いていると、向かいから見覚えのある男性が歩いてきた。

(あの人は確か、室長の同期の鈴木さん‥)

サトコ

「あの‥!」

鈴木

「おお、難波のお気に入りちゃんじゃないか」

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(お気に入りちゃんって‥)

サトコ

「氷川です。お久しぶりです」

鈴木

「久しぶり。でも活躍は聞いてるよ」

「あの永谷を前に名演技を披露したって?」

サトコ

「ええ、まあ‥」

鈴木

「君の武勇伝、俺も聞かせてもらいたいな~」

「用事は?もう終わり?」

サトコ

「はい、一応‥」

鈴木

「それじゃさ、ちょっと付き合ってよ」

サトコ

「え?あ、あの‥!」

戸惑う私に構わず、鈴木さんはさっさと庁舎の外へと歩き出した。

【屋台】

鈴木さんに連れてこられたのは、室長もお気に入りの屋台ラーメン。

鈴木

「そうか‥よくあいつともねぇ‥」

「やっぱり君は、お気に入りだわ」

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サトコ

「そ、そうなんですか?」

(この屋台に連れてきてもらうのは、相当ハードルが高いってこと?)

(室長のセンス、やっぱり謎‥)

鈴木

「ところで君、永谷とも随分親しくなってたらしいよね」

「黒幕について、あいつに匂わされたこともないの?」

サトコ

「それはないですけど‥もしかして、鈴木さんは永谷さんの取り調べに関わってるんですか?」

鈴木

「まあね~。一応、黒幕の存在を吐かせたのは俺だから」

サトコ

「そ、そうなんですか!?」

(これは、詳しい状況を聞くチャンスかも‥!)

サトコ

「あの、永谷さんに教えてもらったハッカーの連絡先」

「あそこからなにか辿れなかったんでしょうか?」

鈴木

「ああ、あれはさ‥」

???

「熱心だねぇ、2人とも」

声に振り向くと、室長が立っていた。

サトコ

「室長!」

難波

俺も仲間に入れてくれよ~

鈴木

「お前はどうせ、こんなところで仕事の話をする気ないだろ」

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難波

お、さすがは鈴木!よく分かってるねえ

大将、ラーメン大盛り!

結局、永谷さんの話はそのままうやむやに終わってしまった。

【帰り道】

難波

さて、帰るか‥

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鈴木さんと別れると、室長はゆっくり歩き出した。

サトコ

「室長も今日は寮に帰るんですか?」

難波

そういうわけじゃないが‥

サトコ

「だったら、ここで大丈夫です。1人で帰れますから」

難波

‥そうか?

室長は立ち止まって一瞬考えてから、再び歩き出した。

難波

でも、もう遅い

サトコ

「‥じゃあ、お言葉に甘えて‥‥」

(これって、一応女の子扱いされてるってことだよね)

何となく嬉しくて、思わず足取りも軽くなる。

室長はポケットから煙草を取り出すが、ちらっと私を見て思い直したようにそれをしまった。

サトコ

「あの、吸わないんですか?」

難波

匂いがつくと、勘ぐられるだろ

男とデートか、とか

サトコ

「え‥」

(気を遣ってくれてる‥?)

サトコ

「そんな‥大丈夫ですよ。でも、ありがとうございます」

難波

礼なんか言ってる暇あったら、お前も男作れよな~

そしたら俺も変な気を遣わんで済む

そうだ、後藤なんてどうだ?

サトコ

「そ、そんな‥後藤教官にとって私は、ただの補佐官ですから!」

難波

でもあいつは、いい男だぞ~

サトコ

「それは、分かってますけど‥」

冗談半分とは分かっているのに、胸が痛んだ。

さっきまでの浮き立つような気持ちも、もうすっかりどこかに行ってしまっている。

(私の気持ちも知らないで‥ひどいな‥)

恨めし気に室長を見上げた。

難波

♪~

難波

あ、悪い‥

もしもし?俺だけど‥

室長の携帯から漏れ聞こえる声は、明らかに女性。

難波

なんだ、そんなことなら俺に任しとけよ

室長は、笑みを浮かべながら柔らかな声で応答している。

(室長、こんな優しい声出すんだ‥)

(こんな風に話すのは、相手が室長の大切な人だから‥?)

to  be continued

2話

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