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難波 恋の行方編 5話

【寮門前】

難波

あの時、俺が小澤さんの言葉に従って捜査を止めていれば‥

小澤さんの命令に逆らってでも、俺が自分で現場に向かっていれば‥

小澤さんは死なずに済んだ

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サトコ

「‥‥」

難波

小澤さんを殺したのは、俺なんだ‥

サトコ

「!」

歩くことすら忘れたようにじっと立ち尽くす室長の姿は、途方に暮れた一人の男性。

私は、その大きな体を抱きしめてしまいたい衝動に駆られた。

サトコ

「‥室長のせいじゃ‥ないと思います」

難波

‥え?

サトコ

「自分を責めてしまう室長の気持ちはよく分かります」

「でも室長は正しいことをしたんだし‥」

「小澤さんもきっと、正しいと思えることをしたんじゃないでしょうか」

「だとしたら、その正義は誰にも止められない‥」

難波

‥‥

サトコ

「すみません。私みたいなひよっこが、こんな分かったようなこと‥」

「でも私が室長なら、きっと同じことをしたと思います‥」

難波

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室長は一瞬、驚いたように目を見開いた。

難波

‥‥‥

お前は、純粋だな‥

たぶん褒め言葉のはずなのに、室長の声はなぜか寂しく響いた。

難波

でもなあ、氷川‥

サトコ

「?」

難波

純粋すぎる信念は時に誰かを傷つける

お前も、気をつけろよ

サトコ

「室長‥」

難波

そういう傷ってのは、自分が負う傷以上に痛むもんだ

サトコ

「!」

室長は私の頭にそっと手を置くと、寂しげな笑みを残して歩き出した。

大きかったはずの室長の背中が、いつになく小さく見える。

(室長はこんなにも大きな苦しみを抱えてきたんだ‥)

(私なんかが簡単に力になれるようなことじゃない)

(でも、それでも‥)

なんとかして室長をこの苦しみから救い出してあげたいと強く思う。

(今までは室長に振り向いてもらうことばかり考えていたけど)

(今私がすべきことはそんなことじゃないよね)

(室長のために、私が今できることって‥)

相手に求めるよりも与えたいという感情。

それは、私にとって初めての感覚だった。

(私に、できること‥)

【教場】

石神

本日の講義は以上だ

現代の捜査技術において、今日話した情報の収集と解析はとても重要な役割を果たす

各自、くれぐれも復習を怠らないように

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サトコ

「はい!」

訓練生たち

「はい!」

授業が終わるなり、私は急いで荷物をまとめ始めた。

鳴子

「あれ~?サトコ、どこか行くの?」

サトコ

「うん、ちょっと調べもの」

鳴子

「なんだか最近、妙に熱心じゃない?」

サトコ

「だってほら、小テストも近いし‥」

鳴子

「ああ、思い出したくもないこと思い出しちゃったよ‥」

ガックリ項垂れる鳴子の姿に、微笑みながら席を立った。

昨夜、室長のために自分に何ができるのか、一晩中考え続けた。

その結果出した答えは、山田警備局長の裏金問題の真相を突き止めること。

(まずは、何からすればいいかな‥?)

<選択してください>

A: 情報の収集と解析

さっきの石神教官の言葉が蘇る。

(やっぱり、情報の収集と解析だよね)

大きく頷いた瞬間、ちょうど振り向いた千葉さんと目が合った。

(そういえば、こういうことは千葉さんが詳しいんじゃなかったかな?)

サトコ

「あのさ、例えばなんだけど」

「今まで授業で習ったやり方を使えば、警察庁のデータベースにも侵入できるってことだよね?」

千葉

「まあ、そういうことになるね」

B: 関係者にさりげなく接触

(やっぱり、捜査の基本は聞き込みだよね)

(山田警備局長の周辺に接触したいけど、みんなガード固そうだなあ‥)

千葉

「深刻な顔して、どうかしたの?」

考え込んでいたら、千葉さんに声をかけられた。

サトコ

「あ、うん‥ちょっと‥今の授業、難しかったなあなんて」

千葉

「俺に分かることだったら教えてあげるよ」

サトコ

「千葉さん、情報系得意なんだっけ?」

千葉

「うん。実はここだけの話、過去に警察庁のデータベースに侵入してみたこともあるんだ」

サトコ

「え!?すごいね‥」

(でもそっか‥警察庁のデータベースね‥)

C: 心を落ち着ける

ゴツッ!

サトコ

「いたっ‥」

考えながら歩き出したら、いきなり教場の棚に頭をぶつけてしまった。

(とりあえず、まずは立ち止まって心を落ち着けよう‥!)

ドンッ!バサバサ‥‥

サトコ

「いたっ!」

千葉

「わっ!ごめん!大丈夫だった?」

サトコ

「い、いや、私の方こそいきなり止まっちゃってごめんね」

「千葉さん、大丈夫だった?」

慌てて千葉さんが落としたプリントを拾い上げる。

その中に、『警察庁DB』と書かれたメモがあった。

サトコ

「警察庁のデータベース‥?」

千葉

「い、いや。なんでもないよ」

「別にまだ、本当に侵入したわけじゃないし‥」

(そっか‥警察庁のデータベースね‥)

(決めた!まずはそこから始めてみよう‥!)

【モニタールーム】

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さっそく東雲教官の授業で習ったハッキング技術を実践し、

警察庁のデータベースへの侵入を試みた。

サトコ

「やっぱり難しいなあ。さすがは天下の警察庁‥ガード固いし!」

トライ&エラーを繰り返すが、なかなかうまくいかない。

(やっぱり、ちょっと無謀な計画だったかも‥)

ピッ!

サトコ

「き、来た‥!?」

(すごいです、東雲教官!)

(言われた通りにやったら、本当にできちゃいました!)

興奮を抑えつつ、山田警備局長の個人ファイルにアクセスしてみた。

(わあ、すごいな‥絵に描いたような出世コースまっしぐら)

(ここまでとなると、それなりの敵は多いはずだよね)

まずは出世争いでライバル関係にあった人物をリストアップ。

丁寧に拾っていたら、それだけでもかなりの人数になった。

(とりあえずこの人たちの最近の動向をチェックしてみようかな)

必要なデータをUSBメモリーに落とし、ポケットにしまう。

(あとは、このサイトからログアウトすれば‥)

???

「へぇ‥」

サトコ

「!?」

驚いて振り返ると、いつの間にか東雲教官が立っていた。

サトコ

「東雲教官‥!」

東雲

キミ、意外とやるじゃない

授業の内容、ちゃんと分かってたんだ

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サトコ

「あ、あの‥ええっと‥」

(どうしよう‥これはもう、完全に言い訳できない状況だよね)

(いつから見られてたんだろう‥?)

ポケットにしまったUSBメモリーにそっと触れる。

(これだけは何としても守らないと‥)

東雲

で?警察庁のデータベースなんかに侵入して、なにしてたの?

サトコ

「す、すみません‥!」

「せっかく学んだ技術を‥試してみたくて‥」

東雲

それで、よりによって警察庁?

サトコ

「か、壁は高い方がと‥!」

東雲

ふーん、まあ、その高い志は認めるけど

こんなことがバレたらどうなるか分かってる?

サトコ

「‥はい」

(退学ものだよね‥ううん、それどころか、警察官ですらいられなくなるかも‥!)

東雲

分かってると思うけど、サトコちゃんの今後はオレ次第ってこと

意地悪な笑みを浮かべながら、一歩、また一歩と東雲教官は私との距離を詰めてくる。

サトコ

「‥‥」

(わあ、何か企んでるって顔してる‥)

(怖い‥怖いよっ‥!)

ドンッ

気づけば、壁際まで追い込まれていた。

東雲

さぁて、何してもらおうかな‥

サトコ

「‥‥」

東雲

言うことを聞かないとは言わせないよ?

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(お、襲われる‥!?でも拒んだりしたら、室長の傍にいられなくなっちゃうし)

(室長のために山田警備局長のことを調べることもできなくなっちゃう‥!)

息がかかりそうな距離まで東雲教官の顔が近づき、私はたまらずギュッと目を閉じた。

東雲

あのさ‥

なに本気にしてんの?

サトコ

「へ‥?」

東雲

オレがキミを襲うとか‥ないから

いくら期待されても、困るんだけど‥

てか、勝手に想像しないでくれない?

東雲教官はバカにしたように笑うと、ポケットから1枚の男性の写真を取り出した。

東雲

防犯カメラにこの男が映ってないか、探しといて

サトコ

「は、はあ‥」

東雲

録画映像はここに3か月分取り寄せてあるから

サトコ

「さ、3か月分!?」

東雲教官が指差した机の上には、DVDがうず高く積み上げられている。

東雲

文句、ないよね?

サトコ

「‥はい」

東雲

それじゃ、3日以内によろしく

サトコ

「み、3日ですか!?それはいくらなんでも‥」

東雲

あれ?そんなこと言える立場なんだっけ?

オレもさ、教官の1人として、今いる生徒は全員卒業させてあげたいと思ってるんだよね

オレのそういう親心、わかんないかなあ?

サトコ

「うっ‥」

東雲

そういうことだから、くれぐれも見落とさないようにね

できなかったらさっきの件、すぐに上に報告入れるから

サトコ

「が、頑張ります‥」

東雲教官は、ニコリと爽やかな笑みを残して去って行った。

(とんでもないことになっちゃったなあ)

(すごい量だけど‥こうなったらやるしかないよね‥!)

【教場】

颯馬

では、次回は協力者、通称Sの運用について話します

今日はここまで

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今日も授業が終わるなり、急いで荷物をまとめた。

講義の合間に東雲教官からの依頼をこなし、山田警備局長の周辺調査もしなくてはならない。

(今日は、3時間録画チェックした後、射撃の自主練して‥)

鳴子

「ねえ、サトコってば!」

サトコ

「ん?なに?」

鳴子

「なに?じゃないよ~。さっきから何度も呼んでるのに」

サトコ

「ごめん、ちょっと考え事してた」

千葉

「最近、氷川が疲れてるみたいだからさ」

「このあと少し息抜きに行かないかって話してたんだけど」

ふと見ると、外にも訓練生が3人ほど集まってきている。

サトコ

「ごめん‥せっかくなんだけど、私、東雲教官から頼まれてる仕事があって‥」

鳴子

「東雲教官にまで‥?大変なら、手伝おうか?」

サトコ

「え、本当に‥?」

(でもみんなに手伝ってもらったなんて東雲教官に知られたら‥)

【モニタールーム】

東雲

さっきの件、すぐに上に報告入れるから

【教場】

思い出すだけでぶるっと来た。

(ダメダメ、そんなことしたら大変なことになっちゃうよ)

サトコ

「ありがとう。でも、大丈夫。もう少しだし」

鳴子

「ホントに?大丈夫‥?」

千葉

「そういうことなら、あんまり無理しないでね」

サトコ

「うん。それじゃ、また明日ね!」

(みんなに心配してもらっちゃったなー)

たったそれだけのことなのに、元気がチャージされたような気がした。

【射撃場】

パンッ!

パンッ!

パンッ!

限りなく的の真ん中付近を射止めたところで、ようやく銃を置いた。

サトコ

「ふう‥」

(なかなかいい感じになってきたかも)

難波

また腕を上げたみたいだな

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サトコ

「室長!?いつからそこに‥」

背後の壁に寄りかかって腕組みしながら、室長が私を見ている。

難波

おいおい、そんな背後霊みたいな言い方すんなよ~

結構前から居たんだけどな

サトコ

「すみません。気づかなくて‥」

(結構見られてたっぽいかも。恥ずかしい‥!)

難波

毎晩来てるみたいじゃないか

サトコ

「え‥なんでご存じなんですか?」

難波

なんでって、入出記録、ひよっこの名前ばっかだぞ

サトコ

「あ‥はい、一応‥」

難波

えらいな

サトコ

「!」

思いがけない褒め言葉に、ハッとなった。

難波

技術は確実に上がってる。これなら、いつ現場に出しても問題ないはずだ

あとはお前に、撃つ勇気さえあれば‥

室長はじっと私の目を見た。

難波

どうだ?次は撃てそうか?

<選択してください>

A: はい、頑張ります

(室長、言ったもんね。引き金を引くのは、大切な人を守るためだって)

サトコ

「‥はい。頑張ります」

難波

おいおい、この間までの弱気なひよっこはどこに行った?

サトコ

「本当は‥まだ怖いです」

B: まだ自信がありません

(室長は、大切な人を守るために撃つんだって言ったけど‥)

サトコ

「まだ、自信がありません」

「こうして毎日練習すれば、迷いもなくなるだろうと思ったんですけど‥」

難波

そうか‥」

ひよっこは何を迷ってるんだ?

C: わかりません

(室長は、大切な人を守るために撃つんだって言ったけど‥)

サトコ

「‥わかりません」

難波

正直だな、ひよっこは

話してみろ。何がお前を迷わせてるのか

サトコ

「もしかしたら相手を殺してしまうかもしれないと思うと、足がすくんでしまって‥」

難波

‥‥

サトコ

「こんなの、刑事失格でしょうか‥」

(こんな弱気を打ち明けたら、また「辞めちまえ」って言われちゃうかな)

ドキドキしながら室長を見る。

でも、その表情は思いがけず穏やかだった。

難波

俺の友人の外科医はな、メスを持つたび恐怖を覚えるそうだ

ビックリするくらいの名医なのに、だぞ?

サトコ

「‥‥」

難波

そいつが前に言ってたなあ。その恐怖は外科医にとって必要な恐怖だ

それが無くなったら、きっと患者を救えない

サトコ

「‥‥」

難波

俺はな、それは警察官にも言えることだと思う

誰かを自分の手で殺してしまうかもしれない恐怖‥

それは俺たち拳銃を扱う者にとって必要な恐怖だ

それが無くなったら、いつか本当に誰かを殺す

(いつか本当に、誰かを‥)

難波

だからお前は、その恐怖と一緒に歩いて行けばいいんじゃないのか?

サトコ

「室長‥」

室長は、優しい笑みを浮かべていた。

難波

俺がちゃんと分かっててやるから

室長は私の頬にそっと手を置いた。

(あれ?なんかいつもと違う‥)

室長の仕草に温かなものを感じ、問いかけるように室長を見る。

その視線が、室長のそれと絡んだ。

吸い込まれるように、室長の瞳に釘付けになる‥

心なしか、室長が上体を倒してきたように見えた。

(この感じって、もしかして‥?)

♪~

難波

あ、いけね‥連絡するの忘れてた

はい、もしもし?

室長は慌てて電話に出ると、射撃場の外へと出て行ってしまった。

(なんかちょっといい雰囲気になりかけた気がしたけど‥)

(まさかね。気のせい、だよね‥?)

to be continued

6話

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