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難波 恋の行方編 10話

【教官室】

長野での事件解決から数日後。

私はようやく、公安学校に戻れることになった。

(ああ、久しぶりだなあ~!)

サトコ

「失礼しますっ!」

「氷川サトコ、本日から公安学校に復帰しました」

勢い込んで教官室のドアを開けると、教官たちがいっせいに振り向いた。

でもそこに室長の姿はない。

(あ‥れ‥?)

後藤

氷川、待ってたぞ

石神

よく戻ったな

だがしばらくいなかった分、他のヤツらに追いつくのは大変だぞ

サトコ

「はい!頑張ります!」

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加賀

テメェはとことんマゾ女だな

戻ってきたからには、覚悟はできてんだろうな?

サトコ

「そ、そういうわけでは‥」

東雲

まあ、いいんじゃない?

能力はないけど、やる気だけはあるみたいだし

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颯馬

そうですね。やる気だけは、人一倍ありますしね

サトコ

「はあ‥」

(戻ってきて早々、ひどい扱いだな‥)

(でも、この感じ妙に懐かしい気もする)

【教場】

鳴子

「サトコ、おかえり~!」

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最初の講義が終わるなり、鳴子が抱きついてきた。

サトコ

「鳴子、会いたかったよ~」

鳴子

「私もだよー。この恐怖の館にか弱き女子一人。どんなに心細かったか‥」

サトコ

「そうだよね。ほんと、ごめんね」

千葉

「聞いたぞ、氷川」

「廃倉庫に山田警備局長を追い詰めて、ピンチの室長を華麗に救ったんだって?」

サトコ

「う、うん、まあ‥」

(ちょっと違うけど、まあいっか‥)

鳴子

「すごいよ、サトコ!」

そこまで言って、鳴子はすっと私の耳元に顔を寄せた。

鳴子

「そんなことされたら、さすがの室長もグッときちゃったんじゃない?」

サトコ

「え‥な、何言って‥!」

鳴子

「ふふっ‥なんてね。ほら、サトコ、早く行かないと次の講義に遅れるよ!」

鳴子はいたずらっぽい笑みを浮かべて教場を出て行く。

サトコ

「もう、鳴子ったら‥」

「室長」と囁かれただけで、胸がドキドキしてしまった。

(室長、どうしていないのかなあ‥?)

(せっかく戻ってきたのに‥室長と話したいな‥)

【寮 自室】

その夜。

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結局、室長に会えないまま寮の部屋に戻った私は、荷解きに追われていた。

グー

サトコ

「ああ、お腹減ったな‥」

♪~

鳴り出したお腹を抱えてメールを見ると、着信は室長からだった。

『今から出られるか?』

(もしや‥ラーメン!?)

懐かしい屋台が思い出され、思わず微笑んでしまった。

(学校でもっともらしく待っててくれるより、こっちの方が室長らしいかも‥)

メールに返信すると、私は慌てて部屋を飛び出した。

【展望台】

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寮の前で室長の車に拾われ、連れて来られたのはラーメン屋‥

‥ではなく、夜景の綺麗な展望台だった。

サトコ

「わあ、キレイ‥」

あまりの美しさに、空腹感などどこかに吹き飛んでしまった。

室長は、キラキラ輝く夜景をただ黙って見つめている。

難波

‥‥

(室長、車に乗ってる時からずっと黙ったままだな‥)

何となく私もそのまま黙り込み、2人だけの展望台に静かな時が流れていく。

難波

今回のこと、世話になったな

サトコ

「え‥い、いえ‥」

突然の言葉にハッとなって室長を見るが、室長はじっと前を見つめたままだった。

難波

永谷を使って公安の機密情報を漏えいさせた黒幕は鈴木だった

鈴木は小澤さんに特に懐いてたからな

小澤さんの復讐のために、山田を陥れようとしたようだ

サトコ

「そうだったんですね‥」

せっかく事件の真相にたどり着いたのに、真犯人は室長の同期。

室長の口調には。どこかスッキリしないものが含まれていた。

サトコ

「室長には、つらい結末でしたね」

難波

‥そうだなあ

でも、今回わかったのは黒幕の正体だけじゃない

サトコ

「?」

難波

俺は‥ずっと思ってた

俺の身代わりになって死んだ小澤さんは、どんなに無念だったろうかと‥

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サトコ

「‥‥」

難波

でも、違ったのかもしれないな

初めて真っ直ぐ私に向き直った室長は、晴れ晴れとした表情を浮かべているように見えた。

難波

いつかお前が言った通りだ

きっと、真相を明らかにしたい気持ちは小澤さんも同じだった

そんな時、同じ志を持った部下が危険に晒されていると知ったら‥

サトコ

「‥‥」

難波

お前の行動を見ていて、あの時の小澤さんの気持ちがよく分かったよ

誰だって、大事な部下を失いたくない‥

サトコ

「大事な‥部下‥?」

思わず繰り返した私に、室長は呆れたような笑みを浮かべた。

難波

おいおい、なんだよ‥

この間、長野でもちゃんと言ったぞ?

かわいい部下から手を離せってな

難波

その手を離してもらいましょうか、山田さん

あいにく、そいつは俺のかわいい部下なもんでね

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サトコ

「あれは‥山田さんを前にした物の弾みのようなものかと‥」

難波

物の弾みであんなこと言うか

もしもあのまま突っ走って、お前が死んだりしたら

俺はこの先ずっと目覚めの悪い思いを抱えて生きていくとこだった

そんな気持ちで生きてくくらいなら、いっそのこと自分が死んだ方がマシ‥

きっと、小澤さんも同じことを思ったんだろうな

お前の無謀さのお陰で、少し気持ちが軽くなった気がするよ

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サトコ

「室長‥」

(よかった‥こんな私でも、少しは室長の役に立てたみたいで‥)

ホッとして微笑みながら室長を見上げると、こそには思いがけず真剣な表情が待っていた。

サトコ

「室長‥?」

難波

‥‥‥

‥この間の‥話だけどな

サトコ

「‥この間?」

(それって、もしかして‥)

サトコ

『もう抱え込まないでください』

難波

‥‥

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サトコ

『室長のために‥私にできることは、何でもしますから』

難波

‥‥

サトコ

『私‥室長のこと‥』

難波

氷川

サトコ

『?』

難波

それ以上は言うな

中途半端な告白を思い出し、一瞬で頬が赤らんだ。

俯いた私の首筋に、自信なさげな声が落ちてくる。

難波

おじさん重いけど‥平気?」

サトコ

「え‥?」

戸惑いのうちに抱きしめられた。

サトコ

「!」

難波

もう、ただの部下だと思わなくてもいいか?

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サトコ

「室長‥?」

(こ、これは‥!もしや告白!?)

サトコ

「う、嬉しい‥ですけど‥」

舞い上がりそうになる私の頬に、何か冷たいものが触れた。

(あ‥そうだった‥)

サトコ

「ゆ、指輪!」

難波

ん?指輪がどうした?

サトコ

「‥確か、外せないんだって」

難波

ああ~これな‥

室長はしみじみと左手の薬指に光る指輪を見つめた。

難波

今すぐ外すわけには‥

でもいつかきっと外す。きっと外れる

サトコ

「そ、それってつまり、奥さんのことをまだ引きずってるってことですよね?」

難波

いや

(ん?)

サトコ

「それじゃ、亡くなった奥さんの形見、とか‥?」

戸惑いを隠せない私の様子に、室長は満更でもなく嬉しそうだ。

難波

おいおい、勝手に殺すなよ~

もう随分と連絡取ってないけど、死んじゃいないだろ

元気にやってると思うぞ、たぶん

サトコ

「じゃ、じゃあ、何で‥?」

難波

離婚の原因か?それはただ、愛想を尽かされただけっていうか‥

サトコ

「そうじゃなくて、私が聞きたいのは指輪をしている理由です」

「未練があるわけでも死に別れたわけでもないなら、何でまだ指輪をしてるんですか?」

難波

ああ、それね‥言わなかったか?

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私は黙って首を横に振った。

難波

これはな、外したくても外せねえんだ

室長はグイグイと指輪を引っ張りながら、少し切ない表情になった。

難波

そんなに太ったつもりはないんだけどなあ‥

サトコ

「え‥じゃあ‥」

(もしかして、太ったから外れないってだけ‥!?)

サトコ

「そ、そんな‥」

(私、今まで散々悩んだんだよ?)

(それなのに、理由はそんなことだったなんて!!)

難波

ん?どうした?

サトコ

「‥返してください」

難波

んん?何をだ?

サトコ

「その指輪のために、これまで悩んだり胸を痛めたりした貴重な時間をです」

難波

まあ、怒るなって

Happy  End

Good  End

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