カテゴリー

サバゲー 難波 1話

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-001

(あれ‥?今、室長の声がした気がしたんだけど)

辺りを見回したけど、室長の姿はどこにもない。

(気のせい‥?幻聴?)

(って私、幻聴が聞こえるほど室長のことが好きってこと‥!?)

サトコ

「うわあ‥自分で自分が恥ずかしい‥」

「あれ?でもそういえば、室長、まだ見てないな‥」

(後藤教官と加賀教官が『来てませんね』『どうせ来ねぇ』みたいな話をしてるのは聞いたけど)

(室長のことだし、今日のこの訓練のことすら忘れてる可能性も‥)

その時、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえて来た。

振り返ると、鳴子が銃を持って突撃してくる!

鳴子

「サトコ、ごめん!」

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-002

サトコ

「な、鳴子!?」

(まさか、私を狙って‥!?)

咄嗟に、近くの大きな木の幹に隠れる。

鳴子のペアの相手は、どうやら黒澤さんらしい。

黒澤

サトコさん、逃がしませんよ~

サトコ

「ひぃっ!?」

目の前をBB弾がかすめて、慌てて首を引っ込める。

なかなか狙いを定められない鳴子とは裏腹に、黒澤さんは確実に私を撃ってきた。

(さすが、射撃の命中率は確かだな‥)

(いま出て行ったら、確実に黒澤さんに撃たれる‥)

かと言って、このままここにいれば間違いなく黒澤さんの的になるだろう。

(こっちからも、打って出るしかない‥)

持っていた銃を握り直し、深呼吸する。

(室長に教わったことを思い出して‥)

鳴子がこちらに距離を詰めてきたのを見て、すかさず木の幹から顔を出す。

引き金を引くと、BB弾は鳴子の肩辺りについて四方に飛び散った。

鳴子

「あーっ」

サトコ

「や、やったー!」

黒澤

ええ!?えええ!?

私たちの声を聞いた黒澤さんが、驚いたように走ってくる。

そして、肩にペンキが付着した鳴子を見てがっくりと膝を折った。

黒澤

これからが楽しいサバゲーだったのに~!

鳴子

「黒澤さん、すみません。油断しました」

サトコ

「って、鳴子‥痛くなかった!?」

鳴子

「全然平気。痛みなんて全然感じなかったよ」

鳴子に駆け寄ると、思わず項垂れた。

サトコ

「ごめん‥友だちなのに、思わず撃っちゃって‥」

鳴子

「なに謝ってんの!」

「私も撃ちに行ったし、そもそも訓練なんだからいいってば」

黒澤

くっ‥優勝のお宝、欲しかったのに‥

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-004

(はあ、とりあえずなんとかなった‥)

(まだペアは見つかってないけど、この調子で頑張ろう!)

ぐっと拳を握って気合を入れた、その時‥

東雲

うわ‥張り切ってて、うざ‥

サトコ

「!?」

東雲

そんなに隙だらけだと、すぐリタイアになるだろうね

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-005

いつの間にか、東雲教官が背後に立っている。

でもよく見ると、服に少しだけペンキがついていた。

鳴子

「東雲教官もリタイアですか?」

サトコ

「東雲教官が、こんなに早く‥!?」

黒澤

歩さーん!仲間ですね!

東雲

違うから

抱きつこうとした黒澤さんを心底嫌そうにかわすと、東雲教官が舌打ちした。

東雲

さっき、どっかの誰かさんが撃ったBB弾が

佐々木さんに命中した後、こっちにまで飛んできただけ

(それって、もしかしなくても‥私が撃ったヤツ!?)

サトコ

「あ、あの‥それは本当に、すみませんでし‥」

東雲

だから、命中してるとは言えないよね

まあ、あれで『やったー』とか言ってバカみたいに喜べるとか、相当レベル低いけど

サトコ

「うぐっ‥」

(でも、私にとってはすごいことだったのに‥!)

東雲

あれじゃ、現場に出たら、うまく誘い出されたところを後ろから撃たれて即死だね

サトコ

「即死‥」

東雲

撃った後も警戒するわけでもなく、完全無防備だったし

サトコ

「ううう‥」

(確かにその通りだ‥相手に命中しても、周りに敵がいなくなるまで隠れているのが鉄則だよね‥)

東雲

はあ、ペンキが髪につかなくてよかった

もしついてたら、いびるどころの騒ぎじゃなかっただろうから

東雲教官が、自分の髪を気にしながら不吉な笑みを浮かべる。

それを見てゾッとする私に、鳴子が耳打ちしてきた。

鳴子

「意外だね。東雲教官、あのキノコヘアーをあんなに大事にしてるなんて」

サトコ

「な、鳴子!しーっ」

黒澤

ところで、歩さんのペアってどこにいるんですか?

東雲

とりあえず10人狩って来いって言ってあるから

それを達成するまで戻ってこないんじゃない?

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-007

(狩る‥東雲教官、今普通に『狩って来い』って言ったよね‥)

鳴子

「ねえサトコ‥もしその目標を達成できずにリタイアしたら、どうなると思う?」

サトコ

「わからない‥けど、東雲教官のことだから聞くもおぞましいペナルティが‥」

しかも東雲教官は、ペアの訓練生に指示を出した後、自分はその辺でサボっていたらしい。

(まあ、東雲教官がこんな訓練をちゃんとやるはずないけど‥)

東雲

ねえ

サトコ

「ぎゃあ!」

東雲

まだ何もしてないんだけど。色気ゼロの声出さないでくれる?

キミ、こんなとこにいていいの?ペアなら、たぶん河原にいると思うけど

サトコ

「えっ、私のですか?」

(よかった‥もしかして私だけペアがいないのかと思った‥)

サトコ

「じゃあ私、河原に行ってみます!」

黒澤

オレたちの分も頑張ってくださいね~

鳴子

「サトコ、狙うは優勝だよ!」

サトコ

「う、うん。頑張ってみるね」

みんなに別れを告げると、周りを気にしながら河原を目指した。

【河原】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-008

河原にやってくると、そこには誰の姿もなかった。

(いや‥分かってた。だって教えてくれたのは東雲教官だったから)

(わかってたよ‥たぶん、騙されてるだろうなってことは‥)

その時、突然後ろから肩を叩かれて、思わず飛びあがった。

サトコ

「ひぇっ!?」

難波

なんだ、サトコじゃねぇか

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-009

サトコ

「しっ、室長!?なんでここに」

難波

お前こそ、何やってんだ?

サトコ

「私は、同じ “0番” の人を探しに‥」

難波

おお、そうか

ぽんぽん、と頭を撫でられて、“0番” の紙を見せられる。

難波

なら、俺だ。よくここが分かったな

サトコ

「えっ!?室長が私のペア!?」

(ら、ラッキー!室長と一緒なんて、嬉しすぎる!)

サトコ

「それにしても、探しましたよ。誰も同じ番号がいないから」

「なんでみんなと同じスタート地点にいなかったんですか?」

難波

あんまり人数が多いところにいても、ゆっくりできねぇからな

ホッと体の力が抜ける私の髪を、室長はまだ撫で回している。

<選択してください>

A: また子ども扱いですか

サトコ

「もう‥また子ども扱いですか?」

難波

お前の頭は、撫でやすくていいな

位置も、髪の柔らかさもちょうどいい

(これ、褒められてるのかな‥)

(でも室長に撫でられるのは気持ちいいから、黙って撫でられていよう)

B: ここで何してるんですか

サトコ

「ところで、ここで何してたんですか?みんな探してましたよ」

難波

サバイバルって言えば、河原だろ?

ペアの奴が来るのを待てたのに、いつまで経ってもお前が来ないから

サトコ

「誰がペアなのか、わからなかったんですよ‥」

C: 黒澤さんを倒してきました

サトコ

「聞いてください!黒澤さんを倒してきました!」

難波

なんだって?

サトコ

「正確には、そのペアの鳴子を倒したんですけど」

「でもペアの人が倒れると、ふたりともゲームオーバーなんですよ」

難波

そうか、黒澤が‥

惜しい奴をなくしたな

(室長‥全然『惜しい』って思ってないよね)

難波

まあ俺は、誰か来るのを待ってるうちに眠くなって、向こうでちょっと昼寝してたんだけどな

サトコ

「昼寝!?よく狙われませんでしたね」

難波

狙われる?

なんだかよくわからんが、お前がペアなら、もっとかっこいいところ見せればよかったな

本気なのか冗談なのかわからないようなことを言いながら、室長が私から手を離す。

難波

ま、ここで待ってて逆に良かったか

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-011

サトコ

「‥‥‥」

(それって‥私と二人きりになれたから‥とか‥?)

淡い期待を抱きながら室長を見上げると、室長からウインクが飛んできた。

(室長、たまにこういうこと言うからずるいよ‥)

(たまには東雲教官の言うことも当たるもんだな)

サトコ

「そういえば室長、ここにいる間、誰からも狙われなかったんですか?」

難波

さっきもそんなこと言ってたけど、何の話だ?

サトコ

「え?もちろん、サバゲーの‥」

言いかけた時、ヒュッと微かな風と共に、私の目の前を何かが掠めて行った。

咄嗟に一歩後ずさったが、室長はまったく気にしていない。

難波

なんだぁ?

サトコ

「室長!向こうです!」

振り返ると、岩山の向こうから二人組の男子訓練生が銃でこちらを狙っていた。

難波

お前ら、どうしたんだ?そんな物騒なもん向けて

男子訓練生A

「え!?い、いやぁ‥あの‥」

(室長、様子がおかしい‥もしかして、訓練のこと知らないの?)

(もしそうだとしたら、この場で反撃できるのは、私だけだ!)

サトコ

「室長、こっちです!」

室長の腕を引っ張って、近くの草むらに身を隠す。

撃ち返した私の銃弾は、さっきの訓練生の一人に命中した。

難波

おい、なんだなんだ?なんでお前がドンパチやってんだ?

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-012

サトコ

「なんでって‥サバゲーの訓練に、室長も入ってるんですよね?」

難波

サバゲー?ああ、そういや黒澤から渡されたっけな

室長が懐から取り出したのは、私と同じ銃だった。

サトコ

「それに入ってるのは、BB弾っていうペンキの弾です」

「それが相手のどちらかに当たれば、私たちの勝ちです」

難波

なるほどな。とりあえず分かった

銃声を聞きつけたのか、近くにいたらしい訓練生たちが集まってきた。

室長もようやくサバゲーを理解したのか、ほんの少し、表情が変わる。

(仕事モード‥とまではいかないけど、とりあえずこの周りにいる訓練生を全員倒すつもりだ)

(私はどう動けばいい?室長の邪魔にならないようにするには)

難波

おい、そんなに離れてたら向こうから見えちまうだろ

少し離れたところにいた私の肩を抱き寄せて、室長がさらに草むらに身を沈める。

サトコ

「っ‥‥‥」

難波

しっ

サトコ

「は、はい‥!」

室長の腕が身体に絡みついて、心臓の音が聞こえてしまいそうだ。

でも室長は涼しい顔で、辺りを見回している。

難波

結構いるな‥

サトコ

「そ、そうですかっ‥!?」

難波

ああ‥だが、このまま隠れてても埒が明かねぇ

室長の言葉に、小さく頷いた。

サトコ

「そうですね‥ここにいても、そのうち追い詰められると思います」

難波

仕方ねぇ、やるか

(さっきは、咄嗟に撃ったのがうまく当たってくれたけど‥今度はそんなにうまくいくかどうか)

草むらの中で銃を握りしめる私に、室長が顔を寄せる。

難波

お前なら、できる

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-013

サトコ

「!」

難波

自分を信じろ

囁くような声に、なおさら心臓が早鐘を打つ。

(でも‥今の言葉)

『お前ならできる』

以前、室長に言われた言葉だった。

(あの言葉のおかげで、勇気が出た‥)

(今日だって、室長の足を引っ張りたくない)

室長と目配せして、頷き合う。

次の瞬間、室長と同時に、お互いに逆方向へと飛び出した!

訓練生B

「何!?」

難波

お前らじゃ、ちょーっと物足りんな

サトコ

「室長、そっちにもいます!」

難波

おっと

室長が、確実な射撃で訓練生たちに次々にBB弾を食らわせていく。

私も室長ほどではなかったけど、何発かが数人に命中した。

訓練生C

「う、嘘だろ‥なんだよ、今の速さ」

訓練生D

「室長、すげぇ‥目にもとまらぬ速さってああいうことを言うんだな」

訓練生E

「氷川だって、すげー速かっただろ‥さすが、俺たちよりも場数踏んでるだけあるよな」

どうやら、近くにいる訓練生たちは全員リタイアに追い込んだらしい。

ペンキをつけたまま、みんなすごすごと山を下りて行った。

難波

はっはっはっ、おっさんだって本気出せばこんなもんだ

<選択してください>

A: 全然本気じゃないですよね

サトコ

「そんな‥室長にとっては、あんなの全然本気じゃないですよね?」

難波

まあ、こんなお遊びで本気出すのもな

一応訓練も兼ねてるっていうから、負けない程度にやっといたが

(やっぱり‥現場の室長は、こんなもんじゃないもんね)

B: やっぱり室長はすごい

サトコ

「やっぱり、室長はすごいです!」

難波

そんなに褒めても、何も出ないぞ?

サトコ

「本心です!あっという間にあの辺にいた訓練生を倒して」

「その上、向こう側にいた人たちにも命中させましたよね!」

難波

お前もよく見てたなあ

C: かっこよかったです

サトコ

「ふふ‥すごくかっこよかったですよ」

難波

おいおい、大人をからかうなよ

でも、相手は訓練生だし、何より訓練だしな‥本気出せっていうのは無理な話だよな

(きっとあれって、10分の1も本気出してないんだろうな)

(また室長が射撃してるところが見れて、幸せかも‥)

(見惚れちゃって、自分の射撃が遅れそうになったくらい‥)

難波

ん?

さっきの室長の姿を思い出していると、ひょいっと顔を覗き込まれた。

サトコ

「!!!」

難波

見惚れたか?

サトコ

「ちっ、違います‥!」

(図星だけど‥!)

照れる私を置いて、室長が山の方へ向かって歩き出した。

ついて行くと、川のせせらぎが聞こえて来た。

サトコ

「あれ?もしかして、この先って‥」

【川】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-014

そこは、さっきの河原につながる川が流れていた。

サトコ

「きれいな水ですね」

難波

魚もいたからな。向こうの滝つぼの水なら飲めると思うぞ

大きな石の上に腰を下ろして、一休みする。

すると、ぐううぅぅ‥という音が山の静けさを切り裂いた。

サトコ

「‥‥‥」

難波

‥‥‥

お前か

サトコ

「すみません!」

(訓練中だし、終わるまで我慢しようと思ったのに‥!)

難波

俺の前でくらい、素直になれ

サトコ

「え?」

難波

そうと決まれば、獲物を捕まえなきゃな

(獲物‥?)

不思議に思う私の目の前で、室長がズボンの裾と腕をまくる。

そして、そのままバシャバシャと川の中に入っていった。

サトコ

「し、室長!?何してるんですか!?」

難波

腹減ってんだろ?ちょっと待ってろ

(待ってろって‥まさか!)

驚く私の目の前で、室長は素手で魚を捕り始めた!

(えええ!?そんな無茶な!)

to  be  continued

‥鳴子‥同じチームじゃなかったっけ‥‥?

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする