颯馬
「そのままじっとしていてください」
(そ、颯馬さん!?)
引きずり込まれた茂みの裏で、グッと抱きしめられた。
颯馬
「近くに後藤がいます。息を潜めて」
耳元で囁くように言われ、ドキドキと鼓動が高鳴る。
ぴったりと密着した身体が、さらに私を動揺させる。
(どうしよう、敵に気づかれそうなくらいバクバクしちゃってる‥)
自分の鼓動がうるさいくらいに響き、必死に抑えようとする。
後藤
「いいか、虫一匹の動きも見逃すな」
訓練生を連れた後藤教官が、すぐそばを通り過ぎていく。
(どうか気づかれませんように‥)
ギュッと目を瞑り、草を踏みつける足音が遠ざかるのを待った。
颯馬
「行ったようですね」
サトコ
「ふぅ‥」
颯馬
「安心するのは早いですよ?訓練は始まったばかりです」
サトコ
「‥そうですよね」
抱きすくめられていた腕から解放され、私は身を引き締め直す。
颯馬
「二人で力を合わせて頑張りましょう」
サトコ
「二人で‥」
(もしかして‥颯馬さんが私のバディ!?)
颯馬
「私たちは “★” で結ばれた二人です」
ふっと微笑むと、颯馬さんは、“★” が描かれた紙を見せてくれた。
颯馬
「やるからには勝ちましょう」
サトコ
「はい!」
颯馬
「ただ‥激しすぎる鼓動には気を付けて」
サトコ
「え‥?」
颯馬
「敵に聞こえてしまいそうでしたから」
(‥バレてたんだ!)
ニヤリと甘く微笑まれ、カーッと顔が熱くなったその時‥
颯馬
「伏せて!」
サトコ
「!?」
颯馬さんは声と同時に後ろを振り向き、いきなりエアガンを撃ち放った。
男子訓練生A
「うわっ!」
男子訓練生B
「やられた!!」
背後に潜んでいた訓練生のペアに、見事BB弾が命中する。
(すごい‥私にはあんな甘い顔を見せていたのに‥)
何気ない会話をしながらも、颯馬さんは敵の気配を察知していたらしい。
男子訓練生A
「やっぱ颯馬教官には隙がないな‥」
男子訓練生B
「狙った相手が悪かった‥」
ペンキだらけとなった二人が、トボトボと去っていく。
颯馬
「フッ、肩慣らしにはちょうど良かったですね」
ふわりと前髪を揺らして微笑むと、スッと真顔に戻る颯馬さん。
颯馬
「背後への注意も怠らないように」
サトコ
「‥はい!」
(足を引っ張らないよう、私も頑張らなきゃ!)
ようやく胸のドキドキもおさまり、私は意気込んだ。
颯馬
「ここは敵の目につきやすい。もっと奥へ行きましょう」
サトコ
「了解です!」
周囲を警戒しながら、颯馬さんと共に森の奥へと進んでいく。
その途中にも、次々に訓練生ペアの敵が現れる。
颯馬
「右前方敵あり!」
サトコ
「はいっ!」
颯馬さんの指示に素早く反応し、右手にいた敵を撃つ。
男子訓練生C
「ウッ」
(やった!)
颯馬
「木の上にも潜んでいます!」
サトコ
「え?うわっ‥!」
ダンッ!
見上げる間もなく、私の真横に敵の訓練生が落ちてきた。
男子訓練生D
「イタタタ‥」
腰をさする訓練生の身体には、ペンキのあとがべったり。
男子訓練生D
「颯馬教官には敵わないや‥」
ボヤくように言いながら、撃ち落とされた訓練生が去っていく。
颯馬
「大丈夫でしたか?」
ポカンとしている私の顔を、颯馬さんが覗き込む。
<選択してください>
サトコ 「すみませんでした。全然気付けなくて‥」 颯馬 「頭上にも要注意ですね」 サトコ 「まさか木の上に潜んでいるなんて‥」 颯馬 「敵ながらあっぱれです」
サトコ 「大丈夫です‥」 颯馬 「頭上も油断はできません」 サトコ 「木の上からも狙われるんですね‥」 颯馬 「死角はないと思った方がいいですね」
サトコ 「なんか‥ビックリしてしまって」 颯馬 「頭上から人が降ってきましたからね」 サトコ 「敵は前後左右だけじゃないんですね‥」 颯馬 「それがサバゲー訓練です」
颯馬
「おや?雨が降ってきたようですね」
サトコ
「え?あ、本当だ」
空を見上げると、ポツンと冷たい滴が頬に当たった。
颯馬
「ひどくならないといいのですが」
サトコ
「そうですね‥」
心配しつつ森を進んでいると、どこからか聞き覚えのある声が。
咄嗟に颯馬さんと茂みの中に身を沈める。
東雲
「4分30秒。敵二人に時間かかりすぎじゃない?」
千葉
「東雲教官‥早く終わらせるためにも、力を貸して頂けると‥」
(千葉さん、ほぼ一人で戦ってる‥東雲教官とペアは大変だろうな‥)
颯馬
「歩と千葉がペアか‥厄介ですね」
サトコ
「千葉さんがかなり振り回されてるようですが‥」
颯馬
「いや、ああ見えて歩は、頭をフル回転させて作戦を練ってるはずです」
(‥そうなのかな?)
と、彼らの傍に、石神教官と訓練生のペアが近づいていくのが見えた。
颯馬
「やはり教官ペアは生き残っているようですね」
サトコ
「そのようですね‥」
茂みから様子を窺っていると、千葉さんが石神ペアに気付いた。
千葉
「東雲教官!後ろに石神教官が!」
東雲
「うーん、任せる」
千葉
「ええっ!?」
怠そうな態度の東雲教官に翻弄されながら、千葉さんが必死に戦っている。
(頑張れ千葉さん‥!)
石神
「フッ、東雲の機嫌取りで精いっぱいのようだな」
銃を乱射する千葉さんに、石神教官は余裕の笑みを返している。
颯馬
「あのまま潰し合ってくれるといいんですけどね、あの人たち」
サトコ
「え‥」
颯馬さんはニヤリと黒い微笑みを浮かべた。
(や、やっぱり颯馬さんは敵に回したくない‥!)
颯馬
「ここは‥参戦して無駄に体力を使うより、雨宿り場の確保が先決でしょう」
サトコ
「‥そうですね。雨はどんどん強くなってますし」
体力温存のためにも、その場を離れることに。
颯馬
「ルートを変えましょう」
戦闘中の彼らに気付かれないよう、進行方向を変えて歩き出す。
雨はさらに強まり、先ほどの銃撃戦の音も次第に遠くなる。
(雨のせいで視界も悪くなってきたな‥)
そう思った矢先‥
サトコ
「あっ‥!」
雨でぬかるんだ地面に足を取られた。
あわや転倒という瞬間、サッと颯馬さんが支えてくれる。
颯馬
「抱えてあげましょうか?」
サトコ
「い、いえ‥大丈夫です‥」
まるでダンスでもしているような体勢で微笑まれ、思わず照れて俯いた。
颯馬
「‥急ぎましょう」
私から手を離し、警戒を強めるように言う颯馬さん。
さらに森の奥へと進んでいった。
東雲
「‥‥」
颯馬
「雨宿りできる所で作戦会議をしましょう」
サトコ
「はい」
良い場所を探しつつ歩いていたその時‥
後藤
「周さん、会ってしまいましたね‥」
サトコ
「後藤教官!」
訓練生とペアを組む後藤教官が、大木の陰から現れた。
颯馬
「そろそろ遭遇する頃かと思ってましたよ」
後藤
「今日は負けませんよ」
颯馬
「もちろん、こちらもそのつもりです」
後藤
「‥‥‥」
颯馬
「‥‥‥」
一瞬の睨み合いのあと、二人の教官が同時に森の中を走り出す。
お互いが放つ銃弾をしなかやにかわしながら。
(なんか‥すごい迫力‥)
両者の俊敏かつ無駄のない動きに、思わず見惚れてしまう。
雨に煙る森の中は、まるで2匹の猛獣が格闘しているかのような緊迫感に包まれる。
後藤教官のバディである訓練生も、息を呑んだまま立ち尽くしている。
(見惚れてる場合じゃない‥私も負けてられない‥!)
立ち尽くす男子訓練生に、銃の照準を合わせる。
が、その動きに相手も気付いた。
男子訓練生E
「撃たれてたまるか!」
サトコ
「こっちこそ!」
訓練生同士、一対一の戦いが始まった。
教官たちのような俊敏な動きは取れずとも、必死に相手を狙って銃を撃ち放つ。
だが、なかなか命中しない。
(ダメだ、雨で視界はぼやけるし、足元も不安定だし!)
お互いに何度も転びながら、泥だらけになって戦う。
颯馬さんと後藤教官の戦いも、壮絶な銃撃戦となって続いている。
(ペアのうちどちらかが撃たれたら終わり‥)
私が撃たれたら、その時点で颯馬さんも負けということになる。
(絶対に撃たれるわけにはいかない‥この戦いの決着は、私がつける!)
木の陰から飛び出した私は、瞬時に銃を撃ち放った。
男子訓練生E
「うわっ!!」
サトコ
「やった!」
ようやく仕留めることができ、安堵の息をつこうとした時だった‥
ガサッ‥
サトコ
「!?」
草むらが揺れる音がして振り向くと、そこには思いも寄らぬ人物の姿が‥
鳴子
「サトコ‥」
難波
「よぉ、奇遇だな」
サトコ
「鳴子!室長!?」
一瞬ホッとしかけるものの、すぐに銃を構える。
(相手は誰だろうと颯馬さん以外は敵だ!)
鳴子めがけて撃とうとした瞬間、足元が滑った。
サトコ
「わっ‥!」
鳴子の銃が、私を捉えた。
(もうダメだ、撃たれる!!)
思わず視線を逸らした瞬間‥
颯馬
「氷川!」
バスッ!
鳴子
「あっ」
遠くから響く颯馬さんの声の直後、鈍い音と共に鳴子が小さな悲鳴を漏らした。
視線を戻すと、銃を持つ鳴子の手がペンキに染められている。
鳴子
「ふふ、颯馬教官にやられちゃった‥♪」
(な、鳴子‥撃たれたのに嬉しそう?)
鳴子
「不意打ちしちゃってごめんね。サトコ」
「でもやっぱさすがサトコだよ、反応が早いね」
鳴子は、転んだ私に笑顔で手を差し伸べてくれる。
サトコ
「鳴子、ありがとう‥」
(あ、あれ?)
鳴子の手を取り、立ち上がろうとするが上手く立てない。
鳴子
「サトコ?大丈夫!?」
颯馬
「!!」
鳴子の声を聞きつけ、颯馬さんが遠くから駆け寄ってきた。
その後ろから、室長も心配そうに顔を出す。
難波
「どうした?」
サトコ
「大丈夫です‥イタタタ‥」
立とうとすると、足首に鈍い痛みが走る。
颯馬
「足をくじいているようですね‥」
難波
「これじゃ続行は無理じゃねぇか?」
颯馬
「そうですね‥リタイアしましょうか」
(そんな‥ここまで頑張ってきたのに‥)
(というより、私はまだ何もできていない‥颯馬さんに迷惑をかけてばかりだ‥)
そんな自分が情けなくなる。
『やるからには勝ちましょう』
そう言ってくれた颯馬さんの微笑みを思い出す。
(ここで諦めるなんて‥嫌だ‥)
サトコ
「‥まだリタイアしたくないです!」
颯馬
「しかし‥」
<選択してください>
サトコ 「私、負けたくないです!敵にも、自分にも」 颯馬 「‥そうですか」
サトコ 「お願いです、戦わせてください!」 颯馬 「‥まだまだやる気満々のようですね」
サトコ 「私は‥這ってでも続けます!」 颯馬 「それはさすがに‥」
サトコ
「ちょっとひねっただけです。テーピングしたら歩けます!」
颯馬
「‥フッ、貴女らしい」
真剣に訴える私に、颯馬さんは優しく目を細めた。
が、再び敵の近付く音が!
難波
「ま、ほどほどにな」
鳴子
「サトコ、頑張って!」
サトコ
「う、うん‥」
(でもどうしよう、まだテーピングもしてないのに‥!)
颯馬
「言ったからにはやり遂げてもらいますよ?」
サトコ
「え‥わっ!」
颯馬さんは軽々と私を抱き上げると、そのまま森の中を駆けだした。
(こ、こんな状態でどこへ行くの!?)
to be continued