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サバゲー 東雲 2話


「教官の手足になって、教官を最後まで守る」

そう宣言した私に対して、教官はあからさまなくらいため息をついた。

東雲

必要ない

キミに守られるとか、ありえないし‥

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サトコ

「大丈夫です。これからは囮だけでは終わらせません」

「ちゃんと銃撃にも参加します」

「ていうか銃撃はすべて私が引き受けます!」

「だから、前線は私に任せて教官はバックアップに徹してください!」

東雲

‥本気?

サトコ

「もちろんです!」

東雲

‥わかった。キミに任せる

(やったぁ!)

東雲

そのかわり、指示には必ず従って

オレの言うことは絶対

いい?

サトコ

「了解です!」

(よーし、頑張って最後まで教官を守り抜いて‥)

(絶対に優勝するぞー!)

東雲

‥‥‥

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サバイバルゲームが始まって3時間‥

相手チームのペア生存率はすでに30%を切っていた。

そんな中‥

東雲

10時の方角に1人

サトコ

「はいっ」

パァンッ!

(よし、当たった!)

東雲

次、2時の方角

サトコ

「了解!」

パァンッ!

(くっ‥もう1発!)

パァンッ!パァンッ!

サトコ

「‥2組目仕留めました!」

東雲

了解、次は‥

男子訓練生A

「いたぞ、氷川だ!」

(しまった‥!)

サトコ

「教官、4時の方角から敵が‥」

東雲

そのまま前進

サトコ

「えっ、でも‥」

男子訓練生A

「うわあっ!」

(えっ、悲鳴?)

男子訓練生B

「バカ、なんで落とし穴に‥」

(‥よかった、助かった!)

サトコ

「教官、4時の敵は落とし穴に落ちた模様」

東雲

わかってる。想定内

次、東に進んで

(すごい‥今のところかなり順調だよね)

(このままいけば、本当に優勝できそう‥)

東雲

バカ、方角が違う!

サトコ

「えっ」

東雲

逆!東!

サトコ

「はっ、はい‥」

慌てて戻ろうとしたそのとき、足がズボッと地面に沈んだ。

(しまった、落とし穴‥っ)

サトコ

「きゃあっ」

東雲

ちょっと!何やって‥


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ドスン!

(うっ‥)

サトコ

「痛たた‥」

(やられた‥)

(トラップには気を付けていたはずだったのに‥)

サトコ

「‥っ!」

(誰かの足音‥)

(しかもこっちに近付いてきてる!?)

(マズい、敵ならこれで終わっちゃうよ)

私は、慌てて外れかけていたイヤモニを装着し直した。

サトコ

「教官、聞こえますか?」

「教官‥っ」

東雲

聞こえてる

(えっ、今の声‥)

東雲

こっち、真上

(教官‥っ!)

東雲

バカ

ありえないバカ

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サトコ

「すみません!つい油断して‥」

東雲

うるさい。声大きすぎ

教官はうんざりした様子で、穴の上から手を差し出してきた。

東雲

ほら

サトコ

「??」

東雲

‥なに?自力で出られるの?

サトコ

「い、いえっ」

急いで足場になりそうな穴を探して、左足をかける。

それから、差し出された手を掴むと、グイッと力強く引き上げられた。

サトコ

「はぁ‥っ‥」

(良かった‥脱出できた‥)

サトコ

「すみません。助かりました」

「次からは気を付けます‥」

東雲

本当にね

ま、これも想定内だけど

(うう、そんな‥)

東雲

ていうか怠いんだけど。右腕

筋肉痛になったらキミのせいだね

サトコ

「す、すみません‥」

<選択してください>

A: もっと痩せます

サトコ

「もっと痩せます」

東雲

だったら、まずは夜食を控えれば

サトコ

「うっ‥」

(な、なんでバレてるんだろう)

(確かに昨日も、寝る前にプリンと大福と餃子を食べちゃったけど‥)

B: 後でマッサージします

サトコ

「後でマッサージしますんで!」

東雲

え、無理

キミ、ヘンなとこ触りそうだし

(な‥っ)

サトコ

「何言ってるんですか!触りませんよ!」

東雲

どうだか‥

サトコ

「触りませんってば!本当に信じて‥」

C: でも王子様みたいでした

サトコ

「でも、王子様みたいでした」

東雲

‥‥‥‥‥は?

サトコ

「落とし穴の上から、教官が手を差し出してくれたとき‥」

「なんだかお姫様を助けに来てくれた王子様みたいだなぁって‥」

東雲

キモ

図々しすぎ

キミが『お姫様』とか‥

サトコ

「いいじゃないですか、少しくらい夢見ても!」

「だいたい『王子様』と『お姫様』はワンセットで‥」

ピピッ!

(ん?)

サトコ

「なんですか、今の音‥」

東雲

例のアプリの警告音

‥へぇ、相手チームは残り4‥

いや3組か

(あと3組‥)

(全ペアを倒せば、確実に私たちパーチームが勝利できる)

(その上でお宝が見つかったら、『優勝』だって‥)

東雲

準備は?

サトコ

「オッケーです」

「もう二度と油断しません」

東雲

そう。それじゃあ‥

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サトコ

「はぁ‥はぁ‥」

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(見えてきた‥)

(あそこが目的地だ‥!)

サトコ

「教官、もうすぐ着きます」

東雲

岩場は?

サトコ

「あります」

東雲

まずはそこで待機

着いたらもう一度連絡入れて

サトコ

「了解」

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指示通り岩場を盾に隠れると、すぐにイヤモニに手を伸ばした。

サトコ

「教官、着きました」

東雲

まずは‥時‥

サトコ

「えっ?」

東雲

10‥に‥して‥

(‥なにこれ、急に音声が‥)

サトコ

「すみません、教官。音声が届いてません」

東雲

‥から‥10時‥

サトコ

「もしもし、教官?もしもし‥」

プツッ‥

(うそ、切れた!?)

サトコ

「もしもし?もしもし!?」

(‥ダメだ、繋がってない)

(なんでこんなタイミングで‥)

サトコ

「‥ダメダメ」

(落ち着け‥こんなときこそ、落ち着かないと‥)

(まず、さっき『10時』って聞こえたよね)

(つまり、10時の方角に何かあるってこと‥)

(敵がいるか、それともトラップが‥)

ガサガサガサッ!

(いた‥っ!)

男子訓練生C

「うわあ‥っ」

パァンッパァンッ!

パァンッ!

(ちょ‥乱射しすぎ‥っ!)

ペイント弾の雨をなんとかやり過ごしながら、私は一瞬の隙を待つ。

(まだダメ‥まだ後‥)

(もう少し‥)

男子訓練生C

「あ‥っ」

(よろめいた!今だ‥っ)

パァンッ!

男子訓練生C

「うわっ」

(ダメだ、外れた‥!)

急いで再び岩場に身を隠す。

鳴り続ける心臓は、まさに早鐘のようだ。

(どうする、移動する?)

(それともここで待機を‥)

男子訓練生C

「‥氷川、もしかして1人か?」

(えっ?)

男子訓練生C

「俺‥まだパートナーが見つかってなくて‥」

「もしかして、お前がそうなのか?」

どくんっ、と心臓が大きく鳴る。

たぶん、彼は千葉さんのパートナーだ。

(でも、私のことを自分のパートナーだと思い込んでいる‥)

(だとしたら、これってチャンスかも‥)

私は、銃を持つ手をダラリと下げて、あえてゆっくりと立ち上がった。

サトコ

「良かった‥」

「私もずっと1人のままだったんだ‥」

男子訓練生C

「やっぱり‥俺、クジは7番だったんだけど」

サトコ

「ほんと?私も7‥」

千葉

「違う、騙されるな!」

(しまった!本人‥っ)

千葉

「氷川のペアは東雲教官だ!」

男子訓練生C

「えっ、じゃあ‥」

千葉さんの銃口が、私に向けられた。

私も慌てて構えたものの、どうしても1テンポ遅くなってしまった!

(ダメだ、撃たれる‥)

パァンッ!

千葉

「うわっ」

千葉さんの足元が、一瞬でペイント弾に染まった。

(うそ、誰が‥)

東雲

はい、千葉アウト

(ええっ、教官!?)

東雲

千葉、番号は?

千葉

「‥7番です」

男子訓練生C

「じゃあ、お前が俺のパートナー‥?」

千葉

「うん、ごめん‥」

東雲

というわけでキミも失格

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男子訓練生C

「くそっ‥」

「せっかくここまで1人で生き延びてきたのに!」

悔しがる千葉さんたちに背を向けて、教官は私の元へやってきた。

東雲

命拾いしたね

サトコ

「はい‥」

(教官‥すごい汗‥)

(髪の毛も、汗でぐっしょり濡れて‥)

サトコ

「あの‥ありがとうございます」

「急いで駆け付けてきてくれて‥」

東雲

‥べつに

仕方ないじゃん。急にイヤモニが繋がらなくなっちゃったんだから

オレの知らないところでリタイアされてもね

(教官‥)

東雲

それより移動

あと2組だから早くして

サトコ

「はいっ」

先に歩き出した教官を、私は急いで追いかける。

(なんか私、ダメダメだな)

(『教官は私が守ります』って宣言したくせに、全然できなくて‥)

(むしろ守られてばかりで‥)

そのときだった。

視界の端に、失格になったはずの彼の姿が見えたのは。

男子訓練生C

「くそっ‥」

(えっ、なんで銃口を向けて‥)

男子訓練生C

「あと少しだったのに‥っ」

サトコ

「!!」

「教官、危ない‥っ!」

パァァァンッ!

【風呂】

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1時間後‥

負けたパーチームは、罰として全員宿泊所の掃除をすることになった。

おまけに‥

千葉

「取れそうか?そのペイント弾‥」

サトコ

「大丈夫だよ。シャンプーすれば落ちるって話だし」

そう、あの時‥

サトコ

「教官、危ない‥っ」

ビシャッ!

サトコ

「ぎゃっ!」

東雲

ちょ‥

キミ、何やって‥

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サトコ

「はは‥見事くらっちゃいました‥」

「でも‥」

(教官のこと‥)

(ちゃんと守れた‥よね‥?)

ドサッ‥

東雲

‥バカ、目を覚ませ

サトコ

「‥‥‥」

東雲

「ペイント弾だから。本物じゃないから」

サトコ

「‥‥‥」

東雲

氷川さん!

氷川さん‥っ

【風呂】

千葉

「‥ほんと驚いたよ」

「まさかペイント弾で気絶するなんて」

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サトコ

「だよね‥」

「でも、あれ‥あたると意外と衝撃が強くて‥」

千葉

「そっか‥氷川の場合、頭に食らったんだもんな」

「ていうか、ごめん」

「俺がアイツを止められれば、こんなことにはならなかったんだよな」

サトコ

「そんなことないよ」

「むしろ、千葉さんこそ災難だったね」

「せっかくグーチームは勝ったのに掃除させられるなんて‥」

千葉

「仕方ないよ。連帯責任ってヤツ」

「ちなみに、違反したアイツは今晩加賀教官の部屋で1泊させられるらしいよ」

サトコ

「そ、そうなんだ‥」

(怖っ‥)

(絶対一睡もできなさそう‥)

千葉

「それにしても、東雲教官にはまんまと騙されたよなぁ」

「てっきり射撃は苦手なのかなと思ってたのに‥」

サトコ

「分かる!」

「最初の千葉さんとの打ち合いの時、思い切り外してたよね?」

千葉

「だろ?だから安心してたんだけど‥」

「今思えば、あれも作戦だったのかもな」

「わざと外して、俺を油断させてたっていうか」

サトコ

「‥そ、そうかな」

(むしろ最後に当てたのが偶然な気もするけど‥)

(とはいえ教官だし、射撃が苦手ってことはないのかなぁ。うーん‥)

いろいろ考え込んでいると、バイブ音が聞こえて来た。

鳴っているのは私のではなく千葉さんのスマホだ。

千葉

「うわ、颯馬教官だ!」

「はい。お疲れ様です」

「はい‥はい‥」

「えっ、今からですか?でも‥」

「‥わ、分かりました。すぐ行きます」

「氷川、ごめん。颯馬教官がすぐに来てくれって」

「後は任せてもいいか?」

サトコ

「もちろん。ここ、流しちゃえば終わりだし」

千葉

「悪い。じゃあ、頼むな!」

サトコ

「さて‥と」

(それじゃ、パパッと片付けますか‥)

???

「‥何?まだ終わってないの」

(えっ‥)

東雲

まぁ、仕方ないか

千葉と仲良くお喋りしていたみたいだし

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<選択してください>

A: お喋りしてません

サトコ

「してませんよ、楽しそうにお喋りなんて」

東雲

どうだか

少なくても千葉は楽しそうだったけどね

サトコ

「千葉さんが?」

(そうだっけ?)

(‥別にいつも通りだった気がするけど‥)

東雲

‥鈍感すぎ

サトコ

「えっ、今なんて‥」

東雲

べつに、こっちの話

それより‥

B: ヤキモチですか?

サトコ

「あっ、もしかしてヤキモチですか?」

東雲

サトコ

「ヤ・キ・モ・チ・ですか?」

東雲

‥ウザ

2回も言う必要ないし

サトコ

「いいじゃないですか」

「大事なことはちゃんと確認しないと‥」

C: 教官こそ何してたんですか

サトコ

「教官こそ、今まで何してたんですか?」

東雲

見回りと片付け

それとお仕置き

サトコ

「お仕置き?」

東雲

罰ゲームをサボろうとしたヤツにね

精神的苦痛を与えてきたところ

サトコ

「は、はぁ‥」

(こ、これ以上は聞かない方がいいかも‥)

♪ピンポーン!

サトコ

「ん?LIDE‥」

「鳴子から写真だ‥」

(ええっ、室長と一緒?)

‥‥「ただ今、優勝お祝い中♪」

(そっか、鳴子と室長のペアが優勝したんだっけ)

(ていうか、このお店って‥)

サトコ

「キャバクラですよね、ここ‥」

「きれいなお姉さんたちも、たくさんいるし」

東雲

‥まぁ、室長だし

(でも、なんだか楽しそう‥)

(いいな、やっぱり‥)

サトコ

「優勝したかったなぁ」

東雲

え、本気?

サトコ

「本気ですよ!そのために今日は頑張って‥」

東雲

ペアを探すのに手間取る・マイナス5点

サトコ

「!」

東雲

携帯食を忘れる・マイナス20点

サトコ

「!!」

東雲

敵との雑談・マイナス30点

トラップに引っかかる・マイナス50点

(ううっ‥)

東雲

でも、一番のマイナス点は‥

オレを庇って撃たれたことだよね

(‥え?)

東雲

何考えてんの

あれが実戦なら、キミ、死んでたよ

サトコ

「で、でも私、教官を守るって‥」

東雲

またそれ?

キミは警護課なの?SPになりたいの?

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サトコ

「違います!私は‥」

東雲

公安だって言うなら盾になんかなるな

庇うならせめて押し倒せ。間違っても撃たれるな

サトコ

「‥‥‥」

東雲

頼むから‥

ああいうことは二度としないで

咎めるというよりも、懇願するような声音。

(教官‥)

なんだか、ひどくやるせなくなって‥

私は、力いっぱい教官に抱きついた。

サトコ

「すみません。もう二度とあんなことはしません!」

「今度はちゃんと生き残ってみせます!」

(だって約束したから‥教官から離れないって‥)

(ずっとずっと、教官のそばにいるって‥)

東雲

‥バカ

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短い悪態とは裏腹に、そっと唇を押し付けられる。

髪の毛に、こめかみに‥

ただ触れるだけの優しいキスに、何故だが目の奥がキュッと痛くなった。

(そうだ、忘れちゃダメだ。あの日誓ったことを)

(もう絶対に教官を1人にはしないって‥)

(二度と『バイバイ』なんて言わせないって‥)

東雲

‥早く終わらせなよ。ここの掃除

サトコ

「はい‥」

東雲

そしたら‥

(そしたら‥?)

サトコ

「ぎゃっ!」

いきなり、ジャージの後ろポケットに何かを押し込まれた。

サトコ

「ななな何するんですか!セクハラ‥っ」

東雲

してない

サトコ

「でも、今お尻を触って‥」

(あれ、これ‥)

(教官お気に入りの高級シャンプー‥)

サトコ

「あ、待って‥」

「教官、これ‥っ」

(‥行っちゃった)

(これ‥使ってもいいってことだよね?)

ふたを開けると、スッと爽やかな香りが鼻先をくすぐった。

お風呂上がりの教官と同じ香りだ。

(これで髪の毛を洗ったら‥)

(教官に、会いに行ってもいいかな)

もちろん2人きりになれるとは限らない。

でも、少しだけでもそんな時間を持てたら‥

(まずはお礼を言って‥)

(それから‥)

1時間後のことを思い浮かべるだけで、自然と頬がほころんだ。

そんなひとときこそが、きっと優勝の「お宝」より価値のあるものに違いなかった。

Happy   End



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