カテゴリー

キスしてうつして 後藤 2話

【キッチン】

サトコ

「これは‥」

(ボウルやフライパンが、床に散乱してる‥!)

調理器具だけじゃなく、お米まで床に散らばっていた。

サトコ

「大丈夫ですか?」

後藤

ああ、問題ない。驚かせてすまなかったな

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-018

落ちている調理器具を拾いながら、私に声をかける。

サトコ

「手伝います」

後藤

いや、大丈夫だ。アンタはさっさとベッドに戻って‥

サトコ

「?」

後藤さんは顔を上げると、目を見開く。

サトコ

「あの‥?」

後藤

‥アンタの方が問題だ

サトコ

「えっ?」

後藤

‥その無自覚なところが、問題だと言ってるんだ

後藤さんは頬を染めながら、私から視線を逸らす。

(無自覚って‥)

サトコ

「‥ハッ!」

首を下に向けると、着替え途中のせいか胸元が大きくはだけていた。

サトコ

「すすす、すみません‥!」

後藤

あ、ああ‥

慌ててボタンを閉めようとするも、焦っているせいか手が上手く動かない。

<選択してください>

A: 手伝ってください

(うぅ、焦れば焦るほど上手く閉められない‥)

(こうなったら‥)

サトコ

「あの、後藤さん。手伝ってもらっていいですか?」

後藤

は?

私の言葉に、後藤さんの動きがピタリと止まる。

後藤

‥アンタ、何言ってるんだ?

サトコ

「何って‥ハッ!」

(わ、私ったら‥なんて大胆なことを‥!)

サトコ

「ち、違うんです!い、今のはですね、その‥」

後藤

熱のせいで、正常な判断が出来ていないんだろう

‥休んどけ

サトコ

「あっ‥」

後藤さんは私に背を向け、片づけを再開する。

サトコ

「はい‥」

私は肩を落としながらベッドに戻った。

B: とにかくベッドに戻る

(ど、どうしよう。上手く閉められない‥)

(だからといって、いつまでもこのままでいるわけにもいかないし‥)

サトコ

「そ、それじゃあ、私はベッドに戻りますね!」

とにかくこの場から離れるため、踵を返すと‥

サトコ

「きゃっ!」

足がもつれて、こけてしまう。

サトコ

「あ、危ない‥」

倒れそうになるも、壁に手をつき何とか踏みとどまる。

後藤

大丈夫か!?

サトコ

「は、はい‥すみませ‥‥」

後藤

‥!

後藤さんは顔だけじゃなく、耳まで赤くする。

(わわっ!今の衝撃でさらに服がはだけて‥)

サトコ

「ご、ごめんなさーい!!」

私は胸元を押さえ、急いでベッドに戻った。

C: 自分でなんとかする

(上手く閉められないけど、後藤さんに頼むわけにもいかないし‥)

私は自力でなんとかしようと、ボタンと格闘する。

しかし‥

サトコ

「あっ!」

後藤

‥どうした?

サトコ

「い、いえ‥」

(うぅ、ボタン掛け間違えちゃった‥)

熱のせいもあるのか、焦れば焦るほど上手くいかない。

後藤

‥サトコ。いつまでそんな恰好でいるつもりだ?

サトコ

「す、すみません‥」

後藤

ったく‥

後藤さんはフライパンを台に置くと、私の胸元に手を伸ばす。

(あ、手伝ってくれるのかな‥)

後藤

‥‥‥

(あ、あれ‥?)

しかし後藤さんはボタンに触れることなく、手を引っ込めた。

後藤

‥早く休んどけ

ひとり言のように言って、後藤さんは私に背を向ける。

サトコ

「は、はい‥」

私はパジャマの前を押さえながら、ベッドに戻る。

(やっちゃった‥)

パジャマを着直すと、布団に入った。

サトコ

「はぁ‥」

(呆れられちゃったかな‥)

ため息が漏れるも、落ち込んでばかりいられないと思考を切り替える。

(気にし過ぎも良くないよね‥)

(あれ?そういえば‥)

私はキッチンの惨状を思い返す。

(調理器具倒しちゃってたけど、何か探してたのかな?)

布団に入りながら耳を澄ませると、キッチンからいろいろな物音が聞こえてくる。

(だ、大丈夫かな?)

(出来るなら、手伝いたいところだけど‥またキッチンに行ったら、怒られちゃうよね)

ガチャガチャと聞こえる物音に不安になるも、後藤さんを信じることにする。

(心配だけど、後藤さんの手料理なんてかなりレアだよね)

サトコ

「ふわぁ‥」

(出来るまで、時間があるだろうし‥)

大きなあくびをして、瞳を閉じる。

キッチンからする物音を聞きながら、浅い眠りについた。

サトコ

「‥ん」

美味しそうな匂いがして、ゆっくりと目を覚ます。

目を擦りながらキッチンに目を向けると、後藤さんがこちらにやってきた。

後藤

‥‥‥

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-020

後藤さんは気まずそうな顔をしてトレーをテーブルに置くと、土鍋からお茶碗にお粥をよそう。

後藤

調べながら作ったんだが‥

お茶碗から白い湯気が立ち、食欲をそそる匂いがする。

サトコ

「わぁ、美味しそうです!」

「いただいていいですか?」

後藤

ああ

後藤さんからお茶碗を受け取り、レンゲでお粥をすくう。

サトコ

「いただきま‥」

後藤

いや、やっぱり食わない方がいい

今からコンビニで買ってくるから、待ってろ

後藤さんは立ち上がると、上着を手に取る。

サトコ

「待ってください!」

「せっかく後藤さんが作ってくれた手料理なんだから、食べたいです!」

後藤

しかし‥

サトコ

「いくら後藤さんがダメだと言っても、食べちゃいますからね」

後藤

サトコ‥

後藤さんは逡巡して、上着をソファに置く。

後藤

‥すまない

サトコ

「ふふ、なんで謝るんですか」

叱られた子どものように小さくなる後藤さんに、笑みが漏れる。

サトコ

「それでは、改めて‥いただきます!」

(んっ‥!?こ、これは‥)

お粥をパクリと口にすると、何とも言えない味が口の中に広がった。

(微妙に甘くて‥ところどころ、お米に芯が残ってる‥)

後藤

‥どうだ?

<選択してください>

A: 美味しいです!

(味だけでいえば、美味しいとは言い切れないけど‥)

(私のために後藤さんが頑張ってくれたことが、すっごく伝わってくる‥)

サトコ

「美味しいです!」

後藤

満面の笑みで告げると、後藤さんは目を見張る。

後藤

‥美味くはないだろう

サトコ

「美味しいですよ」

「だって後藤さんがどれだけ頑張ってくれたか、すっごくよく分かるから‥」

後藤

サトコ‥

サトコ

「おかわり、お願いしてもいいですか?」

後藤

ああ

後藤さんはためらいがながらも、お茶碗におかわりをよそってくれる。

私は愛情たっぷりのお粥を、あっという間に平らげた。

サトコ

「ごちそうさまでした」

手を合わせて、にっこり微笑む。

サトコ

「すごく美味しかったです。また作ってくれますか?」

B: 一口食べてみますか?

サトコ

「一口食べてみますか?」

レンゲでお粥を掬い、後藤さんの口元へ運ぶ。

サトコ

「‥あっ!」

「すみません、同じレンゲを使うのはよくないですよね」

後藤さんは引っ込めようとする私の手を掴むと、そのままパクリとお粥を口にする。

後藤

‥マズイな

サトコ

「そ、そんな。マズくないですよ」

(少し個性的な味はするけど‥)

サトコ

「後藤さんの愛情がたっぷり詰まった、とっても美味しいお粥です!」

後藤

‥よくそんな恥ずかしいことが言えるな

サトコ

「恥ずかしくなんかないですよ!」

「私が今まで食べた中で、一番美味しいお粥なんですから」

後藤

サトコ‥

後藤さんは薄い笑みを浮かべ、私の頬をそっと撫でる。

後藤

ありがとな

C: 無言で食べ続ける

サトコ

「‥‥‥」

無言で食べ続ける私に、後藤さんは眉をひそめる。

後藤

無理して食べなくていい。余計に体調が悪くなったら大変だ

サトコ

「無理なんてしてません。だって、こんなに美味しいんですよ?」

「それに、せっかく後藤さんが作ってくれたのに‥残すなんてできません」

後藤

サトコ‥

後藤さんは私の頬に手を添えると‥

サトコ

「ん‥」

唇が重なった。

後藤

‥‥‥

サトコ

「って、なんでそんな渋い顔してるんですか!?」

後藤

いや‥あまりにも微妙な味だったから‥

後藤さんは苦笑いしながら、私の頭を優しくなでる。

後藤

こんなのを美味いって言うなんて‥アンタも本当物好きだよな

後藤

‥サトコ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-021

後藤さんは私を抱き寄せ、腕の中に閉じ込める。

サトコ

「後藤さん‥?」

後藤さんの顔を覗き込むように見上げると、唇が塞がれた。

後藤

本当、無自覚にもほどがあるな

私を抱きしめる腕の力が強くなる。

後藤

さっきアンタがキッチンに来た時も、自分を押さえるのが大変だったんだ

サトコ

「え‥?」

(それって‥呆れられてたわけじゃないってこと、だよね?)

(よかった‥)

さきほどの後藤さんの様子を思い出し、ほっと胸を撫で下ろす。

(あれ?ということは‥)

(ひょっとして、あのとき後藤さんの様子がおかしかったのは‥照れてたから、なのかな)

サトコ

「ふふっ」

後藤

「‥何、笑ってる?

サトコ

「だって、後藤さんが可愛くて」

後藤

‥いいから、早く治せ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-022

サトコ

「ん‥」

不貞腐れたように言葉にしながらも、優しいキスが贈られる。

愛情が詰まったキスに、熱も相まって眩暈も起こしそうになる。

後藤

ほら、寝るまで傍にいてやるから

優しいキスが終わると、後藤さんは私をベッドに横たえる。

大きな手が私の目を覆い、視界が真っ暗になる。

サトコ

「はい‥」

小さく返事をして、瞼を閉じる。

後藤さんが傍にいる‥ただそれだけで、心地いい眠りにつけそうだった。

サトコ

「おやすみなさい‥」

睡魔はすぐに訪れ、私を眠りへと誘う。

後藤

‥おやすみ。サトコ

唇に温かいものが触れると同時に、私は優しい眠りについた。

Happy  End

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする