カテゴリー

公安密着24時 加賀1話

(やっぱり、密着取材するなら加賀さんだよね)

(これを機に、加賀さんのことをもっと知りたいんだけど)

正直、『バレずに』取材を進める自信があまりない。

(いやいや、弱気になっちゃダメだ!)

(成功すれば、これまで知らなかった加賀さんの顔が見られるかもしれない‥!)

思わずニヤけた時、ドン!と後ろから思い切り突き飛ばされた。

サトコ

「ぎゃっ!?」

加賀

邪魔だ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-041

サトコ

「かっ、加賀さん!?」

(廊下は広いのに、わざとド突いてきた‥!)

(いや‥今はそれよりも、密着取材のことを知られないようにしないと!)

必要以上に慌てる私に、加賀さんが訝しげな視線を寄越す。

加賀

なんだ

サトコ

「な、なんでもないです!急に後ろから突き飛ばされて、びっくりして」

加賀

ボサッと突っ立ってんじゃねぇ。グズが

呆けてる暇があんなら、仕事のひとつでも終わらせろ

サトコ

「ごもっともです‥」

颯馬

加賀さん、すみません。今夜の捜査で、すり合わせておきたいことが

加賀

ああ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-042

颯馬教官に返事をして、加賀さんが教官室に戻っていく。

それと入れ替わりに、黒澤さんが出て来た。

黒澤

やっぱり、サトコさんは加賀さん担当ですか?

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-043

サトコ

「はい、そのつもり‥」

「って、あの‥『やっぱり』ってどういう意味ですか‥?」

恐る恐る尋ねる私に、黒澤さんが意味深な笑みを見せる。

黒澤

え?言っちゃっていいんですか?

サトコ

「あ、いや!やっぱりいいです!」

(黒澤さん、どんな情報もつかんでるし)

(万が一、私と加賀さんのことにも気づいていたら‥なんて、考えるだけでも恐ろしい!)

黒澤さんから逃げるようにその場を後にしようとすると、後ろから呼び止められた。

黒澤

あっ、サトコさん!

加賀さんを取材するなら、絶対に聞いておいて欲しいことがあるんですよ!

サトコ

「え?」

黒澤

実はですね‥

【教場】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-044

翌日は、朝イチで加賀さんの講義があった。

(ふむふむ、ホワイトボードに字を書いているときは、少ししかめっ面になる‥)

(集中していない訓練生にマーカー投げる時はまったく構えないので、回避は不可能‥)

加賀さんのしぐさや行動をメモしながら、教場に立つ加賀さんを眺める。

(厳しいし怖いけど、やっぱり講義してる姿はかっこいいな)

(でも、捜査中も煙草吸ってる時も、全部かっこいいんだけど)

男子訓練生A

「でさ、昨日、遅くまで石神教官に言われた資料を探してたから、もうヘトヘトで」

男子訓練生B

「だからお前、今日あんまり身が入ってないんだな」

後ろの方から微かに声が聞こえてくると同時に、加賀さんの目が光った。

加賀

おい、そこのお前

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-045

男子訓練生A

「え?」

加賀

俺の講義中に、ずいぶんと余裕だな?

加賀さんが、震えるほど恐ろしい笑みを浮かべた。

その瞬間、教場にいた全員が凍りつく。

千葉

「かわいそうに‥」

鳴子

「彼の今日の一日は終わりを告げたね‥」

サトコ

「まだ、今日は始まったばかりなのにね‥」

恐怖に震える訓練生に、加賀さんが教官たちしかわからないような難易度の問題をぶつける。

当然訓練生は答えられるはずもなく、がっくりとうなだれて席に着いた。

加賀

罰として、講義が終わったらグラウンド80周しとけ

男子訓練生A

「は、80周!?」

加賀

文句あるか?

男子訓練生A

「い、いえ‥!」

恐れおののく訓練生に、他の生徒たちが憐みの目を向ける。

男子訓練生C

「次の講義、成田教官だろ‥80周してたら絶対間に合わないよな」

男子訓練生D

「加賀教官、無慈悲だな‥」

千葉

「今回は特に難しかったけど、普段は講義をちゃんと聞いてたら答えられる問題が多いよな」

鳴子

「そうそう。でも加賀教官が怖すぎて、頭が真っ白になって結局答えられないけどね」

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-046

(ほんとそうだよね‥私も加賀さんにマーカーぶつけられたら、記憶が飛ぶほどだし‥)

(『加賀教官の講義は誰よりも厳しく、恐ろしい』‥っと。これもメモしておこう)

チラリと加賀さんを見ると、私の視線を感じたのか目が合った。

加賀

‥チッ

(し、舌打ち‥!?目が合っただけなのに!?)

ちょっとショックを受けながらも、加賀さんの行動を逐一メモし続けた。

【裏庭】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-047

講義が終わると、加賀さんは教官室に戻るかと思いきや、逆方向に歩き出した。

(気になって尾行してきたけど‥もしかして、煙草休憩かな)

ひと気のない場所まで来ると、加賀さんがポケットから携帯を取り出す。

木の陰で見つからないように眺めていると、微かに声が聞こえて来た。

加賀

ああ。さっき電話くれたか?

どうした?昨日も電話してきただろ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-048

その和らいだ表情を見ていると、さっきスパルタ講義をしていた人と同一人物とは思えない。

(加賀さんが、ああいう顔と口調になる相手って‥一人しかいないよね)

加賀

ああ、ちゃんと覚えてる

もうすぐだな。お遊戯会

(お遊戯会‥!)

(か、加賀さんの口からその単語を聞く日が来るなんて!)

加賀

今年は何やるんだ?

もちろん、ビデオ持って行ってやる。場所取りしとけってママに言っとけ

そうだな‥花が頑張ったら、ご褒美買ってやる

(ふふ‥やっぱり、電話の相手は花ちゃんだった)

花ちゃんはお姉さんの子どもで、加賀さんの姪っ子だ。

(きっと電話の向こうで、『ひょーご!』って嬉しそうにしてるんだろうな)

(はあ‥私も花ちゃんと電話したいけど、我慢我慢‥)

加賀さんはこれまでも、たまに裏庭へ来て誰かと電話しているようだった。

(もしかして、今までの相手も花ちゃんだったのかな)

(それにしても、加賀さん、ビデオ持参でお遊戯会に行くんだ‥)

その様子を想像すると、微笑ましくてつい口元が緩むのだった。

【カフェテラス】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-049

加賀さんの行動をメモするようになって、数日が経過した。

鳴子

「はー、今日もやっとお昼休みだね」

サトコ

「そうだね。まだエビフライ定食が残っててよかったよ」

鳴子と一緒に席に座ると、加賀さんがカフェテラスに入ってくるのが見えた。

(一昨日はお蕎麦で、昨日はアジフライ定食だったよね)

(今日は何だろう‥?もしかして、私と同じエビフライ定食とか)

加賀・石神

「ハンバーグ定食ひとつ」

「!!!」

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-050

ちょうど入ってきた石神教官と、加賀さんの声がハモる。

お互いに顔を見合わせた途端、見たこともないほど険しい表情になった。

加賀

またテメェか

石神

それはこちらの台詞だ

この間から俺のマネをして、なんのつもりだ

加賀

あぁ?そりゃテメェだろうが

飯すら人のマネしかできねぇのか、サイボーグが

ふたりの言い争う声が、カフェテラスに響き渡る。

鳴子

「またやってるね‥」

サトコ

「3日連続でかぶるなんて、逆にすごい気がする」

感心する私をよそに、ふたりの言い争いはまだ続いている。

加賀

毎日毎日かぶせやがって‥新手の嫌がらせか

石神

お前に嫌がらせするほど暇じゃない

おばちゃん

「はいよ!ハンバーグ定食ご注文の方~」

加賀・石神

「俺だ」

「!!!」

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-051

サトコ

「なんか‥終わりそうにないね」

鳴子

「別々に食べればいいのに、言い合いしながら結局一緒に食べれるんだよね‥」

ふたりを眺めながら、鳴子と一緒に苦笑してしまう。

(気が合うのか合わないのか、仲が良いのか悪いのか‥わかりません)

メモにそう書き加えて、エビフライを頬張った。

【個別教官室】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-052

数日後の放課後、個別教官室で加賀さんに言われた仕事をこなす。

その合間に何度か加賀さんの様子を窺うと、何度目かで目が合った。

サトコ

「あ‥」

加賀

言いたいことがあんなら、さっさと言え

サトコ

「え?」

加賀

いつまでもチラチラ見やがって、気が散る

(し、しまった‥この間から見過ぎてる!?)

(しかも、かなりイライラしているご様子‥ということは、だいぶ前から気づかれてたのかも‥)

サトコ

「あ、あの‥なんでもありません!すみません」

加賀

ほう‥

ガタン!と立ち上がると、加賀さんがゆっくりとこちらに歩いてきた。

追い詰めるように迫ってきて、目の前まできた瞬間に私の制服のネクタイをぐいっと引っ張る。

サトコ

「ぐえっ」

加賀

隠し事のつもりか?

サトコ

「めめめ、滅相もない‥!加賀さんに隠し事なんて、するわけが!」

加賀

それが本心かどうか、試してやる

(た、試すって何を‥!?)

さらにネクタイを引っ張って顔を近づけると、

吐息がかかりそうな距離で加賀さんが低くささやいた。

加賀

テメェが企んでいることなんざ、バレバレだ

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-053

サトコ

「‥‥‥!」

加賀

今のうちに、吐いた方がいいんじゃねぇか?

(なにこれ、取り調べ‥!?)

(でもそれなら、私は黙秘権を行使する‥!)

加賀さんの圧力に負けじと、必死に口を閉ざす。

(この先に待っているのは、アイアンクローか、体当たりか‥死か!)

でも覚悟した痛みも衝撃もなく、ネクタイを引っ張っている力が緩み、解放された。

サトコ

「え‥」

加賀

チッ‥無駄に図太くなりやがって

(の、乗り切った‥!?加賀さんの尋問に負けなかった!)

(って、喜んでる場合じゃない‥これからはもっと、バレないように取材しなきゃ!)

【街】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-054

翌日、仕事を終えた加賀さんが先に学校を出た。

(さて、と‥これからまっすぐ家に帰るのかな。それとも、どこかに寄る?)

尾行を開始すると、少しして加賀さんは途中のコンビニに入っていった。

でもすぐに出てきて、コンビニの外に置いてある灰皿の前で、いま買ったらしい煙草に火をつける。

(はあ‥煙草吸ってる加賀さん、やっぱりかっこいいな‥絵になるっていうか)

加賀さんの前を、歩き煙草してる男性が通りかかった。

男性が指に挟んだ煙草と同じ目線の女の子が反対側から歩いてきて、親が顔をしかめている。

(危ないな‥あの煙草が、子どもの顔にでも触れたら大変なのに)

(そういえば、加賀さんが歩き煙草してるところ、見たことない)

マナーはきちんと守るし、子供のことも意外と気にしている。

そんな加賀さんを思い出してなんだか嬉しくなったとき、その姿がないことに気付いた。

(あれ!?い、いつの間に!?)

振り返ると、ちょうど近くの曲がり角の向こう側へ消えていく加賀さんを見つける。

急いで追いかけて、私もその角を曲がった。

【路地】

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-055

角を曲がった途端、ダン!と脚で行く手を塞がれた。

サトコ

「!?」

加賀

偶然だな

%e3%82%b9%e3%83%9e%e3%83%9b-056

サトコ

「かっ、加賀さっ‥」

加賀

尾行すんなら、もっとうまくやれ

今まで、なに学んできやがった

(ば、バレてた‥!)

(どうしよう‥!?もう、言い逃れはできない‥!)

to  be  continued

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする