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公安密着24時 難波1話

(室長って結構謎が多いから、取材のし甲斐があるかも)

(それに、室長のことをいろいろ知るチャンスだし)

室長の密着取材をすることに決めて、教官室へと歩き出す。

黒澤さんに、室長の取材をすると報告するつもりだった。

難波

おー、いたいた。サトコ

振り返ると、室長が手を挙げてこちらに歩いてくる。

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難波

すまんすまん。シールを剥がし忘れてた

サトコ

「あっ、DOSSのですか?」

難波

ああ。大事な大事な1点だからな

さっきもらったDOSSを渡すと、室長がシールを剥がし始める。

じっと手元を見ていると、室長が私の様子に気付いた。

難波

ん?もしかしてお前も集めてるのか?

サトコ

「えっ?い、いえ‥そういうわけじゃないんですけど」

難波

それにしても、うまく剥がれないな‥もうちょっと剥がしやすくしてほしいよなあ

シール剥がしに苦戦する室長が、なんだか微笑ましい。

(そういえば室長って、不器用だよね)

(っていうか、細かいことに執着しないというか)

サトコ

「あの、私がやりましょうか」

難波

悪いな。缶は、この、こう‥曲線のところが剥がしにくくてな

サトコ

「言いたいことはなんとなく分かります」

シールを剥がして渡すと、室長が満足げにそれを受け取る。

難波

いやあ、よかったよかった

サトコ

「あ‥室長、DOSS、ありがとうございました」

難波

ああ。味わって飲めよー

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今度こそ室長の姿が見えなくなると、早速手帳を取り出してメモする。

(『室長は手先が不器用』っと‥あと、『よくDOSSを飲んでいる』)

書き終えたところで、黒澤さんが教官室から出て来た。

黒澤

あれ?サトコさん。ずっとここにいたんですか?

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サトコ

「はい。室長と話してて」

「黒澤さん、私、室長の取材をしていいですか?」

黒澤

了解です。じゃあオレは、加賀さんですね

いやあ、腕が鳴るなあ。加賀さんは色々と未知だから、楽しみだな~

(楽しみ‥?加賀教官の取材が‥?)

(さすが黒澤さん‥だけど、加賀教官の密着取材のことがバレたら、命の危険が‥)

サトコ

「‥まあ、黒澤さんだからうまくやりますよね、きっと」

黒澤

ややっ!?サトコさん、もしかしてオレの心配をしてくれてるんですか!?

サトコ

「いえ、違います」

黒澤

即答!

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サトコ

「うーん。まあ心配してると言えばしてるような」

「黒澤さんの心配っていうか、黒澤さんの命の心配というか」

黒澤

急に物騒な話になりましたね

サトコ

「あの、大丈夫ですか?加賀教官の取材なんて」

「室長を選んどいてアレなんですけど、万が一加賀教官に取材のことがバレたら」

黒澤

だいじょーぶ★そんなヘマはしません!

(って言いながら、何かやらかすのが黒澤さんだよね)

(まあ、私がやるよりも黒澤さんが取材した方が安全だし)

納得した時、教官室から東雲教官が出て来た。

東雲

うわ‥

サトコ

「『うわ』!?」

黒澤

歩さん、それ、どっちに対してですか!?

東雲

どっちでもいいでしょ

黒澤

いやいやいや、そこ大事ですよ!ねえ、サトコさん!?

サトコ

「いえ、私は‥『うわぁ』とか『ゲッ』とか『キモ』とか言われ慣れてるので、別に‥」

黒澤

それはオレも、慣れてますけど!

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東雲

透、うるさい

で?どっちがどっちの取材をするか決まったわけ?

サトコ

「はい。私は難波室長担当です」

黒澤

オレが加賀さんですよ!腕が鳴りますよね~

加賀

何がだ

おどろおどろしいオーラを感じて、思わず黒澤さんと顔を見合わせる。

黒澤

サトコさん‥もしかして、オレの後ろにいるのは‥鬼ですか?

サトコ

「そうですね‥鬼か悪魔か加賀教官か‥」

加賀

言うようになったじゃねぇか

(ま、まずい‥!もしかして今の話、加賀教官に聞かれた!?)

震えながら東雲教官を見ると、にっこりと笑顔を加賀教官に向けている。

東雲

透が、兵吾さんに用があるそうですよ

黒澤

歩さぁん!?

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加賀

ほう‥?しょっちゅう学校に入り浸って仕事もしねぇ奴が、なんの用だ

加賀教官に首根っこを掴まれて、黒澤さんが借りてきた猫のようになっている。

そのまま、黒澤さんは加賀さんに連行されてしまった。

サトコ

「黒澤さん‥」

東雲

透の姿を見るのは、これが最後になったのだった‥

サトコ

「ご愁傷様です‥」

黒澤

不吉なこと言わないでくださーい!

遠くから、黒澤さんの悲鳴にも似た絶叫が聞こえて来た‥

東雲

さてと‥まあ透がどうなろうと、ふたりに取材のことがバレようと、どうでもいいんだけど

サトコ

「どうでもいいんですか‥」

東雲

キミ、どんくさいし、室長にバレないようにせいぜい気をつけなよ

サトコ

「は、はい!」

(そうだよね。室長、結構鋭いし‥バレないように取材を進めなきゃ!)

【裏庭】

翌日から、早速室長の密着取材を始めた。

(室長、さっきまで教官室にいたんだけどな‥どこに行ったんだろう?)

屋上にはいなかったので、裏庭へとやってきた。

そこで、木陰に座ってのんびりお弁当を食べている室長の姿を発見する。

サトコ

「室長!ここにいたんですか」

難波

おお、来たか

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サトコ

「え?」

難波

探してたんだろ?まあ座れ

私のために場所を移動して、スペースを作ってくれる。

(どうして私が探してること、知ってるんだろう?)

(もしかして、教官たちから聞いたのかな‥?)

ひとまず、お礼を言って室長の隣に座る。

お弁当を覗き込むと、相変わらず美味しそうなおかずがびっしり詰まっていた。

サトコ

「いいなあ‥」

難波

ん?

サトコ

「ハッ!そうじゃなくて!」

難波

お前、メシ食ってないのか?

サトコ

「はい‥実は、まだなんです」

難波

それを早く言え

どれがいい?全部美味いぞ

笑いながら、室長が箸でから揚げをつまんで差し出してくれる。

サトコ

「え‥」

難波

腹が減ってたら、午後から頑張れないだろ

早く口開けろ。落ちちゃうぞ

(だ、だって‥これっていわゆる、間接キス!?)

(でも絶対、室長はそんなこと気にしてない!)

恐る恐る口を開けると、室長がから揚げを食べさせてくれる。

味付けが絶妙で、つい口元が緩んだ。

サトコ

「美味しいです!」

難波

そうだろう。じゃあ、次はこれだ

卵焼きを食べさせてくれて、室長が満足げに笑った。

難波

俺は、この卵焼きが一番好きでな

サトコ

「優しい味ですね。これを食べたら、午後からも頑張れそうです」

難波

そうだろ?

同じく卵焼きを頬張る室長を見ながら、思い出すのは巣鴨の商店街での出来事だった。

(『おばちゃんの原宿』で、お店のおばちゃんたちからおかずをもらいまくってたっけ)

(あの時の室長、『仁ちゃん』なんて呼ばれて、モテモテだったな)

サトコ

「‥‥‥」

難波

ん?どうした、また難しい顔してるな

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サトコ

「え?」

難波

昨日もなんか悩んでただろ?勘のまま進まなかったのか?

端を休めて、室長が傍らに置いてあったDOSSを手に取る。

(また、『缶』と『勘』をかけた‥)

(っていうか私いま、室長におかずを渡してるおばちゃんたちに嫉妬してた!?)

サトコ

「いけないいけない‥あのおかずがないと、室長は餓死しちゃうのに」

難波

おい、なんか物騒なこと言ってるな

サトコ

「す、すみません。なんでもないです」

(まあ餓死は冗談として‥おばちゃんたちからモテるのは、室長らしいんだけど)

(年上ウケがいい、ってことも、あとでメモしておこう)

サトコ

「そういえば‥室長って、お昼はいつもお弁当ですよね」

難波

そうだなあ。優しいおばちゃんたちと大家さんのおかげで、食うものには困ってないぞ

サトコ

「ちなみに、夜はたいてい屋台か居酒屋か宅飲みですよね」

難波

捜査もしてるぞ。たまには

(たまには‥)

そこは突っ込まないことにして、取材のために話を進める。

サトコ

「朝ご飯って、何を食べてるんですか?」

難波

朝か‥あんまり食わねぇな

サトコ

「やっぱり‥」

難波

そんな気がしたか?

サトコ

「はい。一人分を作るのが面倒、って思ってるんじゃないかと」

難波

お前、すごいな。まだまだひよっこだと思ってたが、洞察力は育ってきたか

どうもなあ、自分のために飯を作ろうと思えねぇんだよ

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サトコ

「私も、朝ごはんは晩ごはんの残りで済ませたり」

「トーストだけとか、結構ありますよ」

難波

トーストか‥

最近じゃ、パンを焼くのも面倒だな

サトコ

「室長、それは末期ですよ‥」

難波

おばちゃんたちの惣菜に頼ってきたツケが回ってきたな

お弁当を食べ終えて、室長が残りのDOSSを飲み干す。

そしてふと思い出したように、私に笑顔を向けた。

難波

そういえば、前にひよっこがうちにきたときに作ってくれた朝飯は、美味かったな

サトコ

「え‥」

難波

それに、弁当を作ってくれたこともあっただろ

やっぱり、手作りってのはいいもんだよなあ

その笑顔に、自然と胸が高鳴った。

(私の料理の味、覚えてくれてたんだ)

難波

まあ、惣菜もある意味手作りなんだけどな

サトコ

「でも、自分のために作ってくれたごはんは特別美味しいですよね」

「室長がよければ、毎日だって作りますよ」

張り切って立ち上がると、室長もお弁当箱を片付けて立ち上がる。

難波

そうか?でも、さすがに毎日作りに来てもらうのは申し訳ないな‥

そうなったら、いっそ一緒に住んだ方が便利じゃないか?

サトコ

「そうですね。一緒に‥」

「‥え!?い、一緒に!?」

(それって‥同棲!?)

難波

ははっ

珍しく、室長が声を上げて笑う。

難波

お前はいつになっても、男慣れしないな

サトコ

「か、からかったんですか!?」

難波

男慣れされても困るけどな

それにしても、今日はずいぶん張り切ってないか?

頭を撫でられて、取材のことを思い出しギクリとなる。

サトコ

「そ、そんなことは‥」

難波

まあ、どんなことであれ頑張るのはいいことだ

それじゃ、そうだな‥

ちょいちょい、と室長が私に手招きする。

近付くと、室長がゆっくりと口を開いた‥

to  be  continued

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